5.その他の検討課題について

1.学校法人会計基準の見直しについて

a)学校法人会計基準の現状等

会計基準の特性

 昭和45年に私立学校等の経常費に対する国の補助制度が創設されるに当たり,公費の補助を受けるためには,学校法人の公共性が一層高められ,適正な会計処理が行われることが前提となることから,統一的な会計処理を行う基準が必要となり,昭和46年に学校法人会計基準が制定された。
 この会計基準は,私立学校は公共性が極めて高く,安定性,継続性が求められていること,私立学校は利潤の追求が目的ではなく,中長期的にわたって収支の均衡を取ることが求められていることなど,私立学校の特性を踏まえて制度設計がなされている。

学校法人会計基準見直しの背景

 近年,財務情報の公開が進展するに伴い,私学関係者の中からも財務書類を学費負担者等一般の人が見てもっと分かりやすくすべきではないか,少子化の影響を受けて学校法人の経営状況が厳しくなってきているため,基本金の取崩しを弾力的にできるようにすべきではないか,など会計処理の一層の合理化,平明化を求める声がある。
 また,近年,独立行政法人会計基準や国立大学法人会計基準の制定あるいは公益法人会計基準の見直しが進められているが,これらの公共的法人の会計基準においても企業会計原則の考え方が大幅に取り入れられている。
 さらに,総合規制改革会議の第2次答申においても学校法人会計基準見直しの必要性が指摘されている。
 このような状況から,学校法人会計基準の在り方を検討することが必要であると考える。

b)会計基準の見直しについて

  • 学校法人会計基準の見直しに当たっては,専門的・実務的知識が必要とされるため,本小委員会とは別に,新たな組織を設けて検討することが適当である。
検討課題

 本委員会として問題意識を持っているのは,具体的には次のとおりである。

経営状況の把握
  • 私立学校の特性を踏まえ,かつ,学校法人の経営状況が端的にわかるような財務諸表とはどのようなものか。
計算書類
  • 現在の貸借対照表,資金収支計算書及び消費収支計算書は改めなくてよいか。改めるとすればどのようなものが考えられるか。
  • 注記事項及び附属明細表は,現状のままでよいか。
基本金
  • 基本金の意義や内容を見直す必要はないか。
  • 社会情勢の変化に応じて基本金の取崩しが弾力的に行えるようにする必要はないか。
その他
  • 財務書類の公開を前提とした場合において見直すべき点はないか。
  • 簿価情報による会計処理から時価情報に変える必要はないか。
  • 連結財務諸表を導入するかどうか。
  • 退職給付会計の導入をするかどうか。
  • その他改めるべきところはないか。

2.外部資金の導入等について

a)外部資金導入の現状等

寄附金

 学校法人は,もともと私人の寄附を基礎として設立されるものであり,目的を同じくする者からの寄附を募り,学校法人の経営基盤の充実を図ることは極めて重要である。
 現在,文部科学省所管の学校法人のうち約4割で,郵便や訪問等何らかの方法による寄附募集を行っており,さらに積極的な募集活動の展開が期待される。
 政府においても,学校法人への寄附の促進を図る観点から,寄附を行った個人及び法人に対する税制上の優遇措置を講じており,これまでも随時優遇措置の改善が図られてきたところである。
 一方,入学者やその関係者からの寄附金の募集については,入学者選抜の公正を疑わしめるような事態が発生しないよう,文部科学省において,寄附金及び学校債の募集開始時期は入学後にするよう指導しているところである。

社会教育事業

 学校がその有する資源を最大限に活用しつつ収益を上げるとともに,学生・生徒等以外の広く一般に学習機会を提供する方策として,公開講座や各種スポーツ教室などの社会教育事業があり,多くの学校において取り組まれているところである。
 社会教育事業は,私立学校にとって比較的取り組みやすい分野であるとともに,本来の学校教育活動の充実にも資すると考えられ,今後の一層の展開が期待される。

