グローバル化の進行や新興国の台頭による世界の多極化、地球環境問題や資源・エネルギー問題等の地球規模課題の顕在化、世界的な経済危機の発生など、我が国のみならず、世界を取り巻く諸情勢は大きく変動している。知識基盤社会への移行が進み、高度な知識や頭脳の獲得に向けた国際競争が激化する中、今後、イノベーション創出により、地球規模課題や経済の危機を乗り越え、持続可能な世界を作る上で、科学技術の振興が重要であるとの認識が高まっている。
人類の歴史を通じて、科学技術は、国境を越えて情報・知識・ノウハウ等が伝搬することで、さらなる相互作用を起こしながら発展してきた。特に近年のインターネットの発展等の技術進歩による情報や知識の国際的な流通・伝搬の著しい加速や、頭脳循環(ブレイン・サーキュレーション)と呼ばれるような形での研究者等の国境を越えた移動の拡大による知のネットワークの深化も、科学技術の推進に当たって国際活動の役割を大きく増大させている。
実際、国際共著論文の増加などにも象徴されるように、世界の科学技術コミュニティは、一層緊密の度を増しており、世界一線級の研究者の多くは、科学技術のフロンティアを目指し、国、地域、機関を越えた移動を通じて成長していく。また、大規模研究開発施設の建設や大規模研究開発プロジェクトはもはや一国では対応できず、国際的な協力が欠かせなくなっている。
科学技術の国際化、経済・社会のグローバル化や、BRICs諸国をはじめとする国々の科学技術活動の急速な拡大による多極化が進展する中、研究者数や研究費総額といった科学技術活動の規模の面においては、国際社会における我が国の相対的な比重は、長期的には低下していくことが避けられない。すなわち、国際社会から見た我が国の科学技術活動の相対的な規模を全分野にわたって維持することはできなくなる。このような認識の下、今後我が国が科学技術の国際活動を展開するに当たっては、人々の幸福や社会の健全で持続的な発展に真に役立ち、相手国・地域と相互に有益な分野を見極め、そうした分野で重点的に質の高い科学技術協力に取り組むことを目指した戦略を明確にすることが必要である。
その上で、我が国が優れている分野の科学技術力を活かして協力を行うことにより、国際社会において特色のある国家となっていくであろう。我が国は、例えば、環境・省エネルギー分野等に強みを有しており、これらの分野の科学技術を推進することにより、我が国の社会・経済の持続的な成長・発展を図るとともに、地球規模・地域共通の課題への対応で国際的な責務を果たすことにより、広義の安全保障を図ることができる。
グローバルな知のネットワークが深化し、国際的でかつ学際的な共同研究がますます重要になっているとの認識のもと、我が国が強みを有する分野では、世界の研究とその成果の社会への展開を積極的にリードして存在感を示し、他方、諸外国がリードする分野では、研究協力に参画し、国際的な責務を果たしつつ諸外国の長所を取り込み我が国の研究開発力の強化を目指すというような戦略的な対応を考えていくべきである。
以上のような役割を果たしていくためには、我が国の大学等の研究機関の国際化を図り、研究者等が国際的なネットワークの確固たる一員となることが不可欠である。このようにして構築される科学技術分野での多層的な国際的ネットワークは、我が国に対する信頼、友好の基盤となり、ひいては国レベルの関係としての外交を強化することにもつながる。
「科学技術外交の強化について(平成20年5月19日総合科学技術会議)」では、「科学技術外交として、科学技術の更なる発展のために外交を活用するとともに、外交目的に科学技術を活用する取組を推進することはもちろん、今後は特に、科学技術と外交の連携を高度化し、相乗効果(シナジー)を発揮するよう重点的に取り組むべきである」とされている。また、「科学技術外交の戦略的展開について(平成21年6月11日総合科学技術会議有識者議員)」では、「科学技術外交強化に向けた具体的な取り組みを明らかにし、その取り組みを政府一体となり戦略的に展開していくためのアクション・プランの策定に早急に着手する必要がある」とされている。これらの科学技術外交の考え方は、今後の科学技術の国際活動を推進する上で重要な視点となる。
このような考えに基づき、第4期科学技術基本計画に向け、以下のような基本的視点をもって、我が国の科学技術力を我が国のみならず世界のためにも活用し、各国とともに取り組むことを通じて、知的資産を生み出し、地球規模の課題、相手国・地域の社会的・経済的な問題を解決・改善に導き、我が国に対する確かな信頼を築くことが重要である。
さらに、こうした視点を踏まえ、我が国の科学技術の国際活動を実効あるものとするためには、1.科学技術の分野で対応できることと社会制度の構築など他の分野の協力で対応できることとの連携をいかに図るか、2.我が国の国益と国際社会への責務との調和をいかに図るか、3.一国の取組で行うべきことと多国間の協力で行うべきことをどのように整理するか、といったことを常に意識しながら取組を進めていくことが必要である。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成21年以前 --