1 地域医療を担う医師の養成及び確保について

検討に当たっての基本的な考え方

(1)地域医療を担う医師の不足と医学教育・大学病院の果たす役割

  • a)へき地を含む地域における医療体制の確保は、医療政策の重要な課題である。
  • b)しかしながら、関係者の努力にもかかわらず、医師の地域偏在は依然として大きな問題であり、へき地を含む地域での医師の確保は極めて困難なものとなっている。また、小児科、産婦人科等の特定の診療科での医師の確保も極めて困難なものとなっている。
  • c)このため、厚生労働省、総務省及び文部科学省は、平成15年11月に地域医療に関する関係省庁連絡会議(以下「関係省庁連絡会議」という。)を設置し、へき地を含む地域における医師確保対策やそのための医師養成の在り方などについて検討を行い、平成16年2月に3省庁として取り組むべき課題を取りまとめた。さらに、平成17年8月には「医師確保総合対策」を取りまとめ、医療資源の集約化・重点化など当面必要となる対応策から、適宜取組を進めているところである。
  • d)また、平成19年度からの医療制度改革においては、へき地医療対策等に係る医療連携体制の医療計画への記載、地域医療対策協議会の制度化等地域や診療科における医師偏在への対応のための措置が実施される予定であるが、既に全都道府県において地域医療対策協議会が設置され、当該都道府県内の大学医学部・大学病院関係者も構成員として参画した上で、医師の確保・配置対策等について検討・協議が行われているところである。
  • e)中長期的な視点に立ち、継続的かつ安定的に地域医療を担う医師を確保していくことを考えた場合、医療制度の改革に加えて、医学教育の果たす役割が重要となる。特に地方に所在する医学部においては、大学卒業後に医師として地域への定着を図ることが必要になっている。大学医学部は、国公私立を問わず、地域の医育機関として地域医療を担う医師の養成と地域への定着に向けた医師の生涯学習の場の提供を期待されている。
  • f)また、大学病院については、地域の中核病院として特定機能病院の役割の発揮や高度先進医療の提供による地域医療の水準の向上に努めることが期待されている。
  • g)このような社会の要請に応えるため、各大学においては、地域の医育機関として、学部教育、卒後教育の各段階において、将来の地域医療を担う人材の養成に努めるとともに、各大学病院においては、地域の中核病院として、他の医療機関との緊密な連携による適切な医療体制の構築のために協力を行うことが必要である。

入学時点に係わる論点

(2)医学部の今後の入学定員の在り方

1.これまでの経緯

  • a)医師の需給については、昭和61年に厚生省の「将来の医師需給に関する検討委員会」の最終意見において、平成37年には医師の10パーセントが過剰になるとの需給検討に基づいて、平成7年を目途に医師の新規参入を10パーセント程度削減するとの提言がなされた。また、昭和62年に文部省の「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」の最終まとめにおいて、平成7年に新たに医師になる者を10パーセント程度抑制することを目標として、国公私立大学を通じて入学者数の削減等の措置を講じることが提言された。
  • b)さらに、平成10年には厚生省の「医師の需給に関する検討会」の報告書において、平成29年頃から供給が需要を上回り、その後も乖離の拡大が続くとの需給検討に基づいて、高齢者人口の最も多くなる平成32年を目途に医師の新規参入の概ね10パーセントの削減を目指すことを提言した上で、入学定員については、昭和61年の検討委員会の提言に係る、昭和59年当時の医学部入学定員を10パーセント削減するという目標の達成に向けて、改めて関係者が調整の上、具体的に取り組むことが要請された。また、平成11年に文部省の「21世紀医学・医療懇談会」の第4次報告において、医学部の入学定員について、当面、昭和61~62年に立てられた削減目標の達成を目指して国公私立大学全体で対応すべきことが提言された。
  • c)これらの提言を踏まえ、各大学において入学定員の削減が行われ、現在までに、入学定員が最高であった昭和59年当時と比較して、国公私立を合わせ7.9パーセント(国立10.7パーセント、公立0.8パーセント、私立5.3パーセント)の削減が実施されている。

