3.我が国高等教育の中長期的展望‐ユニバーサル・アクセス時代の高等教育の将来像‐

〔3‐1〕高等教育の将来像の基本的考え方

(1)高等教育の将来像の意義:高等教育計画から将来像へ

  • 本章では、中長期的視点(平成17(2005)年以降、平成27(2015)年~平成32(2020)年頃まで)で想定される我が国高等教育の全体構造に関する将来像を示すこととする。
  • 18歳人口が約120万人規模で低位安定し大学・短大進学率が50%超に達する一方で、社会人学生、外国人留学生やパートタイム学生が大幅に増加するとともに、誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる「ユニバーサル・アクセス」の時代(〔3‐2〕(1)参照)には、「18歳人口に対する進学率」の指標としての有用性は徐々に減少していくものと予想される。
  • 今後は、18歳人口の増減のみに依拠して高等教育規模を想定しつつ需給調整を図るといった、右肩上がりの成長期に採られてきた政策手法は終焉を迎え、高等教育の将来像を念頭に置きながら、各高等教育機関・学生個々人・各企業・地方公共団体等がそれぞれの行動を戦略的に選択する中で、高等教育の規模や配置等が決定され、必要に応じて将来像が見直されるというシステムへと転換することが必要となる。「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代への移行である。
  • 今回の将来像においの実現に向けては、
    1. 高等教育の全体規模、ユニバーサル・アクセスの実現、多様な高等教育機関の機能別分化
    2. 高等教育の質の保証
    3. 主として大学院段階での高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上
    4. 主として学部・短大・高専・専門学校段階での高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上
    5. 高等教育の発展を支える財政支援及び各方面の取組
    主要な内容として採り上げた考えられるところである。
    後述4,の「ロードマップ」部分では、これらを基本的な方向性として関連施策についての考え方を整理している。〔3‐2〕以下で概ねこの順序で記述していすることとする。

(2)高等教育を取り巻く環境の変化と今後の見通し

(ア)18歳人口の動向等

  • 我が国の18歳人口は平成4(1992)年度の約205万人を直近の頂点として減少期に入り、平成11(1999)年度から平成15(2003)年度は約150万人程度となっている。平成16(2004)年度は約141万人で、平成17(2005)年度からは更に減少し、平成21(2009)年度に約121万人となった後は、平成32(2020)年度までは約120万人前後の低位安定期となることが予測されている。
  • 中でも、大学及び短期大学について、平成9(1997)年1月の大学審議会答申「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」では、18歳人口の減少に伴い大学及び短期大学への入学者漸減し、平成21(2009)年度には全志願者に対する入学者の割合である収容力は100%になると試算されていた。しかし、その後の進学率の伸び悩みを考慮して同答申と同様の考え方に基づき再計算を行うと、大学・短大の収容力は2年早く平成19(2007)年には100%に達するものと予測される。
  • このような状況を背景として、大学入学者選抜を取り巻く環境も大きく変化し、私立の4年制大学のうち約3割、短大では約4割が定員割れを起こしている。中には、入学者選抜が、〔3‐3〕(1)で述べる「高等教育の質」の一環としての学生の質に関する選抜機能を十分に果たし得なくなってきている例も見られる。また、進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階での教育内容の多様化によって、大学入学者について一定の履修歴を一律に求めることは事実上困難となり、このことが大学生の学力の低下を招いているのではないかといった指摘もある。このような状況をも踏まえて、大学教育の質の確保・向上等に努める必要がある。

(イ)社会人、外国人留学生、パートタイム学生等の増大

  • 社会人学生は特に大学院で増加してきており、通学制の高等教育機関大学・短大・高専(本科)に在籍する社会人学生は合計で約3万人に達している。また、留学生数は近年急増し、高等教育機関大学・短大・高専に在籍する留学生数の合計は平成15(2003)年度に初めて10万人を超えるに至った。
  • 大学等における社会人の受入れの推進については、従来より大学審議会の累次の答申等を受けて、夜間大学院、通信制大学院及び昼夜開講制の導入等の制度改善が図られてきた。更に残された制度上の課題については、平成14(2002)年2月の答申「大学等における社会人受入れの推進方策について」において、学生が柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する長期履修学生制度や通信制博士課程等の導入について提言され、これを受けて制度的な整備が図られてきている。
  • 今後は、生涯学習の進展に対応して履修形態の多様化が更に進み、科目等履修生や聴講生等が一層増加するものと考えられる。また、一定のコースないし科目(群)を学んだ成果としての履修証明として、学位以外の方法が社会的に定着し、その取得を目的とする学習者も増加するものと予想される。

(ウ)情報通信技術の発達

  • IT技術の発展に伴い、各家庭へのブロードバンド通信が急速に普及しつつある。これまでの通信教育は郵便やテレビ放送等を利用したものがほとんどであったが、時間の融通のきかない社会人が働きながら学んでいくためには、空間的及び時間的制約を受けない環境、例えば、在宅のまま夜間に学べる環境を整えていくことが重要な課題である。このため、今後は、IT技術を利用した履修形態、いわゆるe-Learningの役割が増加していくものと思われる。ただし、e-Learningは、知識の伝達には有効な手段であるが、これのみに頼り過ぎる余り、これからの時代にますます重要な幅広い人間性や社会性の涵養が疎かになることのないよう、十分な教育上の留意が必要である。
  • 通信制による高等教育は、地理的・時間的制約による通学の困難な者に対して学習機会を提供している。放送大学については、多様なメディアの活用等による更なる充実が期待される。今後は、e-Learningの普及等、情報通信技術の飛躍的な向上を背景として、通学制と通信制の境界がより連続的なものとなり、伝統的な「キャンパス」の概念にも少なからず影響を及ぼすものと予想される。

(エ)高等教育の国際化の進展

  • 21世紀の国際社会は、社会・経済・文化のグローバル化によって国際的な競争が激しさを増す社会であり、今後、高等教育機関においても海外分校・拠点の設置、外国の教育研究機関との連携、e-Learning等を通じて国境を越えた教育の提供や研究の展開等、国際的な大学間の競争と協調・協力が進展していくものと考えられる。
  • IT技術の普及・ブロードバンド化に伴い、国内の高等教育機関だけではなく、海外の高等教育機関による、e-Learningを活用した高等教育の幅広い提供や情報発信・収集活動が一層活発化すると考えられる。このように、IT利用の普及等を背景に履修形態の多様化とともに大学高等教育の国際展開が加速すると言える。
  • 海外に目を転じてみれば、米国・英国や豪州といった英語圏の国々やドイツ等の高等教育機関が、東アジア・東南アジア各国に現地校を開設し、現地校のみの教育を受けることで居ながらにして本国の学位を得られるようにすることが盛んに行われ始めている。また、中国・韓国・マレーシア・シンガポール等アジアの国々でも、このような国際動向に積極的に対応し、外国の優れた高等教育機関を誘致し又はこれと連携するための施策を展開し始めている。これは、国内の進学率の急激な上昇に対応すること、また周辺国の教育拠点(ハブ)となることを目的としたものと思われる。我が国に関しても、海外の高等教育機関と我が国の機関が提携して、我が国における海外学位の授与や海外における我が国の学位の授与などが複数計画されており、制度的な枠組みの整備が急務となっている。
  • 以上のことは、我が国の18歳人口が減少を続ける中、各高等教育機関は国際的な競争的環境の下で個性・特色の明確化を一層進めなければならないことをも意味していると考えられる。
  • なお、国境を越えて展開される大学教育の提供による学位授与の機会を拡大するに当たっては、我が国の学位の国際的通用性の確保に十分留意することが必要である。また、我が国を含めた各国の大学制度、各大学の適格認定を含めた評価、教育内容及び学位の通用性等について判断することのできるように、国際的な大学の質の保証に関する情報ネットワークを構築することが急務である。我が国は、こうした国際的な協議に積極的に参加・貢献すべきである。
  • また、今後は、留学生の交流等も含めて、国境を越えて展開される我が国の高等教育による国際的な貢献という視点を常に念頭に置いていく必要がある。
  • 特に、学術研究分野においてアジア地域内部でのパートナーシップをどう構築していくかは、我が国の高等教育にとって大きな課題である。

