(ア) |
大学の公共性と自律性
○ |
大学は、学術の中心として深く真理を探求し専門の学芸を教授研究することを本質とするものであり、その活動を十全に保障するため、伝統的に一定の自主性・自律性が承認されていることが基本的な特質である。 |
○ |
大学は、学術研究の推進や高度な人材の養成を通じて歴史的普遍性や国際性を志向するものであるとともに、時間的場所的な諸条件を限定された一個の社会的な存在でもある。したがって、大学についてはその自主性の尊重が本質的要請であると同時に、大学には自律的に時代や社会の期待に応えていく姿勢が求められる。 |
○ |
社会が発展していくためには、その基盤として、新しい知識を創造するとともに高度に活用する高い専門性を持った人材を育成することが不可欠である。人類の長い経験と叡智の中で、これを最も良く担う社会的な存在として確立されてきたものが大学に他ならない。大学は、社会と関連性を保ちつつも一定の距離を置いた自主的・自律的な存在として、教育と学術研究を通じて社会全体の共通基盤の形成に寄与してきたのである。
今後の知識基盤社会において、我が国が伝統的な文化を継承しつつ国際的な競争力を持って持続的に発展するためには、社会全体の共通基盤を形成するという大学の公共的役割が極めて重要である。 |
○ |
知識基盤社会においては、新しい知識・技術・情報を活用する専門性とともに幅広い素養を身につけて積極的に社会を支える人材も広く求められる。このような人材は、大学のみならず高等専門学校、専門学校、更には企業内教育等の社会教育においても育成することが期待される。しかし、こうした多様な機関による人材育成は、社会全体の共通基盤の形成という大学の役割を土台として行われるものであり、社会にとっての大学の重要性を一層高めるものと考えられる。 |
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(イ) |
「学位を与える課程」概念の明確化
○ |
学位は、大学教育又は大学院教育修了相当の知識・能力の証明として、学術の中心として自律的に高度の教育研究を行う大学が授与するものという原則は、国際的にも定着している。 |
○ |
このため、学位に関する検討を行うに当たっては、学位が国際的通用性のある大学教育修了者相当の能力証明として発展してきた経緯を踏まえ、課程を修了したことを表す適切な名称の在り方、他の学位との相互関係等を踏まえて審議していく必要がある。 |
○ |
現行法令上、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位という「学位を与える課程」と考える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要があるのではないか。 |
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(ウ) |
学士課程 |
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《学士課程の多様性》
○ |
学士課程段階での教育には「教養教育」や「専門基礎教育」等の色々な役割が期待される一方で、職業教育志向もかなり強い。したがって、今後の学士課程教育は、様々な個性・特色を持つものに分化していくものと考えられる。例えば、学士課程段階では「21世紀型市民」の育成を目指し、教養教育と専門基礎教育を中心として主専攻・副専攻を組み合わせた総合型教養教育を基本としつつ、専門教育は修士・博士課程や専門職学位課程の段階で完成させるものや、学問分野の特性に応じて専門教育完成型のもの等、多様で質の高い教育を展開することが期待される。 |
○ |
大学(学士課程段階)への進学率の上昇や高等学校教育の多様化等に伴い、入学者の能力・適性や志向も多様化してきていること、また、18〜21歳のフルタイム学生(いわゆる伝統的学生)のみならず社会人学生や外国人留学生が増加していること等を踏まえ、学士課程・短期大学の課程等の大学教育は、全体として一層の多様性を確保することが必要である。そのため、各高等教育機関ごとに個性・特色を一層明確化するとともに、誰もがアクセスしやすい高等教育システムを構築することが求められている。 |
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《教養教育》
○ |
新たに構築されるべき「教養教育」は、学生に、グローバル化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を与えるものでなければならない。各大学は、理系・文系、人文・社会・自然といった、かつての一般教育のような従来型の縦割りの学問分野による知識伝達型の教育や単なる入門教育ではなく、専門分野の枠を超えて共通に求められる知識や思考法等の知的な技法の獲得や、人間としての在り方や生き方に関する深い洞察、現実を正しく理解する力の涵養に努めることが期待される。 |
○ |
このような観点から、教養教育に携わる教員には高い力量が求められる。加えて、教員は教育のプロとしての自覚を持ち、絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要がある。入門段階の学生にも高度な知識を分かりやすく興味深い形で提供したり、学問を追究する姿勢や生き方を語ったりするなど、学生の学ぶ意欲や目的意識を刺激することも求められる。 |
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《専門教育》
○ |
職業的素養に関わる専門教育については、専門職大学院の制度ができたことを契機として、学士課程段階を中心に完成させるものと修士課程・専門職学位課程段階を中心に完成させるものを、学問分野の特性や各種職業資格との関連に応じて具体的に仕分けして考えていく必要がある。 |
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《カリキュラム、年限、単位》
