4.新しい高等教育システムに向けて‐ユニバーサル・アクセスの実現に向けた施策の方向性‐
(1)将来像の実現に向けた施策の方向性
- ここでは、3.に述べたような、2015~2020年頃までを想定した我が国の高等教育の将来像(言わば「グランドデザイン」とも呼ぶべきもの)を念頭に、そこに至るまでの中期的な施策の方向性(言わば「ロードマップ」とも呼ぶべきもの)を示すこととする。
- 既に述べたように、今回の将来像の実現に向けては、
- 高等教育の全体規模、ユニバーサル・アクセス、多様な高等教育機関の機能別分化
- 高等教育の質の保証
- 主として大学院段階での高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上
- 主として学部・短大・高専・専門学校段階での高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上
- 高等教育の発展を支える財政支援及び各方面の取組
等が主要な内容として考えられるところである。以下では、これらを基本的な方向性として関連施策についての考え方を整理することとする。
(2)5つの方向性と具体的に取り組むべき施策
方向性1:誰もがいつでも学べる高等教育(ユニバーサル・アクセス)
- エリート段階→マス段階→ユニバーサル段階(大学・短大進学率50%超)への発展や高専・専門学校を加えると既に進学率が約75%に達している状況を踏まえ、各高等教育機関の個性・特色の明確化を通じた機能別分化を促進する。特に、各機関ごとのアドミッション・ポリシー(入学者選抜の改善)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の改善)、ディプロマ・ポリシー(「出口管理」の強化)の明確化を支援する。
- 各学校種ごとの個性・特色の違いを明確にし、国際的通用性の確保に留意しつつ、相互の連携・接続の円滑化を図る。
- 履修形態の弾力化を一層進めるとともに、学位以外の履修証明の方法の普及・定着を促進するなど、学習者の多様なニーズに対応した教育サービスの提供を支援する。
- 通学制・通信制の区分の在り方の検討を含め、新時代のキャンパス像の構築を目指す。
- 設置形態の枠組みを超えた高等教育機関間の連携協力による教育・研究・社会貢献機能の充実・強化を一層促進する。
- 学生に対する経済的支援のための関連施策の充実・体系化を図る。
方向性2:誰もが信頼して学べる高等教育(高等教育の質の保証)
- 事前・事後の評価の適切な役割分担と協調による質の保証を推進する。
- 大学等の設置認可における審査の内容や視点の明確化
- 認証評価の円滑な導入・発展の促進
- 国際的な質保証システムの構築への貢献
- 自己点検・評価の充実及び情報公開の一層の促進
- 認証評価以外の各種の評価活動の支援
- 評価する側の適正さの担保
- 各高等教育機関が自ら行う経営改善のための努力への支援や、経営状況の悪化した機関への対応策を構築する。
方向性3:世界最高水準の高等教育
- 助教授・助手の位置づけを含めた教員組織の見直しにより、組織的な教育活動の確保とともに若手研究者の研究活動の活性化を図る。
- 機能別分化の一貫として、世界的研究教育拠点の形成を支援する。特に、基盤的経費と競争的資源配分のバランスによるデュアル・サポートを充実する。
- 機能別分化の一貫として、各種の職能団体との連携など分野の特性に応じた設計の下での専門職大学院の創設・拡充を図る。
- 体系的な教育課程の実施による充実した大学院教育の実現を支援する。また、大学院教育の実質化のための5カ年計画を策定するなどにより、大学院における教育の課程の組織的展開の強化を図る。
方向性4:「21世紀型市民」の学習需要に応える質の高い高等教育
- 短大・高専・専門学校等の各学校種ごとの位置づけや役割を活かした多様な教育の展開を支援する。
- 学問分野ごとの人材養成に関する需要を的確に把握するとともに、人材養成に関する高等教育機関側と産業界側等との対話・協議の場の設定や意欲的な取組の評価・顕彰等を通じて、社会のニーズと高等教育のマッチングを図る。
- 「21世紀型市民」の育成を目指し、多様で質の高い学士課程教育を実現するため、学問分野ごとのコア・カリキュラムの策定等を支援する。また、「21世紀型市民」の高度な学習需要に対応する修士課程教育等を促進する。
方向性5:競争的環境の中で国公私それぞれの特色ある発展
- 高等教育への財政的支援は、競争的環境の中で高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形にシフトし、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費助成と競争的資源配分の有効な組み合わせにより、多元的できめ細やかなファンディング・システムの構築を図る。このことにより、国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担、適切な競争条件の確保を目指す。
- 国立大学運営費交付金、施設整備費補助金
- 私学助成
- 国公私を通じた競争的・重点的支援
- 競争的研究資金
- 学生支援
- 高等教育への公財政支出の抜本的拡充と民間資金の積極的導入を図る。特に、教育基本法及び教育振興基本計画の在り方の検討を見据えつつ、欧米並みの公財政支出の実現や、寄附・委託費や附属病院収入・事業収入等の自主財源確保の支援など、多様で安定的な財源の確保を図る。
- 国立大学の法人化、公立大学法人制度の創設、私立学校法改正による学校法人制度の管理運営面の改善の趣旨を生かして、国公私それぞれが、組織運営体制の充実、学長のリーダーシップの強化、学内組織の役割分担の明確化等を図れるよう支援する。
- 研究活動の中核を担う人材(Research Active Staff)、教育活動の中核を担う人材(Instructional Staff)、経営を支える人材(Management Staff)それぞれの資質向上と処遇確保を図る。
- 法務・財務、労務管理、病院経営、入学者選抜、学生生活支援、産学官連携・技術移転等の分野で活躍する専門的人材(教員とも事務職員とも別の、言わば「第3の職種」)の内部育成や外部登用を支援し、大学運営に関し、厚みのある人材層の形成を図る。