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資料3
中央教育審議会大学分科会
制度部会(第11回)平成16年7月29日

大学分科会制度部会での審議の中間的な整理(案)


1  基本的事項

高等教育機関が今後の我が国において果たすべき役割について
その中で、今後の大学が果たすべき役割について

 高等教育は、中等教育後の様々な学習機会の中にあってその中核をなすものであるとともに、21世紀の「知識基盤社会」においては、個人の自己実現(人格の完成)の上でも、社会・経済の発展や国際競争力の確保の上でも極めて重要である。

 学術研究の高度化、学習需要の多様化、社会の価値観の変化、国際化・情報化の進展等の中で高等教育が今後ともその役割を十分に果たすためには、各高等教育機関が競争的環境の中でそれぞれの個性・特色を明確にし、全体として多様な発展を遂げていくことが必要である。

 新しい時代にふさわしい高等教育の位置づけに関し、社会人受入れの推進等の生涯学習機能や地域社会・経済社会との連携も視野に入れていく必要がある。

 大学は将来の全人格的な発展の基礎を培うためのものであり、技能や知識の習得のみを目的とするのではないという大学教育の基本的特性を明確にすべきである。また、大学教育としての共通のコア部分の整理などを通じて、「大学とは何か」ということも明確化すべきである。

 「大学とは何か」を考える上で、学校教育法第52条に規定する大学の目的の単一性と実際の大学の多様性との関係をどう整理するかが重要となる。

 大学は、学術の中心として深く真理を探求し専門の学芸を教授研究することを本質とするものであり、その活動を十全に保障するため、伝統的に一定の自主性・自律性が承認されてきていることが基本的な特質である。

 大学は、学術研究の推進や高度な人材の養成を通じて人類全体に対して責任を負い、歴史的普遍性や国際性を志向するものであるとともに、時間的場所的な諸条件を限定された一個の社会的な存在でもある。したがって、大学についてはその自主性の尊重が本質的要請であると同時に、大学には自律的に時代や社会の期待に応えていく姿勢が求められる。

 19世紀ドイツ以来の「フンボルト的大学観」は我が国の大学の在り方に大きな影響を与えてきたが、大学人を第一義的に研究者であると自己規定し、最高の教育を自己の研究成果の披瀝であるとする考え方は、主として少数エリートに対する教育を想定して成立するものであり、21世紀の今日では歴史的意義を有するに止まるのではないか。フンボルト以外にも注目すべき大学観としては、オルテガが1930年代のスペインの社会状況を前提として大学の使命を1教養教育2専門職業人養成3「それに加えて」研究としたことや、米国のC.カーが「大学の効用」の中で現代の大学を教育・研究・奉仕の多機能を持った「マルチバーシティ」と考えたことなどが挙げられる。大学観も時代や社会状況に応じて変貌していくべきものと考えられる。

 大学は歴史的には教育と研究を本来の使命としてきたが、社会情勢の変化とともに、我が国の大学に期待される役割も変化しつつあり、現在においては、社会貢献(地域社会・経済社会・国際社会等、広い意味での社会全体の発展への寄与)を教育・研究に加えて大学の「第三の使命」として位置づけるべきである。言うまでもなく、人材養成や学術研究それ自体が我が国の発展に対する長期的観点からの社会貢献であるが、近年では、公開講座や産学官連携等を通じた、より短期的・直接的な貢献が求められるようになっており、これがいわゆる「第三の使命としての社会貢献」と考えられる。
など

2  高等教育機関の個性化・多様化

学部段階の教育課程の在り方について(高等学校教育の多様化や大学院進学者の拡大等を踏まえた学部段階の教育課程の在り方)

 現行法令上、大学は学部・学科や大学院といった組織に着目した整理がなされている。
 今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位という「学位を与える課程」と考える教育課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要があるのではないか。