2.厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」の報告書等

  • a)厚生労働省においては、平成17年2月より、「医師の需給に関する検討会」を設けて平成10年の検討会報告書公表後の医療を取り巻く環境の変化や社会経済状況の変化等を踏まえた医師の需給の将来推計や取り組むべき課題について検討を行い、同年7月には地域別、診療科別の医師の偏在解消に関する当面の医師確保対策を中間報告としてとりまとめた上で、平成18年7月には、その報告書がとりまとめられた。
  • b)同報告書では、将来の医師の需給の見通しとしては、「供給の伸びが需要の伸びを上回り、平成34年(2022年)に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった」としている。一方、「全体の需給とは直結しないが、地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとは言えず、また、病院・診療所間の医師数の不均衡が予想される等の問題があり、厚生労働省は関係省庁と連携して効果的な施策等を講じることが必要である」とした上で、大学医学部における地域枠の設定、地方公共団体が取り組んでいる勤務地を指定した奨学金の設定、地域枠と奨学金の連動の推進等の具体的な取組に関する提言がなされた。入学定員に関しては、「医師の養成には時間がかかること、また、多額の国費が投入されていることを踏まえれば、医師数が大きく過剰になるような養成を行うことは適当ではない」「医学部定員の増加は、短期的には効果がみられず、中長期的には医師過剰をきたす」とする一方、「(へき地を含む)地域における医療体制の確保は喫緊の課題であることから、すでに地域において医師の地域定着策について種々の施策を講じているにも係わらず人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討する必要がある。」としている。
  • c)さらに、平成18年8月に関係省庁連絡会議において取りまとめられた「新医師確保総合対策」においては、奨学金の拡充など実効性のある医師の地域定着策の実施等を条件として、医師の不足が特に深刻と認められる10県(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重)及び自治医科大学において、最大10人、期間は平成20年度からの最大10年間を限度として、医師の養成数に上乗せする暫定的な調整の計画等を容認するとともに、関係審議会において、大学の具体的な定員の在り方について検討を行った上で大学の定員増の申請の審査を行うこととされたところである。

3.医学部における今後の入学定員の在り方について

  • a)医師の需給見通しに基づく医師数の適正化については、大学の入学定員の削減という養成課程の入口の段階だけではなく、養成課程における学生への進路変更を含めた適切な指導、国家試験の改善などの養成の出口の段階、さらには資格取得後の段階も視野に入れ、総合的に対策を講じることが必要である。また、医学部の入学定員については、医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく、質の高い医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討する必要がある。
  • b)厚生労働省の検討会報告書を踏まえれば、入学定員総体の削減も含め需給見通しに基づく医師数の適正化に引き続き取り組むことが必要である一方、地域別・診療科別の医師の偏在の問題に関する対応の充実を図る必要がある。地域別・診療科別の医師の偏在の問題に関する対応としては、入学定員の増加は短期的には効果は見られず、厚生労働省の検討会報告書で提言されているように、地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築等が求められるところであるが、入学定員に関してもこの問題への対応を図るため、厚生労働省の検討会報告書で提言されている医学部定員の暫定的な調整の実施に向けて関係者が連携して具体的に検討を進めることが必要である。このため、本調査研究協力者会議においては、「新医師確保総合対策」にある、大学の具体的な定員の在り方について、大学の地域定着策の実施等も含め、今後、具体的に検討を行うこととしている。
  • c)なお、後述するとおり、卒業後実際に地元に定着することに結びつけるためには、入学者選抜の工夫改善、モデル・コア・カリキュラムの充実等による学部教育における地域医療に関する教育の改善、大学病院における新医師臨床研修や地域医療支援等の改善など、医学部の入学定員の扱いと併せて、地域別・診療科別の医師の偏在の問題への対応の充実を図ることが必要である。