〔3‐2〕高等教育の発展とユニバーサル・アクセスの実現

(1)高等教育の量的拡大

(ア)全体規模に関する考え方

  • 昭和50(1975)年度に始まり平成12(2000)年度まで続いた高等教育計画は、我が国の経済的発展を支える人材養成のため、高等教育で学ぶ若年人口の量的拡大や、第2次ベビーブームのような18歳人口の急増期における受験競争の緩和等を目的として、政策的に実施されてきた。
  • その後の、18歳人口が120万人規模まで減少していく過程では、計画的な整備目標を設定するのではなく高等教育の将来構想を示す中で、全体規模について試算を行い、平成21(2009)年度に大学・短大の収容力が100%に達することを示して、大学・短大が社会や学生の需要に対応したカリキュラム編成や指導方法の改善充実を行う必要性を指摘した。
  • 大学・学部等の設置審査に当たっては、特定の分野を除いて抑制的に対応する方針が採られてきたが、平成14(2002)年8月の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」では、大学が社会のニーズや学問の発展に柔軟に対応でき、また、大学間の自由な競争を促進するため、以後、抑制方針を(医師、歯科医師、獣医師、教員、船舶職員の5分野を除き)基本的には撤廃することとされた。
  • 米国の社会学者マーチン・トロウは、高等教育への進学率が15%を超えると高等教育はエリート段階からマス段階へ移行するとし、さらに、進学率が50%を超える高等教育をユニバーサル段階と呼んでいる。
  • 我が国の大学・短大の18歳人口を基準とした進学率は、1960年代前半に15%を超えた後急激に上昇して昭和50(1975)年度には38.4%にまで達し、高等教育のマス化が急速に進行した。その後、進学率は一時的に安定した後、平成に入ってから再び上昇して平成11(1999)年度に約49%に達した後、ここ数年はほぼ一定となってい。大学・短大の進学率が一定となってい要因は必ずしも単純ではないが、長期にわたる経済の停滞や専門学校への進学率等が影響を与えている可能性があると考えられる。
  • 専門学校を含めた進学率は、昭和61(1986)年度からほぼ一貫して増加し続けており、平成156(20034)年度には72.974.5%に達している。この意味では、我が国の高等教育は、同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階に既に突入しており、これにふさわしいものへと変革を迫られていると言うことができる。
  • こうした様々な変化を背景に、量的側面のみからすると、高等教育は万人に開かれたものとなり、誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる大多数の者が現に学ぶ高等教育の整備=「ユニバーサル・アクセスアテンダンスは既に実現しつつあると言うことができる。
  • しかし、このような「ユニバーサル・アクセス」段階の高等教育が真に内実を伴ったものとなるためには、単に量だけでなく質的側面においても、多様な学習者の需要に対して高等教育全体で適切に学習機会を提供するとともに、学生支援の充実等により学習環境を整えていくこと、即ち、誰もがいつでも自らの選択により適切に学べる機会が整備された高等教育=「ユニバーサル・アクセス」の実現要である。
  • 今後の我が国においては、個人が自己啓発を図り、より一層豊かで潤いのある人生を送ることを目指して、人々の多様な生涯学習需要は増大する傾向にあることから、「ユニバーサル・アクセス」が実現することにより、社会人が高等教育機関で学ぶ機会はますます増大していくと考えられ、この意味でも「ユニバーサル・アクセス」の実現が求められている。
  • このことはまた、「学(校)歴偏重社会」が次第に過去のものとなっていくであろうことをも意味する。
    かつて、我が国社会は「18歳のある1日に、どのような成績をとるかによって、彼の残りの人生は決まってしまう」ような学歴偏重の社会であるとOECD教育調査団(昭和45(1970)年)によって分析されたことがあった。今日では、実社会において、人生の比較的早い段階での学歴・学校歴のみでその人の将来の社会的な処遇が決定されるといったことがないことは明らかと言ってよい。しかし、依然として人々の意識の上では学歴偏重の考え方も根強く、意識と現実との乖離を解消する努力がなお必要である。
  • 職業生活の上でも、産業構造の変化や雇用の急速な流動化を背景とした昨今の社会人の大学院での学習需要の高まりを見ると、職場での肩書きや専門的資格のみに依拠するのでなく、自己を知的にリフレッシュして付加価値を高めるという意識が急速に社会全体に根づき始めたようにも見える。今後は、社会人が必要に応じて高等教育機関で学習を行い、その成果をもって更に活躍する、高等教育機関と実社会との「往復型社会」への転換が加速するものと予測される。
  • また、男女共同参画や少子高齢化の一層の進展等に伴い、女性や高齢者が就労する機会も一層増大することが予想される。高等教育機関は、人々の幅広い知的探求心や学習需要に応えて、必要なときにいつでも学習しやすい環境と多様なメニューを提供することがますます求められる。

(イ)地域配置に関する考え方

  • 平成14(2002)年8月の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」までは、首都圏・近畿圏・中部圏における工業(場)等制限区域・準制限区域内の大学の設置等については抑制的に取り扱われてきていたが、大都市部における大学の自由な発展を阻害している等の批判があり、同年7月に工業(場)等制限法も廃止されたことを踏まえ、抑制方針は撤廃されている。
  • 大都市部における設置認可の抑制方針を撤廃したことにより、大都市部における過当競争や地域間格差の拡大によって教育条件の低下やアクセスに関する格差の増大等を招くことのないよう、例えば、各大学における適正な定員管理に一層留意する等の方策を検討する必要がある。
  • 地域配置に関しては、人材の流動性や遠隔教育の普及等の要素も考慮することが必要である。また、地方における高等教育機関は、教育サービスの提供の面だけでなく、地域社会の知識・文化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。
  • 地方における高等教育の支援や地域振興に資するため、高等教育機関相互のコンソーシアム形成支援や高等教育機関を核とした知的クラスターの形成支援を充実することが考えられる。

(ウ)今後の人材養成に関する考え方

  • 今後の様々な人材需要に対しては、幅広い基礎的な教育を充実すること、国立大学の法人化、公立大学法人制度の創設や設置認可の弾力化を活かした柔軟な教育組織の改組を図ること、社会人の再教育を充実させること等により対応することが基本であると考えられる。
  • 国として特に重点的・戦略的に推進する分野については、当該分野の人材需要見込みを的確に踏まえながら、予算等の重点配分を行うことにより、高等教育機関の自律的・自主的な努力を支援していくことが考えられる。
  • その中で、地域社会のニーズに十分応えるべき分野(例えば医療・教育等)や、需要は少ないが学術・文化等の面から重要な学問分野については、国として全体的なバランスが図られるよう配慮していかねばならない。
  • 医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員のいわゆる抑制5分野の取扱いについては、これらの分野ごとの人材需給見通し等の政策的要請を十分に見極めながら、抑制方針の必要性や程度について引き続き、必要に応じて個別に検討するを加えていく必要がある。

