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人社系大学院 |
<博士課程及び修士課程に共通する教育・研究指導の在り方> |
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人社系大学院における教育・研究指導には、これまで、ややもすると学生の教育がそれぞれ特定の研究室の担当教員による個人的な指導に過度に依存する傾向も見られた。しかし、各課程の目的と教育内容を明確にしつつ、教育・研究指導を実効性あるものにするためには、各専攻において授業内容を体系的に編成するなど、組織的に教育を計画することが求められる。 人社系大学院の各専攻における教育プログラムを、課程制大学院の趣旨にふさわしいコースワークとして機能させ、体系的な教育を提供するためには、例えば以下のように、組織的に教育活動を展開することが必要である。 |
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各専門分野に関する専門的知識を身に付けるための体系的な教育プログラム |
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幅広い視野を身に付けるための関連領域に関する教育プログラム |
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自立的な研究者として必要な能力や技法を身に付けるための教育プログラム |
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最終的に体系的な学位論文を作成することに向けて、その前提となる研究計画の作成や研究の途中経過のまとめなど、研究過程の中間的な段階を設定し、それぞれ設定された水準を満たすことを求める仕組み |
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大学院に進学する学生の学力の実態を踏まえるとともに、特に他分野出身の学生の学修歴にも配慮して、大学院に進学後間もない段階で、専門分野に関する基礎的な教育を行い、当該分野に関する知識及び研究を遂行するための方法論を確立させることが必要である。 大学院修了後、それぞれの専門分野において活躍するためには、当該専門分野に関する学習の基礎を培うとともに、幅広い視野や基本的な思考力を持つことも必要である。 |
<博士課程における教育・研究指導の在り方> |
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優れた研究者を養成する観点から、博士課程の前期・後期の5年間を通じた体系的な教育課程を編成し、その上で、博士課程(後期)にあっては、個別教員による適切な指導に重点を置くなどの工夫が必要である。また、研究能力の育成のみならず、学生に対する優れた指導力を備えた大学教員の育成という視点にも十分配慮した教育を行うことが求められる。 分野によっては、必要に応じて、博士の学位を取得するまでの間に、サマー・インスティテュートや学会等を含め、一定期間外国の大学等で教育やトレーニングを受ける機会を提供したり、国内外の学術雑誌に英語論文を投稿するよう促すことが有効である。 また、修士課程又は専門職学位課程を修了し、高度専門職業人として社会に出た後に、博士課程(後期)に進学した学生に対しては、研究者として必要とされる実験・論文作成をはじめとする研究手法について、補完的な指導を適切に実施するなどの配慮が求められる。 |
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理工農系大学院 |
<修士課程及び博士課程(前期)に共通した教育・研究指導の在り方> |
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従来、多くの理工農系大学院においては、学生に対する教育と教員の研究活動が渾然一体となって行われ、学生に対する教育が研究室の中で完結するような手法が中心となってきた。しかし、この方法は、個々の教員の指導能力に大きく依拠するため、場合によっては、専門分野のみの閉鎖的な教育にとどまり、産業界等で求められる幅広い基礎知識や社会人として必要な素養が涵養されにくいなどの課題が指摘されている。 今後は、個々の教員による指導はもとより、各研究科・専攻における組織としての計画的な教育に力点を置いていくことが、より効果的な場合が多いと考えられる。 理工農系大学院における教育プログラムが、専門的知識と幅広い視野を習得させるものとするためには、例えば以下のように、各研究科や専攻において組織的に教育活動を実施することが必要である。
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各専門分野に関する専門的知識を身に付けるための体系的な教育プログラム |
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幅広い視野を身に付けるための関連領域に関する教育プログラム |
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自立した研究者や技術者等として必要な能力や技法を身に付けるための教育プログラム |