○ |
学士課程は、基本的役割として、伝統的学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培う機能を担っており、一定水準以上の教養教育や専門教育を行うことが不可欠である。そこで、学士課程教育の充実のため、学問分野ごとにコア・カリキュラムが作成されることが望ましい。また、このコア・カリキュラムの実施状況は、機関別・分野別の大学評価と有機的に結びつけられることが期待される。 |
○ |
学士課程教育の修業年限については、国際的通用性の確保や「単位」の実質化等に十分留意しつつ、検討していく必要があるのではないか。従前通り学士課程を4年かけて卒業する経路のほか、修士・博士・専門職学位課程との関係では、学習経路が多様化するものと考えられる。この場合、特に〔3−3〕(1)で の機能を重視する大学が学士課程教育を総合的教養教育型にする場合においては、学士課程3年修了による進学が積極的に活用され、普及するものと予想される。
また、専門教育完成型においては、4〜6年の間で分野の特性に応じて修業年限が定められる。 |
○ |
単位の考え方について、基準上と実態上の違い、単位の実質化や学修時間の考え方と修業年限の問題等を改めて整理した上で、課程中心の制度設計をする必要がある。 |
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《就職活動》
○ |
企業採用に向けた就職活動は、学士課程教育に実質的に支障のないよう配慮することが必要である。さらに、修了・卒業直後の1年間での様々な活動体験や短期在外経験等を重視することも期待される。 |
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(エ) |
大学院(修士・博士・専門職学位課程共通)
○ |
大学院教育は、学士課程の教養教育や専門基礎教育を中心とした素養の上に立ち、専門性の一層の向上を図るための、深い知的学識を涵養する教育を行うことが基本である。 |
○ |
我が国の課程制大学院制度の趣旨を踏まえて、それぞれの課程の役割・目的を明確にしつつ、体系的な教育内容・方法(教育課程)の充実を図るべきである。このような観点から、大学院の教育研究機能の強化を検討する必要がある。 |
○ |
このため、学士課程教育との適切な役割分担、学生・教員の流動性の向上、教員の教育・研究指導能力の向上等について、分野別・機能別に、今後、具体的に検討を深化させる必要がある。 |
○ |
大学院教育の実質化のための重要課題としては、以下のとおり。 |
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《基本的な課題》
a) |
人材養成の観点からの大学院の機能の明確化 |
b) |
大学院教育と学士課程教育、大学院以外の専門教育との関係の明確化 |
c) |
大学院教育の実質化のための大学院組織の在り方 |
《特に分野別検討が必要と考えられる課題》
d) |
課程制大学院の趣旨に沿った教育課程や研究指導の確立
・ |
教員の教育・研究指導能力の向上のための方策 |
・ |
社会のニーズと大学院教育のマッチングのための方策 |
・ |
研究者・技術者等として必要な高度な素養の涵養の在り方 |
・ |
教員・学生の流動性の拡大のための方策 |
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e) |
研究者養成機能の充実
・ |
博士課程における体系的な教育課程の確立 |
・ |
大学院の研究機能の強化(施設・設備など) |
・ |
学生に対する経済的支援方策 |
・ |
大学院修了者のキャリアパスの多様化の促進方策 |
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f) |
実効性ある大学院評価の確立 |
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○ |
これらを踏まえ、世界最高水準の質を誇る大学院を拡充・整備する観点から、国は、大学院教育の実質化のための5カ年計画を設定する等、集中的な取組期間を設け、大学の自主的かつ意欲的な計画に積極的な支援を行っていくことも一案である。 |
○ |
近年の学問分野の学際化・融合化や、 幅広い知識と柔軟な思考能力を持つ人材等の社会において求められる人材の多様な要請等に対応する手段として、ダブルメジャー(専攻分野以外の分野の授業科目を体系的に履修させる組織的な取組。)やジョイントディグリー(一定期間で複数の学位を取得できる履修形態。)は有効な方策と考えられる。 |
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(オ) |
修士課程
○ |
修士課程は、 研究者等養成(の第1段階)、 高度専門職業人養成、 我が国の知識基盤社会を支える「21世紀型市民」の高度な学習需要への対応の三つの機能を担う。各大学院においては、教育目標など課程の目的・役割を明確化し、体系的な教育課程を編成する必要がある。 |
○ |
我が国の知識基盤社会を支える「21世紀型市民」の養成に必要な教育としては、例えば、
・ |
グローバル化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を与える教育を基本とし、課題に対する柔軟な思考能力と深い洞察に基づく主体的な行動力を兼ね備えるための高度な素養を涵養する教育 |
・ |
学生の知的好奇心などに応え、特色ある多様かつ豊富な教育プログラムにより幅広い視点を培う教育、又は、 論文作成を基本とした教育に限らず、養成すべき人材を念頭に関連する分野の知識・能力を修得させる教育など、学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修させるコースワークを重視した教育 |
|
等が重要である。
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(カ) |