(2)高等教育の多様な機能と高等教育機関の機能別分化

(ア)高等教育が果たすべき多様な機能

  • 戦後の我が国における高等教育の急速な拡大により、量的側面での「ユニバーサル・アクセスアテンダンス」は実現しつつある。しかし、人的物的資源が必ずしも十分でないままでの急拡大が質的充実を伴ってきたとは言い難い。また、18歳人口が低位安定期を迎える中では、個性に乏しい数多くの高等教育機関が単一の市場(18~21歳の日本人フルタイム学生=「伝統的学生」の獲得)を巡って競争するという状況は、社会全体としての効率性に欠ける面が大きい。新時代の高等教育には、全体として多様化するとともに、学習者の様々な需要に的確に対応(複数の市場を開拓)して個々の高等教育機関が自らの資源を重点的に投入し質的な向上を図ることによって、質的側面で「ユニバーサル・アクセス」を実現することが求められている。
  • 近年、教育内容の改善や充実を図って様々な改革が続いている。この結果、多様化が進む中で大学とは何かといった本質や、高等教育機関間の個性・特色の違いが不明確になってきているとの指摘がある。ユニバーサル段階の高等教育は、各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。
  • 大学・短期大学・高等専門学校・専門学校等が、各学校種ごとに、それぞれの位置づけや役割を活かした教育を展開するとともに、各学校種の中においても、各高等教育機関が個性・特色を明確化することが重要である。
  • また、高等教育機関間の連携協力による各機能の補完や充実強化も、必ずしも設置形態の枠組みには捉われずに促進されるものと考えられる。
    例えば、地域の大学間の連携によるコンソーシアム方式での単位互換制度 の充実や、学問分野を超えた融合領域形成のための大学院間の連携等が考えられる。
  • 高等教育機関のうち、大学は、全体として
    1. 世界的研究・教育拠点
    2. 高度専門職業人養成
    3. 幅広い職業人養成
    4. 総合的教養教育
    5. 特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育研究
    6. 地域の生涯学習機会の拠点
    7. 社会貢献機能(地域貢献、産官学連携等)
    等の各種の機能を併有する。各々の大学は、自らの選択に基づき、これらの機能の全てではなく一部分のみを保有するのが通例であり、複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なるし、時宜に応じて可変的でもある。その比重の置き方が即ち各大学の個性・特色の表れとなる。各大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(=大学の判断選択に基づく個性・特色の表れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。
  • 例えば、1や2の機能に特化して大学院の博士課程や専門職学位課程に重点を置く大学もあれば、4の機能に特化してリベラル・アーツ・カレッジ型を目指す大学もある。こうした大学全体としての多様性の中で、個々の大学が限られた資源を集中的効果的に投入することにより、個性・特色の明確化が図られるべきである。
  • どのような学生を受け入れて、どのような教育を行い、どのような人材として社会に送り出すかは、その大学の個性・特色の根幹をなすものであるこ とから、各大学は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、入学志願者や社会に対して明示するとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、実際の選抜方法や出題内容等に適切に反映していく必要がある。また、国内外の環境の変化や激しい競争にさらされる大学が、このような努力を通じて、次の世代を担う者に対し、各人が学んでおくべき内容を示すという機能を果たすことも期待される。
    加えて、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)についても、各大学が明確にすることで、教育課程の改善やいわゆる「出口管理」の強化を図っていくことが期待される。

(イ)様々な学習機会全体の中での高等教育の位置づけ

1.初等中等教育との接続等
  • 初等中等教育は、「ゆとり」の中で「生きる力」(確かな学力、豊かな人間性、健康・体力)を育む教育を推進しており、生涯にわたって学ぶことのできる自己教育力や基礎基本、個に応じた指導等を重視する流れにある。
  • 高等教育はその性質上、また、国際的な標準での質の保証が今後の課題となっていることからも、一定の水準を確保することが強く要請される。まして、産業界をはじめ実社会の人材需要は「独創性」「即戦力」「基礎学力」等多様化・高度化・多様化の一途をたどっており、人生選択・職業選択の機会が年齢的に高くなる傾向の中で、高等教育を受けることによる付加価値の程度がますます注目され、高等教育段階での教育機能の重要性が指摘されている。
  • こうした中で今後の高等教育像を考える際には、初等中等教育との接続にも十分留意する必要がある。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
  • 初等中等教育との関連では、高等教育が初等中等教育を基礎として成り立つものであると同時に、高等教育が初等中等教育の学校教員の養成機能を担っているという点も極めて重要である。教員養成を担当する大学教員の確保や資質向上を含め、より良い教員養成の在り方について、今後とも検討していく必要がある。
  •  今後の高等教育においては、初等中等教育を基礎として、「主体的に変化に対応し、自ら将来の課題を探求し、その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力」(=課題探求能力)の育成が重視されよう。中でも、後述のように、学士課程教育では教養教育及び専門分野の基礎・基本を重視し専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力等を培うこと、修士・博士・専門職学位課程では専門性の一層の向上を目指した教育を行うことを基本として考えることが重要となろう。
  • またさらに、我が国の高等教育はユニバーサル段階を迎えることから、特に(ア)の3、4、6の機能に重点を置く大学にあっては、例えば、充実したリメディアル(補習)教育の実施や、就職や他大学の学士・修士・専門職学位課程等への円滑な進学・編入学を特色とすることも考えられる。
2.生涯学習・社会教育との関連(含リカレント教育)
  • 「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」ような生涯学習社会を構築するためには、各種の主体により多様な学習機会が豊富に提供されなければならない。そのうちで、質的に高度で体系的かつ継続的な学習機会の提供者として、大学等の高等教育機関が重要な役割を果たすことが期待される。
  • 生涯学習体系への移行、多様な高等教育機関の発展等の観点から、いわゆる単位累積加算制度(複数の高等教育機関で随時修得した単位を累積して加算し、一定の要件を満たした場合、大学卒業の資格を認定して学士の学位を授与する制度)を設けることについて、学位授与にふさわしい履修の体系性の確保等に留意しつつ、更に検討する必要がある。
  • 社会人の再学習需要の高まりや経済情勢・雇用形態の変化を踏まえ、企業等におけるキャリア・パス形成との関連に留意しながら、特に修士・博士・専門職学位課程でのリカレント教育に対応した履修形態等について、更に検討する必要がある。
  • 我が国における短期高等教育の位置づけについて、ユニバーサル段階での新たな意義・役割や単位累積加算制度の検討との関連等に留意しつつ、明確化する必要がある。

(ウ)個性・特色ある大学の機能別分化

  • 18歳人口の約120万人規模での低位安定期にあって、各大学は教育研究組織としての経営戦略を明確化していく必要性がある。このとき、
    • 各大学は、「機能別分化」を念頭に、他大学とは異なる個性・特色の明確化を目指すこと。
    • 国や地方公共団体等は、各大学が重点を置く機能を自主的に選択できるように配慮しながら、財政面等で支援すること。
  • 等の点に注意しなければならない。
  • 日本の大学について、米国のカーネギー教育振興財団が行っている大学分類のように授与する学位の種類や量に応じて大学を分類することも、現状認識の一つの方法として可能である。自らの理念・目標や大学院の有無・規模等の違いに応じて、このようこうした様々な分類の中からを参考としつつ、重点を置くタイプを大学が自ら選んでいく必要がある。このような努力は、各大学が志向する方向を明確にして発展を図っていることの表れでもあると考えられ、国としても、「個性が輝く大学」を推進するため各大学の努力を支援していくことが重要である。
  • 一方、例えば教養教育といった、大学として最低限求められる共通の要素や学位を授与される学生が最低限身につけるべき分野別に共通の要素等についての考え方を整理する必要もあり、引き続き検討する。

〔3‐3〕高等教育の質の保証

(1)保証されるべき「高等教育の質」

  • 事前規制から事後チェックへという流れの中、大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化、特に一定の組織改編が届出で可能となったことを主な契機として、多様な大学等が設置されるにつれて、国際的通用性・信用性の確保や学習者保護の観点から高等教育の質の保証が課題となる。
  • 競争的環境の中での各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層進む中にあっては、学習者や社会の信頼を保持する上でも、情報の開示を含めた高等教育の質の保証の仕組みは重要であり、国としての基本的な責務である。
  • 本来、保証されるべき「高等教育の質」とは、教育課程の内容・水準、学生の質、大学教員の質、研究者の質、教育・研究環境の整備状況、管理運営方式等の総体を指すものと考えられる。したがって、高等教育の質の保証は、行政機関による設置審査や評価機関による大学評価のみならず、カリキュラムの策定、大学入学者選抜、大学教員や研究者の養成・処遇、各種の財政支援、教育・研究活動や組織運営の状況に関する情報開示等の全ての活動を通して実現されるべきものである。
  • 以下では、主に高等教育サービスの質に着目して質の保証を考えることとする。

