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中央教育審議会

  


(2) これからの社会の展望

  戦後、我が国は、廃墟の中から欧米諸国に追い付き追い越すべく、努力してきた。その結果、驚異的な経済成長を遂げ、世界経済の中で大きな地位を占めるとともに、所得水準の面でも世界のトップレベルに達し、今や国民一人一人が豊かさを謳歌するに至っている。
  しかし、その一方で様々な問題が生じてきている。過疎化や都市化が進行し、企業中心の行動様式が社会に定着する中で、地域社会の連帯感は次第に希薄となってきた。また、核家族化が進み、家族の有り様も大きく変化した。経済成長を追い求め続けてきた結果、いつも何かに追い立てられているような余裕のない生活を送り、また、豊かさを実現したといっても、物質的な豊かさが中心で、あふれるモノに取り囲まれながら、何かしら満たされぬ思いが募る毎日を送っている。このような中で、国民は次第に[ゆとり]や心の豊かさなど多様な価値や自己実現を求めるようになってきている。今日、我々は、これまでの過去を立ち止まって振り返りながら、経済成長の過程で失ったものは何か、今後、我々が本当に求めるものは何であるかを考えてみなければならない。
  また、追い付き追い越せ型の経済成長を遂げてきた我が国は、欧米先進諸国の開発した科学技術を上手に活用するというこれまでの手法はもはや許されず、自ら科学技術を創造し、新しいフロンティアを開拓していくことが求められている。
  加えて、経済大国の地位も、東アジアを中心とした海外諸国の競争力の向上により揺り動かされ始めており、我が国は、単に良質の物を製造するだけでなく、より付加価値の高い製品やサービスを提供する高次な経済社会へと経済構造の改革をしていく必要が生じている。このような経済構造の変革の中で、経済の高度成長に深くかかわった終身雇用や年功序列という日本型雇用システムも揺らいできている。
  さらに、我が国の社会は、今後、様々な面で変化が急速に進むと考えられる。社会の変化の方向については、それらの変化に対応する教育の在り方を提言する第3部で詳しく述べることとしているが、ここでは基本的な展望を述べておくこととする。
  一つは、国際化の進展である。冷戦の終焉や交通手段の発達、情報化の進展を背景に、経済、社会、さらには、文化の面で交流が一層進み、国際的な相互依存関係がますます深まっていく。一方、様々な面で、国際的な摩擦や競争も生じてくると考えられる。
  また、情報化の進展は、さらに新しい段階に入っていくと考えられる。マルチメディアという言葉に集約されるように、世界的な規模の情報通信ネットワークを通じて、不特定多数のものが、双方向に文字・音声・画像等の情報を融合して交換することが可能となりつつある。このような高度情報通信社会の実現は、地球規模で今後の社会や経済の姿を大きく変えていくものと考えられる。
  さらに、科学技術の発展も著しいものになると考えられる。今後、科学技術は、分子レベルでの生命の研究、原子レベルでの物質の研究、宇宙の成り立ちの研究など一層の発展が見込まれる。これらの発展は、人類にとって豊かな未来を築く原動力になると考えられるが、とりわけ、人間の知的創造力が最大の資源である我が国にとって、諸外国以上に科学技術の発展は重要である。しかしながら、一方、科学技術が著しく高度化・細分化・専門化する中で、国民にとって科学技術は分かりにくいものとなり、不安感がさらに高まっていくことも懸念される。
  また、今日、地球環境問題、エネルギー問題など人類の生存基盤を脅かす問題も生じてきている。これらは、大量生産・大量消費・大量廃棄型の現代文明の在り方そのものが問われる問題であるが、今後、地球規模でこれらの問題に取り組んでいく必要性はさらに高まり、この面で、我が国の貢献がさらに強く求められるようになっていくことが予測されるところである。
  さらに、我が国では、今後、高齢化や少子化が急速に進展し、かつて経験したことのないような少子・高齢化社会を迎えることが確実と見られている。また、男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野に参画する機会が確保される「男女共同参画社会」づくりも重要な課題となっている。
  これからの社会をどのように展望するかについては、様々な変化や要素を考える必要があり、一概に言い表すことは難しいが、いずれにせよ、変化の激しい、先行き不透明な、厳しい時代と考えておかなければならないであろう。 


 (大臣官房  政策課) 




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