 学士課程段階での教育には「教養教育」や「専門基礎教育」等の色々な役割が期待される一方で、我が国では、職業教育志向もかなり強い。したがって、今後の学士課程教育は、様々な個性・特色を持つものに分化していくものと考えられる。例えば、学士課程段階では「21世紀型市民」の育成を目指し、教養教育と専門基礎教育を中心として主専攻・副専攻を組み合わせた総合型教養教育を基本としつつ、専門教育は修士・博士課程や専門職学位課程の段階で完成させるものや、学問分野の特性に応じて職業教育完成型のもの等、多様で質の高い教育を展開することが期待される。
注)21世紀型市民: 専攻分野についての専門性を有するとともに、幅広い教養を身に付け積極的に社会を支え、時代の変化に合わせて必要に応じて社会を改善していく資質を有する人材

 新たに構築されるべき「教養教育」は、学生に、グローバル化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を与えるものでなければならない。各大学は、理系・文系、人文・社会・自然といった、かつての一般教育のような従来型の縦割りの学問分野による知識伝達型の教育や、専門教育への単なる入門教育ではなく、専門分野の枠を超えて共通に求められる知識や思考法等の知的な技法の獲得や、人間としての在り方や生き方に関する深い洞察、現実を正しく理解する力の涵養に努めることが期待される。

 教養教育に携わる教員には高い力量が求められる。加えて、教員は教育のプロとしての自覚を持ち、絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要がある。入門段階の学生にも高度な知識を分かりやすく興味深い形で提供したり、学問を追究する姿勢や生き方を語るなど、学生の学ぶ意欲や目的意識を刺激することも求められる。

 職業教育については、専門職大学院の制度ができたことを契機として、学士課程段階を中心に養成するものと修士課程・専門職学位課程を中心に養成するものを、学問分野の特性や各種職業資格との関連に応じて具体的に仕分けして考えていく必要がある。

 大学(学士課程段階)への進学率の上昇や高等学校教育の多様化等に伴い、入学者の能力・適性や志向も多様化してきていること、また、18〜21才のフルタイム学生(いわゆる伝統的学生)のみならず社会人学生や外国人留学生が増加していること等を踏まえ、学士課程・準学士課程等の大学教育は、全体として一層の多様性を確保することが必要である。そのため、各高等教育機関ごとに個性・特色を一層明確化するとともに、誰もがアクセスしやすい高等教育システムを構築することが求められている。

 学士課程は、基本的役割として、伝統的学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培う機能を担っており、一定水準以上の教養教育・専門基礎教育や職業教育を行うことが不可欠である。そこで、学士課程教育の充実のため、学問分野ごとにコア・カリキュラムが作成されることが望ましい。また、このコア・カリキュラムの実施状況は、機関別・分野別の大学評価と有機的に結びつけられることが期待される。

 学士課程教育の標準修業年限については、国際的通用性の確保や「単位」の実質化等に十分留意しつつ、検討する必要がある。従前通り学士課程を4年かけて卒業する経路のほか、修士・博士・専門職学位課程との関係では、学習経路が多様化するものと考えられる。この場合、特に総合的教養教育型において学士課程3年修了による進学が積極的に活用され、普及するものと予想される。
 また、職業教育完成型においては、4〜6年の間で分野の特性に応じて修業年限が定められる。

 企業採用は、学士課程3年次修了者については修了後に行われるのが通例となるものと期待される。また、4年次卒業者については、学士課程教育に実質的に支障のないよう配慮することが必要である。さらに、修了・卒業直後の1年間での様々な活動体験や短期在外経験等を重視することも期待される。
など

短期大学教育の在り方について
(女子の4年制大学志向の高まりなど社会や時代の変化に対応した短期大学での教育課程の在り方、地域における生涯学習の拠点としての短期大学教育の在り方、準学士の位置付け等)

 18歳人口の減少や女子の4年制大学志向の高まりなど、短期大学を取り巻く社会や時代の変化の中で、短期大学は他の高等教育機関と異なる個性・特色の明確化に一層努める必要がある。