(2)設置認可の重要性と的確な運用

(ア)事前・事後の評価の適切なバランス役割分担と協調による質の保証

  • 高等教育の質の保証は事後評価のみでは十分ではなく、事後評価までの情報の時間的懸隔に伴う大学選択のリスクを学習者の自己責任にのみ帰するのは適切でない。いわゆる「ディグリー・ミル(またはディプロマ・ミル)」、即ち、学費の対価として安易に学位を取得させる非正統的な教育機関の出現を抑止して学習者保護を図るための方策として、一定程度の事前評価は必要である。
  • サービスという観点から見た場合には、学校教育の機能には、一般性と特殊性がある。特殊性とは、情報の非対称性、利用者が「学生」であること、単なる知識・技能の取得とは異なる(師弟関係や友人関係を含めた)学習環境の必要性、サービス享受後の効果に永続性があること、サービスの提供とその効果の検証に一定期間を要すること等を指す。
    学校教育が一般的にはサービスとしての市場性を有することに留意しつつも、「高等教育の質」に関しては、市場万能主義に依拠するのでなく、教育サービスの質そのものを保証する観点を重視していく必要がある。
  • 高等教育の質の保証の一環としての事前・事後の評価の関係については、双方の適切なバランス役割分担と協調を確保することが重要である。特に、一定程度の事前評価は必要であるとの観点から、設置認可制度について、我が国の高等教育の質の保証の仕組み全体の中での位置づけを一層明確化し、的確に運用すべきである。また、事後評価に関しては、速やかに認証評価のシステムを整え、十分効果的なものとなるよう発展させていくべきである。

(イ)設置認可制度及び設置基準の性格・役割

  • 大学等の設置認可制度の位置づけを明確化するに当たっては、審査の内容や視点等について、更に検討を深める必要がある。例えば、大学教員の質を審査することは極めて重要である。社会の需要に的確に対応した、大学に求められる学問的水準の教育・研究活動を担う個々の大学教員の資質及び教員組織全体のバランスが、「大学とは何か」という(、長い歴史の中で経験と叡智に基づき国際的に概ね共通に形成されてきた概念についての)根本的な問題意識との関連で十分に点検・確認される必要がある。実効性ある審査のためには、「専任教員」や「実務家教員」の意義や必要とされる資質・能力等について、更に具体化・明確化する努力が必要である。また、大学が個々の教員の資質の確保・向上のために講ずる組織的な方策についても、引き続き、何らかの形で点検・確認されることが望ましい。
  • 現行の大学設置基準等の規定は定性的・抽象的なものが多く、設置審査の具体的な判断指針としては必ずしも有効に機能しにくい面がある。今後は、設置基準の性格を設置後の評価活動とも連携させたものとして捉え直していくとともに、時代の変化に常に対応した基準となるよう不断の見直しを行っていく必要がある。
  • なお、規制改革の一環として、設置認可については届出制の導入等の大幅な弾力化が逐次進められており、大学等の参入や組織改編は大きく促進されている。今後は、これらの制度改正の効果等を十分に見きわめつつ、教育の質の国際的通用性や学習者保護の観点から適切に対応する必要がある。

(3)自己点検・評価の充実

  • 高等教育の教育・研究水準の維持・向上を図るための評価としては、各高等教育機関が不断に教育・研究活動等の状況について自己点検・評価を行い、結果を公表するとともに改善に向けて努力することが基本である。
  • 特に、自己点検・評価結果の公表に当たって、各大学が自ら重点を置く機能及びその機能に関わる具体的な教育・研究上の目標を明示し、目標の達成度や達成の可能性について検証することが望ましい。

(4)認証評価制度の発展

(ア)機関別、専門職大学院評価及び分野別評価

  • 認証評価制度は、事後チェックの中核として極めて重要であり、高等教育の質の維持・向上のため、社会に早期に定着し活用されることが望ましい。
  • 事後チェックに関しては、機関別評価と専門職大学院評価のみでなく分野別評価についても積極的に採り入れられることが期待される。その際、分野の特性に応じて学協会等関係団体の参画・協力を得ることも考えられる。また、教育に関する分野別評価に関連して、他の参考となるべき特色ある取組を促進する方策について検討すべきである。
  • 評価結果に関する情報については、適時適切に社会や学習者に提供されるなど、高等教育の質の維持・向上のために活用されることが望ましい。

(イ)評価団体の評価方策

  • 認証評価制度をはじめとした大学評価の仕組みが社会に定着して活用されるに伴い、評価する側の適正さを担保するための仕組みを整えることがより重要となろう。今後、十分に検討する必要がある。

(5)評価と教職員個々人の資質・能力の向上

  • 高等教育の質の保証を考える上では、大学教員個々人の教育研究能力の向上や事務職員・技術職員等を含めた管理運営や教育研究支援の充実を図ることも極めて重要である。大学評価とファカルティ・ディベロップメント(FD)やスタッフ・ディベロップメント(SD)との連携方策等についても今後更に検討を深める必要がある。

(6)教育内容・方法、財務状況等に関する情報の開示

  • 教育内容・方法、財務状況等に関する情報や設置審査の過程(それは、申請者と大学設置・学校法人審議会との「対話」を通じて、相応の時間をかけて、設置構想の実現可能性や信頼性を確保し、その内容を充実させる手続きである。)を通して明らかとなった課題や情報を当該機関が積極的に学習者に提供するなど、社会に対する説明責任を果たし、当該機関自身による質の保証に努めていくことが期待される。
  • 具体的には、例えば、インターネット等を活用して、自らが選択する機能や果たすべき社会的使命、社会に対する「約束」とも言える設置認可申請書や学部・学科等の設置届出書、学則等の基本的な情報を開示することが求められる。
  • また、当該機関による情報開示だけでなく外部からの評価も併せて提供されることが学習者の便宜のために重要であり、認証評価機関による機関別評価に加え、分野別の評価が定期的に実施されることが望ましい。

(7)経営状況の悪化した高等教育機関への対応

  • 社会・経済情勢の変化に伴い、高等教育機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しつつある。各機関は、長期的な18歳人口の減少を見据えつつ、自ら経営努力を行うことがますます求められる。
  • 各高等教育機関の経営改善を支援するため、国による指導・助言体制や関係機関による財務分析・経営診断体制の整備を一層図る必要がある。
  • 今後、少子化の影響やこれらの評価等の結果により、学生数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、様々な手立てを講じてもなお経営が好転せず、学校としての存続自体が不可能となることもあり得る。そのような際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのために関係機関の協力体制を作っておくことが必要である。

