ここからサイトの主なメニューです

第2章 青少年の意欲をめぐる現状と課題

1. 青少年の意欲と行動の様相

【青少年の意欲の様相の理念的な分類】
 大人側から「意欲に欠ける」とみられる青少年についても、その具体の様相は個々の青少年により様々である。
 ここで、青少年の意欲を取り巻く現状と課題を検討するため、「意欲」という心の在り様と「行動」という心の在り様を外面に表したものとの関係に着目して「意欲に欠ける」とみられる青少年の様相を理念的にとらえ、そのうち主なものとして以下の3分類7類型に整理した。

 
(1) 基礎的な体力の低下や不足
 
ア.  基礎的な体力が十分に培われていないため、意欲を持てなかったり思考や行動に集中できなかったりして、持続力もない状態
(2) 青少年の価値観等と社会的期待との相違
 
イ.  将来に向けて学習したり努力したりすることに希望や価値を見出せないため、学習や努力に対する意欲を持てない状態
ウ.  意欲や行動が社会的に認められた方向に向かっていないため、その意欲や行動が評価されない状態
エ.  意欲の対象が自己完結しているなど、他者との関わりや社会との関わりの中で達しようとする目標を持てないため、その意欲や行動が評価されない状態
(3) 意欲から行動に移る段階でのつまずき
 
オ.  意欲を持っているが、行動することへの負担感が大きいなどの理由により、意欲を実現するための行動に移せず、行動する前にあきらめている状態
カ.  意欲を持っており行動しようとする、あるいは既に行動し始めているが、適切な手段・方法が分からずに迷っている状態
キ.  意欲を持っており既に行動したが、失敗したこと等による徒労感、絶望感から抜け出せず、改めて挑戦する意欲を持って行動できない状態

【状態の的確な把握と各状態に対応した手当て】
 意欲に欠けるとみられる状態から意欲的な状態へと向かうためには、それぞれの状態に対応した手当てが必要である。そのためには、上記の理念的な分類も参考にしつつ、まず個々の青少年の心と行動の在り様が具体的にどうなっており、そのどこに困難を抱いているのかを的確に把握することが必要である。

【自己を客観視できる力の育成】
 しかし、意欲に欠けるとみられる青少年が例えばこれらの類型のうちいずれに該当するかについては、外見から判断することは簡単ではない。これは、意欲という心の在り様は外見に表れず、当該青少年自身にとっても、自己を客観的に見つめる過程を経なければ自分がどのような状態にあるのかを正確に認識できないからである。
 このため、各々の状態に合った適切な手当てがなされるためには、青少年自身が自己を客観的に見つめる力を培い、自己の抱えている課題を探し当てて適切な解決策を選択できるように支援するとともに、それを周りの大人へ伝えることのできるコミュニケーション能力を育むことが大切である。

(1) 基礎的な体力の低下や不足
 
 大人であっても睡眠不足で朝食を抜いた日には、だるさを感じ仕事等に力が入らないものである。これは、生活習慣が乱れることによって体調に悪い影響を与え、結果として健康的に生活するために必要な基礎的な体力が一時的に低下し、日常活動へのエネルギーが十分に発揮できないからであると考えられている。
 また、極端な運動不足になると何事にも意欲がわかなかったり、物事を前向きにとらえることができなくなったりすることがある。これは、基礎的な体力の低下が情緒面へも影響するために、体を動かすことのみならず何かに取り組むこと自体に負担感を感じるからであると考えられる。

 青少年期は身体機能とともに情緒面や知的能力の発達も著しい時期で、これらが相互作用を起こしバランスを形成しながら発達していく。このため、この時期に体を動かすこともなく乱れた生活習慣の下で生活すると、運動能力の発達が十分に促されないばかりか、ア.で示したように日常生活において様々な物事から学ぶという行動に対して意欲を持てなくなり、物事に興味や関心を持つこと自体も避けてしまいかねない。
 物事に集中し継続して取り組むことは、基本的生活習慣を身に付け、基礎的な体力に裏打ちされてこそ初めて可能となる。したがって、物事に取り組む意欲は基礎的な体力を培うことによりはじめて育まれるものであるといえる。