 従来から、短期大学の機能としては、1教養教育と実務教育が結合した専門的職業教育2より豊かな社会生活の実現を視野に入れた教養教育3地域社会と密着しながら社会人や高齢者などを含む幅広い年齢層に対応した多様な生涯学習機会の提供等が挙げられてきた。昨今の各種職業資格の高度化の動向を勘案すれば、12の機能は事実上一体化(教養教育重点型)しており、3の機能(生涯学習型)も引き続き挙げられる状況にあると考えられる。

 教養教育重点型はユニバーサル段階の高等教育の拠点の一つとして、また、米国のコミュニティ・カレッジのように、地域と連携協力して多様な学習機会を提供する生涯学習型は知識基盤社会での土台づくりとして、それぞれ新時代にふさわしい位置づけがなされるよう、積極的な準学士課程教育の改革が期待される。

 学位取得のための教育と技能・資格取得のための教育の性格の違いを内容面から特徴づけるのは教養教育であり、短期大学における教養教育は、4年制大学における教養教育と同様に、自己の人間としての在り方・生き方に関わる教育であると考えられる。短期大学における準学士課程教育の特色は、こうした「大学における教養教育」を、主として女子教育や社会人・高齢者等の幅広い学習需要に的確に対応したアクセスしやすい形で提供する点にあると考えられる。

 また、短期大学を含めた大学における実務教育・職業教育は、教養教育の基礎の上に立ち、理論的背景を持った分析的・批判的見地からのものである点で、他の機関により提供される実務教育・職業教育とは異なる特徴があるものと考えられる。短期大学関係者は、4年制大学の学士課程に準ずる実質を備えた準学士課程教育のこうした特徴を一層明確化するよう、教育の充実に不断の努力を傾注する必要がある。

 短期大学は、今後とも、教育内容・方法や経営状態に関する積極的な情報開示や充実した事後評価の仕組みの確立等による社会的信頼・評価の確保に努める必要がある。

 以上の点を踏まえつつ、短期大学における教育課程の修了を制度上の学位に結びつけることについて、国際的通用性にも十分留意しつつ、検討すべきである。
など

高等専門学校の在り方について
(専攻科や大学への進学・編入学の普及を踏まえた高等専門学校の位置付け、5年一貫の実践的技術者養成という設置目的を踏まえた高等専門学校の今後の在り方、準学士の位置付け等)

 高等専門学校教育は、5年一貫の実践的技術者養成という設置目的や、早期からの専門教育という特色を、「教養教育」「専門基礎教育」重視の大学の学士課程教育との対比で一層明確にしつつ、今後とも応用力に富んだ実践的技術者を育成する教育機関として重要な役割を果たすことが期待される。

 高等専門学校卒業後に専攻科や大学へ進学・編入学する学生の増加を踏まえると、履修指導等も含めて他の高等教育機関への円滑な接続にも配慮する必要がある。一方で、高等専門学校の役割や位置づけが相対化し、本来の個性・特色が不明確になることのないよう留意することも重要である。

 大学の1単位45時間という規定に対し、高専は30時間と規定されており、高専の4・5年生は編入学・留学先の大学に単位数の3分の2しか認められないという実態もある。高等専門学校教育の実態を踏まえつつ、例えば、高等学校教育に相応する1・2・3年と大学教育に相応する4・5年とで(又は一般科目と専門科目で)単位の在り方を分けて考える等の方策が必要か否か、引き続き検討する必要がある。

 国立高等専門学校の法人化など高等専門学校を取り巻く状況の変化、今後の高等専門学校の管理運営の具体的な在り方や高等専門学校の基本的方向性を踏まえ、名称を含めた社会的認識の改善の問題等については、引き続き検討する必要がある。
など

専門学校の在り方について
(ダブルスクールによる学習者の増加、専門士の称号所持者や大学卒業者等が入学する例の増加等を踏まえ、専門的職業教育機関としての役割を担う専門学校の今後の方向性等)