〔3‐4〕高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上

(1)各高等教育機関の在り方

(ア)大学

1.大学の公共性と自律性
  • 大学は、学術の中心として深く真理を探求し専門の学芸を教授研究することを本質とするものであり、その活動を十全に保障するため、伝統的に一定の自主性・自律性が承認されていることが基本的な特質である。また、このような大学における教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として授与されるものが学位である。
  • 大学は、学術研究の推進や高度な人材の養成を通じて歴史的普遍性や国際性を志向するものであるとともに、時間的場所的な諸条件を限定された一個の社会的な存在でもある。したがって、大学についてはその自主性の尊重が本質的要請であると同時に、大学には自律的に時代や社会の期待に応えていく姿勢が求められる。
  • 社会が発展していくためには、その基盤として、新しい知識を創造するとともに高度に活用する高い専門性を持った人材を育成することが不可欠である。人類の長い経験と叡智の中で、これを最も良く担う社会的な存在として確立されてきたものが大学に他ならない。大学は、社会と関連性を保ちつつも一定の距離を置いた自主的・自律的な存在として、教育と学術研究を通じて社会全体の共通基盤の形成に寄与してきたのである。
    今後の知識基盤社会において、我が国が伝統的な文化を継承しつつ国際的な競争力を持って持続的に発展するためには、社会全体の共通基盤を形成するという大学の公共的役割が極めて重要である。
  • 知識基盤社会においては、新しい知識・技術・情報を活用する専門性とともに幅広い素養を身につけて積極的に社会を支える人材も広く求められる。このような人材は、大学のみならず高等専門学校、専門学校、更には企業内教育等の社会教育においても育成することが期待される。しかし、こうした多様な機関による人材育成は、社会全体の共通基盤の形成という大学の役割を土台としてこそ最も効果的に行われるものであり、社会にとっての大学の重要性を一層高めるものと考えられる。
2.学位と課程
  • 学位は、大学教育又は大学院教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として、学術の中心として自律的に高度の教育研究を行う大学が授与するものという原則は、国際的にも定着している。
  • このため、学位に関する検討を行うに当たっては、学位が国際的通用性のある大学教育修了者相当の能力証明として発展してきた経緯を踏まえ、課程を修了したことを表す適切な名称の在り方、他の学位との相互関係等を踏まえて審議していく必要がある。例えば、博士の学位は独立した研究者としての基礎的な能力証明を意味するものとして授与されるべきとの考え方もある。
  • 現行法令上、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要があるのではないか。
3.学士課程
《学士課程の多様性》
  • 社会が複雑かつ急激な変化を遂げる中で、各大学には、幅広い視野から物事を捉え、高い倫理性に裏打ちされた的確な判断を下すことができる人材の育成が一層強く期待されている。各大学には、大学における「教養教育」や「専門教育」等の在り方を総合的に見直し、再構築することが強く求められる。
  • 学士課程段階での教育には「教養教育」や「専門基礎教育」等の役割が期待される一方で、職業教育志向もかなり強い。したがって、今後の学士課程教育は、「21世紀型市民」の育成を共通の目標として念頭に置きつつ、教育の具体的な方法論としては、様々な個性・特色を持つものに分化していくものと考えられる。例えば、学士課程段階では「21世紀型市民」の育成を目指し、教養教育と専門基礎教育を中心として主専攻・副専攻の組み合わせを基本としつつ、専門教育は修士・博士課程や専門職学位課程の段階で完成させるもの(言わば「総合的教養教育型」)や、学問分野の特性に応じて学士課程段階で専門教育を完成させるもの(言わば「専門教育完成型」)等、多様で質の高い教育を展開することが期待される。
  • 大学(学士課程段階)への進学率の上昇や高等学校教育の多様化等に伴い、入学者の能力・適性や志向も多様化してきていること、また、伝統的学生のみならず社会人学生や外国人留学生が増加していること等を踏まえ、学士課程・短期大学の課程等の大学教育は、全体として一層の多様性を確保し、誰もがアクセスしやすい高等教育システムを構築することが求められている。
《教養教育》
  • 新たに構築されるべき「教養教育」は、学生に、グローバル化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を与えるものでなければならない。各大学は、理系・文系、人文・社会・自然といった、かつての一般教育のような従来型の縦割りの学問分野による知識伝達型の教育や単なる入門教育ではなく、専門分野の枠を超えて共通に求められる知識や思考法等の知的な技法の獲得や、人間としての在り方や生き方に関する深い洞察、現実を正しく理解する力の涵養に努めることが期待される。
  • このような観点から、教養教育に携わる教員には高い力量が求められる。加えて、教員は教育のプロとしての自覚を持ち、絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要がある。入門段階の学生にも高度な知識を分かりやすく興味深い形で提供したり、学問を追究する姿勢や生き方を語ったりするなど、学生の学ぶ意欲や目的意識を刺激することも求められる。
《専門教育》
  • 職業的素養に関わる専門教育については、専門職大学院制度ができたことの発足を契機として、学士課程段階を中心に完成させるものと修士課程・専門職学位課程段階を中心に完成させるものを、学問分野の特性や各種職業資格との関連に応じて具体的に仕分けして考えていく必要がある。
《カリキュラム、単位、年限》
  • 学士課程は、基本的役割として、伝統的学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培う機能を担っており、内容の充実した教養教育や専門教育を行うことが不可欠である。そこで、学士課程教育の充実のため、学問分野ごとにコア・カリキュラムが作成されることが望ましい。また、このコア・カリキュラムの実施状況は、機関別・分野別の大学評価と有機的に結びつけられることが期待される。
  • 単位の考え方について、基準上と実態上の違い、単位制度の実質化(単位制度の趣旨に沿った十分な学習量の確保)や学修時間の考え方と修業年限の問題等を改めて整理した上で、課程中心の制度設計をする必要がある。
  • 学士課程教育の修業年限については、国際的通用性の確保や単位制度の実質化等に十分留意しつつ、検討していく必要があるのではないか。従前通り学士課程を4年かけて卒業する経路のほか、修士・博士・専門職学位課程との関係では、学習経路が多様化するものと考えられる。この場合、特に〔3‐2〕(2)(ア)で1、2の機能を重視する大学が学士課程教育を総合的教養教育型にする場合においては、学士課程3年修了による大学院進学を積極的に活用することが考えられる。
    また、専門教育完成型においては、4~6年の間で分野の特性に応じて修業年限が定められる。
《教員組織》【P】
  • 大学における教員組織の在り方の見直しは、1.大学等の特色に応じた教育・研究の活性化や2.若手教員の育成を行っていく上でも極めて重要な課題であり、助教授・助手の位置づけの見直しを含めて、引き続き検討する。
  •  見直しの具体的な観点としては、
    • 助手のうち、独自の柔軟な発想に基づく教育・研究を主たる職務とする若手教員については、その職務に相応する位置づけを行うこと、
    • 助教授についても、その実態に相応する位置づけを行うこと、
    • 教育・研究活動の効果的な実施や責任の所在の明確化を図ること、
    • 国際的通用性や人事の流動性を確保すること、
    • 各大学が自主性・自律性を発揮し、多様な教員組織の在り方を可能にすること、
     等が考えられる。
  •  特に、4.で述べる大学院のスクール化との関連においても、修士・博士・専門職学位課程での教育課程の実施や研究指導を担うことのできる若手教員を多数養成・確保することが急務であることに留意する必要がある。
《就職活動》
  • 企業採用に向けた就職活動は、大学と産業界の連携の下、学士課程教育に実質的に支障のないよう配慮が必要である。さらに、修了・卒業直後の1年間での様々な活動体験や短期在外経験等を重視することも期待される。
4.大学院(修士・博士・専門職学位課程共通)【P】
  • 大学院教育は、学士課程の教養教育に十分な裏打ちを持つ専門的素養の上に立ち、専門性の一層の向上を図るための、深い知的学識を涵養する教育を行うことが基本である。
  • 我が国の課程制大学院制度の趣旨を踏まえて、特に人材養成機能の面で、それぞれの課程の目的・役割を明確にした上で、大学院における教育の課程の組織的展開の強化(大学院教育の実質化)を検討する必要がある。
  • このため、学士課程教育との適切な役割分担、学生・教員の流動性の向上、教員の教育・研究指導能力の向上等について、学問分野別に、今後、具体的に検討を深化させる必要がある。
  • 大学院教育の実質化のための重要課題としては、以下のとおり。
《基本的な課題》
  • a)人材養成の観点からの各大学院(課程)の機能の明確化
  • b)大学院教育と学士課程教育、大学院以外の専門教育との関係の明確化
  • c)大学院教育の実質化のための大学院組織の在り方
《特に分野別検討が必要と考えられる課題》
  • d)課程制大学院の趣旨に沿った教育課程や研究指導体制の確立(言わば 大学院の「スクール」化)
    • 教員の教育・研究指導能力の向上のための方策
    • 社会のニーズと大学院教育のマッチングのための方策
    • 今後の研究者・技術者等として必要な高度な素養の涵養の在り方
    • 教員・学生の流動性の拡大のための方策
    • 社会のニーズと大学院教育のマッチングのための方策
  • e)研究者/大学教員養成機能の充実
    • 博士課程における体系的な教育課程の確立
    • 大学院の研究機能の強化(施設・設備など)
    • 学生に対する経済的支援方策
    • 大学院修了者のキャリアパスの多様化の促進方策
  • f)実効性ある大学院評価の確立
  • 現在、これらの課題について検討を深めるため、大学院部会の下に人社系・理工農系・医療系の各ワーキング・グループを設置し、審議を行っているところである。
  • これら検討の成果を踏まえ、世界最高水準の質を誇る大学院教育の充実を図る観点から、国は、大学院教育の実質化のための5カ年計画を設定する等、集中的な取組期間を設け、大学の自主的かつ意欲的な計画に積極的な支援を行っていくことも一案である。
  • 1.近年の学問分野の学際化・融合化や、2.幅広い知識と柔軟な思考能力を持つ人材等の、社会において求められる人材の多様な要請等に対応する手段として、主専攻・副専攻制(主専攻分野以外の分野の授業科目を体系的に履修させる組織的な取組)やジョイントディグリー(一定期間で複数の学位を取得できる履修形態)は有効な方策と考えられる。
5.修士課程
  • 修士課程は、1. 研究者等養成(の第1段階)、2. 高度専門職業人養成、3.我が国の知識基盤社会を支える「21世紀型市民」の高度な学習需要への対応の三つの機能を担う。各大学院においては、教育目標など課程の目的・役割を明確化し、体系的な教育課程を編成する必要がある。
  • これらの機能を担うために必要な教育としては、例えば、
    • グローバル化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を与える教育を基本とし、課題に対する柔軟な思考能力と深い洞察に基づく主体的な行動力を兼ね備えるための高度な素養を涵養する教育
    • 1.学生の知的好奇心などに応えた多様かつ豊富な教育プログラムにより幅広い視点を培う教育、又は、2.論文作成を基本とした教育の他に、養成すべき人材を念頭に関連する分野の知識・能力を修得する教育など、学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修するコースワークを重視した教育
    等が重要である。
6.博士課程
  • 博士課程は、創造性豊かな優れた研究・開発能力を持ち、産学官を通じたあらゆる研究・教育機関の中核を担う研究者等/確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員を養成する課程として、明確な役割を担うことが適当であり、体系的な教育課程を編成する必要がある。
  • これらの人材の養成に必要な教育としては、例えば、
    • 顕著な研究業績を性急に求めるような教育ではなく、自立して研究活動を行う能力の基礎を培う教育
    • 海外、企業での研究経験など、多様な研究活動の場を通じて研鑽を積む教育
    • 学生同士が切磋琢磨する環境の中で、自ら研究課題を設定し研究活動を実施すること等の学生の創造力・自律力を磨く教育
    • 高度な研究開発プロジェクトの企画・管理等のマネジメントを行える人材を養成するために、学生に一定の責任と権限を与え、プロジェクトのマネジメント能力を高める教育
    • 加えて、大学教員を目指す学生に対しては、学生に対する教育方法の在り方を学ぶ教育
    等が考えられる。
  • 今後の知識基盤社会にあっては、博士号取得者が、高度な専門的知見や分析能力を生かして、研究・教育機関ばかりでなく企業経営、ジャーナリズム、行政機関、国際機関等の多様な場で中核的人材として活躍することが期待される。大学では博士号取得者のキャリアパスの多様化に応える工夫が求められると同時に、これらの人材を受け入れる社会全体での積極的な取組が不可欠である。
7.専門職学位課程
  • 専門職学位課程は、法曹・MBA・MOT(技術経営)・公共政策・教員養成等をはじめ、国際的に通用する高度で専門的な知識・能力が必要とされる多様な分野での創設・拡充が期待される。理論と実務を架橋する実践的教育や職業的倫理の涵養が充実され、社会人等多様な学生を受け入れて各種の高度専門職業人が養成されることを通じて、社会全体の流動性の向上と活性化に大きく貢献することが期待される。
  • 専門職学位課程は、幅広い分野の学士課程の修了者や社会人を対象として、特定の高度専門職業人の養成に特化して、国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養する課程として、明確な役割を担うことが適当である。
  • 他方で、専門職大学院制度の創設により、大学院教育と専門学校教育との関係が曖昧になっているとの指摘がある。
    • 専門学校は、実際的な知識・技術等を習得するための実践的な職業教育・専門技術教育機関として定着。
    • 専門職学位課程における教育は、大学の学士課程段階の幅広い教養教育等を基礎として、特に「理論と実務の架橋」を重視し、高度の専門性が求められる特定の職業を担うための知識・能力を高い学問的水準において養うもの。
    専門職大学院及び専門学校は、この目的・役割の違いに十分留意しつつ、それぞれの特色を活かし、共に社会が求める人材を養成する機関として一層発展していくことが期待される。
  • 高度専門職業人の養成に必要な教育としては、例えば、
    • 「理論と実務の架橋」を目指すための、産業・経済社会等の各分野で世界の最前線に立つ実務家教員を含めてバランスの取れた教員構成の下での国際的な水準の高度で実践的・継続的な教育
    • 単位認定を前提とした長時間のインターンシップにより、学問と実践を組み合わせた教育
    • 特定の職業的専門領域における職業的倫理を涵養する教育
    • 高度専門職業人として求められる表現能力や交渉能力を磨く教育
    等が重要である。
8.短期大学の課程【P】
  • 18歳人口の減少や女子の4年制大学志向の高まりなど、短期大学を取り巻く社会や時代の変化の中で、短期大学は他の高等教育機関と異なる個性・特色の明確化に一層努める必要がある。
  • 従来から、短期大学の課程の機能としては、1.教養教育と実務教育が結合した専門的職業教育、2.より豊かな社会生活の実現を視野に入れた教養教育、3.地域社会と密着しながら社会人や高齢者などを含む幅広い年齢層に対応した多様な生涯学習機会の提供等が挙げられてきた。昨今の各種職業資格の高度化の動向を勘案すれば、1と2の機能は事実上一体化(教養教育機能)しており、3の機能(生涯学習機能)も引き続き挙げられる状況にあると考えられる。
  • 短期大学の課程の教養教育機能は、ユニバーサル段階の身近な高等教育の一つとして、また、米国のコミュニティ・カレッジのように地域と連携協力して多様な学習機会を提供する生涯学習機能は、知識基盤社会での土台づくりとして、それぞれ新時代にふさわしい位置づけがなされるよう、積極的な短期大学の課程の教育の改革が期待される。
  • 学位取得のための教育と技能・資格取得のための教育の性格の違いを内容面から特徴づけるのは教養教育であり、短期大学における教養教育は、4年制大学の学士課程における教養教育と同様に、自己の人間としての在り方・生き方に関わる教育であると考えられる。短期大学の課程の教育上の特色は、こうした「大学における教養教育」を幅広い学習需要に的確に対応したアクセスしやすい形で提供する点にあると考えられる。
  • また、短期大学を含めた大学における実務教育・職業教育は、教養教育の基礎の上に立ち、理論的背景を持った分析的・批判的見地からのものである点で、他の機関により提供される実務教育・職業教育とは異なる特徴があるものと考えられる。短期大学関係者は、4年制大学の学士課程に準ずる実質を備えた短期大学の課程の教育上のこうした特徴を一層明確化するよう、教育の充実に不断の努力を傾注する必要がある。
  • 短期大学は、今後とも、教育内容・方法や経営状態に関する積極的な情報開示や充実した事後評価の仕組みの確立等による社会的信頼・評価の確保に努める必要がある。
  • 以上の点を踏まえつつ、短期大学における教育の課程修了を制度上の学位(例えば「短期大学士」)に結びつけることについて、国際的通用性にも十分留意しつつ、検討すべきである。

