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4.高等専門学校教育充実の具体的方策

 これまでに述べた今後の高等専門学校教育の充実の方向性,以下に述べる具体的方策等を名実ともに実現し,実効性を持って機能させるためには,国,高等専門学校の関係者が本答申の趣旨・内容を理解し,組織的な検討と取り組みが活発に行われなければならない。このため,国は,今後おおむね10年間の高等専門学校における教育の姿を見据えつつ,今後5年間程度の体系的かつ集中的な取組計画(高等専門学校教育振興施策要綱(仮称))を策定し,それに基づいた施策展開に努めていくことが適当である。

(1)教育内容・方法等の充実

1地域の産業界等との幅広い連携の促進

(産学連携による共同教育の充実,インターンシップ等校外で行う教育の充実)

  •  地域の産業界等と連携し,カリキュラムの開発,教材の開発,企業への長期派遣による教員の研修,企業からの教員派遣,共同研究を通じた学生派遣,長期インターンシップ,さらには小規模企業に対する学生による課題発見・解決策提案活動等,様々な形態での共同教育により実践的専門教育の展開を図ることが有効であり,このような共同教育を推進するため,共同教育を組織的に推進するためのコーディネータの配置等,実施体制を整備することが重要である。
  •  共同教育の重要な要素の一つであるインターンシップについては,全体の98.4パーセント(平成18年度)の高等専門学校において,単位認定を行う授業科目として実施されており,これは大学における実施率65.8パーセントと比較して高い割合となっている。
  •  インターンシップの一層の推進に当たっては,その意義・重要性について,学校と社会が共同して次世代の人材を育てる取組であるとの認識が社会全体として共有されることが重要であり,そのような共通認識の醸成に向けた,企業や地方自治体等の関係者の一層の努力が望まれる。
  •  特に,企業との連携による3ヶ月以上の長期インターンシップは,単に長期間にわたる就業体験というものではなく,研究課題・課題意識を持った学生が教員の指導の下企業の現場に赴き,企業における実際の生産・開発の現場における課題を把握・理解し,その解決策を見出していく経験を積むことにより,学校での講義や実験・実習で得た知識・技術を使いこなし,現場における課題の発見やそれに対応した改善を展開できる能力を培うものである。このような長期インターンシップについては教育上の効果が高く,推進すべきと考えるが,現状においては,一部の高等専門学校の専攻科を中心に実施されているものの,この教育方法の必要性に関する企業等の認識が熟するに至っていないこともあって,必ずしも広く普及・定着しているとは言えない状況である。
  •  このような長期インターンシップの一層の普及促進のためには,高等専門学校間での事例やノウハウの共有に努めることが有効である。
  •  効果的かつ円滑な長期インターンシップの実施に当たっては,高等専門学校における教育内容との連続性・体系性の中で計画することが求められ,本科5年間又は専攻科2年間の課程の中に組み入れた形で実施することが有効である。また,受け入れる企業との間においても,長期インターンシップの趣旨,教育上の位置づけ,企業が果たす役割等について十分に認識を共有した上で,事前の綿密な準備・計画,実施中及び事後のきめ細かいフォローアップを行うことが重要である。
  •  このほか,長期インターンシップをより一層普及・促進していくためには,学生派遣時における機密保持等についてあらかじめ当事者間で取り決めを結ぶことや,派遣・受け入れに関する経費面の課題も含めて,高等専門学校と企業とが連携協力して対応していくことが必要である。

