国際的な大学評価活動の展開状況や我が国の大学に関する情報の海外発信の観点から公表が望まれる項目の例(案)

国際的な大学評価活動に関するワーキンググループ

1.基本的考え方

 質保証システム部会において検討中の大学の教育に関する情報の積極的な公表の在り方については,1 大学の教育力の向上,2 大学教育の国際競争力の向上,3教育サービスの享受者である学生や費用負担を負う保護者に対する情報開示責任の3つの観点を基本的な考え方としつつ,検討が進められている。
 近年,国際的な大学評価活動が活発に展開する中,我が国の大学が積極的に自らの教育研究活動を発信するか否か,あるいはどのような情報を発信していくかが,各大学の国際的な評価や国際競争力を決定する大きな要素となっている。このような中,各大学が積極的に情報を発信しなければ,優秀な学生の獲得のみならず,国内外の大学との組織的・継続的な教育連携関係の構築も困難な状況になりつつあり,早急な対応が求められている。
 大学が情報を公表していくことによる効果は大きな潜在力を有している。例えば大学が特定の学問分野や国際化・地域貢献といった観点において情報を戦略的に公表・発信していくことにより,優秀な学生や教員の獲得に寄与することができれば,一層国内外にアピールできる情報を公表・発信できるようになる。こうした好循環の形成を通じて,当該分野における拠点の形成にも大いに貢献し得るものと考えられる。
 以上の考え方に基づき,本ワーキンググループとしては,国際的な活動に特に重点を置く大学は,第8回質保証システム部会における「大学の教育に関する情報の積極的な公表に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)に示された「情報の公表が必要な主要項目」を,全て何らかの形で公表すべきと考えるが,加えて以下の項目について,これらの大学の任意ではあるが,出来る限り積極的に発信していくことが考えられる。その際,情報は,できる限り英語を含む外国語で発信するとともに,こうした情報が海外の大学を含む他大学との間で,分かりやすく比較可能にすることに留意が必要である。

 なお,これらの情報発信は各大学のみにおいて行われるべきものではなく,我が国全体の大学教育の状況や,公的な質保証システム等については,国が責任をもって海外に情報を発信していくことが求められる。文部科学省においては,先般,我が国の公的質保証システムの概要や大学設置基準の英訳試案等を示した英文パンフレットを作成したところであるが,このような取組をさらに強化すべきである。

2.国際的な活動に特に重点を置く大学において公表が望まれる項目の例

 (1)教育活動の規模や内容等

 「論点整理」に示すとおり,当該学科や専攻ごとの教育目的,教育課程の基本的考え方や概要,修得が期待される知識・能力体系,学修の成果に係る評価及び卒業の認定の基準は,いずれも重要な項目である。実際,一般に学生が留学を検討する際は,自らの適性や関心ある専攻分野,国・地域などを勘案しながら,行き先となる国や大学を並行して検討するものと考えられる。その際,著名な教員や世界的な研究拠点の存在,優れた教育プログラムの提供など,教育研究の実績に関する情報が重要な判断材料となるものと考えられる。
 その一方で,個々の教員や教育研究活動は,その分野や規模,実施手法等においても,極めて多種多様に行われているのが実情である。このような状況で,一定の定量的な評価指標として,論文の数及び引用状況,学位授与数をはじめ,各大学の教育活動の規模や内容,水準等を示す指標や取組みについて,積極的に公表していくことが考えられる。その際,国際的に評価の高い大学とそん色ない教育活動が提供されていることが明確に伝わるようカリキュラムの内容や成績評価の基準等についても情報の提供が求められるとともに,国際的な水準と乖離している場合には,国際的に評価が得られるよう見直すことも求められる。
 また,これらの指標や取組みを含め,各組織や学問分野における状況が分かるような情報を整理して発信することや,分かりやすい情報提供の観点から,ベンチマーキングの手法を活用した項目の整理や分析を発信することも有用であるものと考えられる。

1 基本情報

大学における教育活動に関する基本情報として,各大学の戦略や実情に応じ,例えば以下のような情報を提供することが考えられる。

(項目例)

○ 指標

  • 修業年限期間に卒業する学生の割合
  • 教員構成に関する情報
  • 学生一人当たり教員比率
  • 各授業の平均学生在籍数
  • インターンシップの機会の提供状況
  • 中途退学率
  • 卒業後の進路状況(進学率,就職率,資格取得の状況等) 

○ 明確な方針に基づく教育課程とその水準

  • 修得すべき知識・技能の内容を明確化し,それを体系的に修得できる教育課程
  • 上記に基づく学修成果を明示するのにふさわしい学位の名称
  • 授業科目の計画的な履修方針に基づいた授業科目名や体系(いわゆるコース・ナンバリング)とシラバス(学内の関連する学問分野で共通化)
  • 単位認定,学位認定,成績評価の基準(大学として統一方針) 

