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第2章 新時代の大学院教育の展開方策

1 大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)のための方策
  (3) 学修・研究環境の改善及び流動性の拡大
  1 学生に対する修学上の支援及び流動性の拡大のための方策
   
 博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため、博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援策の充実を図ることが重要である。

【具体的取組】
 特別研究員事業、及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充
 学生への経済的支援制度の審査等の早期化

 学生においても、高度な研究水準にある大学院等で、異なる研究経歴の教員から多様な視点に基づく教育・研究指導を受けたり、異なる学修歴を持つ学生の中で互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境に豊富に接していくことが重要であり、学生の流動性を拡大していくことが必要である。

【具体的取組】
 大学院入学後の補完的な教育プログラムの提供

 さらに、社会人の大学院教育に対する期待にこたえるため、そのニーズを的確に受容し、大学院教育へのアクセスの拡大を図っていくことが重要である。

【具体的取組】
 企業等におけるキャリアパス形成に応じた各大学院におけるリカレント教育の実施
 社会人の大学院への進学・再入学についての産業界等による支援

<学生に対する修学上の支援の充実>
   博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため、博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援の充実を図ることが重要である。これまで、日本学術振興会の特別研究員事業、及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充等を行ってきており、これを引き続き推進することが必要である。今後は、これらに加え、進学意欲を持つ優秀な学生が経済的な事情から進学を断念することがないよう、大学院受験前など可能な限り早期に、奨学金や授業料免除などの経済的支援制度が受けられるか否かを判断することができる措置について検討する必要がある。
 なお、修学上の支援とあいまって、競争的な教育研究プロジェクト資金の活用に当たっては、教育の組織的な展開の中で優秀な学生の自主的な研究遂行能力を伸長させることを重視した支援に意を用いることも検討すべきである。また、これらの競争的研究資金の拡充や経済的支援の判断を可能な限り早期に行う仕組みなどの導入は、各大学院が自らの教育改革に積極的に取り組むことへのインセンティブ(意欲刺激)にもつながるものと考えられる。
<学生の流動性の拡大>
   今後の知識基盤社会にあって、グローバル化や科学技術の進展、人材の流動性の高い社会に対応できる若手研究者を養成するために、学生においても、高度な研究水準にある大学院等で、異なる研究経歴の教員から多様な視点に基づく教育・研究指導を受けたり、異なる学修歴を持つ学生の中で互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境に豊富に接していくことが重要であり、このような意味で、学生の流動性を拡大していくことが必要となる。このため、各大学院においては、必要に応じて大学院入学後に補完的な教育を提供することや学生に対する経済的支援の判断を可能な限り早期に行う仕組みの導入などを図っていくことが重要と考えられる。
<社会人が学ぶための環境整備>
   今後の知識基盤社会の到来に向けて、多様な学修歴を持つ社会人の大学院教育に対する期待にこたえるため、そのニーズを的確に受容し、大学院教育へのアクセスの拡大を図っていくことが重要である。
 これまで大学院教育へのアクセスの拡大については、夜間大学院、通信制大学院及び昼夜開講制大学院の制度の創設等の改善が図られてきた。また、近年では、学生が柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する長期履修学生制度や、修士課程短期在学コース(1年制コース)・長期在学コースの制度の創設といった整備が図られている。このほか、最近では、社会人を含めた多様な学習者の利便に資するため、本校以外の場所で教育研究を行うサテライトキャンパスの設置等も行われている。このような種々の制度的改善と社会人の大学院教育に対する期待があいまって、社会人の大学院への入学者は急激に増加しており、今後の大学院は、社会人教育を対象とした多様な制度を活用し、大学院教育へのアクセスの拡大を一層推進していくことが重要である。
 また、社会人の再学習需要や経済情勢・雇用形態の変化等を踏まえ、企業等におけるキャリアパス形成に応じたリカレント教育、具体的には、企業内の再教育・研修等を目的とした大学院教育プログラムの実施や、大学院の一定のコースないし科目〔群〕を学んだ成果としての履修証明として、学位以外の修了証を授与することなどの積極的な普及・促進が期待される。また一方で、このような大学院における社会人受入れの一層の促進を図るためには、今後は、産業界が社会人の大学院への進学・再入学をより積極的に支援していくことが重要である。例えば、雇用関係をいったん離れてから進学・再入学し学位を取得した者に対して採用の機会を提供し、採用後は十分な処遇を用意することなど、人事・処遇を含めた職務体制・環境の見直しが求められる。さらに、十分な研究実績がある社会人の大学院教育に対する学習需要にこたえるため、その研究歴等を勘案した上で適切な教育・研究指導を行うことなどを目的とした博士課程短期在学コースの創設の検討等を行っていくことが必要である。