 
【正しい生活習慣、運動習慣の下での充足感のある生活】
 このように、運動能力の発達だけでなく心や知性の発達のためにも、行動の源である意欲の基盤をなすものとして、基礎的な体力を培うことが極めて重要である。そのためには、子どもが幼児期から規則正しい生活習慣を身に付け、体を動かす遊びやスポーツを生活に積極的に取り入れ体を十分に動かすよう、保護者をはじめとした周囲の大人が働きかけることが必要である。

 そして、基礎的な体力が培われていないために意欲を発揮できない状況にある青少年に対しては、正しい生活習慣に則った生活を送らせ、雑事も含めた生活上の物事のひとつひとつに丁寧に当たらせるとともに、日常生活に体を動かす機会を積極的に取り入れさせることを通じて、生きている実感や日常生活における充足感を得られるように導くことが必要である。

(2) 青少年の価値観等と社会的期待の相違
 
 意欲を持って具体の行動に移るに当たっては、必ず疲れや苦労、困難といった身体面、情緒面及び知性面に関わる何らかの負担を伴うものである。この負担を受け止めて乗り越えようという意志や乗り越えられるという自信を持てないときには、意欲を行動に移すことを躊躇してしまう。

 かつてのいわゆる「右肩上がり」の時代には、青少年は学校で勉強する理由を進学や就職に求め、立身出世のために勉強するといった上昇への志向を持つことができた。しかし、経済や社会の変化が激しく未来が不確定な現代においては、青少年がこのような上昇への志向を持ちにくく、常に「何のために学ぶのか」「学ぶことは自分の人生にどういう意味があるのか」という問いに直面し、イ.で示したように学ぶことや学ぶに当たっての困難を努力して乗り越えることに価値を見いだしづらい状況にあるといえる。
 学校においては、児童生徒の興味関心を尊重し、児童生徒自身が主体的に参加し、協力して学習活動を行う参加型学習を進めること等により、児童生徒の学習への動機付けを高めようと努めているが、このような社会状況の中で、児童生徒が学習過程で困難に直面した場合際に、学ぶことや努力することから逃避してしまうことも考えられる。

 
【納得のいく豊かな人生のための努力と向上心】
 このような状況の青少年に対しては、例えば、大人であっても日々迷いながら学び、努力して人生を切り拓いているのだということを、青少年に身近な大人が話して聞かせたり、学ぶことにより喜びや達成感、充実感や成長実感の得られる体験をさせたりすることを通じて、自分にとって納得のいく豊かな人生を歩むため、誰もが困難に直面しながらも努力し、学習してこれを乗り越え、自分を高めているということに気づかせることが大切である。

【実社会との関わりを通じた価値観や判断基準の体得】
 また、ウ.やエ.で示したように、青少年の意欲の対象が社会の期待と一致しない場合は、青少年本人は意欲的であるものの、社会からは「意欲的である」と評価されないこととなり、その行動も同様に社会的評価を受けないこととなる。
 このような場合には、青少年は意欲の対象や行動を否定されたと感じるだけでなく自分の存在自体が社会に受け入れられないと感じ、社会に対して反発したり、社会とのつながりを避けたりすることにつながりかねない。

 このような状況の青少年に対しては、例えば地域の大人や実社会と関わる活動を通じて、どのような対象への意欲が社会から期待され、またどのような対象への意欲であれば社会に許容されるのかについて、体得させること、つまり体験を通して理解し、それを自らのものとして定着させることが必要である。その際、家族や友達、地域の大人達等とのコミュニケーション等を通じて、社会的期待や社会の許容範囲を自らの価値観や判断基準へと定着させる営みを促すことが大切である。

(3) 行動の段階でのつまずき
 
 オ.からキ.で示したように、意欲を行動に移す段階でなんらかのつまずきが生じている場合には、行動という外面に表出している部分から意欲という青少年の心の様子をうかがい知ることができないため、社会から「意欲的でない」とみなされてしまうことがある。また、目指す成果が得られるような行動をとれないために喜びや達成感、充実感や成長実感が得られず、さらなる意欲を持ちにくくなるとともに、行動の源としての意欲を持つこと自体や、意欲の対象を否定してしまうこともあるかもしれない。