2 学位授与数

 学位授与数については,近年の国境を超えて展開する高度かつ多様な知的活動や,人材・技術等の知的資産をめぐる国際競争の激化等を踏まえると,我が国の大学が適切な質保証が図られていることを前提に,修士や博士などの高度な学位を多く授与していることが,留学生にとって大きな魅力となるものと考えられる。
 このことについては,中央教育審議会答申「新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-」(平成17年9月5日)においても,近年我が国の大学院では留学生が増加する一方,留学生への学位授与率の低下などに見られる質の低下が懸念されており,留学生の語学力に対応した適切な論文指導等,外国人学生が学ぶための環境整備を進めることにより,円滑な学位授与を促進することは,当該大学の国際競争力につながるものであると指摘されており,同答申を受けての各大学における取組の成果や,留学生等に対する環境整備の状況等を明らかにする観点からも,学位授与数の積極的な公表が考えられる。 

3 外国人教員数

 外国人教員数については,我が国大学において外国人教員の占める割合が少ないことが,知の基盤たる人材の幅を狭めているのみならず,日本の大学に対する国際的な評価を低めているとの指摘もある。こうした人材を積極的に登用することは,国際的な人材の還流の一翼を担う効果もあることを踏まえ,国際的な競争環境にある大学については,外国人教員数を公表することが重要であるものと考えられる。
 その場合,海外において通算して1年以上教育研究に従事した,または国外で学位を取得した日本人教員の在籍状況などの情報をあわせて提供することも有益であるものと考えられる。 

4 研究成果の生産性や水準

 近年影響力を増しつつある国内外の定評ある国際比較においては,論文の数や被引用の状況を含む,様々な研究成果の生産性や水準が大きな位置づけを占めている。
 これらの状況については,各大学における教育研究の機能の度合いや,各教員の学問分野の構成等によって大きく異なっており,一概にその多寡をもって優劣を判断すべきものではないが,各大学の教育研究活動における影響力や活発度を測る上で有益な指標の一つであり,例えば以下のような項目について情報を公表することが考えられる。また,特に論文被引用率の高い研究者や,国際的に権威のある賞を受賞した研究者,あるいは影響力のある国内外の学術誌等への掲載事例等について詳細に情報発信を行うことも考えられる。

(項目例)

  • 論文数・論文被引用数
  • 海外研究機関との共同研究・連携に関する情報
  • その他優れた研究成果を示す指標 等

5 教育外部資金の獲得状況

 各大学が教育活動を展開する上で,科学研究費補助金や国公私立大学を通じた大学教育改革の支援事業,その他の競争的資金を含む各種の外部資金は重要な役割を果たしている。これらの資金は,大学の教育目標に応じた支援や,個々の研究者による自由な発想に基づく教育研究活動の支援など,多様できめ細かな支援が行われており,また,その採択に当たっても,専門分野の近い複数の研究者によるピアレビューや,第三者委員会による審査などを通じて,各大学の教育研究活動の裾野の拡大を図り,持続的な教育研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資するという役割を果たしている。したがって,これらの外部資金の採択状況は,当該大学における教育の厚みを示す指標ともなり得ることから,重要な要素として情報を公表することが考えられる。 

(2)教育の国際連携

 我が国の大学が海外に情報発信をしていくに当たり,海外のどのような大学と協定等を締結し,単位互換や教員・学生交流,ダブル・ディグリーのような組織的・継続的な教育連携関係を構築しているかについては,学生や教員をはじめとする関係者にとって重大な関心事項となっている。特に近年は,欧州におけるボローニャ・プロセスをはじめ,大学教育の質保証を伴う域内の大学間交流の枠組みを整備しようとする動きが活発になる中,個々の大学間の競争ではなく,共同で質の高い教育プログラムを提供しようとする試みが見られるようになっている。
 このような中,我が国の大学として,海外の大学との組織的・継続的な教育連携関係について積極的に情報を発信していくことが望まれる。具体的には,下記のような項目について情報を公表することが考えられる。

(項目例)

  • 協定を締結している海外の大学
  • 上記大学との教員・学生交流や単位互換,ダブル・ディグリー・プログラム等の実績を示す指標
  • 国内外の大学によるネットワークへの参加状況 等

(3)大学の戦略

 大学が国内外に情報を公表するに当たっては,第一に大学が自ら追求する機能別分化や国際化等の戦略としての目標や,当該目標を達成するための具体的計画設定し,これを不断に評価して更なる取組に繋げることが重要であるが,国立大学については中期目標・中期計画などが策定されているものの,全般として目標・計画の設定については,定性的なものが多く,検証が容易な数値目標等の設定が少ないとの指摘もある。
 したがって,大学のアカウンタビリティを果たす観点からも,まず明確な目標を設定し,当該計画とともに公表することが望まれる。また,こうした計画策定には比較すべき他大学の情報も必要なことから,後述するように,他大学の情報を収集・分析できるIR(Institutional Research)機能を充実していくことも考えられる。 