  2 若手教員の教育研究環境の改善及び流動性の拡大のための方策
   
 大学院の教育研究機能の活性化を図っていくためには、若手教員の研究環境の改善、とりわけ、博士課程学生からポスドク、助教等といった大学における教員・研究者としてのキャリアの各段階に応じた体系的な研究支援措置の推進を図っていく必要がある。
【具体的取組】
 若手教員のキャリアパスに応じた体系的な教育研究環境の整備

 大学院の教育研究能力を高めていくためには、多様な場での教育活動の実践経験や豊富な研究経歴を有する大学教員・研究者が相互に刺激し合い影響されるような教育研究環境を整えていくことが重要であり、教員・研究者の流動性を拡大していくことが必要である。このような人材の流動性拡大の検討に当たっては、産学官の広い枠組みの中で社会全体の流動性の拡大を推進していくことが必要である。

【具体的取組】
 各大学院による教員の流動性拡大に関する取組の実施
 各大学院における教員の流動性に関する取組の競争的研究資金の審査・評価への反映
 企業等における研究者の流動性に関する取組の実施

   
<若手教員の教育研究環境の改善>
   現在、若手教員の研究上の独立性が確保され、流動的・競争的な環境の中で研究を進められるような研究体制や、研究に専念できるような研究支援体制の整備が十分ではない等、若手教員の教育研究環境の改善に関する課題が指摘されている。
 大学院の教育研究機能の活性化を図っていくためには、教育機能の充実・強化とともに、大学院の施設・設備の充実や博士課程学生から博士課程修了後、流動的な環境に身を置き、自らの研究能力の向上を図るべく研鑽を積んでいるポストドクター(ポスドク)、助教等といった大学における教員としてのキャリアの各段階に応じた体系的な研究支援の推進など若手教員の教育研究環境の改善を図っていく必要がある。
 安全で効果的に教育研究に専念できる教育研究環境の整備に当たっては、計画的に施設・設備の充実に努めることが必要であり、外部資金等も活用しつつ、国内外の優秀な学生や研究者を引き付ける魅力に富んだ世界水準の教育研究環境を実現していくことが望まれる。その際、若手教員の研究環境の改善を図り、大学院の教育研究機能の活性化を促進する観点では、博士課程学生、ポスドク、助教等の研究スペースの確保等、若手教員の活躍の場に配慮しつつ組織的な教育研究を展開していけるような施設マネジメントの取組が極めて重要となる。また、学内での共同利用等を積極的に進めるなど、既存施設・設備を効果的に活用するとともに、大学の枠を超えた共同利用、重点配置等の視点も必要である。
   
人社系大学院
   今後、専門職学位課程の増設など人社系大学院の機能の分化と拡充が見込まれる中で、教員組織、教材、文献等資料、設備、スペースなどの教育研究環境の充実が極めて重要となり、これに対する国等の支援が必要である。
 また、社会人学生を含め、大学院生の多様な学習ニーズにこたえるためには、マルチメディア教材や電子化図書の活用、e-ラーニングの導入なども有効であり、このため、学術情報も含めた情報インフラの整備が必要である。
理工農系大学院
   理工農系の各分野において、諸外国の学生や研究者にとっても魅力ある大学院となるよう、国際水準の教育研究環境が整備されることが重要であり、施設、設備、教育スタッフ、支援スタッフ等の確保に向けて各大学が努力するとともに、国等が各大学の取組を重点的に支援することが求められる。
 科学技術の発展、生物生産活動の高度化、自然環境問題の深刻化、さらには災害問題への対応などから、今後、農場、演習林、臨海臨湖実験所、水産実験所、実習船、地震や防災等に関する研究所などの実験・実習系の附属施設が、大学院における人材育成や研究活動に果たす役割が拡大していくと考えられる。
 このため、研究データ等のネットワーク化や大学を超えた実習活動に供するなど、このような附属施設について、教員や学生の共同利用を積極的に進めていくことが求められる。
 また、工学分野においては、高度で創造的なものづくりをチームワークにより行う「プロジェクト・ベースド・ラーニング」(PBL)などによる実際的な技術教育が導入されてきている。このため、高度で創造的なものづくりを可能とするスペースや設備の整備など実験・実習のための施設機能の向上が望まれる。
 大学院生の多様な学習ニーズにこたえるためには、マルチメディア教材や電子化図書の活用、e-ラーニングの導入などが有効であり、これらの情報環境の整備に努めていくことも望まれる。
医療系大学院
   医療系の各分野において、研究者や高度専門職業人等の人材養成機能及び学術研究機能をさらに一層充実させるためには、国際水準の教育研究環境が整備されることが重要であり、教員の増や教育スタッフ・支援スタッフ等の確保、施設・設備の整備等に伴う予算の充実など、国等による財政支援が不可欠である。