 職業教育をキーワードとした教育体系の中で、専門学校の中核的な役割や位置づけを明確にする必要がある。

 知識・技術等の高度化や専門特化した技術者養成等のため、修業年限の長期化・多様化に伴い、専門学校の高等教育機関としての性格も短期から長期まで様々なものに拡大してきている。一方で、「教養教育」「専門基礎教育」重視の大学の学士課程教育や準学士課程教育との対比で、実際的な知識・技術等を習得した人材を育成するために実践的な職業教育・専門技術教育機関としての専門学校の性格を明確にすることが期待される。

 専門士の称号所持者や大学等卒業者が入学する例の増加等を踏まえ、高度な職業教育機関としての役割を担う専門学校は、今後、一層の個性化・多様化を進める必要がある。

 専門学校は、今後、教育内容・方法や経営状態に関する積極的な情報開示や充実した事後評価の仕組みの確立による社会的信頼・評価の確保に努める必要がある。

 専門学校と大学との連携・接続の更なる円滑化を図る必要がある。その一環として、以上の点を踏まえつつ、4年制の専門学校を卒業した者に対して大学院入学資格を付与することも検討すべきである。
など

3  高等教育の質の保証システム

設置認可と大学評価について
(事前規制としての設置認可の弾力化、事後チェックとしての大学評価等の充実、両者の有機的連携による国際的通用性を有する高等教育の質保証の在り方、学習者保護の仕組み等)

 本来、保証されるべき「高等教育の質」とは、学生の質、大学教員の質、教育課程の内容・水準、研究者の質、研究環境の整備状況、管理運営方式等の総体を指すものと考えられる。従って、高等教育の質保証は、行政機関による設置審査や評価機関による大学評価のみならず、大学入学者選抜、大学教員や研究者の養成・処遇、カリキュラムの策定、各種の財政支援やこれらに関する情報開示等の全ての活動を通して実現されるべきものである。

 事前規制から事後チェックへという流れの中で、大学設置の事実上の準則主義化により多様な大学が設置される動きが進むにつれ、一方では国際的通用性の観点から高等教育の質保証が課題となる。

 高等教育の質保証は事後チェックのみでは十分ではなく、事後評価までの情報の時間的懸隔に伴う大学選択のリスクを学習者の自己責任にのみ帰するのは適切でない。

 サービスという観点から見た場合には、学校教育の機能には、一般性と特殊性がある。特殊性とは、情報の非対称性、サービスの享受時点では未完成の消費者である「学生」、単なる知識・技能の取得とは異なる(師弟関係や友人関係を含めた)学習環境の必要性、サービスの提供とその効果の検証に一定期間を要すること等を指す。学校教育が一般的にはサービスとしての市場性を有することに留意しつつも、「高等教育の質」に関しては、市場万能主義に依拠するのでなく、教育サービスの提供プロセスそのものを保証する観点を重視していく必要がある。

 高等教育の質保証の一環としての事前規制と事後チェックの関係については、事前規制と事後チェックの適切なバランスが重要であることを明確にする必要がある。

 事前関与の一形態である設置審査の役割を明確化し、例えば大学教員の質を十分に審査する必要がある。その際、大学教員の資質の確保・向上方策についても何らかの形でチェックされることが望ましい。また、現行の大学設置基準の性格を設置後の評価活動とも連携させたものとして捉え直していく必要がある。

 設置審査を通して明らかとなった課題や情報を当該大学が積極的に学習者に提供するなど、社会に対する説明責任を果たしていくことが期待される。

 事後チェックに関しては、機関別評価と専門職大学院評価のみでなく、分野別評価についても、その導入を促進すべきである。その際、分野の特性に応じて学協会等関係団体の参画・協力を得ることが重要である。また、教育に関する分野別評価に関連して、他の参考となるべき特色ある取組を促進する方策について検討すべきである。
など

4  その他

通学制と通信制について
(両者の意義や区分けについての考え方)
単位に関する考え方について
(1単位に必要な学修の時間、グローバル化の進展の中での単位の読替)
株式会社等の新たなタイプの設置者に関する考え方について

 単位の考え方について、基準上と実態上の違い、単位の実質化や学修時間の考え方と修業年限の問題等を改めて整理した上で、課程中心の制度設計をする必要がある。
など



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