〔3‐1〕高等教育の将来構想(グランドデザイン)像の基本的考え方
(1)高等教育の将来構想(グランドデザイン)像の意義と要素:高等教育計画から将来像へ
- 本章では、中長期的視点(平成17(2005)年以降、平成27(2015)年~平成32(2020)年頃まで)で想定される我が国高等教育の全体構造に関する将来
構想(グランドデザイン)像を示すこととする。
- 18歳人口が120万人規模で低位安定し進学率が50%に達する一方で、社会人学生、外国人留学生やパートタイム学生が大幅に増加する「ユニバーサル・アクセス」の時代(〔3‐2〕(1)参照)には、18歳人口に対する「進学率」の指標としての有用性は徐々に減少していくものと予想される。
- このような事態は、高等教育の規模に関する従来の手法での対応をますます困難にする効果を伴うが、このことをむしろ積極的に受け止める必要がある。新時代の高等教育の発展に合わせ、これを支援する行政の手法も新たなスタイルが求められているのである。
- 今後は、18歳人口の増減のみに依拠して高等教育規模を想定しつつ需給調整を図るといった政策手法は終焉を迎え、高等教育の将来像を念頭に置きながら、各高等教育機関・学生個々人・各企業・地方公共団体等がそれぞれの行動を戦略的に選択する中で、高等教育の規模や配置等が決定され、必要に応じて将来像が見直されるというシステムへと転換することが必要となる。「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代への移行である。
- 今回の将来
構想(グランドデザイン)像の主要な要素としにおいては、
- 高等教育の全体規模、ユニバーサル・アクセスの実現、多様な高等教育機関の機能別分化
- 高等教育の質の保証
- 主として大学院段階での高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上
- 主として学部・短大・高専・専門学校段階での高等教育機関の個性・特色の明確化と質の向上
- 高等教育を支える財政的・社会的基盤
等を主要な内容として採り上げたところであが含まれる。
〔3‐2〕以下では概ねこの順序で記述している。
(2)高等教育に関する基礎的諸条件を取り巻く環境の変化と今後の見通し
(ア)18歳人口の動向等
- 我が国の18歳人口は平成4(1992)年度の約205万人を頂点として減少期に入り、平成11(1999)年度から平成15(2003)年度は約150万人程度となっている。平成16(2004)年度は約141万人で、平成17(2005)年度からは更に減少し、平成21(2009)年度に約121万人となった後は、平成32(2020)年度までは約120万人前後の低位安定期となることが予測されている。
- 平成9年1月の大学審議会答申「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」では、18歳人口の減少に伴い大学及び短期大学への入学者は漸減し、平成21年度には全志願者に対する入学者の割合である収容力は100%になると試算されていた。しかし、その後の進学率の伸び悩みを考慮して同答申と同様の考え方に基づき再計算を行うと、大学・短大の収容力は2年早く平成19(2007)年には100%に達するものと予測される。
- このような状況を背景として、大学入学者選抜を取り巻く環境も大きく変化し、私立の4年制大学のうち約3割、短大では約4割が定員割れを起こしている。中には、〔3‐3〕(1)で述べる「高等教育の質」の一環としての学生の質に関する選抜機能を入学者選抜が十分に果たし得なくなってきている例も見られる。また、進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階での教育内容の多様化によって、大学入学者について一定の履修歴を一律に求めることは事実上困難となり、大学生の学力が低下しているのではないかといった指摘もあり、大学教育の質の向上に努める必要がある。
(イ)社会人、外国人留学生、パートタイム学生等の増大
- 社会人学生は特に大学院で増加してきており、
すべての高等教育機関に在籍する社会人学生は合計で約3万人に達している。また、留学生数は近年急増し、すべての高等教育機関に在籍する留学生数の合計は平成15(2003)年度に初めて10万人を超えるに至った。
- 大学等における社会人の受入れの推進については、従来より大学審議会の累次の答申等を受けて、夜間大学院、通信制大学院及び昼夜開講制の導入等の制度改善が図られてきた。更に残された制度上の課題については、平成14(2002)年2月の答申「大学等における社会人受入れの推進方策について」において、学生が柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する長期履修学生制度や通信制博士課程等の導入について提言され、これを受けて制度的な整備が図られてきている。
(ウ)情報通信技術の発達
- IT技術の発展に伴い、各家庭へのブロードバンド通信が急速に普及しつつある。これまでの通信教育は郵便やテレビ放送等を利用したものがほとんどであったが、時間の融通のきかない社会人が働きながら学んでいくためには、空間的及び時間的制約を受けない環境、例えば、在宅のまま夜間に学べる環境を整えていくことが重要な課題である。このため、今後は、IT技術を利用した履修形態、いわゆるe‐Learning
が中心となっの役割が増加していくものと思われる。
- 通信制による高等教育は、地理的・時間的制約による通学の困難な者に対して学習機会を提供している。放送大学の充実も期待される。今後は、e‐Learningの普及等、情報通信技術の飛躍的な向上を背景として、通学制と通信制の境界がより連続的なものとなり、伝統的な「キャンパス」の概念にも少なからず影響を及ぼすものと予想される。
(エ)高等教育の国際化の進展
- 21世紀の国際社会は、社会・経済・文化のグローバル化によって国際的な競争が激しさを増す社会であり、今後、高等教育機関においても海外分校・拠点の設置、外国の教育研究機関との連携、e‐Learning等を通じて国境を越え
てた教育をの提供するや研究の展開等、国際的な大学間の競争と協働調・協力が進展していくものと考えられる。
- IT技術の普及・ブロードバンド化に伴い、国内の高等教育機関だけではなく、海外の高等教育機関によ
ってもる、e‐Learningによるを活用した高等教育がの幅広くい提供や情報発信・収集活動がされ一層活発化するようになるものと考えられる。このように、IT利用の普及等を背景に履修形態の多様化とともに大学の国際展開が加速すると言える。
- 海外に目を転じてみれば、米国・英国や豪州といった英語圏の国々やドイツ等の高等教育機関
を中心としてが、東アジア・東南アジア各国に現地校を開設し、現地校のみでの教育を受けることで居ながらにして米国や豪州本国の学位を得られるようにすることが盛んに行われ始めている。また、中国・韓国・マレーシア・シンガポール等アジアの国々でも、このような国際動向に積極的に対応し、外国の優れた高等教育機関を誘致し又はこれと連携するための施策を展開し始めている。これは、国内の進学率の急激な上昇に対応すること、また周辺国の教育拠点(ハブ)となることを目的としたものと思われる。我が国に関しても、海外の高等教育機関と我が国の機関が提携して、我が国においてける海外学位の授与や海外においてける我が国の学位の授与などが複数計画されており、制度的な枠組みの整備が急務となっている。
- 以上のことは、
裏を返せば、我が国の18歳人口が減少を続ける中、各高等教育機関の個性・特色の明確化が国際的な競争的環境の中で一層進むことをも意味していると考えられる。
- なお、国境を越えて展開される大学教育の提供による学位授与の機会を拡大するに当たっては、我が国の学位の国際的通用性の確保に十分留意することが必要である。また、我が国を含めた各国の大学制度、各大学の適格認定を含めた評価、教育内容及び学位の通用性等について判断することのできるように、国際的な大学の質の保証に関する情報ネットワークを構築することが急務である。我が国は、こうした国際的な協議に積極的に参加・貢献すべきである。
- また、今後は、留学生の交流等も含めて、国境を越えて展開される我が国の高等教育による国際的な貢献という視点を常に念頭に置いていく必要がある。