 
【目的達成に必要な手段・方法の体験を通じた学習】
 このような状況の青少年に対しては、体験を通じて手段・方法を具体的に学ばせることにより、目標を達成できるよう導くことが必要である。

 オ.で示したように行動への負担感が大きい場合は、そもそも行動した経験が少なく目標達成のための手段をあまり持っていないことが予想されるため、達成しやすく成功実感の得られやすい、比較的困難度の低い目標を設定し、その達成方策を具体的に教えながら達成させ、成功実感を得させた上でより困難度の高い目標を達成できるよう支援することが大切である。

 また、カ.で示したように適切な手段・方法が分からずに迷っている場合は、まず、青少年自身に能力があり意欲の対象も社会的に認められるものであることや、努力していることを社会が評価していることを、青少年自身に認識させることが必要である。その上で、適切な手段・方法を具体的に教えながら達成に導くとともに、目標達成に必要な手段・方法を自分で選択できる、あるいは生み出せる力を育成することが大切である。

 キ.で示したように失敗してしまったことにより達成に向けての努力に徒労感を感じ、また新たな意欲を持って行動することに消極的・否定的になっている場合は、それまでに採った手段・方法のどこが適切でなかったのかを客観的に分析させることを通じて、自己の能力や意欲を否定することなく、これまでとってきた手段・方法の変更や新たな手段・方法の体得、そして更なる意欲への喚起に導いていくことが大切である。

【身近なモデルの存在】
 これらいずれの場合にも、例えば先輩の成功体験・失敗体験を聞くことや、同年代の友達がとっている手段・方法を見ることを通じて、青少年が具体的な手段・方法を「教えられる」のではなく自ら「学ぶ」ことができるとともに、「自分にもできそうだ」という感覚や「自分だけではなく皆同じ状況なのだ」という感覚を持って物事に取り組めるようになることが期待できる。
 このように、モデルとなる先輩や仲間が身近に存在することが、青少年の行動の変容を促す意欲を高めると考えられる。

2. データが示す青少年の生活実態等の現状と課題

 青少年の意欲が欠けるとみられる状態について、1.において理念的に整理しその対応方策について考察した。
 次に、実際の青少年の意欲をめぐる状況について、各種調査や、研究成果及び有識者からの意見等からこれまでに得られている知見を整理した結果、青少年の生活実態等にかかる現状について、以下のような課題がみられた。

(1) 生活の夜型化、朝食欠食などの基本的生活習慣の乱れ
 
[調査結果]
 幼児については、以前より改善される傾向もうかがえるが、それでも約3割が22時台以降に就寝している(図1)。また、中学2年生の約5割が24時以降に就寝しているなど、青少年の生活は幼児期から夜型となっている(図2)。また、小学生の約10人に1人、中学生の約6人に1人、高校生の約5人に1人が朝食を欠食することがあると答えている調査もある(図3)。

[これまでに得られた知見]
 十分な睡眠や食事、規則正しい生活リズムといった基本的生活習慣が身に付いていないと、「体がだるい」といった不定愁訴を感じ、集中力が低下する傾向がみられる(図4)。これは、生活習慣の乱れによって、睡眠・覚醒リズムや体温リズムなど一日周期で変動する生体リズムが崩れることにより生理的に「時差ぼけ」のような状態になるためである。
 この規則正しい生活習慣は自然と身に付くものではないため、親子関係が密接な幼児期に家庭において子どもに規則正しい起床・睡眠リズムや正しい食習慣を身に付けさせるとともに、学童期以降に生活習慣の大切さを理解させることなどを通じて、自分の力で正しい生活習慣を維持できるように導いていくことが重要であるという指摘もある。

 
青少年の生活は幼児期から夜型となっている。

図1 22時以降に就寝する乳児の割合
ベネッセ教育開発研究センター
『幼児の生活アンケート(平成17年)』

図2 24時以降に就寝する中学2年生の割合
平成7年、平成12年については日本体育・学校健康センター『平成12年度児童生徒の食生活等実態調査』、
平成17年については文部科学省『義務教育に関する意識調査』(平成17年)