(イ)高等専門学校【P】

  • 高等専門学校は、5年一貫の実践的・創造的技術者等の養成という教育目的や、早期からの体験重視型の専門教育等の特色を、大学の学士課程教育や短期大学の課程の教育との対比で一層明確にしつつ、今後とも応用力に富んだ実践的・創造的技術者等を養成する教育機関として重要な役割を果たすことが期待される。
  • 高等専門学校卒業後に専攻科や大学へ進学・編入学する学生の増加を踏まえると、教育内容や履修指導等も含めて他の高等教育機関への円滑な接続にも配慮する必要がある。一方で、高等専門学校の役割や位置づけが相対化し、早期からの体験重視型の専門教育による実践的・創造的技術者等の養成という本来の個性・特色が不明確になることのないよう留意することも重要である。
  • 大学の1単位45時間という規定に対し、高専は30時間と規定されており、高専の4・5年生は編入学・留学先の大学に単位数の3分の2しか認められないという実態もある。高等専門学校教育の実態を踏まえつつ、例えば、高等学校教育に相応する1・2・3年と大学教育に相応する4・5年とで(又または一般科目と専門科目とで分けて考えるなど)単位の在り方を分けて考える等計算方法方策改善について、検討する必要がある。
  • 国立高等専門学校の法人化など高等専門学校を取り巻く状況の変化、今後の高等専門学校の管理運営の具体的な在り方や高等専門学校の基本的方向性を踏まえ、名称を含めた社会的認識の改善の問題や専攻科の役割等については、引き続き検討する必要がある。