博士課程
○ |
博士課程は、創造性豊かな優れた研究・開発能力を持ち、産学官を通じたあらゆる研究・教育機関を中核となって担う人材/確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員を養成する課程として、明確な役割を担うことが適当であり、体系的な教育課程を編成する必要がある。 |
○ |
これらの人材の養成に必要な教育としては、例えば、
・ |
海外、企業での研究経験など、多様な研究活動の場を通じて研鑽を積ませる教育 |
・ |
学生同士が切磋琢磨する環境の中で、自ら研究課題を設定し研究活動を実施すること等の学生の創造力・自律力を磨かせる教育 |
・ |
高度な研究開発プロジェクトの企画・管理等のマネジメントを行える人材を養成するために、学生に一定の責任と権限を与え、プロジェクトのマネジメント能力を高める教育 |
・ |
加えて、大学教員を目指す学生に対しては、学生に対する教育方法の在り方を学ばせる教育 |
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等が考えられる。
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(キ) |
専門職学位課程
○ |
専門職学位課程は、法曹・MBA・MOT(技術経営)・公共政策等をはじめとして多様なものの創設・拡充が期待される。理論と実務を架橋する実践的教育や職業的倫理の涵養が充実され、社会人等多様な学生を受け入れて各種の高度専門職業人が養成されることを通じて、社会全体の流動性の向上と活性化に大きく貢献することが期待される。 |
○ |
専門職学位課程は、幅広い分野の学士課程の卒業者や社会人を対象として、特定の高度専門職業人の養成に特化して、国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養する課程として、明確な役割を担うことが適当である。 |
○ |
他方で、専門職大学院制度の創設により、大学院教育と専門学校教育との関係が曖昧になっているとの指摘がある。
・ |
専門学校は、実践的な知識・技術等を習得する職業教育・専門技術教育機関として定着。 |
・ |
専門職学位課程における教育は、専門学校とは異なり、大学の学士課程段階の教養教育等を基礎として、特に「理論と実務の架橋」を重視し、高度の専門性が求められる特定の職業を担うための知識・能力を養うもの。 |
専門職大学院及び専門学校は、この目的・役割の違いに十分留意しつつ、それぞれの特色を活かし、共に社会が求める人材を養成する機関として一層発展していくことが期待される。 |
○ |
高度専門職業人の養成に必要な教育としては、例えば、
・ |
「理論と実務の架橋」を目指すための、産業・経済社会等の各分野で世界の最前線に立つ実務家教員を含めてバランスの取れた教員構成の下での国際的な水準の高度で実践的・継続的な教育 |
・ |
単位認定を前提とした長期間のインターンシップにより、学問と実践を組み合わせた教育 |
・ |
特定の職業的専門領域における職業的倫理を涵養する教育 |
・ |
コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を磨かせる教育 |
等が重要である。 |
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(ク) |
短期大学の課程
○ |
18歳人口の減少や女子の4年制大学志向の高まりなど、短期大学を取り巻く社会や時代の変化の中で、短期大学は他の高等教育機関と異なる個性・特色の明確化に一層努める必要がある。 |
○ |
従来から、短期大学の課程の機能としては、 教養教育と実務教育が結合した専門的職業教育、 より豊かな社会生活の実現を視野に入れた教養教育、 地域社会と密着しながら社会人や高齢者などを含む幅広い年齢層に対応した多様な生涯学習機会の提供等が挙げられてきた。昨今の各種職業資格の高度化の動向を勘案すれば、 と の機能は事実上一体化(教養教育機能)しており、 の機能(生涯学習機能)も引き続き挙げられる状況にあると考えられる。 |
○ |
短期大学の課程の教養教育機能は、ユニバーサル段階の身近な高等教育の一つとして、また、米国のコミュニティ・カレッジのように地域と連携協力して多様な学習機会を提供する生涯学習機能は、知識基盤社会での土台づくりとして、それぞれ新時代にふさわしい位置づけがなされるよう、積極的な短期大学の課程の教育の改革が期待される。 |
○ |
学位取得のための教育と技能・資格取得のための教育の性格の違いを内容面から特徴づけるのは教養教育であり、短期大学における教養教育は、4年制大学における教養教育と同様に、自己の人間としての在り方・生き方に関わる教育であると考えられる。短期大学の課程の教育上の特色は、こうした「大学における教養教育」を主として女子教育や社会人・高齢者等の幅広い学習需要に的確に対応したアクセスしやすい形で提供する点にあると考えられる。 |
○ |
また、短期大学を含めた大学における実務教育・職業教育は、教養教育の基礎の上に立ち、理論的背景を持った分析的・批判的見地からのものである点で、他の機関により提供される実務教育・職業教育とは異なる特徴があるものと考えられる。短期大学関係者は、4年制大学の学士課程に準ずる実質を備えた短期大学の課程の教育上のこうした特徴を一層明確化するよう、教育の充実に不断の努力を傾注する必要がある。 |
○ |
短期大学は、今後とも、教育内容・方法や経営状態に関する積極的な情報開示や充実した事後評価の仕組みの確立等による社会的信頼・評価の確保に努める必要がある。 |
○ |
以上の点を踏まえつつ、短期大学における教育課程の修了を制度上の学位に結びつけることについて、国際的通用性にも十分留意しつつ、検討すべきである。 |
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