〔3‐3〕高等教育の多様な機能と高等教育機関の機能別分化 (2)高等教育の多様な機能と高等教育機関の機能別分化

1)高等教育が果たすべき多様な機能

  • 戦後、我が国の高等教育は急速に拡大し、量的側面での「ユニバーサル・アクセス」は実現しつつある。しかし、人的物的資源が必ずしも十分でないままでの急拡大が質的充実を伴ってきたとは言い難い。18歳人口が低位安定期を迎える中では、個性に乏しい数多くの高等教育機関が単一の市場(18~21歳の日本人フルタイム学生=「伝統的学生」の獲得)を巡って競争するという状況は、社会全体としての効率性の点で問題が大きい。新時代の高等教育は、全体として多様化し、学習者の様々な需要に的確に対応(複数の市場を開拓)して個々の高等教育機関が自らの資源を重点的に投入することで質的な向上を図り、質的側面でも「ユニバーサル・アクセス」を実現することが求められている。
  • 近年、教育内容の改善や充実を図って高等教育機関の個性や特色を明確化する様々な改革が続いている。この結果、多様化が進む中で大学とは何かといった本質や、高等教育機関間の個性・特色の違いが不明確になってきているとの指摘がある。ユニバーサル段階の高等教育は学習者の多様な需要に対応するため、各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。
  • 大学・短期大学・高等専門学校・専門学校等が、各学校種ごとに、それぞれの位置づけや役割を活かした教育を展開するとともに、各学校種の中においても、各高等教育機関が個性・特色を明確化することが重要である。
  • 高等教育機関のうち大学は、全体として
    1. 世界的研究・教育拠点
    2. 高度専門職業人養成
    3. 幅広い職業人養成
    4. 総合的教養教育
    5. 特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育研究
    6. 地域の生涯学習機会の拠点
    7. 社会貢献機能(地域貢献、産官学連携等)
    等の各種の機能を併有するが、各大学ごとにはこれらの機能のうち一部分のみを保有するのが通常であり、複数の機能を併有する場合も比重の置き方異なる。その比重の置き方が即ち各大学の個性・特色の表れとなり、る。各大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(=大学の判断に基づく個性・特色の表れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。
  • 例えば、1や2の機能に特化して大学院の博士課程や専門職学位課程に重点を置く大学もあれば、4の機能に特化してリベラル・アーツ・カレッジ型を目指す大学もあってよい。大学全体としての多様性の中で、個々の大学が限られた資源を集中的効果的に投入することにより、個性・特色の明確化が図られるべきである。
  • また、高等教育機関間の連携協力による各機能の補完や充実強化も、必ずしも設置形態の枠組みにはとらわれずに促進されるものと考えられる。
     例えば、地域の大学間の連携によるコンソーシアム方式での単位互換制度の充実や、学問分野を超えた融合領域形成のための共同運営型の大学院組織設置連携等が考えられる。

3)様々な学習機会全体の中での高等教育の位置づけ

ア)1.初等中等教育との接続

  • 初等中等教育は、「ゆとり」の中で「生きる力」(確かな学力、豊かな人間性、健康・体力)を育む教育を推進しており、生涯にわたって学ぶことのできる自己教育力や基礎基本、個に応じた指導等を重視する流れにある。
  • 高等教育はその性質上、また、国際的な標準での質保証が今後の課題となっていることからも、一定の水準を確保することがより強く要請される。まして、産業界をはじめ実社会の人材需要は「独創性」「即戦力」「基礎学力」等高度化・多様化する一途をたどっておであり、高等教育を受けることによる付加価値の程度がますます注目され、高等教育段階での教育機能の重要性が指摘されている。
  • こうした中で今後の高等教育像を考える際には、初等中等教育との接続にも十分留意する必要がある。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
  • また、我が国の高等教育はユニバーサル段階を迎えることから、特に(1)の3、4、6の機能に重点を置く大学にあっては、例えば、リメディアル(補習)教育を充実させた上で、就職や他大学の学士・修士・専門職学位課程等への円滑な進学・編入学を特色とすることも考えられる。
  • 初等中等教育との関連では、高等教育が学校教員の養成機能を担っている点も極めて重要である。より良い教員養成の在り方について、今後とも検討していく必要がある。

イ)2.生涯学習・社会教育との関連(含リカレント教育)

  • 「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」ような生涯学習社会を構築するためには、各種の主体により多様な学習機会が豊富に提供されなければならない。そのうちで、質的に高度で体系的かつ継続的な学習機会の提供者として、大学等の高等教育機関が重要な役割を果たすことが期待されている。
  • 生涯学習体系への移行、多様な高等教育機関の発展等の観点から、いわゆる単位累積加算制度を設けることについて、学位授与にふさわしい履修の体系性の確保等に留意しつつ、更に検討する必要がある。
  • 社会人の再学習需要の高まりや経済情勢・雇用形態の変化を踏まえ、企業等におけるキャリア・パス形成との関連に留意しながら、特に修士・博士・専門職学位課程でのリカレント教育に対応した履修形態等について、更に検討する必要がある。
  • 我が国における短期高等教育の位置づけについて、ユニバーサル段階での新たな意義・役割や単位累積加算制度の検討との関連等に留意しつつ、明確化する必要がある。

2)個性・特色ある高等教育機関大学の機能別分化

  • 18歳人口の120万人規模での低位安定期にあって、各高等教育機関大学教育研究組織としての経営戦略を明確化していく必要性がある。このとき、
    • 高等教育機関大学は、単一の機能を担う「種別化」ではなく、併有する諸機能のうちの比重の置き方の違い(=個性・特色)に基づく「機能別分化」を念頭に、他大学とは異なる個性・特色の明確化を目指すこと。
    • 国や地方公共団体等は、各機関大学が重点を置く機能を自主的に選択できるように配慮しながら、財政面等で支援すること。
    等の点に注意しなければならない。
  • 日本の大学についても、カーネギー分類のように授与する学位の種類や量に応じて大学を分類することが可能である。自らの理念・目標や大学院の有無・規模等の違いに応じて、このような分類の中から重点を置くタイプを大学が自ら選んでいく必要がある。このことような努力は、各大学において、志向する方向を明確にして発展を図っていることの表れでもあると考えられ、国としても、「個性が輝く大学」を推進するため各大学の努力を支援していくことが重要である。
  • 一方、例えば教養教育といった、大学として最低限求められる共通の要素や学位を授与された学生が最低限身につけるべき分野別に共通の要素等についての考え方を整理する必要もあり、引き続き検討する。

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(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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