 
小学生の約10人に一人、中学生の約6人に一人、高校生の約5人に一人が朝食を欠食することがある。

図3 朝食を欠食することがある割合
財団法人日本学校保健会
『平成16年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書』

 
朝食を欠食する日の多い小中学生ほど、体のだるさを感じている。

図4−1 「朝食血色」と「体のだるさ」の関係(小学生)

図4−2 「朝食血色」と「体のだるさ」の関係(中学生)
日本体育・学校健康センター
『平成12年度児童生徒の食生活等実態調査』

(2) 希薄な対人関係
 
1 子どもへの保護者の関与の度合いの低さ
 
[調査結果]
 家庭での親子の関わりについてみると、日本の保護者は子どもに生活規律・社会のルールを身に付けるようにしつけることや、ほめる・叱るなどの子どもとコミュニケーションをとることの度合いが、他国と比較して低い(図5)。
 一方で、育児不安を感じたり、子どものことでどうしたらよいか分からないと感じる親が、以前と比較して増加している(図6)。また、子どものことに関して家族が協力してくれないことについて、保護者の約2割が相談できる相手がいないと回答している(図7)。
 家庭教育についての考え方については、保護者に子どもの自主性を尊重する傾向が強まっており、親子間の考え方等に衝突の少ない、いわゆる「仲良し家族」が増えている(図8)。一方で、3〜6割の保護者が、基本的な食事マナーや社会のルール等の指導を学校で行ってほしい、あるいは行うべきだと考えている(図9,10)。

[これまでに得られた知見]
 子どもの情動(感情のうち,喜怒哀楽のように表情・動作に表れやすいもの)の発達の基盤として、乳幼児期において親子間の愛着形成が重要な役割を果たすことや、良好な家庭環境を築き保護者が子どもに肯定的に接することが、子どもの意欲を高めることが明らかとなっている。
 具体的には、保護者が「悪いことをしたときに叱ってくれる」「いいことをしたときにほめてくれる」「困ったときに相談にのってくれる」と感じている小学生は、よく遊ぶ友達や悩み事を相談できる友達が多く、学習面においても「分からないことを調べる」「じっくり考える」ことなどが得意だという研究結果がある。また、父親と子どもの間の良好な親子関係がある場合に、子どもの自立性がより一層育まれると推察している調査結果もある。

 
日本の青少年は、生活規律や社会のルールについて保護者から直接しつけられることが少ない。

図5   お父さんやお母さんから言われること(国際比較)
図5 ちゃんとあいさつをしなさい
図5 テレビを見すぎだからやめなさい
図5 友達と仲良くしなさい
図5 うそをつかないようにしなさい
小学5年生、中学2年生
子どもの体験活動研究会
『子どもの体験活動等に関する国際比較調査』

 
約6割の母親が育児不安を感じ、家族が協力しないと感じる保護者の約2割には相談相手がいない。

図6 母親の子育て意識(5年比較)
ベネッセ教育研究開発センター
『幼児の生活アンケート』(平成17年)

図7 子どもの事に関して、家族が協力してくれない場合の相談相手(複数回答)
厚生労働省
『平成16年度全国家庭児童調査結果の概要』

 
できるだけ子どもの自由を尊重する親でありたいと考える保護者が増えている。

図8 どういう親でありたいか
NHK放送文化研究所
『中学生・高校生の生活と意識調査』(平成15年)

 
3割の保護者が基本的な食事やマナーの指導を、6割の保護者が社会のルールやマナーの指導を学校に期待している。

図9 学校給食に望むこと(保護者)   図10 学校で教えてほしいこと
日本体育・学校健康センター
『平成12年度児童生徒の食生活等実態調査』
NHK放送文化研究所
『中学生・高校生の生活と意識調査』(平成15年)

2 地域の大人の青少年への関わりの少なさ
 
[調査結果]
 調査結果によると、地域の教育力が低下したと感じている大人が多く(図11)、また、地域の大人から叱られたり助けられたりしたという実感を持つ青少年が少なくなっている(図12)。

