2.新時代の高等教育と社会

(1)高等教育の役割

  • 高等教育の役割は、自己実現人格の形成、能力の開発、知識の伝授、知的生産活動、文明の継承など、非常に幅広い。高等教育は、中等教育後の様々な学習機会の中にあってその中核をなし、社会を先導していくものである。
  • 大学は将来の全人格的な発展の基礎を培うためのものであり、技能や知識の習得のみを目的とするのではないという大学教育の基本的特性を明確にすべきである。また、大学教育(学部段階・大学院段階を含む)としての共通のコア部分の整理などを通じて、「大学とは何か」ということも明確化すべきである。
  • 「大学とは何か」を考える上で、学校教育法第52条に規定する大学の目的の単一性と実際の大学の多様性との関係をどう整理するかが重要となる。
  • 19世紀ドイツ以来の「フンボルト的大学観」は我が国の大学の在り方に大きな影響を与えてきたが、大学人を第一義的に研究者であると自己規定し、最高の教育を自己の研究成果の披瀝が最高の教育であるとする考え方は、主として少数エリートに対する教育を想定して成立するものであり、21世紀の今日では歴史的意義を有するに止まるのではないか。フンボルト以外にも注目すべき大学観としては、オルテガが1930年のスペインの社会状況を前提として大学の使命を1.教養教育2.専門職業人養成3.「それに加えて」科学としたものや、米国のC.クラーク・カーが著書「大学の効用」(1963年初版)の中で現代の大学を教育・研究・奉仕の多機能を持った「マルチバーシティ」と考えたことなどが挙げられる。大学観も時代や社会状況に応じて変貌していくべきものと考えられる。
  • 大学は歴史的には教育と研究を本来の使命としてきたが、社会情勢の変化とともに、我が国の大学に期待される役割も変化しつつあり、現在においては、社会貢献(地域社会・経済社会・国際社会等、広い意味での社会全体の発展への寄与)を教育・研究に加えて大学の「第三の使命」として位置づけることができる。言うまでもなく、人材養成や学術研究それ自体が我が国の発展に対する長期的観点からの社会貢献であるが、近年では、公開講座や産学官連携等を通じた、より直接的な貢献が求められるようになっており、これがいわゆる「第三の使命としての社会貢献」と考えられる。

(2)「知識基盤社会」における高等教育

  • 21世紀の「知識基盤社会」においては、高等教育は、個人の自己実現(人格のの上でも社会・経済の発展や国際競争力の確保の上でも極めて重要である。国際競争がますます激化する今後の社会においては、個々の高等教育機関ばかりではなく、国の高等教育システムないし高等教育政策そのものの総合力が問われることとなる。
  • 知識基盤社会においては、新たな知の創造・継承・活用が社会の発展の基盤となる。そのため、高等教育における教育機能を充実し、創造性・独創性あふれ富み卓越した指導的人材を養成・確保することが重要である。
  • また、活力ある社会が持続的に発展していくために、専攻分野についての専門性を有するとともに、幅広い教養を身に付け積極的に社会を支え、時代の変化に合わせて必要に応じて社会を改善していく資質を有する人材=「21世紀型市民」を育成していかねばならない。
  • 新しい時代にふさわしい高等教育の位置づけに関し、社会人受入れの推進等の生涯学習機能や地域社会・経済社会との連携も視野に入れていく必要がある。
  • 生涯学習需要に対応するためには、様々な年齢層の人が自らの選択により、学びたいときに高等教育機関で学び、能力の向上を図ることができるようにすること(=ユニバーサル・アクセス)が、ますます重要となってくる。
  • こうした人材の育成とともに、社会の発展、文化の興隆や国際競争力の源となるのは、活発な学術研究である。

(3)高等教育と社会との双方向の関係:高等教育の危機は社会の危機

  • 学術研究の高度化、学習需要の多様化、社会の価値観の変化、国際化・情報化の進展等の中で高等教育が今後ともその役割を十分に果たすためには、各高等教育機関が競争的環境の中でそれぞれの個性・特色を明確にし、全体として多様な発展を遂げていくことが必要である。
  • 特に、人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって、優れた人材の養成は更なる発展のために不可欠であり、今後、我が国の社会が活力ある発展を続けていく上で高等教育の果たす役割は極めて大きい。
  • 我が国の高等教育は著しい量的拡大を遂げ、経済・社会の発展を支える人材を養成してきた。社会の変化や高等教育への期待の多様化に対応するため、様々な改革を推進している。
  • 一方で、近年、高等教育が社会の変化に対応できておらず、質的低下を招いており、いるといった指摘もなされている。中には、我が国の高等教育は危機に瀕しており、転換点に差し掛かっているといった指摘もなされている。
  • 教養教育の充実、大学院の充実、グローバル化への対応、短期高等教育の多様化など、今こそ、我が国の高等教育を時代の牽引車としてふさわしいものへと変革しなければならない。
  • 高等教育は社会の発展にとって中核的な役割を担っており、高等教育の危機は社会の危機でもある。したがって、今後の社会の危機を回避するためには、高等教育の一層の充実と改革を推進することが必要とな不可欠である。

4)高等教育の改革を支える社会:高等教育と社会との双方向の関係

  • 高等教育が社会の要請に応え、自らを変革しつつ社会の発展に寄与すると同時に、社会の側からの適切な支援が必要である。
  • 今後は、我が国社会全体の知的基盤をなして様々な分野での知的活動を担う人材が流動し、知的セクターとしての人材層を厚く形成していくことが重要であると考えられるが、高等教育機関はその中核として人材(研究者、大学教員)の受入と輩出を他の様々な機関との間で一層活発に行うことが期待される。
  • また、高等教育機関は人材を養成し社会へ送り出すものであることから、人材(卒業生)の輩出と受入という点でも社会と双方向の関係に立つ。したがって、政・官・産といったセクターの人材戦略は高等教育機関の経営戦略に大きな影響を及ぼす(例えば専門職大学院と官公庁や産業界の人事方針がどのような関係に立つのか)。研究面のみならず人材養成面でも「もう一つの産学官連携」が求められよう。
  • 高等教育の受益者は学生個人のみならず社会全体であるという視点を踏まえ、企業等社会との双方向型の連携を構築することが重要となる。
  • このような観点から、国の財政支援とともに、企業産業界等による学生の採用時期・方法の工夫や適切な評価に基づく処遇など、高等教育の発展を促す社会的基盤の整備支える各方面の取組も必要である。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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