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我が国の大学・短期大学への進学動向に関して,平成9(1997)年1月の大学審議会答申「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」では,18歳人口の減少に伴い入学者が漸減し,平成21(2009)年度には全志願者に対する入学者の割合である収容力は100パーセントになると試算されていた。しかし,その後の志願率の伸び悩みを考慮して同答申と同様の考え方に基づき再計算を行うと,大学・短期大学の収容力は2年早く平成19(2007)年には100パーセントに達するものと予測される。
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大学・短期大学の18歳人口を基準とした進学率は,1960年代前半に15パーセントを超えた後急激に上昇して昭和50(1975)年度には38.4パーセントにまで達し,高等教育の大衆化が急速に進行した。その後,進学率は一時的に安定し,平成に入ってから再び上昇して平成11(1999)年度に約49パーセントとなり,ここ数年はほぼ一定で推移していた。大学・短期大学の進学率が一定となっていた要因は必ずしも単純ではないが,長期にわたる経済の停滞や専門学校への進学率等の影響もあると考えられる。
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専門学校を含めた進学率は,昭和61(1986)年度からほぼ 一貫して増加し続けており,平成16(2004)年度には74.5パーセントに達している。この意味では,我が国の高等教育は,同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階に既に突入しており,これにふさわしいものへと変革を迫られていると言うことができる。
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社会の高度化・複雑化・専門化の進展等に応じ,今後は,高度な課題探求能力や専門的知識等を有することが社会生活を送る上で広く求められるようになっていくと考えられる。また,少子化の進行に伴い若年労働人口が減少する中で我が国が引き続き発展していくためには,社会の各分野で活躍できる質の高い人材の供給を充実・確保することは重要である。
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ただし,今後の大学・短期大学の進学率については,近年の傾向から敷衍(ふえん)すれば,18歳人口が減少する過程では若干の上昇が考えられるものの,約120万人前後で推移する時期にあっては,大幅な拡大は必ずしも見込めない状態にある。また,社会人学生や外国人留学生については,主として大学院(修士・博士・専門職学位課程)段階での高度な学習需要の着実な伸びが期待されるが,学部(学士課程)・短期大学段階等では,現状のままではとの比較において,量的に大幅な拡大は必ずしも見込めない状態にある。さらに,パートタイム学生についても,その定着と発展に関しては今後の展開に委ねられる部分が大きい。
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こうした様々な変化を背景に考えると,全体規模の面のみからすれば,高等教育についての量的側面での需要はほぼ充足されてきており,ユニバーサル段階の高等教育は既に実現しつつあると言うことができる。
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しかし,ユニバーサル段階の高等教育が真に内実を伴ったものとなるためには,単に全体規模だけでなく分野や水準の面においても,社会人等を含めた多様な学習者個々人の様々な需要に対して高等教育全体で適切に学習機会を提供するとともに,学生支援の充実等により学習環境を整えていくことが不可欠である。その意味で,誰もがいつでも自らの選択により適切に学べる機会が整備された高等教育,すなわち,学習機会に着目した「ユニバーサル・アクセス」の実現が重要な課題である。このような見地からも,より高い水準の学習需要への的確な対応等を含めた高等教育機関相互の切磋琢磨(せっさたくま)は引き続き重要である。
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今後の我が国において,個人が自己啓発を図り,より一層豊かで潤いのある人生を送ることを目指して,人々の多様な生涯学習需要は増大する傾向にあることから,社会人が高等教育機関で学ぶ機会もますます増大していくものと考えられ,この意味でも「ユニバーサル・アクセス」の実現が求められている。
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このことはまた,「学(校)歴偏重社会」が次第に過去のものとなり,高等教育機関と実社会との「往復型社会」への転換が加速するであろうことをも意味する。
かつて,我が国社会は「18歳のある1日に,どのような成績をとるかによって,彼の残りの人生は決まってしまう」ような学歴偏重の社会であるとOECD教育調査団(昭和45(1970)年)によって分析されたことがあった。今日では,実社会において,人生の比較的早い段階での学歴・学校歴のみでその人の将来の社会的な処遇が決定されないことは明らかと言ってよい。しかし,依然として人々の意識の上では学歴偏重の考え方も根強く,意識と現実との乖(かい)離を解消する努力がなお必要である。
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産業構造の変化や雇用の急速な流動化 を背景とした昨今の社会人の大学院での学習需要の高まりを見ると,職業生活の上でも,職場での肩書きや専門的資格のみに依拠するのでなく,自己を知的にリフレッシュして付加価値を高めるという意識が急速に社会全体に根づき始めたようにも見える。今後は,高等教育機関と実社会双方の努力により,社会人が必要に応じて高等教育機関で学習を行い,その成果をもって更さらに活躍する「往復型社会」への転換が加速するものと期待される。
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また,男女共同参画や少子高齢化の一層の進展等に伴い,女性や高齢者が就労する機会が一層増大することも予想される。高等教育機関は,人々の幅広い知的探求心や学習需要にこたえて,必要なときにいつでも学習できる環境と多様なメニューを提供することがますます求められる。
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