[これまでに得られた知見]
 近所の人にほめられたり叱られたりした経験がある小・中学生は、生活体験・お手伝い・自然体験等の多様な経験のある者が多く、また、生活習慣や道徳観・正義感が身に付いている者の割合が高いという調査結果がある(図13)。また、地域の大人の働きかけ等が、地域の青少年の非行を抑止すると推察している研究結果もある。このように、地域の大人が青少年へ関わることには、重要な教育的意義を持つことが明らかとなっている。

 
5割以上の大人が自らの子ども時代に比較して地域の教育力が低下したと感じている。

図11   保護者自身の子ども時代と比較した「地域の教育力」
日本総合研究所
『地域の教育力に関する実態調査』(平成18年)

 
近所の大人からしかられたり助けられたりした経験のある青少年が少ない。

図12 家の近くにいる大人との関わり
小学2・5年生、中学2年生
日本総合研究所
『地域の教育力に関する実態調査』(平成18年)

 
大人からほめられたり叱られたりした経験の多い小中学生には、生活習慣や道徳観・正義感が身についている者が多い。

図13   ほめられたりしかられたりした経験と体験活動の関係
図13 ほめられたりしかられたりした経験と生活習慣

図13 ほめられたりしかられたりした経験と道徳観・正義感
小4年生、小6年生、中2年生
国立オリンピック記念青少年総合センター
『青少年の自然体験活動に関する実態調査』(平成17年)

3 仲間と交流する体験の少なさ
 
[調査結果]
 12〜17歳の青少年の自由時間の過ごし方をみると、「テレビ」「漫画」「CD等で音楽鑑賞」「テレビゲーム」など、一人遊びが大半を占めている(図14)。また、小・中学生のテレビ視聴時間は他国と比較して長くなっている(図15)。さらに、学校から帰宅後に友達とほとんど遊ばない小・中学生が約3割という調査結果がある(図16)ほか、小学生の青少年団体への加入が以前と比較して減少しており(図17)、青少年同士が関わる活動をする小・中学生の割合が減少していることを示す調査もある(図18)。
 このように、青少年が学校外で仲間と過ごす体験が少なく、その時間も短い中で、祖父母と一緒に住む家庭数の減少や兄弟姉妹数の減少といった家庭環境の変化もみられる(図19,20)。

[これまでに得られた知見]
 青少年が仲間とともに課題を達成していく体験を通じて、積極性や主体性を発揮できるようになることが明らかとなっている。また、仲間とのコミュニケーション体験、特に異年齢集団において年上の者が年下の者に頼られたり、年下の者が年上の者に助けられたり守られたりする体験を通じて、青少年が自己を相対化し客観的に見つめる力を培うとともに、自分の存在意義を実感し、集団活動への意欲をさらに高めることも明らかとなっている。

 
青少年の自由時間の過ごし方は一人遊びが多く、特にテレビ等の視聴時間は諸外国よりも長い。

図14 自由時間の過ごし方(12〜30歳)
内閣府
『情報化社会と青少年』(平成14年)

図15   テレビやビデオの視聴時間(国際比較)
子どもの体験活動研究会
『子どもの体験活動等に関する国際比較調査』

 
小5〜中2の平均3割が学校から帰宅後、ほとんど遊んでいない。

図16 学校から帰宅後の遊ぶ時間
川村学園女子大学
『平成16年度子どもたちの体験活動等に関する調査研究のまとめ』

 
青少年同士が関わる活動をする小・中学生の割合が減少している。

図17   図18−1
子ども会やスポーツ少年団などの青少年の団体に加入している 小さい子どもを背負ったり遊んであげたりしたこと
図18−2 図18−3
弱いものいじめやケンカをやめさせたり注意したこと 友達が悪いことをしていたらやめさせること
3学年計イコール小4、小6、中2生の合計

 
祖父母と同居する青少年や兄弟姉妹の多い青少年が減少している。

図19 おじいさんやおばあさんと一緒に住んでいる

図20 兄弟や姉妹の人数
3学年計イコール小4、小6、中2生の合計
図17〜20まで いずれも国立オリンピック記念青少年総合センター
『平成17年度青少年の自然体験活動等に関する実態調査』

