2 高等教育の量的拡大
(1)全体規模に関する考え方
様々な変化を背景に、全体規模の面からすると、高等教育は多くの人々に開かれたものとなり、誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる高等教育の整備=「ユニバーサル・アクセス」が実現しつつある。また、高等教育に対する量的側面での需要はほぼ充足されている。
また、少子化の影響等により、学生数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、学校としての存続自体が不可能となることもあり得る。その際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのための関係機関の協力体制が必要である。
- 我が国の大学・短大の18歳人口を基準とした進学率は、1960年代前半に15%を超えた後急激に上昇して昭和50(1975)年度には38.4%にまで達し、高等教育のマス化が急速に進行した。その後、進学率は一時的に安定した後、平成に入ってから再び上昇して平成11(1999)年度に約49%に達した後、ここ数年はほぼ一定となっていた。大学・短大の進学率が一定となっていた要因は必ずしも単純ではないが、長期にわたる経済の停滞や専門学校への進学率等が影響を与えている可能性があると考えられる。
- 専門学校を含めた進学率は、昭和61(1986)年度からほぼ一貫して増加し続けており、平成16(2004)年度には74.5%に達している。この意味では、我が国の高等教育は、同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階に既に突入しており、これにふさわしいものへと変革を迫られていると言うことができる。
- こうした様々な変化を背景に、全体規模の面のみからすると、高等教育についての量的側面での需要はほぼ充足されており、ユニバーサル段階の高等教育は既に実現しつつあると言うこともできる。また、今後の進学率についても、近年の傾向からすれば、大幅な拡大は見込めない状態にある。
- しかし、ユニバーサル段階の高等教育が真に内実を伴ったものとなるためには、単に全体規模だけでなく分野や水準の面においても、多様な学習者の需要に対して高等教育全体で適切に学習機会を提供するとともに、学生支援の充実等により学習環境を整えていくこと、即ち、誰もがいつでも自らの選択により適切に学べる機会が整備された高等教育=「ユニバーサル・アクセス」の実現が重要である。
- 今後の我が国においては、個人が自己啓発を図り、より一層豊かで潤いのある人生を送ることを目指して、人々の多様な生涯学習需要は増大する傾向にあることから、社会人が高等教育機関で学ぶ機会はますます増大していくと考えられ、この意味でも「ユニバーサル・アクセス」の実現が求められている。
- このことはまた、「学(校)歴偏重社会」が次第に過去のものとなり、高等教育機関と実社会との「往復型社会」への転換が加速するであろうことをも意味する。
かつて、我が国社会は「18歳のある1日に、どのような成績をとるかによって、彼の残りの人生は決まってしまう」ような学歴偏重の社会であるとOECD教育調査団(昭和45(1970)年)によって分析されたことがあった。今日では、実社会において、人生の比較的早い段階での学歴・学校歴のみでその人の将来の社会的な処遇が決定されるといったことがないことは明らかと言ってよい。しかし、依然として人々の意識の上では学歴偏重の考え方も根強く、意識と現実との乖離を解消する努力がなお必要である。
- 職業生活の上でも、産業構造の変化や雇用の急速な流動化を背景とした昨今の社会人の大学院での学習需要の高まりを見ると、職場での肩書きや専門的資格のみに依拠するのでなく、自己を知的にリフレッシュして付加価値を高めるという意識が急速に社会全体に根づき始めたようにも見える。今後は、高等教育機関と実社会双方の努力により、社会人が必要に応じて高等教育機関で学習を行い、その成果をもって更に活躍する「往復型社会」への転換が加速するものと期待される。
- また、男女共同参画や少子高齢化の一層の進展等に伴い、女性や高齢者が就労する機会も一層増大することが予想される。高等教育機関は、人々の幅広い知的探求心や学習需要に応えて、必要なときにいつでも学習しやすい環境と多様なメニューを提供することがますます求められる。
- 社会・経済情勢の変化に伴い、高等教育機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しつつある。各機関は、長期的な18歳人口の減少を見据えつつ、自ら経営努力を行うことがますます求められる。
- 各高等教育機関の経営改善を支援するため、国による指導・助言体制や関係機関による財務分析・経営診断体制の整備を一層図る必要がある。