(3)入学者選抜における地域枠の在り方

  • a)近年、医師不足が特に深刻な地域に設置されている大学を中心に、医学部の既存の入学定員内に地元出身者のための入学枠(いわゆる地域枠)を設けて、将来、地域医療に従事する意欲のある者の養成に努めようとする取組が行われている。
  • b)平成18年度の入学者選抜においては、地域枠を用いた入試を実施する大学医学部は全部で16大学であり、このうち平成18年度から新たに実施した大学は9大学である。いずれも推薦入学において実施されており、その割合は入学定員の1割程度である。
  • c)一般に、卒業後に地元の医療機関等に勤務する者の割合については、地元出身者が地元以外の出身者を上回っていると考えられることから、こうした地域枠の設定は、地域の医師確保に資する有効な方策の一つであると考えられる。
  • d)地域枠を設ける大学においては、例えば、地域枠の対象となる高等学校等に対して地域枠の趣旨を十分に説明するとともに、高校生に対して、へき地等における医療の確保・向上や地域住民の福祉の増進など、医師として地域社会に貢献することの魅力や、そのような医師に求められる人格や適性などについて説明する機会を設けるなど、高等学校教育との連携を図ることが必要である。
  • e)特に、理科や数学に重点を置いたカリキュラムの開発や大学等との連携方策についての研究を実施しているスーパーサイエンスハイスクールと大学とが連携した取組を進めることにより、高校生の生命科学や医学に対する興味・関心を、より一層高めることも可能である。
  • f)また、地域枠の設定に当たっては、AO入試の一環として行うことや、推薦入試で行う場合であっても、受験生に地域の社会福祉施設等におけるボランティア活動を通じて地域の保健、医療、福祉について考える経験を求めたり、医師不足の深刻な地域の関係者の意見を参考にするなど、より地域医療に対する意欲の高い学生を選抜する工夫をこらすことや、大学として適切な教育体制を確保することを前提に、地域枠を拡大することも考えられる。
  • g)さらに、地域枠で入学した学生を地域医療に貢献できる医師として養成するため、カリキュラムを編成する際には、選択制カリキュラムの設定や内容の工夫も含め地域医療への関心を高めるためのカリキュラムを開発するとともに、地方自治体や地域の医療機関等と連携して地域医療と接して学ぶ機会を提供するなど、地域医療への貢献を志す学生が、6年間を通じて地域医療についての理解を深めるよう工夫することが必要である。
  • h)一方、都道府県の中には、地元の医師確保のために奨学金制度を実施しているものもある。
  • i)これは、都道府県が、学生に対して医学部・医科大学在学中に奨学金を貸与し、卒業後、自県内の公的医療機関等において一定期間医師として勤務することを条件に返還を免除するものである。こうした奨学金制度の中には、小児科、産婦人科など特に医師の確保が困難な診療科での勤務に特定したり、へき地での勤務に特定したりして実施している例も見られる。
  • j)学生の地域医療に対する志向を促すためには、入学者選抜における地域枠の実施とこうした奨学金制度との関連を持たせることも有効である。大学や都道府県が協力して地域枠と奨学金制度を有効に組み合わせる例は現在でも見られ、今後は、従来の地元出身者のための地域枠に加え、出身地にとらわれず、将来地域医療に従事する意志を有する者を対象とした新たな入学枠(新たな地域枠)を設定した上で卒業後の従事を担保するための奨学金制度を組み合わせるなど、卒業後実際に地元に定着することに結びつけるための取組を一層強化推進することが必要である。
  • k)地域枠を設ける大学においては、その実施に当たって、都道府県との連携を図ることが重要である。特に、前述した卒業後実際に地元に定着することに結びつけるための取組の実施・実現にあたっては、地域医療対策協議会の活用等を通じて都道府県と緊密な連携協力を図ることが必要である。
  • l)このほか、学士編入学の募集人員の一部を地域枠として設定した大学の例もあり、各大学が地域に貢献する医師の確保のために様々な取組の工夫改善を図ることが必要である。