(3) 直接体験の少なさ
 
1 スポーツ等の体を動かす体験の少なさ
 
[調査結果]
 現在の青少年はスポーツや外遊び等の体を動かす経験が少なく(図21)、自由時間の大半は自分の家や友達の家で室内遊びをしたり、一人で過ごしたりしている(図22)。また、「体力・運動能力調査」等の年次推移をみると、現代の青少年の運動能力は以前の同年代と比較して低くなっている(図23)。

[これまでに得られた知見]
 乳幼児期において頭も体も動かすこと、特に五感を存分に使うことが、身体機能の発達に対してだけでなく脳の成長にとっても必要であることが明らかとなっており、成長期に十分に体を動かさないことは、運動能力だけでなく心身の発達全体に影響が及ぶと考えられている。
 このため、スポーツや外遊び等の体を動かす活動を意識的に青少年の生活に取り込むよう、特に乳幼児期や学童期には保護者をはじめとした周囲の大人が配慮することが必要であると指摘されている。

 
青少年の運動時間は減少しており、帰宅後に戸外で遊ぶ青少年は少ない。

図21−1 1週間の運動時間(男子)

図21−2 1週間の運動時間(女子)
財団法人日本学校保健会
『児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書』(平成12年度、14年度、16年度)

図22 学校から帰ってどこで遊ぶか
川村学園女子大学
『平成16年度子どもたちの体験活動等に関する調査研究のまとめ』

 
小中学生の運動能力は、20年前の同年代に比較して低下している。

図23   昭和60年と平成15年の体力・運動能力の比較(上段:昭和60年、下段:平成15年)
図23 走る力(50メートル走)   図23 走る力(持久走)
図23 跳ぶ力 図23 投げる力
図23 握力  
文部科学省
『平成15年度体力・運動能力調査』

2 自然体験の少なさ
 
[調査結果]
 「太陽の昇るところや沈むところを見る」「チョウやトンボ、バッタなどの昆虫をつかまえる」といった身近な自然体験をほとんど経験したことがない青少年が以前と比較して増えている。また、「キャンプ」や「川や海で泳ぐ」ことなども含め、全体として自然の中で活動する青少年が減っている(図24)。
 青少年が行う自然体験の中でも、家族や友達と行う自然体験が、学校や青少年教育施設、青少年団体を通じて行う自然体験と比較して著しく減少している(図25)。

[これまでに得られた知見]
 自然体験の多い青少年の中には、道徳観・正義感があり学習意欲・課題解決意欲の高い青少年の多いこと(図26,27)や、集団による長期キャンプは、積極性や協調性を高め判断能力を育てるといった社会性の育成に効果の高いことが明らかとなっている。これは、自然という人間が完全にはコントロールできない環境のもとで、仲間と一緒に様々な課題や困難に立ち向かう中で、仲間や指導者に支えられながらこれらの力が育成されていくためと考えられている。
 青少年の自然体験の少なさは、青少年がこうした教育効果の高い活動に参加する機会を失っている可能性を示す指標の一つであると考えることができる。

 
身近な自然体験も含め、自然の中で活動する青少年が減少している。

図24   自然体験を経験した割合
図24 チョウやトンボ、バッタなどの昆虫をつかまえたこと   図24 海や川で貝を取ったり魚を釣ったりしたこと
図24 大きな木に登ったこと 図24 ロープウェイやリフトを使わずに高い山に登ったこと
図24 太陽が昇るところや沈むところを見たこと 図24 夜空いっぱいに輝く星をゆっくり見たこと
図24 野鳥を見たり鳴く声を聞いたこと 図24 海や川で泳いだこと
図24 キャンプをしたこと  
国立オリンピック記念青少年総合センター
『平成17年度青少年の自然体験活動等に関する実態調査』

 
夏休みに青少年が家族や友達などと一緒に自然体験活動に参加する機会が減少している。

図25 夏休みにおける自然体験活動への参加割合
独立行政法人国立青少年教育振興機構
『青少年の自然体験活動等に関する実態調査報告書』(平成18年)

