○ |
我が国社会は、戦後の荒廃から立ち上がり、高度経済成長期や2度の石油ショック後の安定成長期、その後のバブル期等を経て、20世紀末には「キャッチアップ」の時代を脱して「フロントランナー」の時代へと足を踏み入れた。欧米の先進的な経済・文化を吸収し改良・模倣するばかりでなく、政治・経済、産業、科学技術・学術、芸術・文化、スポーツ、環境等様々な領域で世界のリーダーの一員として新たなモデルを発信していくことができるのか、先行き不透明な時代であればこそ、我が国社会全体の、そして国民一人ひとりのトータルな意味での力を発揮できるのかが問われている。こうした意味でも、「知識基盤社会」化を通じた、物質的経済的側面と精神的文化的側面のバランスのとれた人間性を追求していくことが求められる。 |
○ |
我が国の総人口は、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、平成18(2006)年に1億2,774万人でピークに達した後、長期の人口減少過程に入り、平成62(2050)年には約1億60万人になるものと予測されている。また、我が国は世界でも例を見ない速度で少子高齢化が進み、平成62(2050)年には生産年齢人口(15〜64歳)約1.5人で老齢人口(65歳以上)1人を支える状況になると試算されている。人口減をどのように捉えるか、社会のあらゆる分野でシステムの再構築が重要な課題となっている。 |
○ |
我が国の経済は、バブル崩壊以後の停滞・低迷期から脱し、今後は回復・上昇局面に差し掛かることが期待される。その中で、産業構造の転換とともに産業間移動による労働力調整の必要性が増大し、雇用形態も大きく変化・多様化して、人材の流動化や企業内研修の外部委託化が一層進んでいくものと考えられる。その過程で、いわゆる「勝ち組」「負け組」といった表現が使われるように企業間や個人間の経済的格差が拡大することも懸念され、個人の職業能力の開発・向上と再挑戦の可能な社会システムを整備することが課題となってこよう。
このような背景の下に昨今の社会人の大学院での学習需要の高まりを見ると、自己を知的にリフレッシュして付加価値を高めるという意識が急速に社会全体に根づき始めたようにも見える。今後は、社会人が必要に応じて高等教育機関で学習を行い、その成果をもって更に活躍する、高等教育機関と産業界等との「往復型社会」への転換が加速するものと予測される。 |
○ |
また、高齢化の進展や国民一人ひとりが物質的豊かさからゆとりや心の豊かさ等の多様な価値・自己実現を求めるようになっていることからも、生涯学習需要が一層高まると考えられる。高等教育機関は幅広い年齢層の人々の知的探求心に応えて、必要なときにいつでも学習しやすい環境と多様なメニューを提供することがますます求められる。 |
○ |
個人を取り巻く基本的な学習環境としては家庭・学校・地域社会が挙げられるが、我が国の地域社会の在り方として、コミュニティ(地域共同体)の解体・消失が指摘されて久しい。少子化・核家族化の進行や一人世帯の増加等を踏まえ、伝統的な地縁・血縁に代わる、新時代にふさわしい人と人との関係性の再構築が求められる。この場面でも、他者を理解し他者とコミュニケーションをとれる力がますます重要となる。 |
○ |
人類にとって豊かな未来を拓く原動力となる科学技術・学術は、様々な面で著しく進展し、その重要性が一層高まるであろう。とりわけ人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって、科学技術・学術の進展は国家社会の発展の基礎であるとともに、人類全体・国際社会への貢献のためにも極めて重要である。
今後、科学技術に関しては、平成18(2006)年以降の第3期科学技術基本計画が定められ、科学技術創造立国に向けた取組が加速されるものと予測される。
学術研究に関しては、高度化・専門化が進み、細分化された一つの学問分野の消長の期間が短縮されて変化が激しくなる一方、融合化・総合化の傾向も強まるものと考えられる。
科学技術・学術の進展の中にあっては、地球環境や生命倫理等の課題に見られるように、科学技術・学術と社会との調和のとれた関係を保つことがますます重要となり、研究者の社会的責任も一層重くなるものと考えられる。 |