学部教育に係わる論点

(4)学部教育における地域医療を担う医師養成の在り方

  • a)モデル・コア・カリキュラムは、すべての医学生が、卒業までに学んでおくべき態度、技能、知識に関する教育内容を精選し、現代的課題を加え、基礎医学と臨床医学の有機的連携を備えた教育内容のガイドラインである。
  • b)各大学では、平成14年度よりこれに基づいたカリキュラム改革を進めている。
  • c)平成17年5月に全国医学部長病院長会議が公表した「わが国の大学医学部(医科大学)白書2005」(以下「医学部白書」という。)によれば、平成16年11月現在、医系全80大学(防衛医科大学校を含む。以下同じ。)中66大学においてカリキュラム改革が実施されている。
  • d)モデル・コア・カリキュラムにおいては、医学生の到達目標として、「地域医療の機能と体制(地域保健医療計画、救急医療、災害医療、へき地医療、在宅ターミナル)を説明できる。」、「地域保健と医師の役割を説明できる。」、「地域保健(母子保健、老人保健、精神疾患、学校保健)を概説できる。」ことなどが掲げられている。
  • e)地域医療に関する教育は、授業科目数や開講年次に差があるものの、すべての大学医学部・医科大学において実施されており、今後一層の充実が求められている。
  • f)今後の各大学の地域医療に関する教育の改善を図るため、「2 医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂について」に詳述するとおり、モデル・コア・カリキュラムにおける地域医療に関する記述の充実を提言する。
  • g)6年間の医学教育を通じて、学生が地域医療に貢献したいという考えを深めていくことが求められており、既に多くの大学の医学部教育のカリキュラムにおいて設けられている地域医療の実態を学習する機会等を通じて、学生に対する地域医療に関する学習の一層の充実を図ることが必要である。学生の地域医療に関する興味・関心を高めるためには、学部教育の早期から地域医療の現場に赴いて、地域住民の生活意識や医療ニーズについてアンケート調査を行うなど、学生に地域の実情を肌で感じる経験をさせることも有効である。医学部白書によれば、平成16年11月現在、51大学において臨床実習開始前に地域病院や医療施設での早期体験学習が実施されている。
  • h)さらに、53大学において臨床実習を学外の地域の病院で実施しているほか、20大学において地域保健に関する実習を保健所等で行っている。
  • i)このほか、地域医療従事者や地域保健従事者による特別講義、コメディカル等の医療従事者体験実習や離島、へき地における実習を実施したり、社会医学実習において地域特有の課題について保健所の職員とともに調査研究を実施するなど、学生の地域医療や地域保健への関心を高めるための様々な取組が見られる。
  • j)各大学におけるこのような取組の広がりと充実が求められる。また、多くの大学で、学外の医療機関等の協力を得るにあたって、臨床教授制度を活用しており、この制度の一層の活用を図るとともに、教育効果等について検証しつつ、臨床教授への報酬の支給等の財政的支援についても検討することが必要である。
  • k)また、学生にへき地医療についての理解を深めさせ、プライマリ・ケアの能力を向上させるために、各大学は、各都道府県に置かれているへき地医療支援機構の担当医師の参画を得たり、地域医療を専門とする教育組織を設けるなど、その教育体制の整備について検討を行うことが必要である。
  • l)このような各大学における地域医療を担う医師養成の取組を、国や地方公共団体がそれぞれの役割分担に応じ、必要な予算措置や寄附講座の設置等を通じて支援することが必要である。
  • m)地域医療に関する教育に対する国の財政支援としては、「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」(平成18年度予算額12億9千万円)がある。これは、平成17年度から予算措置された事業であり、大学病院を置く国公私立大学が、全人的医療や地域医療等を担う医療人を養成するために行う特色ある優れた教育の取組みに対して重点的な財政支援を行うものである。例えば、離島医療に携わる医療人の養成のための教育プログラムや、地域で生きる医師の定着に向けたホームステイ型研修プログラム等の取組が行われている。地域医療を担う医師養成の重要性にかんがみ、各大学の取組の充実に加えて、今後、このような国の財政支援が拡充されることが求められる。