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また、学術研究活動・産業経済活動のいずれにおいても、国際的に活躍し得る人材を育成する観点から、英語をはじめとする語学教育の充実に一層努めていくことが必要である。 理工農系の人材には、科学技術と社会との関係や社会の安全に関しても高い素養を持つことが求められる。このため、倫理や法規制など、幅広い社会科学的分野について、専門教育の内容・程度に応じて適切に教育されることが重要である。
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<博士課程(後期)における教育・研究指導の在り方> |
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優れた研究者を養成する観点から、前期・後期の5年間を通じて体系的な教育課程を編成し、その上で、後期課程にあっては、教員の研究活動に参画させるなどの工夫を講じることが必要である。 学生の国際性を涵養する観点からは、サマー・インスティテュートや学会等を含め、一定期間外国の大学等で教育やトレーニングを受ける機会を提供することが有効である。なお、このような取組については、博士課程(後期)のみならず、修士課程段階においても有効である。 修士課程を修了し、高度専門職業人として社会に出た後に、博士課程(後期)へ進学した学生に対しては、研究者として必要な実験・論文作成をはじめとする研究手法などについて、適切な補完的な教育を実施するなどの配慮が求められる。
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医療系大学院 |
<各分野共通の教育・研究指導の在り方> |
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医療系大学院における教育・研究指導には、これまで、ややもすると大学院学生が所属する各研究室の指導教員に教育を任せ切りにするという傾向も見られた。しかしながら、先に示したように大学院の目的と教育内容を明確にし、教育・研究指導を実効性あるものにするためには、専攻単位で組織的に教育活動を計画することが重要である。 また、専攻を単位とする組織的な教育活動が、動物実験や遺伝子実験、放射線の取扱いなど単に様々な診療上や研究上の規制に対応した知識・技術のみを修得させるのではなく、体系的な教育を提供するという課程制大学院の趣旨に沿ったふさわしいものとなるよう、関係者が努力していくことが強く求められる。 具体的には、幅広い視野と当該専門分野での専門的知識を修得させるため、例えば次のような、専攻を単位とする組織的な教育活動が効果的と考えられる。
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幅広い視野を身に付けるための関連領域に関する組織的な教育活動 |
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各専門分野に関する専門知識を身に付けるための体系的かつ組織的な教育活動 |
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自立的な研究者として必要な能力や技法を身に付けるための組織的な教育活動 |
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このほか、単位の認定や最終試験による課程修了資格の認定において客観性を確保することや、学外や関連分野の教員等も交えた学位論文審査を実施することが適当である。 さらに、研究遂行上又は職業上必要な資格の取得や、関連学会における認定資格(専門医など)の取得のための講習や研修と、医学・歯学系大学院博士課程における教育とは、本来、趣旨・目的を異にするものであるが、専門分野の資格取得のための本人の負担等を考慮すると、大学院の教育課程の中に当該資格取得に必要な教育内容を取り込む工夫も適当と考えられる。
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<各分野ごとにおける教育・研究指導の在り方> |
医学・歯学系大学院(博士課程)について |
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研究者養成を主たる目的とする教育課程においては、研究者としての基本的素養を身に付けさせるという観点から、研究者に求められる医学・生命科学研究の遂行に必要な基本的知識・技術をコースワークで修得させることが必要である。 優れた研究能力等を備えた臨床医・臨床歯科医等の養成を主たる目的とする教育課程においては、臨床医・臨床歯科医など高度の専門性を必要とされる業務に必要な診断・検査技法、手術手技、態度態度を修得させるほか、臨床医・臨床歯科医に求められる資質や能力を涵養するために必要な内容をコースワークに盛り込むなど、体系的かつ組織的な教育活動が必要である。 また、併せて、疾病の成因、新しい安全な診断・検査・治療法の開発・評価、臨床疫学など、患者に対する診療を通じた臨床研究のテーマを課し、博士論文作成のための研究指導を行わなければならない。 医学・歯学系大学院が、その教育課程を、研究者養成と、優れた研究能力等を備えた臨床医・臨床歯科医等の養成の二つに分けて明確化するに当たり、それぞれの課程の教育・研究指導体制が硬直化することのないよう、教育・研究指導教員が、双方のコースワークに携わることができるようにするほか、学生による双方の教育課程からの単位選択の自由度を一定程度確保するなど、相互の連携を保つような配慮が求められる。