受託研究,共同研究

 私立大学等における外部資金導入の方策としては,受託研究・共同研究は重要な方策の一つであり,その積極的な推進により,研究活動の充実を図ることが必要である。
 従前は,私立大学等が企業等から依頼を受けて研究を行う場合,法人税法上の収益事業である「請負業」とされ,企業等から提供される研究費については法人税が課されていた。しかし,私立大学等の経営基盤の強化と研究活動の活性化・高度化を図るとともに,産学連携の推進により我が国の経済の活性化等に資するよう,平成14年度税制改正により,私立大学が企業等からの要請に基づき受託研究・共同研究を行う場合で一定の要件を満たすものについては法人税が非課税となった。
 私立大学等における受託研究・共同研究は平成14年度で約13,800件行われているが,今後その増加が期待される。

収益事業収入

 学校法人は,その設置する私立学校の教育に支障のない限り,その収益を私立学校の経営に充てるため,収益を目的とする事業を行うことができることとされている(私立学校法第26条)。
 収益事業について明確に制度化された趣旨は,学校法人が授業料等の学生納付金や補助金のほかに収益事業を実施し,経営努力により自主的に経営基盤の強化を図り,教育水準の維持向上を図られるようにすることであるとされている。
 収益事業を実施する場合には,寄附行為に事業の種類を規定するとともに,当該学校法人の設置する私立学校の経営に関する会計から区分し,特別の会計として経理することとしている。
 このほか,附帯事業として行っている事業であっても,法人税法上の収益事業とみなされ課税の対象となる場合もある。
 私立学校法に基づく収益事業を行っている学校法人は大学法人で約13%,法人税法上の収益事業を行っている学校法人は大学法人で約51%に上っている。
 私立学校法に基づく収益事業を行っている学校法人が,1.寄附行為で定められた事業以外の事業を行うこと,2.当該事業から生じた収益をその設置する私立学校の経営の目的以外の目的に使用すること,3.当該事業の継続が当該学校法人の設置する私立学校の教育に支障があることといった一定の事由が認められる場合には,所轄庁はその事業の停止を命ずることができることとなっている。

学校法人の出資による会社の設立

 収益事業のもう一つの形態として学校法人が別法人を設立して収益事業を実施する方法があり,大学法人で約5%の法人が実施している。
 文部科学省では,学校法人の経営の一層の弾力化を推進するとともに,経営の健全性の確保等の観点から,学校法人の出資による会社設立の際の留意事項について下記のとおり通知を行っている。(平成13年6月8日付通知)

  • ア)設置する学校の教育研究活動と密接な関係を有する事業(例えば,会計・教務などの学校事務,食堂・売店の経営,清掃・警備業務など)を一層効率的に行うために,学校法人が出資によって会社を設立する場合には,学校法人の出資割合は出資先会社の総出資額の2分の1以上であっても差し支えないこと。上記以外の場合には,学校法人の目的等にかんがみ,出資割合は原則として2分の1未満とすることが適当であること。
  • イ)学校法人が出資によって会社を設立して行う事業の在り方及び種類については,「文部科学大臣の所轄に属する学校法人の行うことのできる収益事業の種類を定める件」(平成12年3月27日文部省告示第40号)第1条及び第2条に準じて取り扱うこと。
  • ウ)学校法人の出資による会社設立に関して国民から不明朗,不適正等の指摘を受けることのないよう,十分に配慮すること。
  • エ)文部科学大臣への財務関係書類の届出等(私立学校振興助成法第14条第2項に基づく届出等)に当たり,学校法人の出資割合が2分の1以上の会社がある場合には,学校法人の財務状況を当該会社と関連付けて適切に把握できるよう,その出資状況や当該会社から学校法人への寄附金額等について,学校法人の計算書類に脚注として記載するとともに,当該会社の経営状況の概要が把握できる資料を添付すること。
  • オ)学校法人が既存会社へ出資する場合も,上記1から4について同様に留意すること。

学校債

 学校債は学校が資金を調達する方法として学校関係者及び広く一般を対象として行われるものである。
 無利子で行われる例が多く(大学法人で約9割),償還期日が到来してもそのまま寄附となる場合も多いが,実際に学校債を発行している例は少ない(大学法人で約1割)。
 文部科学省では,学校債について,その取扱いが適正に行われるように下記のような事項について通知を行っている。(昭和29年10月13日付通知及び平成13年6月8日付通知)

