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  通信制博士課程の制度化
 
 自宅や職場から通学できる範囲に必ずしも希望する大学院がないことや,職場環境によって通学可能な時間帯が限られることなど,地理的・時間的制約等から大学院レベルの学習を希望しながら,その実現に困難を伴う社会人が少なくないと考えられる。通信制大学院は,このような学習需要に,より適切に応えていくために,授業による比重が高い修士課程について,専攻分野によっては通信教育による十分な教育効果を得ることが可能であるとの判断の下,平成9年の大学審議会答申「通信制の大学院について」の提言を受けて,平成10年に制度化されたものである。平成13年度現在,7大学9研究科22専攻が設置されている。
 通信制博士課程の設置については,上記答申において,博士課程は研究課題に即した研究指導と学生自身の自発的な研究活動が中心であるため,通信教育により十分な教育効果が得られるか否かについては慎重な検討が必要であり,修士課程の開設・運営状況,実績等を見ながら判断することが適切であるとされたため,制度化が見送られ,現行制度上認められていない(大学院設置基準第25条)。
 一方,メディア教育開発センターが取りまとめた「通信制大学院修士課程に関わる調査研究(中間報告)」(平成13年9月)によると,通信制修士課程在学者のうち9割以上が博士課程の開設を望んでおり,修士課程での研究活動を継続し,より高度な学習を行いたいと考えている。また,現在通信制修士課程を開設している大学院においては,社会人が主な対象であり,学生の多くは明確な目的や強い問題意識を持っており,その学力及び教育効果については通学制課程の学生と比較して遜色がなく,博士課程において研究を行う能力を備えていると考えており,通信制博士課程の制度化を望んでいる。
 通信制修士課程を修了した学生が博士課程での学習を行うことを希望する場合,現行制度上,通学制博士課程において学習するほかないが,その授業の方法としては,印刷教材等による授業や放送授業が認められていないことから,当該博士課程においてメディアを利用して行う授業を実施していない場合には,自宅や職場の近くに大学院が存在しない社会人にとって,引き続き学習を行うことが困難な状況にある。また,大学院における研究指導についても,通学制では「直接の対面指導を行うことが原則であること」(「大学設置基準等の一部を改正する省令等の施行等について(平成10年3月31日文高大第36号事務次官通知)」)とされていることから,上記の制約を有する社会人にとっては研究指導を受ける際に困難が生じる場合もある。
 今後,我が国の大学院においては,社会人の多様な学習需要への対応を積極的に図っていくことが必要であり,以上のような状況を踏まえ,社会人が,修士課程における学習の成果に基づき,継続してより高度な研究を行う機会を拡大し,社会の多様な方面で活躍し得る高度の能力と豊かな学識を有する人材を養成する観点から,制度的に通信制博士課程の設置を認めることが適当である。

(1)  分野について
   現行制度上,通信制修士課程においては,通信教育によって十分な教育効果が得られる専攻分野について,通信教育を行うことができることとされている。
 現在設けられている通信制修士課程は,多くの場合,実験・実習を必要としない学習内容となっており,一部実験を必要とする専攻においては,併設されている通学制大学の施設を利用し行っている状況にある。
 これらを踏まえ,通信制博士課程については,各大学院が専攻分野毎にその学習内容を考慮し,主に通信手段を活用しながら,必要に応じて実験・実習等を併せ行うことにより,十分な教育効果が得られると判断される場合において,通信教育を行うことができることとすることが適当である。

(2)  教育方法,研究指導について
   現在設置されている通信制修士課程においては,従来の印刷教材等の郵送による授業や放送授業,面接授業に加え,電子メールを活用したレポート指導やグループ討議,メディア・スクーリング(テレビ会議システムを利用した双方向・リアルタイムで行う授業)を行うなど,教育方法について様々な工夫が行われている。また,研究指導の方法については,スクーリングを行ったり,大学院によっては情報通信技術を積極的に活用したりすることにより,指導教官と学生との接触機会をより多く確保するための努力が行われている。さらに,補助教員やティーチング・アシスタントを配置するなど,個々の学生の学習需要に対応したきめ細かな指導体制を整えている大学院も見られる。
 これらを踏まえ,通信制博士課程においては,研究課題に即した適切な研究指導と学生自身の自発的な研究活動が中心であることに鑑み,情報通信技術の積極的な活用と併せ,必要に応じて,面接指導の機会を適切に設けること等により,教員が学生に対し十分な指導を行える体制を築くことが不可欠である。その際には,学生が目的をもって研究活動を遂行しやすいよう,具体的にどのような成果を求め評価していくのかを予め明確にし,指導していくことが求められる。
 また,各大学院においては,個々の学生の多様な研究需要に対応するため,研究活動に当たっての指導・助言を行うティーチング・アシスタント,チューター,アドバイザー等の適切な配置に努めることが必要である。
 さらに,学習過程において,学生間で意見交換や情報交換等の交流を行うことは,相互に刺激を与え合い,研究活動にも好ましい影響をもたらし得ると考えられることから,各大学院においては,学生が交流できるような配慮を積極的に行うことも必要である。

(3)  教育研究水準の確保,評価制度について
   現在,通信制修士課程においては,入学者選抜において,学力試験(記述試験,小論文),面接・口述試問のほか,研究計画書の提出を義務付けることにより,研究テーマや研究目的,志望動機などが明確な学生を受け入れる努力を行っている。また,授業や研究指導においては,情報通信技術を積極的に活用することにより効果をあげることに努めており,修士の学位を授与するにふさわしい水準の確保が図られている。
 このような状況を踏まえ,通信制博士課程についても,きめの細かい入学者選抜や情報通信技術の積極的活用などによる教育研究指導方法の工夫などにより,博士課程にふさわしい水準を確保することが可能であると考えられるところであり,各大学院は様々な工夫を凝らすことにより教育研究水準の確保に努める必要がある。
 一方,実質的に教育研究水準を確保し,国際的通用性に配慮しながら教育研究の質を高めていくためには,各大学院において不断の自己点検・評価に努め,その結果を広く社会に公表するとともに,第三者による客観的な評価を行うことが重要であると考えられる。このため,アクレディテーション(適格認定)・システムを導入することが考えられるところであり,その在り方について今後検討する必要がある。

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