(ウ)専門学校【P】

  • 職業教育をキーワードとした教育体系の中で、専門学校の中核的な役割や位置づけを明確にする必要がある。
  • 知識・技術等の高度化や専門特化した技術者養成等のため、修業年限の長期化・多様化に伴い、専門学校の高等教育機関としての性格も短期から長期まで様々なものに拡大してきている。一方で、大学の学士課程教育や短期大学の課程の教育との対比で、社会的要請に応えて実際的な知識・技術等を習得した人間性豊かな人材を育成するため、実践的な職業教育・専門技術教育機関としての専門学校の性格を明確化し、その機能を充実することが期待される。
  • 専門士の称号所持者や大学等卒業者が入学する例の増加等を踏まえ、高度な職業教育機関としての役割を担う専門学校は、今後、一層の個性化・多様化を進める必要がある。
  • 専門学校は、今後、教育内容・方法や経営状態に関する積極的な情報開示や充実した事後評価の仕組みの確立による社会的信頼・評価の確保に努める必要がある。
  • 専門学校と大学との連携・接続の更なる円滑化を図る必要がある。その一環として、以上の点を踏まえつつ、専門学校のうち一定の要件(例えば、1.修業年限4年以上、2.修業年限の期間全体を通じた体系的な教育課程の編成、3.総授業時間数が3,400時間以上、等)を満たすと認められたものを卒業した者に対して大学院入学資格を付与することも検討すべきである。

(2)国公私立大学の特色ある発展に関する考え方

  • 国公私立大学がそれぞれに期待される役割を発揮し特色ある教育・研究を展開していくことは、21世紀初頭における社会の多様な要請等に国公私立大学全体で適切に応えていくというだけでなく、高等教育全体の活性化の上からも重要である。
  • 特に、国立大学の法人化、公立大学法人制度の創設、私立学校法改正による学校法人制度の管理運営面の改善により、国公私それぞれの枠組みの中で自律性と透明性を確保する仕組みが整えられた。これらは、個性・特色の明確化や適正な競争条件の確保の一つの前提をなすものと期待される。
  • 国公私立大学に期待される使命や役割等の区別は必ずしも絶対的なものではなく、また、時代や社会の要請に応じて変化するものと考えられるが、既に大学審議会答申等でもなされてきた整理を踏まえつつ、国立大学の法人化等による新たな展開の中で引き続き検討する必要があるをも考慮に入れると、概ね、以下のように考えられる
  • 国立大学については、国からの運営費交付金・施設整備費補助金により支えられるという安定性、学長任命や中期目標・中期計画に関する国の関与等の特性を踏まえ、その社会的責任として、1.計画的な人材養成や新たな需要を踏まえた人材養成への対応、2.大規模基礎研究や先導的・実験的な教育・研究の実施、3.社会的な需要は少ないが重要な学問分野の継承・発展、4.全国的な高等教育の機会均等の確保、5.経済状況に左右されない高等教育の機会の確保、等について積極的に貢献することが期待される。
    国立大学は、国立大学法人制度の趣旨を生かし、自主性・自律性を発揮して一層活性化することが期待されるが、一方で、上述のような機能を十分に果たしていない場合には、国立大学法人評価委員会の評価を踏まえて大学の実情に応じた改組転換が求められるものと考えられる。
  • 公立大学については、設置者である各地方公共団体により地方財政という公的資金を基盤として設置・運営されるという性格から、各大学の設置目的に沿って、それぞれの地域の更なる向上発展への貢献のため、特定地域における高等教育機会の提供、地域社会の様々な要請を踏まえた人材養成や地域発展のための研究への貢献をはじめとした様々な教育・研究機能のより一層の強化に向けた改革努力が期待される。その際、各設置者の判断に基づいて公立大学法人制度を活用することも有力な手法の一つとして考えられる。
  • 私立大学は、特に戦後の我が国における高等教育の普及の面で大きな役割を果たし、また、多様な教育・研究活動の展開を通じて社会の発展にとって重要な貢献をしてきた。とりわけ、各私立大学の建学の精神を生かした独自の校風による教育・研究の実施は、多様性に富んだ個性豊かな人材を育成し、我が国のあらゆる面での発展を支えてきている。
    私立大学については、各大学の多様な発展を一層促進するためにも、特定の固定的な機能を想定することは適当ではない。各大学が、社会の様々な要請に応えつつ、人文・社会・自然の諸科学の分野にわたってより一層教育・研究機能の強化に努める中で、全体として多様な発展をとげていくことが重要である。そのためには、それぞれの建学の精神にのっとった自主的・自律的な運営を確保することが不可欠であり、先般の私立学校法改正による学校法人制度の管理運営面の改善の趣旨を積極的に生かすことが期待される。

(3)民間教育事業等の多様な形態に関する考え方

  • 株式会社・NPO・個人等、多種多様な形態により民間の自発性・柔軟性を生かして多様で創意に富んだ学習機会を提供する民間教育事業は、今後の知識基盤社会の中での幅広い学習機会の一環として重要な役割を担っていくことが期待される。
  • 関連して、現在、構造改革特区において認められている株式会社立大学の今後の位置づけ等については、「高等教育の質」の保証や株式会社の特性といった観点を念頭に置きつつ、特区における実施状況に関し、公共性・継続性・安定性等についての検証・評価を十分に時間をかけて慎重に行った上で、改めて検討する必要がある。

〔3‐5〕高等教育の発展を支える財政支援の在り方

(1)高等教育への財政的支援の拡充

  • 高等教育機関は、教育・文化、科学技術・学術、医療、産業・経済等社会の発展の基盤として中核的な機能を有する極めて重要な存在である。
  • 我が国の高等教育は、国公私立の三つの設置形態による機関がそれぞれの特色を発揮することにより発展してきているところであるが、中でも私立学校の比重は高く、例えば、大学・短大・高専の学校数・学生数ともに約4分の3を占めるなど、私立学校は我が国の高等教育の普及と発展に大きな役割を果たしてきた。また、高等教育の費用負担はこれまで家計に多くを依存してきている。現在では、国立・私立を問わず学生納付金が国際的に見てもかなり高額化しており、これ以上の家計負担となれば、個人の受益の程度との見合いで高等教育を受ける機会を断念する場合が生じ、実質的に学習機会が保障されない恐れがある。国は、個人の経済状態を問わず高等教育を受ける機会を実質的に保障して「ユニバーサル・アクセス」を実現する見地から、私立学校振興助成法の趣旨に沿った私学助成の一層の充実を図るとともに、国立大学法人への支援の更なる強化、意欲・能力のある個人に対する支援を一層推進するための奨学金をはじめとする学生支援の充実等の各般の措置を推進することにより、教育・研究条件の維持・向上とともに学習者の教育費負担の軽減に努めるべきである。
  • このため、高等教育への公財政支出の抜本的な拡充を図るとともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。
  • 高等教育の重要性にかんがみ、各国で高等教育への投資を充実しつつある。
  • 我が国においても、欧米並みの公財政支出の実現に向けた努力をしていかねばならない。そのためには、全ての関係者が、この点について国民(=納税者)の理解を得られるよう最大限の努力をする必要がある。
  • 高等教育を受ける学生個人とともに、高等教育を受けた人材によって支えられる現在及び将来の社会もまた受益者である。このことは、高等教育がエリート段階(進学率15%未満)、マス段階(同15%以上50%未満)又はユニバーサル段階(同50%以上)のいずれにある場合でも基本的に変わるものではないと考えられる。
  • ユニバーサル段階では、高等教育の普及によって個人が高等教育を受けたことによる収益は低下することと一般的には考えられるが、知的なネットワークの広さと質が極めて重要な意義を持つ知識基盤社会においては、質の高い労働力や研究成果の供給による利益の他に、層の厚い高等教育の存立そのものが経済社会全体の発展の基盤として不可欠の存在となるものと考えられる。

