日本労働組合総連合会
連合は、日本がめざすべき社会像として、「労働を中心とした福祉型社会」を目標としており、この社会を創造するうえで「教育」の果たす役割はきわめて重要であると考えている。
日本は、年齢主義による入学・就職システムが根強いため、学校教育での学び直しや職業生活の再チャレンジができにくい状況にある。また、学校で職業能力の開発やキャリア教育がほとんど行なわれず、職業能力は企業に入社後に社内で訓練するという状況が長い間続いてきた。生涯学習を進めていく上でも、多様な経験を積んでから、再び学校等で学び直しができ、それらが入学や就職で正当に評価される社会のしくみ作りを進めるなど、“学びの場”の多様性を拡げる必要がある。
そのためにも、入試制度や入社制度等の改革を通じて「学歴社会」から「学習歴社会」へ転換し、学校での勤労観・職業観を育む教育や、すべての人々が、生涯を通じて自らの意欲と能力に応じた職業教育が受けられるようにする必要がある。とりわけ高等教育については、専門性を重視した人材の育成という視点と同時に、新しい教養市民の育成という汎用性の視点も重視する必要がある。
また、幅広い人的ネットワークを通じて地域の活性化を進めていく上で、地方の高等教育機関の果たす役割は大きいものがある。
連合は、以上のような基本的考え方を踏まえ、高等教育機関が主に次のような機能を持つべきであると考えている。
これらを基本に、以下のとおり「我が国の高等教育の未来像(審議の概要)」について意見を述べる。
日本では、これまで学校で職業能力の開発や職業教育があまり行われず、それらは主として企業に任されてきた。また、学校で何を学んだかは企業内ではあまり評価されず、職業能力は入社後に社内で訓練されてきた。
近年の経済のグローバル化や産業構造の転換、技術革新の進展等の中で、従来のような職業訓練・教育だけでは社会の変化や雇用の流動化などの問題に対応しきれないなどの課題も生じてきている。
こうした中で、職業訓練・教育をめぐっては、従来からの大企業と中小企業間の格差に加えて、近年では、パート労働者や派遣労働者の増加、企業内教育訓練のアウトソーシング化や社員自立型教育への転換等が進展し、個々人ごとの教育訓練機会の格差も拡大している。
また、新卒者の求人が減少する一方、勤労観・職業観の希薄化等が進む中で、フリーターやニートは増加傾向にある。フリーターの賃金・労働条件は低位に置かれており、その仕事も高度な技能や経験も要求されないものに集中していることから、若年期の職業能力開発が遅滞しており、こうしたフリーターやニートの増加は、大きな社会的問題になってきている。
学校での勤労観・職業観を育む教育とあわせて、高等教育機関と社会・企業の連携、職業能力開発の機会等の提供・相談、学び直しの機会の保障など、職業能力開発を社会的に保障していくしくみの構築が不可欠である。
高等教育機関における職業教育の質的向上のため、学校、大学運営に企業経営者や労働組合が参画するためのシステムづくりや、産業界の技術者などの外部講師の積極活用など、産業の現場や仕事の変化に即した教育実践を進める。
一例として、連合など労働組合との組織的な協力関係での大学での講座の開設をつうじて、実社会で必要となる労働者教育、労働組合に対する理解の促進、リーダーづくり等を行うなど。
諸外国に比べて日本の私立高等教育機関の学費は高く、日本の高等教育に対する公共支出は、OECD諸国と比較しても低い現状にある。
高等教育機関の大衆化や「全入化」などが進む一方で、いわゆる「難関大学」とそれ以外の大学との間の「二極化」が進行している。そうしたなかで、「難関大学」に進学する学生とその保護者の所得の相関関係が明らかになるなど、機会均等が阻害されつつあることも指摘されている。
また、生涯学習を進めていく上で、いわば青年期の“道草”や“寄り道”などの経験の意義を社会全体で認識し、許容しあう必要があるが、現状ではほとんど評価されていない。日本は、学校教育の学び直しや職業生活の再チャレンジがしにくい社会になっている。いつでも、どこでも、誰でも「学び直し」のできる環境づくりが必要である。
保護者の所得や本人の学業成績に関係なく貸与する奨学金を充実するとともに、学力など一定の基準を満たした学生に対する無償給付の奨学生制度を創設する。また、奨学金の対象を社会人にまで拡充する。
社会人特別選抜枠の拡大、編入制度の弾力化、夜間大学院の拡充、科目履修制度・研究生制度の活用、通信・放送を通じた高等教育の拡充をつうじて、社会人の受け入れを進める。
教育内容や財務状況などの情報開示を徹底させた上で、私立学校に対する公費助成を拡充する。
高等教育機関の「質」には、学生の「質」や教授すべき内容の「専門性」とともに、学生に対する良質な教育の提供や研究のための環境を提供する上で不可欠な、「民主的運営」や「安定性」などの機関運営面の評価も含めるなど、学内の「良好な労使関係」をはじめとした民主的運営を確保する視点も必要である。
理事側の一部による収益独占や学生、教職員に対する非民主的な運営等を原因とした学内の労使紛争や理事者の恣意的な経営破綻などから、学生を保護し、教育の質的確保をはかる。そのため、「質」の評価にあたっては、「民主的な運営」も対象とする。
学生による大学教員の評価システムを整備して、学生のニーズを踏まえた教員の質を確保するとともに、厳格な成績評価によって卒業生の質の確保に努める。
また、高等教育機関の「自己点検」に加えて、民間による横断的な第三者機関などの多面的な評価を行い、これを公表する。
日本経済は、現在「地域間格差」や「企業規模間格差」などで二極化が進んでおり、また、地元産業を担ってきた「ものづくり」の衰退が進行してきている。こうしたなかで、地域経済、とりわけ中小企業の活性化は重要である。
地域経済の振興策としての産官学連携は、市場からのニーズの吸い上げや、産業の活力と大学等の技術力の融和のための交流拠点が必要である。しかし、従来型の産官学連携ではコーディネーターが不在であり、本来は仲立ちとなるべき公的機関主体による連携では限られたチャンネルのみの連携にとどまり、幅広な人的ネットワークを構築できないでいる事例が多いなど、いわば“堅い”連携となっている。
連合の提唱する「産官学金労」(後述)(PDF:224KB)は、「人づくり」を鍵とした幅広い連携をつうじて地域の活性化をめざすものである。したがって、地域に貢献する人材を育成する観点からも、地方自治体は地域活性化のカナメとなる地方の高等教育機関と連携し、支援体制をとる必要がある。
※ 連合が提唱する「産官学金労」のネットワーク
連合が提唱する「産官学金労」とは、従来の「産官学」連携に加えて、地域経済の血液を担う金融と産業の担い手である労働組合を加え、地域のネットワークを構築するというものである。
これは、現在低迷する地方経済、とりわけ地場中小企業の活性化をはかるため、「人」づくりを連携のポイントとして、「人的ネットワークづくり」のためのプラットフォームの設立を通じた地域活性化を指向するというものである。連合内でも、加盟する労働組合が地域ベース、事業所ベースで参画している事例がある。
以上
高等教育局高等教育企画課高等教育政策室
-- 登録:平成21年以前 --