 
自然体験の経験の多い小中学生には道徳感・正義感の身についている者が多く、自然にふれることで学習意欲を喚起される者が多い。

図26 自然体験と道徳観・正義感
独立行政法人国立青少年教育振興機構
『青少年の自然体験活動等に関する実態調査報告書』(平成18年)

図27   自然に触れる体験をしたとき勉強に対してやる気になるか
文部科学省
『平成14年学習意欲に関する調査研究』

(4) 情報メディアの急速な普及に伴う問題
 
[調査結果]
 インターネットや携帯電話等の情報メディアは青少年にも急速に普及しており、インターネット利用率は小学生で6割、中学生以上で9割を超え(図28)、携帯電話の所有率は高校生で9割を超えている(図29)。
 また、コミュニケーション手法のうち、会話や説明よりもインターネットでの情報収集やパソコン等での文書作成を得意とする青少年の増加や(図30)、小・中学生の友達への相談手段として「メールの活用」の増加を示す調査もある(図31)。
 一方、インターネット等を利用した犯罪の被害に遭うなど、情報メディアを介してトラブルに巻き込まれる青少年が近年増加しているが(図32,33)、青少年の情報メディアの利用について保護者の実態把握や監督等が十分とはいえない(図34)。

[これまでに得られた知見]
 情報メディアの青少年への影響については、科学的に明らかとなっている知見はまだ少なく、今後より一層の研究の進展が強く期待される分野である。
 しかしながら、メディア上の暴力表現が青少年への暴力傾向を促すことや、インターネットへの過度ののめり込みと社会的不適応の間に相関性があることなど、青少年への悪影響がある程度明らかになっている事項もある。
 また、情報メディアを利用したバーチャルコミュニケーションの急速な普及が、青少年の脳の発達に重大な影響を及ぼす危険性があるとの指摘もある。これに関連する知見としては、顔の特徴を持つ刺激にのみ反応する「顔ニューロン」と呼ばれる神経細胞がサルや人間の脳に存在することが明らかとなっており、人間関係能力形成の基本的方法として、直接顔と顔を突き合わせる対面コミュニケーションが脳に組み込まれているのではないかと考えられている。
 一方で、良質のテレビ番組が青少年の社会性を高めるなど、情報メディアには青少年に有益な影響があることも分かっている。また、青少年が情報メディアに接触しているときの保護者の関わり方が、メディアの青少年への影響を左右するという研究結果もある。

 
インターネットや携帯電話の利用が青少年に急速に普及している。

図28 インターネット利用率   図29 携帯電話(PHSを含む)の所持率
総務省
『通信利用動向調査報告書』(平成18年)
ベネッセ教育研究開発センター
『第1回子ども生活実態基本調査』(平成17年)

 
コミュニケーションに情報メディアを活用する青少年が増加している。

図30 コミュニケーション手法
内閣府政策統括官
『青少年の社会的自立に関する調査報告書』(平成17年)

図31 相談したい場合の友だちへの相談方法
川村学園女子大学
『子どもたちの体験活動等に関する調査研究のまとめ』(平成16年)

 
青少年を狙ったサイバー犯罪(情報技術を利用する犯罪)やトラブルが増加している。

図32 サイバー犯罪のうち青少年保護育成条例違反等の検挙件数
警視庁
『平成17年中のサイバー犯罪の検挙及び相談受理状況等について』(平成18年)

図33 未成年者を当事者とする消費生活相談件数
独立行政法人 国民生活センターより
(平成18年7月25日現在)

 
青少年の情報メディア利用について、保護者の実態把握が十分とはいえない。

図34−1   図34−2
メディア接触についての家庭内ルール「特にルールを設けていない」割合(パソコンのインターネットについて) メディア接触についての家庭内ルール「特にルールを設けていない」割合(携帯電話、PHSについて)
社団法人日本PTA全国協議会
『平成17度マスメディアに関するアンケート調査 子どもとメディアに関する意識調査』

図34−3 パソコンでインターネットを利用する時の親の対応
警察庁
『少年のインターネット利用に関する調査研究報告書』(平成18年)

前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