卒後教育に係わる論点

(5)卒後教育における地域医療を担う医師養成の在り方

1.大学病院における新医師臨床研修の充実

  • a)平成16年4月より医師の臨床研修が必修化され、診療に従事する医師は、医師免許取得後2年間の臨床研修を受けなければならないこととされた。
  • b)従来の医師の臨床研修については、出身大学やその関連病院を中心に専門の診療科に偏った研修が行われていたため、幅広い診療能力が身に付きにくく、また、地域医療との接点が少ないと評されてきた。
  • c)こうした背景を踏まえ、新医師臨床研修制度は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、基本的な能力を身につけることを基本的な考え方としてスタートした。
  • d)研修医は2年間の研修プログラムの中で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の各医療分野において、日常的に頻繁に関わる負傷又は疾病を経験するとともに、医師として必要な基本姿勢・態度を身につけることとなる。
  • e)また、都市部の大病院だけではなく、地域の中小病院、診療所、保健所、社会福祉施設等においても研修が行われることとなり、研修医は、医療のみならず、地域の保健、福祉の分野についても経験することとなった。
  • f)各大学病院は、それぞれの大学の特色を生かしつつ、専門分野に偏ることのない基本的な診療能力の育成を目的とした研修プログラムの策定や、共同して臨床研修を実施することとなる地域の医療機関との幅広い連携、研修医の指導を行う指導医の養成、研修医が研修に専念できるような適切な処遇の確保など、様々な点で尽力している。
  • g)しかしながら、研修医のマッチングの結果、ほとんどの大学病院において研修医の数は必修化以前と比べて減少した。大学病院の臨床研修医の在籍状況は、必修化前の平成15年度の72.6パーセントから、必修化後の平成16年度は55.9パーセント、平成17年度は49.2パーセント、平成18年度は44.7パーセントと大幅に低下しつつある。特に地方大学における減少が著しくなっている。さらにスーパーローテート方式になり、研修医の配置や指導体制についても、見直しが必要となった。
  • h)このため、大学病院においては、自らの教育、研究、診療の体制を確保する必要が生じ、従来のように地域の医療機関等からの医師紹介の要請に応じることが難しくなっている。
  • i)このような状況の中で、独自に必要な医師を確保することが難しく、かつ、大学病院のほかに医師の紹介を要請するあてのない地域の医療機関は、診療を継続することが困難になっており、このことが、「新医師臨床研修制度の実施に伴い、大学病院が医師を引き揚げている。」との指摘につながっている。地域での卒後臨床研修者数を増やすとともに、地域医療への定着を図る観点から、地域全体として大学病院と地域の医療機関、保健所等が、連携した卒後臨床研修体制を整備し、医学生への積極的な情報提供を行うことが必要である。
  • j)さらに、新医師臨床研修制度においては、「地域保健・医療」が必修科目となっており、少なくとも1ヶ月以上の研修が必要とされるが、臨床研修の指導医や研修医が地域保健・医療の重要性を十分に理解していない場合があるとの指摘がある。
  • k)各大学においては、ワークショップや指導医講習会の開催を通じて、指導医に対し、地域保健・医療の重要性について理解を深めさせることが必要である。
  • l)また、地域保健・医療の研修の効果を高めるためには、大学側と受け入れ側の緊密な連携が不可欠であるとともに、研修前後の研修医への十分な指導が必要である。
  • m)その際、保健所等における地域保健に比して、診療所等における地域医療の経験が十分でないとの指摘もあり、研修医の地域医療の経験を充実させることが必要である。
  • n)さらに、大学病院における研修医の減少傾向が生じた原因を分析するとともに、研修医に対する教育指導体制の整備や処遇の改善、大学病院と協力病院等との緊密な連携体制の構築等に取り組むことが必要である。

2.新医師臨床研修後の研修における総合診療医の育成

  • a)臨床医は一定の専門領域を持って患者に医療を提供しており、臨床研修の終了後、専門領域の基礎的な研修を行う必要がある。
  • b)旧来の卒後臨床研修修了後の専門領域における研修については、大学病院を中心とした研修病院にすべてが委ねられ、研修を希望する医師は、多くの場合、各病院の診療科に配属されて、独自の指導体制の下で、標準化された研修プログラムもなく、診療を行っている場合が少なからず見られた。
  • c)このため、卒後2年間だけでなく、引き続き実力ある専門医の養成と継続的かつ専門的な臨床教育・研修提供体制を整備する必要があり、広範囲な分野において高度専門医療を提供する大学病院が地域の医療機関等と連携を図りながら、その中核を担っていくことが求められる。
  • d)地域医療を担う医師を養成する観点からは、卒後3年目以降の医師には、専門的診療能力、チーム医療を行うためのリーダーシップに加えて、地域医療を担うための全人的な診療能力を高めさせることが必要である。
  • e)このため、地域社会で特にニーズの高い総合的なケアを修め、プライマリ・ケアを極める医師も、高度な専門性を持った臨床医であるとの認識に立って、専門医研修における総合診療医の養成システムを構築していくことが重要である。
  • f)大学病院においては、各診療科のみならず、地域の医療機関との連携を図りながら、プライマリ・ケアのための研修を行うことのできる体制を整備することについて検討する必要がある。
  • g)その際、関係学会が総合診療医の標準的な研修プログラムの設定も含めた認定医制度を設けるなど、総合診療医の専門性が社会的にも認知されるような仕組みを設けることが望まれる。