- 今後、少子化の影響やこれらの評価等の結果により、学生数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、様々な手立てを講じてもなお経営が好転せず、学校としての存続自体が不可能となることもあり得る。そのような際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのために関係機関の協力体制を作っておくことが必要である。
(2)地域配置に関する考え方
大都市部における過当競争や地域間格差の拡大によって教育条件の低下やアクセスに関する格差の増大等を招くことのないよう、例えば、各大学における適正な定員管理に一層留意する等の方策を検討する必要がある。人材の流動性や遠隔教育の普及等の要素も考慮しつつ、地方の高等教育機関は地域社会の知識・文化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。
- 平成14(2002)年8月の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」までは、首都圏・近畿圏・中部圏における工業(場)等制限区域・準制限区域内の大学の設置等については抑制的に取り扱われてきていたが、大都市部における大学の自由な発展を阻害している等の批判があり、同年7月に工業(場)等制限法も廃止されたことを踏まえ、抑制方針は撤廃されている。
- 大都市部における設置認可の抑制方針を撤廃したことにより、大都市部における過当競争や地域間格差の拡大によって教育条件の低下やアクセスに関する格差の増大等を招くことのないよう、各国公私立大学における適正な定員管理を図るための方策を講ずることも重要な課題である。
- 地域配置に関しては、人材の流動性や遠隔教育の普及等の要素も考慮することが必要である。また、地方における高等教育機関は、教育サービスの提供の面だけでなく、地域社会の知識・文化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。
- 地方における高等教育の支援や地域振興に資するため、高等教育機関相互のコンソーシアム形成支援や高等教育機関を核とした知的クラスターの形成支援を充実することも重要と考えられる。
(3)今後の人材養成の分野別構成等に関する考え方
今後の様々な人材需要に対しては、各高等教育機関が、幅広い基礎的な教育を充実すること、柔軟な教育組織の改組を図ること、社会人の再教育を充実させること等により対応を図ることが基本である。国は、高等教育機関の自律的・自主的努力を支援するとともに、人材需要見込み等を的確に把握して情報提供する仕組みを整えるべきである。
医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員のいわゆる抑制5分野の取扱いについては、人材需給見通し等の政策的要請を十分に見極めながら、抑制方針の必要性や程度について、必要に応じて個別に検討する必要がある。
- 今後ますます多様化・複雑化し、変化の速度を増していく人材需要に対しては、国が一元的に調整するのではなく、各高等教育機関が競争的環境の中で創意工夫を凝らし、幅広い基礎的な教育を充実すること、法人化や設置認可の弾力化を活かした柔軟な教育組織の改組を図ること、社会人の再教育を充実させること等によって総合的な対応を図っていくことが基本であると考えられる。
- 国として特に重点的・戦略的に推進する分野については、当該分野の人材需要見込みを的確に踏まえながら、予算の重点配分等を行うことにより、高等教育機関の自律的・自主的な努力を支援していくことが考えられる。
- 国は、各高等教育機関の行動選択の参考に供するとともに、その自律的・自主的な努力を効果的に支援するため、学問分野ごとの人材養成に関する需要や求められる人材像について、関係府省や民間シンクタンク等が保有する様々な情報を恒常的に収集・整理するなどして的確に把握し、提供する仕組みを整えるべきである。また、人材養成に関する高等教育機関側と産業界側等との対話・協議の場の設定や意欲的な取組の評価・顕彰等を通じて、社会のニーズと高等教育のマッチングを常に図る必要がある。
- その中で、地域社会のニーズに十分応えるべき分野(例えば医療・教育等)や、需要は少ないが学術・文化等の面から重要な学問分野については、国として全体的なバランスが図られるよう配慮していかねばならない。
- 医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員のいわゆる抑制5分野の取扱いについては、これらの分野ごとの人材需給見通し等の政策的要請を十分に見極めながら、抑制方針の必要性や程度について、必要に応じて個別に検討を加えていく必要がある。