(4)留学生への対応

 留学生への対応は,グローバル化が進む大学の教育研究力や経営力を把握するためのみならず,各大学がどの程度積極的に取り組んでいるかを明らかにするためにも,重要な情報となり得るものである。海外の留学生は日本の学生に比して圧倒的に情報量が限られているとともに,そのニーズは多様であることからも,こうしたニーズに合った内容や手段により,情報が積極的に提供されることは重要である。
 具体的な対応については,昨年政府が策定した「留学生30万人計画」においても,留学生の受入れについて,我が国への留学についての関心を呼び起こす動機づけから,入試・入学・入国の入り口から大学等や社会での受入れ,就職など卒業・修了後の進路に至るまで,体系的に実施されることが必要であるとされたことも踏まえ,各大学において,入り口から出口までの各々の段階に応じた取組状況について,きめ細かな情報提供が有効であると考えられる。
 具体的に情報の公表が考えられる項目としては,各国からの留学生受入数に加え,以下の項目について情報を公表することが考えられる。 

(項目例)

  • 入学手続に関する項目(入学要件(年齢・学歴)及び卒業資格要件,海外における説明会の開催,海外拠点におけるテレビ会議システムを活用した入学審査時の面接実施,渡日前入学や独自の現地入試実施,日本留学試験の利用状況等)
  • 入学後の生活に関する項目(宿舎整備,日本語指導,カウンセリング,学内文書の英語化,経済的支援等)
  • 入学後の教育に関する項目(教育支援員やTA,RAによるサポート,留学生のTA,RAとしての活用)
  • 学位取得に関する項目
  • 学位取得後の就職等の状況に関する項目(就職後の進路,海外におけるインターンシップを含む企業との連携状況,OB会など卒業後のネットワーク形成状況等)
  • 英語による授業のみで学位を取得可能なコースの設置状況 等 

 特に英語コースについては,他の学科や専攻と同様に,明示されている人材養成目的に沿った,組織的・体系的に編成され,国際競争力のある教育研究が提供されていることを前提とした上で,国際的に教育研究の実績がある教員が参画しているか,あるいは受入学生の卒業時期を考慮した4月以外の入学等,入学前の既修得単位認定状況等,日本への留学を促進し,質の高い学生を確保するための方策が検討されているかなどについて,各大学の方針や実施状況を公開することが考えられる。
 また,海外への情報発信強化の観点からは,組織的・継続的な教育連携関係を図るためにも,大学間交流協定等に基づく交換留学や短期留学プログラム,教育課程に位置付けられた留学プログラムなどの実績や,単位互換やダブル・ディグリーの実施にかかる基本方針及びこれまでの実績,さらには外国人留学生の受入れのみならず日本人学生の派遣状況等についても公表することが考えられる。

(5)外部レビュー等の実施状況

 定評ある国際比較においては,教員・研究者によるピアレビュー等の第三者によるレビューも重要な位置づけを占めている。
 これらのレビューについては,実際にどのような者を対象とし,どのような分析に基づいて指標が算出されているのか不明な点も多いが,例えば各大学において実施する自己評価において外部レビューを受審した場合の結果や国内外の機関による認証評価や外部評価の結果は,有益な情報価値を有しているものと考えられることから,これらの情報を積極的に公開することが考えられる。
 また,国内外における自らの大学に対する好意的な報道や評価なども,大学のホームページで取り上げるなど,積極的に活用していくことが考えられる。 

3.情報の公表に当たっての体制づくり

 上記に述べた各種項目に関する情報の公表に当たっては,大学が単発的に,あるいは一部の教員や事務職員等により取り組むのではなく,一定の方針を定め,当該方針に基づき具体的に情報の公表・発信を戦略的に展開するための全学的な体制を整備することが有益であるものと考えられる。
 各大学においては,それぞれの目標や実情等に応じて情報の公表に関する適切な体制を整備するとともに,その実施や達成の状況を評価するのみならず,他大学の発信する情報を分析評価するIR(Institutional Research)機能を持つことで,自らの戦略形成の基礎とすることが可能となる。また,改善を図るためのプロセスを構築することも容易となり,大学運営に資するところは大きいものと考えられる。
 また,情報提供に当たり,大学全体としての情報のみならず,各学部や研究科,学位プログラムごとの情報なども公表することで,各大学の「強み」や「弱み」を含む内外での分析にも役立てられるよう,併せて留意が必要である。

 

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