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中央教育審議会

  


第5章  完全学校週5日制の実施について

(1) 今後における教育の在り方と学校週5日制の目指すもの

  我々は、以上のような第1部及び第2部各章での検討を踏まえて、学校週5日制の今後の在り方について検討した。
  学校週5日制については、平成4年9月に月1回の学校週5日制が導入され、平成7年4月に月2回の学校週5日制が実施に移されるという形で段階的に進められ、これまでおおむね順調に実施されてきた。これらの実施の経過を通じ、学校での取組や子供の学校外活動の場や機会などの条件整備の進展とともに、これまでのところ全体として学校週5日制に対する保護者や国民の理解は深められてきたと考えている。
  今後の教育の在り方について、我々は、これまで述べてきたとおり、子供たちや社会全体に[ゆとり]を確保する中で、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、子供たちに[生きる力]をはぐくむということを基本にして展開されていくべきだと考える。
  [生きる力]は、単に学校だけで育成されるものでなく、学校・家庭・地域社会におけるバランスのとれた教育を通してはぐくまれる。特に、家庭や地域社会における豊富な生活体験、社会体験や自然体験は重要である。そうした点を踏まえて、今日の子供たちの生活の在り方を省みると、子供たちは全体として[ゆとり]のない忙しい生活を送っており、様々な体験活動の機会も不足し、主体的に活動したり、自分を見つめ、思索するといった時間も少なくなっているというのが現状である。こうした現状を改善する意味で、家庭や地域社会での生活時間の比重を増やし、子供たちが主体的に使える自分の時間を増やして[ゆとり]を確保することは、今日、子供たちにとって極めて重要なことと考える。
  これらを言い換えれば、子供にとっての学校・家庭・地域社会のバランスを改善してよりよいものとする必要があるということである。
  そこで、学校週5日制の今後の在り方を考えてみると、学校週5日制は、こうした子供たちの生活の在り方や学習の環境を変え、これまで縷々述べてきたような今後の教育のあるべき姿を実現する有効な方途であり、その目指すものは、今後の教育の在り方と軌を一にしていると考えられる。このような考えの下に我々は、完全学校週5日制の実施は、教育改革の一環であり、今後の望ましい教育を実現していくきっかけとなるものとして積極的にとらえる観点から、後述する様々な条件整備を図りながら、21世紀初頭を目途にその実施を目指すべきであると考える。
  もちろん、完全学校週5日制の実施は、社会の隅々にまで定着している学校教育の枠組みを変更するものであり、その実施に当たっては、その意義等について、家庭や地域の人々の十分な理解を得なければならない。
  また、第1章(1) で述べた方向に沿って、教育内容を厳選するなど学習指導要領を改訂する際には、完全学校週5日制の円滑な実施に資するよう、全体として授業時間数の縮減を図ることも必要と考える。
  なお、教育内容を厳選し、全体として授業時間数の縮減を図った場合、学力水準が低下するのではないかといった懸念がある。確かに、学力を単に知識の量という点でとらえるとすれば学力水準は落ちるという懸念はあるかも知れない。しかし、我々は、学力の評価は、単なる知識の量の多少のみで行うべきでなく、これまで述べてきたような変化の激しい社会を[生きる力]を身に付けているかどうかによってとらえるべきであると考える。そして、我々は、こうした力は完全学校週5日制の下で、学校での取組はもとより、家庭や地域社会における取組とあいまって、十分に養うことができると考える。

  以上のほか、完全学校週5日制のねらいを実現するためには、その実施に当たって特に、以下のような点に留意する必要があると考えている。

(2) 完全学校週5日制の実施に当たって特に留意すべき事項

[1] 学校外活動の充実と家庭や地域社会の教育力の充実

  学校週5日制の趣旨は、第2章や第3章で述べた家庭や地域社会の教育力の充実とあいまってはじめてその趣旨が生かされるものであり、これらの章で述べた施策の実行を強く期待する。特に、完全学校週5日制の実施に当たっては、市町村教育委員会が中心となって、地域教育連絡協議会や地域教育活性化センターを設置することなどにより、地域における様々な団体などと連携し、土曜日や日曜日における活動の場や機会の提供、情報提供など多様な学校外活動のプログラムを提供する体制を整えていく必要がある。その際、国や都道府県は、全国的あるいは広域的な見地からの取組を進めることはもとより、市町村に対し、積極的な支援を行わなければならない。こうした環境整備は、既に平成4年9月から月1回の学校週5日制が実施されて以来、着実に進められてきているところであるが、今後、一層取組を強化すべきである。
  特に、幼稚園や小学校低学年で土曜日に保護者が家庭にいない子供や障害のある子供等に対して、遊びや文化・スポーツ活動などの学校外活動の場や機会、指導者の確保等により、これらの子供たちが安心して過ごせるよう、特段の配慮が必要である。
  これらの施策を体系的に推進し、かつ、実効あるものとするため、今後、完全学校週5日制の実施に向け、文部省を中心に、関係省庁とも連携し、子供に対して多様な学校外活動を提供する体制整備についての指針(家庭や地域社会の教育力の充実策、保護者が家庭にいない子供や障害のある子供等への配慮を含む。)を作成し、それらを参考としつつ、市町村教育委員会が関係部局や都道府県教育委員会とも連携し、実施プランを作成し、実行していく必要がある。

[2] 過度の受験競争の緩和と子供の[ゆとり]の確保

  学校週5日制のねらいである、子供たちに[ゆとり]を確保し、[生きる力]をはぐくんでいく上で妨げの一つとなるものとして、過度の受験競争の問題がある。
  これについては、第1部(4)で述べた取組を進めるとともに、さらに、本審議会としても検討を行い、必要な提言を行うこととしている。
  また、月2回の学校週5日制を導入した段階では、休業土曜日について、通塾率について大きな変化はないものの、完全学校週5日制を導入する際には、塾通いが増加するのではないかとの懸念がある。学校週5日制は、子供たちの家庭や地域社会での生活時間を増し、子供に[ゆとり]を確保し、家庭や地域社会での豊富な生活体験・社会体験・自然体験の機会を与えようとするものであるが、過度の塾通いはその機会を失わせることとなるのである。子供を塾に通わせるかどうかは、もとより、それぞれの家庭が決めることである。その意味で我々は、完全学校週5日制の実施に当たっては、一人一人の親が、その趣旨を理解し、自らの子供にとって真に必要な教育とは何かを真剣に考えることを、あえて強く望んでおきたい。
  塾関係者に対しては、完全学校週5日制の実施に当たって、その趣旨を十分に理解して、節度ある行動をとるよう強く望んでおきたい。
  また、部活動について、休業土曜日などを使って行き過ぎた活動が行われる懸念も指摘されている。学校週5日制の趣旨を踏まえ、子供たちの[ゆとり]が確保できるよう適切な指導を望みたい。

[3] 完全学校週5日制の実施方法

  上述した学校週5日制の趣旨は、国公私立の各学校種を通じて異なるものでなく、全国的に統一して実施することが望ましい。
  また、これまで段階的に学校週5日制が実施されてきた中で、多くの私立学校で導入が進められているものの、いまだに導入の検討すら行われていない学校もある。特に、完全学校週5日制の導入に当たって、学習指導要領を改訂することを踏まえると、国公立学校と歩調を合わせた導入を各私立学校に対し、強く望んでおきたい。



(大臣官房  政策課)




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