  • ア)学校法人による学校債の発行が,出資法に抵触する「出資金」又は「預り金」に該当することのないよう,学校債が資金を受け入れる学校法人の側の利便(例えば,施設整備事業や奨学事業など)のために発行される旨の募集目的と,学校債が消費貸借契約に基づく学校法人の「借入金」の性格を有するものである旨を募集要項等に明示し,募集対象者に周知すること。
  • イ)上記アの取扱いによる場合には,学校債の募集対象を同窓会会員やPTA会員等に限定する必要はなく,広く一般人を募集対象としても差し支えないこと。
  • ウ)学校債の発行は,学校法人の経営基盤強化のために,必要に応じて活用が図られるべきものであるが,経営の健全性確保の観点から,学校債発行に当たっては,無理のない適切な償還計画を策定すること。

b)外部資金導入方策等の改善について

  • 外部資金導入等の充実のための方策については,今後中長期的に検討していくことが必要である。
  • 各学校法人において,寄附金及び学校債の活用を推進することが重要である。ただし,募集時期等には十分に留意すべきである。
  • 社会教育事業や受託研究・共同研究の推進に可能な限り積極的に取り組むとともに,その他の収益事業についても,各学校法人の判断により,事業の精選・効率化を図りつつ可能な限り取り組むことが望まれる。

学校法人が経営基盤を強化し,充実した学校経営を行えるようにするためには,寄附金収入や収益事業収入等の充実により学生納付金や補助金以外に収入のみちを探ることが重要である。
 外部資金導入等の充実のための方策については,今後各学校法人及び文部科学省において中長期的に検討していくことが重要であるが,当面は各学校法人においてそれぞれの規模や周辺状況等を踏まえつつ,以下のような取組を推進することが必要である。
 寄附金の活用に関しては,一般からの募集に積極的に取り組むことが必要である。あわせて,学校債の活用についても積極的に検討することが重要である。ただし,入学者選抜に関し一切の疑惑を招かないように寄附金の募集時期等に十分に留意する必要がある。
 社会教育事業や受託研究・共同研究の推進は,学校の有する資源を有効活用して外部資金を導入できる方策であるとともに,実施すること自体が学校の教育研究活動の充実に資すると考えられることから,各学校法人において可能な限り積極的に取り組むことが必要である。
 また,その他の収益事業についても,経営基盤強化のための方策として有効であることから,各学校法人の判断により,学校教育に支障が生じない範囲で可能な限り取り組むことが望ましい。ただし,実態として赤字となっている場合には,事業の実施について見直しを検討することも求められる。例えば,必ずしも実施する必要がない事業については廃止したり,また,附帯事業として実施している学校運営上必要な事業などについては,外部委託や学校法人の出資による法人設立等を活用したりすることにより事業の精選・効率化を図ることが考えられる。

3.事務機能の強化について

a)事務体制の現状等

 学校法人の事務体制については,法人の規模により大きく異なっており,充実した体制を備えているところから,理事や教員が相当程度の事務を担当しているところまで様々である。
 しかしながら,理事や監事の機能を強化し,学校法人の運営が充実して行われていくようにするためには,これを適切にサポートする事務機能の強化が重要な課題である。

b)事務機能の強化方策について

  • 事務機能の強化や効率化を図る観点から,事務機構の再編(必要な部門への重点化等)やアウトソーシングの活用を進めることが考えられる。

事務体制については法人の規模により様々であるが,大きな事務組織を有しているところでも必ずしも機能的な組織となっているとは限らず,適正な職員配置が行われていなかったり,機能の重複した組織体制となっている場合も考えられる。また,小規模の法人では,十分な数の専任事務職員の確保が困難な場合が考えられる。
 このため,事務機能の強化や効率化を図る観点から,各学校法人において事務機構の再編(必要な部門への重点化等)やアウトソーシング(外部委託)の活用などを進めることが必要である。
 また,アウトソーシングの方法としては,企画も含め業務の多くを外部に委託してしまう方法や,業務の実施部分だけを委託する方法,コンサルティングや人材派遣を受ける方法などが考えられるが,どのような業務にどのような方策を活用するのが効果的か各学校法人に紹介するため,文部科学省や私学関係団体等において活用事例の収集・紹介等を行うことが考えられる。
 また,事務機能の強化のためには事務職員の資質能力の向上も重要であり,各学校法人による交流人事や私学関係団体等による研修・講習会の開催などの推進が期待される。