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医学・歯学系大学院(修士課程)について |
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医学・歯学系の修士課程の大学院は、医学部・歯学部卒業者以外を対象とし、当該課程修了後に医学・歯学系の博士課程に進むことを想定して設置されているが、実際には、課程本来の目的に沿って、4年の医学・歯学の博士課程と合わせた研究者養成のプロセスを担っている面と、医学・歯学に関する専門知識を有し、幅広く医療関連分野で活躍する高度専門職業人の育成を担っているという両面があり、このような現状に対応した教育が必要である。
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薬学系大学院について |
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現行4年間の修業年限である薬学の学部教育は、臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とする場合、修業年限が6年(それ以外は現行のまま4年)とされ、平成18年度入学者から適用される。 このことにより、4年制の基礎薬学等に係る学部を母体とする大学院は、5年制(区分制又は一貫制)の博士課程として研究者養成を主たる目的とすることが予想されるが、新たな制度が適用されたことに伴い、その教育内容については、今後、関係者により検討されることとなっている。 この場合において、幅広い基礎知識の修得ができるようにする観点から、必要な科目をコースワークに盛り込む工夫に加え、研究者として自立するために必要なプロジェクト企画力などの涵養も重要であることを十分踏まえた検討がなされることを期待する。
また、臨床現場の薬剤師業務に精通した基礎薬学研究者の養成が必要とされていることにも留意する必要がある。 6年制の臨床薬学等に係る学部を母体とする大学院は、4年一貫の博士課程として優れた研究能力等を備えた臨床薬剤師の養成を主たる目的とすることが予想されるが、その教育内容については、臨床を通じた薬学研究の在り方を中心に検討されることとなっている。その際、専門薬剤師として活躍するための高度専門職業人養成プログラムの在り方についても、今後検討がなされることを期待する。
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看護学系・医療技術系大学院について |
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看護学系・医療技術系分野の区分制博士課程(前期)にあっては、一専攻当たりの学生数が少ない場合などは、同一専攻の中で、博士課程(後期)修了後に教育研究職に就く者のための研究者養成プログラムと、前期課程修了後に専門職に就く者のための高度専門職業人養成プログラムを併せ持つなどの工夫が必要である。 この場合、看護学系・医療技術系分野は特に実践性が求められることから、いずれのプログラムにおいても、専門職業人としての一定の実務経験を経てから入学させることが望ましい。 研究者養成プログラムにおいては、研究者としての基本的研究手法を身に付けるために必要なコースワークを整備するとともに、論文作成を通して、研究者に求められる批判力、論理性、表現力の涵養が重要である。また、実践的な研究テーマと基礎的な研究テーマの両方が教育できるような体系的な教育プログラムが必要である。 高度専門職業人養成プログラムにおいては、看護や医療技術の現場において、将来指導的立場で活躍できる人材を養成する観点から、コースワークや実践体験を含んだプログラムを整備し、当該専門領域に係る学際的な知識、実践能力、教育能力を育成する体系的な教育プログラムでなければならない。 また、専門領域での認定資格等に係る教育を大学院の教育課程の中に効果的に取り込む工夫も求められる。 博士課程(後期)においては、研究者の育成を主たる目的とすることから、研究能力の育成に必要な理論構築や技術開発に関する方法論のコースワークを含んだ教育プログラムとすることが適当である。
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公衆衛生分野の大学院について |
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公衆衛生分野の大学院については、欧米の状況も踏まえ、2年制の専門職大学院として整備を進めていくことが必要であり、また、それに必要な教員の養成やカリキュラムの開発、修了者の社会での活躍の場の拡大など、関連する施策を進めていくことが求められる。また、その場合の教育内容については、各専門領域に共通するコア科目の修得と、各専門領域における専門科目の修得とを組み合わせるような工夫が必要である。
博士課程(後期)においては、当該分野における研究者養成とこの分野の教育者の育成を主たる目的とし、その目的にふさわしい教育内容とすることが適当である。
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