   
 若手教員のキャリアパスについては、各大学において、任期制等を活用し、優秀な人材を適切に活用していくことが求められるが、分野によっては、米国において導入されている任期付雇用期間中に審査を経てテニュア(終身在職権)を取得するテニュア・トラック制を適用することも効果的であると考えられ、本制度の趣旨である若手教員の自立性の確保のためには、スタートアップのための資金の支給、研究スペースの確保、研究支援体制の充実等により、テニュア・トラックにある若手教員が資質・能力を十分に発揮できるよう、研究に専念できる体制を整備していくことが不可欠である。
 若手研究者への支援については、これまで特別研究員事業や間接経費を含めた競争的研究資金の拡充が図られてきているが、今後、若手教員の研究環境のより一層の改善を図るため、博士課程学生、ポスドク、助教等の教員としてのキャリアの各段階に応じた支援を図っていく必要がある。具体的には、主な支援措置として、
1  博士課程学生の段階にあっては、特別研究員事業や各種競争的研究資金によるTA・RA等を通じた支援
2  ポスドクの段階にあっては、特別研究員事業やポスドクを対象に含めた各種競争的研究資金による支援
3  助教にあっては、スタートアップを含めた環境整備(研究費、設備の措置等)や助教等の若手教員を対象とした各種競争的研究資金による支援

などが考えられる。
 なお、このような各種支援策の推進に当たっては、大学院研究科専攻等の組織としての教育研究機能等に支障が生じることがないよう、職務の分担及び連携の組織的な体制が確保されるよう配慮することが重要である。
<教員・研究者の流動性の拡大>
   我が国の大学院の教育研究能力を高めていくためには、多様な場での教育活動の実践経験や豊富な研究経歴を有する大学教員が相互に刺激し合い、影響されるような教育研究環境を整えていくことが重要であり、教員・研究者の流動性を拡大していくことが必要である。
 このような人材の流動性拡大の検討に当たっては、大学のみに閉じた議論を行うことは有効ではない。博士課程修了者は大学教員になるものといった単線のキャリアパスではなく、今後の知識基盤社会にあっては、博士課程修了者が教育研究機関のみならず広く社会の多様な場で活躍していくことや、産業界等と大学を行き来するような複合的なキャリアパスを想定し、産学官の広い枠組みの中で社会全体の流動性の拡大を推進していくことが必要となる。各大学院においては、今後とも教員の採用の公募制、任期制の導入等を進めていくとともに、各大学院の自主的な検討に基づき、採用選考・人事システム等の改革を図っていくことが必要であり、例えば、平成17年4月の「第3期科学技術基本計画の重要政策」(科学技術・学術審議会基本計画特別委員会中間とりまとめ)においても提言されている以下のような取組も考えられる。
1  教員を任期を付さない職に就ける際には、学士課程修了後に所属する大学等の組織を少なくとも一回変更した者を選考することを原則とする(「一回異動の原則」)
2  分野によっては、若手教員が、任期制等により一定期間裁量ある自立した研究者としての経験を積んだ上で、外部審査委員の参加などによる厳格な審査を実施し、その間の業績や研究者としての資質・能力が高いと認められた場合には、任期を付されず、かつ一般に上級の職に昇進させるなどの仕組みの導入(我が国の研究者のキャリアパスや各分野の教員組織等の事情に合わせたテニュア・トラック制の導入)
 また、教育研究機関の組織全体を通じてのシステム改革や人材養成等を目的としている競争的研究資金制度等については、各大学院の採用選考・人事システム改革の取組、又は各種サポート体制の整備等の若手教員の自立性や流動性を高めるための取組を審査・評価の一指標とする等の方策を講じることも考えられる。
 企業等は、我が国で最も多くの研究人材を抱えており、大学等との人材の流動化を進めることにより、多様な研究経歴を持つ研究人材が切磋琢磨する中で技術革新を図り、我が国の産業競争力の強化を図ることが求められている。
  また、今後の知識基盤社会にあっては、新たな知見や価値を創出していく人材を数多く輩出し、知的セクターを形成する研究基盤の重層化を図っていくことが、国全体の持続的な発展のために極めて重要である。このような基盤を形成するために、大学院と社会とを往復しながら研究者等の資質・能力の向上を図っていけるような社会へと転換していくことが求められる。しかしながら、企業等における研究人材の異動回数は比較的少なく、機関を越えての人材の流動性が低いとの指摘がある。
このため、例えば、
1  修士・博士等の学位の種類に応じた適切な採用・処遇に配慮すること、とりわけ博士の学位取得者について、年齢等にかかわらず、課題探求能力等の実力を適正に評価して人材の登用を行うこと
2  企業等の研究者・技術者が、一定期間大学等他の研究の場で研(さん)を積むことや、博士課程へ進学、再入学して学位を取得することへの職務上のサポートや人事・処遇面に係るインセンティブを付与すること
3  大学院・企業等が同様の専門分野で任期付研究者やポスドクに関する人材交流を進めること

など、今後の知識基盤社会に向けた努力が求められる。

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