4.会計監査について

a)会計監査の概要等

 運営費の多くの部分を学生生徒納付金や公費の補助金で賄っている学校法人は,会計処理を適切に行うことが適正な学校法人運営の第一歩であると言える。多くの学校法人では,適正に会計処理が行われているが,一部の学校法人では,必ずしも会計処理に問題なしとは言えないところもある。
 一方,少子化の影響を受け経営環境の厳しい状態が続く中,適切な学校経営を行うようにするためには,今まで以上に資源の効果的な利用と適切な会計処理を行うことが重要となっている。
 適正な会計処理は的確な会計監査によって保証されるものである。現在,学校法人の会計監査は,監事による監査,公認会計士(監査法人)による監査,当該学校法人の教職員による内部監査がある。これらの監査については,それぞれの目的に沿った監査を厳格に実施するとともに相互に連関させ,協力して監査に当たっていくことが求められている。

b)会計監査の改善方策について

  • 内部監査,監事の監査及び公認会計士の監査を一層充実させる観点から,相互に情報交換を行う等それぞれの機能の協調が大切である。
  • 公認会計士の監査機能の充実を図るため,今後とも監査事項等の見直しを図っていくことが必要である。

内部監査,監事の監査及び公認会計士の監査の機能の協調

 会計監査については,従来から日常的あるいは定期的に内部監査が行われていたり,理事会・評議員会等に監事が出席し意見を述べていたり,年間を通じた公認会計士の監査が行われていたりしている。また,監査人が理事会等に出席し,監査結果の概要の報告を行う学校法人もある。様々な形で会計監査が行われているが,今後とも,会計監査を一層充実させる観点から,それぞれの機能が協調していくことが大切である。その一環として,相互に情報交換あるいは意見交換等が段階的・継続的に行われる場を積極的に設定していくことが必要である。

監査事項等の見直し

 現在,公認会計士の監査の指針として,文部科学省の告示や通知としては,「昭和51年度以後の監査事項の指定(文部省告示第135号)」と「昭和51年度以後の監査事項の指定について(文管振第215号)」があり,これを受けて公認会計士協会が作成した「私立学校振興助成法第14条第3項の規定に基づく監査の取扱い(学校法人委員会報告第36号)」等監査に当たって留意すべき実務指針が定められている。これらの公認会計士の監査の在り方について,近年改訂が加えられほぼ網羅的に整備されているが,更に監査機能の充実を図るため,今後とも監査事項等の見直しを図っていくことが必要である。

内部監査機能の充実

 多くの学校法人では適正な会計処理を行うため,監事や公認会計士との監査があるにしても,学校法人内部の自らによる監査が最も重要であることは言うまでもない。内部監査機能を充実させるため,会計制度や会計処理の研修あるいは他の学校法人の実態を学ぶなど,絶えず監査機能の質的向上に努めていくことが重要である。

  • 経営困難法人に対する監事や公認会計士の監査の在り方を検討することが必要である。なお,公認会計士(監査法人)との監査契約において,必要に応じて監事に対する監査報告を義務付ける契約とすることも考えられる。

今後の検討課題

 公認会計士監査制度の信頼性を高めるため日本公認会計士協会は,会計監査人の専門性,独立性及び監査の質的向上や厳格化に取り組んできたが,平成15年6月の公認会計士法(昭和23年法律第49号)の改正により,その趣旨が法定されたところである。
 一方,少子化時代を迎え学校法人の経営が厳しくなる中にあって,監事や公認会計士が経営困難法人に対してどのように指導していくべきかは,文部科学省の課題として,今後,検討していかなければならない。その際,公認会計士の監査の場合,そのような事態に対し,どこまで対応できるかは財務書類の記載内容などともかかわる事柄であるため,日本公認会計士協会と連携を取りながら検討を進める必要がある。
 また,今後,財務情報の公開が義務付けられることにより,財務書類の信頼性を担保する会計監査の重要性も高まるものと考えられることから,私立学校振興助成法による監査を受けていない学校法人についても,例えば,一定規模以上のものは,公認会計士又は監査法人の会計監査を受けるようにすることが望ましい。
 なお,公認会計士の業務は,学校法人と監査契約を取り交わし,その中で監査結果を誰に対して報告するかが決められている。現在は,理事長に対する報告が一般的であるが,仮に不整があった場合には,監事に対する報告を義務付けるような契約とすることも考えられるところである。

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

-- 登録:平成21年以前 --