3.大学や大学病院における生涯学習体制の整備

  • a)医師の生涯にわたる学習については、各学会や医師会等により様々な場が提供されている。医学・医療に関する最も豊富な教育資源を有する大学や大学病院は、地域の実情に応じて、医師等の医療人のみならず、社会人に対する生涯学習の機会を提供することが求められており、平成17年3月現在、68の大学病院で生涯学習に関する取り組みを行っている。さらに、57の大学病院で地域の医師、看護師等を研修生として受け入れており、60の大学病院で医療従事者を対象とした講演会等を実施している。今後、このような取組の効果等を検証した上で、現に医療現場で勤務している者が参加しやすい運営上の工夫等の改善に努めることが必要である。
  • b)特に、医療人の養成の場である大学や大学病院においては、学部教育、卒後教育の各段階において、医師が生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう、医師としてのキャリア形成に中核的な役割を果たすことが求められる。
  • c)地域医療を担う医師の養成の観点からは、例えば、大学や大学病院において、地域医療等にかかわることを希望する様々な年代の医師が診療能力の向上を目指して、プライマリ・ケアやへき地医療、医師不足が指摘されている分野の医療等について学ぶ機会を提供することが期待される。特に、地域における医療体制の確保のためには、離・退職した潜在的な医師の活用が求められることから、定年退職した医師や子育て等の理由により退・休職した女性医師の復帰に対する支援の充実が求められる。 

大学病院に係わる論点

(6)地域医療を担う医師確保に関する大学病院の役割

1.大学病院による地域医療支援

  • a)へき地を含む地域における医療提供体制の確保は、医療政策における重要課題であるが、従来、地域の医療機関等からの要請に基づいて必要な医師を派遣するようなシステムは構築されていなかった。
  • b)このような状況の中で、大学病院は、地域の中核的な医療機関として、地域の医療機関等からの要請を受けて医師を紹介することにより、地域における医師確保に対して一定の役割を果たしてきた。
  • c)しかしながら、これは大学病院が組織的に行うものではなく、各診療科の裁量に委ねられていたために、透明性に欠けるものであったことは否めない。
  • d)このため、文部科学省では、大学における医師紹介システムの明確化と決定プロセスにおける透明性の確保を推進しており、平成17年3月現在、35大学で、医師紹介窓口を一本化している。各大学においては、診療科単位で行っている医師紹介の窓口を一本化するなど、透明性を確保しながら医師紹介を行うシステムを構築することが必要である。
  • e)また、地域医療の充実・発展に貢献する観点から、大学が地域の医療行政を担う都道府県と緊密な連携を図ることが求められている。例えば、大学として地域における地域医療対策協議会へ積極的に参画し、地域の医療機関との病病・病診連携を実施して、地域における医療機能分担を推進したり、地域における医療資源の集約化に資する医師紹介を行なったりするなど、都道府県の医療施策への協力が期待される。
  • f)さらに、前述したように、医療人の養成の場である大学病院においては、医師が生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう、医師としてのキャリア形成に中核的な役割を果たすことが求められていることから、大学病院は、自ら積極的にキャリア形成の場の提供を図るとともに、都道府県や地域の医療機関等と連携し、地域における医療提供体制の確保に重要な役割を担うことが必要である。
  • g)その際、小児科、産婦人科等、医師不足が指摘されている分野も含め、指導体制の充実を図るなど、人材養成のための体制を整備することが必要である。
  • h)また、大学病院の救命救急センターや救急部は、地域の救急体制の中核として重要な役割を果たしており、大学病院における救命救急体制の整備・充実と救急医の養成を図ることも必要である。
  • i)このような大学病院の地域医療の確保のための取組を国や地方公共団体は支援することが求められる。

2.遠隔医療システムの活用

  • a)平成17年3月現在、大学病院においては、28病院において遠隔医療を実施しており、例えば、旭川医科大学では、眼科領域での遠隔医療システムによって、患者が遠方の医療機関を受診しなくても、身近な地域で、対面で専門医の診察を受けることとほぼ同等の成果が得られている。
  • b)このように、大学病院が、情報通信技術を活用して地域の医療機関とのネットワークを形成するなどにより、医療面での協力を行うことが期待されるところであり、国や地方公共団体がこうした成功事例等を取り上げ、特に医師の確保が困難な地域における医療提供の充実を図るために必要な支援を行うことについて検討が必要である。

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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