(2)高等教育機関の多様な機能に応じたきめ細やかなファンディング・システム

  • 高等教育への国からの財政的支援は、伝統的に、(a)国立学校特別会計や私学助成による機関運営経費の措置と助成、(b)科学研究費補助金や各種の委託研究費等の研究活動助成、及び(c)育英奨学等の学生支援経費が中心であったが、それぞれの趣旨・目的は異なるものと考えられ、これら全体で高等教育へのファンディング・システムを構成するとは必ずしも明確に意識されなかった。近年は、(a)(b)の中間的な形態として(d)「21世紀COEプログラム」「特色ある大学教育支援プログラム」等の国公私を通じた競争的・重点的支援、競争的な研究資金の間接経費や国立大学法人に関する教育研究特別経費の措置、(b)(c)の中間的な形態として(e)ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)への支援、日本学術振興会特別研究員事業等が行われるようになり、支援の形態の多様化が進められてきた。
  • 今後の財政的支援は、競争的環境の中で高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形にシフトし、各機関がどのような機能に比重を置いて個性・特色を明確化するにしてもそれぞれに相応しい適切な支援がなされるよう、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費助成と競争的資源配分の有効な組み合わせにより多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが期待される。これにより、国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担、適正な競争条件の確保が目指されるべきである。
  • 具体的には、平成16(2004)年時点との比較で言えば、1.国立大学法人運営費交付金・施設整備費補助金は教育研究の特性に配慮した経営努力を求めつつ、政策的課題(地域再生への貢献、新たな需要を踏まえた人材養成、大規模基礎研究など)への各大学の個性・特色に応じた取組を支援することができるよう、所要額を確保する必要がある。2.私学助成は、基盤的経費の確保を図りつつ、傾斜配分の考え方に基づいて特別補助や高度化推進特別補助に相当する部分を中心に拡充する必要がある。3.国公私を通じた競争的・重点的支援は、大幅な拡充が期待される。4.企業向け研究費補助金を大学へ開放するとともに、競争的な研究資金の間接経費を充実する必要がある。5.高等教育を受ける意欲と能力を持つ者を経済的側面から援助するため、奨学金等の学生支援を充実する必要がある。
  • 高等教育機関の財源として、学生納付金や国からの支援だけではなく、民間企業や個人等からの寄附・委託費や附属病院収入・事業収入等の自主財源も確保し、財源を多様化することが望まれる。国はそのような努力を積極的に支援すべきである。
  • このような民間企業や個人等からの支援の充実は、社会の大学に対する評価をフィードバックし、大学の社会貢献を一層促す上でも効果的と考えられる。

〔3‐6〕高等教育の発展を支える各方面の取組

(1)国の高等教育行政の在り方

(ア)国の機能・役割

  • 大学は国家・社会に対して一定の自律性を保持することがその本質的特徴であり、大学に対する国の関与及び支援は、国家・社会の側から見た大学の公共性に着目してなされる。公共性と自律性とは相互に緊張関係に立つが、必ずしも相矛盾するものではない。したがって、関与と支援の程度は、大学の自律性を尊重しつつも、公共性についての国家・社会の側の理解の仕方に影響を受け、また、関与に応じた支援が行われるのが基本となる。
  • 国の今後の役割は、1.制度的枠組みの設定、2.将来像の提示、3.質の保証システムの整備、4.大学・社会・学習者に対する情報提供、5.財政支援等が中心となろう。その際、大学の自律性に十分配慮し簡素で効率的な高等教育行政となるよう留意する必要がある。
  • 特に3に関して、「高等教育の質」を保証するためには、設置認可の的確な運用を基礎としつつ、認証評価制度の充実、経営状況の悪化した高等教育機関への対応、大学入学者選抜の改善、初等中等教育の充実等の各種関連施策を総合的に推進する必要がある。
  • このような高等教育行政及び高等教育の振興方策についての考え方は、今後の教育基本法及び教育振興基本計画の在り方の検討の中でも十分に生かされるべきである。

(イ)多元的な評価機関の形成

 高等教育行政の機能・役割の変化に際しては、多元的な評価機関が形成されることが不可欠の前提となる。機関別・専門職大学院別の評価に加えて分野別評価が、分野の特性に応じて学協会等関係団体の協力を得ながら発展することが期待される。各種評価機関の形成のための国の支援も必要である。

(ウ)多様で安定的な財源確保の取組

  • 大学の自律性を保障するためには、大学の経営のための財源の多様性・安定性を確保することが是非とも必要である。学生納付金、附属病院収入、公財政支援、外部資金、寄附金、資産運用益、学校債等の各財源別に改善ないし促進方策を更に検討する必要がある。
  • 公財政支援に関しては、多元的できめ細やかなファンディング・システムが形成されることが、大学の財政的基盤の充実とともに自律性を保障する上からも望ましい。

(2)地方公共団体の取組

  • 公立大学を設置し管理運営を行う場合には、例えば公立大学法人制度を活用するなどして、大学の自律性を十分に尊重しながら、設置目的を明確化し、それぞれの地域の更なる向上発展への貢献のため、地域社会の様々な要請等を踏まえつつ、より一層の教育研究機能の強化に向けた改革努力を支援することが期待される。
  • 国立や私立も含めた地域の大学全体との関係については、委託研究等の産学官(公)連携の推進や学校教員の養成、公開講座の実施等につき、大学の教育研究活動と地方公共団体の施策展開の有機的な連携を図ることが期待される。その際、地方公共団体側がその判断に基づき寄附金等相応の財政的支援を行うことも、有力な手段の一つとして考えられる。
  • 構造改革特区制度を活用して地方公共団体が策定する特区計画の下での大学の設置に関して、地方公共団体には、構造改革特別区域法に基づく責務を十分果たしつつ、創意工夫に富む取組を行うことが期待される。

(3)産業界等の取組

  • 学士・修士・博士等の学位取得者の採用・処遇に関し、産業界は、それぞれの学位の種類に応じた取扱いがなされるよう、十分に配慮することが期待される。例えば、博士課程の質的向上に関する大学側の努力と博士号取得者に対する企業側の処遇・活用の努力とは、同時並行的になされなければ効果は期待できないと考えられる。
  • 今後は、知的セクターの人材層を厚く形成するとともに、様々な分野で知的活動を行う人材が流動し、我が国社会全体の知的基盤を構成していくことが重要である。高等教育機関は、その中核として、人材(研究者、大学教員)の受入と輩出を他の様々な機関との間で一層活発に行うことが期待される。
  • また、高等教育機関は人材を養成し社会へ送り出すものであることから、人材(学生)の輩出と受入(社会人学生)という点でも社会と双方向の関係に立つ。即ち、産・官・政といったセクターの人材戦略が高等教育機関の人材養成に与える影響は大きいものがあり、研究面にとどまらず人材養成面でも十分な産学官連携が求められる。特に、留学生教育に多くの資源を投じてきているこれまでの状況を踏まえれば、留学生を含めた人材の活用を社会全体で真剣に図っていく必要がある。
  • 人材の流動化を一層促進し我が国社会の活性化を図るためには、産業界が社会人の大学院等への進学・再入学を積極的に支援することが重要である。この点に関しては、修士課程等への企業派遣の促進の他にも、雇用関係を一旦離れてから進学・再入学し学位を取得した者に対して十分な処遇を用意することも期待される。
  • 専門職学位課程との関係では、高度専門職業人による各種の職能団体が形成ないし活性化され、専門職学位課程と密接に連携を図ることが期待される。
  • また、研究開発を自社内部で完結させる「自前主義」には効率性や競争力確保の上でも限界があることから、各企業の経営・研究開発戦略において、大学との共同研究や技術移転等の産学官連携を柱の一つとして明確に位置づけることが期待される。短期的な経済情勢や国の支援策の如何によらない持続可能な産学官連携の体制の構築が求められている。
  • 産業界には、国内の大学を投資対象として一層積極的に評価・活用することが期待される。各企業の合理的な経済行動に影響を与えるためには、我が国の大学の研究水準や経営状態等に関する大学側からの適時適切な情報の提供が不可欠であるが、より効率的な投資行動のため、産業界側にも最新の正確な情報を能動的に収集する努力が自ずと求められよう。こうした動きは、我が国の大学にとっての競争的環境の醸成にも大いに資するものと思われる。
  • このような産業界の取組を促進するため、様々な機会を捉えて大学側と産業界側の情報交換の場を設けることは極めて重要である。また、そうした場を通じて、産業界側の意欲的な取組を評価し顕彰すること等も有効と考えられる。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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