2一般教育の充実

  •  高等専門学校の一般科目は,社会人としての基礎的な素養を身に付けさせるという目的とともに,将来の技術者の育成の観点から,例えば,環境等に関する科目など,実社会における重要性が増してきている諸問題も含めて幅広い視野を持って対応できる深い見識を備えた技術者が養成されるよう,その充実が図られてきている。
  •  また,後に述べる技術の国際的展開の中で,国際的に活躍できる技術者の育成の観点から,英語について,特に専攻科生については大部分の高等専門学校が,全学生が一定の英語水準を達成することを義務付けているJABEE(日本技術者教育認定機構)の認定を受けていることや,専攻科の学生が英語による学会や国際会議での発表等を経験する機会を与えられる場合もあるなど,各高等専門学校においてその水準の向上のための取組が行われてきた。また,本科においても,各種検定試験の受験の奨励や,専門科目を含めてネイティブの教員の任用等の取組が行われている。
  •  経済が成熟した社会では,今後新しい市場を創出する創造力が重要であり,特に製造拠点がアジアにシフトしてきている我が国の経済成長にはそれが不可欠である。創造力の涵養のためには,リベラル・アーツ,幅広い総合知識も重要であるので,そうした面にも配慮したカリキュラムとすることが重要である。
  •  このように,一般科目については,独自の目的を持った学校制度の趣旨に相応しい効果的な教育内容・方法となるよう,知育・徳育・体育のバランスも考慮しつつ,今後とも充実に努めていくことが重要である。

3技術科学大学との連携の強化

  •  国立高等専門学校機構と技術科学大学では,連携を進めるために協議会を設置して検討を行っており,教員の人事交流,高等専門学校の教員の研修や学生への教育における技術科学大学の協力,教員の共同研究の推進と研究費支援等の面で連携を深めているところである。
  •  このような連携は,相互の教育研究活動の活性化,教育の質の向上に資するものであり,今後ともこの連携を一層強化していくことが有効であると考えられる。

4自学自習による教育効果も考慮した単位計算方法の活用

  •  平成17年以前においては,高等専門学校における単位については,大学とは異なり,教室内における30時間の履修を1単位として計算することとされていたが,平成17年の高等専門学校設置基準の改正により,60単位を上限として,大学と同様に45時間の学修内容をもって1単位とすることができることになった。各高等専門学校においては,この制度を活用し,授業形態・指導方法の多様性や,優れた技術者を養成する上で有効な自学自習による教育効果を生かした特色ある教育課程の編成の取組を進めていくことが期待される。

5退職技術者を含む企業人材等の活用

  •  団塊世代の退職に伴う「2007年問題」により,ものづくり技術の伝承ができなくなることが懸念されているが,高等専門学校におけるものづくり技術者養成を充実強化してこうした問題に対応していくことも重要である。その際,退職技術者など,知識・技術を持った意欲ある企業人材の活用を積極的に促進することが有効であり,そのための方策について,各高等専門学校,国立高等専門学校機構,国のそれぞれが役割を分担しつつ仕組みを構築することが緊要である。

(2)質の高い入学者の確保

(小・中学生やその保護者への広報活動,理科教育支援)

  •  高等専門学校教育の質を維持・向上していくためには,今後とも,意欲を持った質の高い入学者を確保することが重要である。そのためには,入学志願倍率の漸減傾向等を踏まえれば,小・中学生やその保護者に対し,自校の特色のみならず,高等専門学校における教育の特色や,高等専門学校卒業後に将来どのような進路の可能性があるのか等,高等専門学校それ自体の魅力についてより良く知ってもらうこととともに,小・中学校の段階で理科・数学やものづくりへの関心を高め,サイエンスに対する好奇心を持たせ,面白さ,楽しさの中に,科学的なものの見方を身に付ける楽しさ(学ぶ楽しさ)があることを体験させることが重要である。
  •  各高等専門学校においては,現在でも,小・中学生を対象とした理科実験教室の開催やオープンキャンパスの実施,保護者を含めた広報活動などに力を入れ取り組んでいるほか,一部の高等専門学校では,教育委員会と連携した理科教育支援に取り組んでいるところもある。今後とも,地域の産学官との協力により,幅広い層に対する理科教育を進めるとともに,高等専門学校の教員や学生による小・中学校の理科教育支援などの取組を含め,学校や学校以外の場における理科の面白さを体験させることができるような取組を展開することが有効である。

(高等専門学校の第4年次への編入学)

  •  近年,高等学校卒業後高等専門学校への編入学を希望する者は,例えば国立高等専門学校の場合,全国で年間600〜700人程度となっており,このうち200人程度が編入学している。中学校卒業後に5年一貫の専門教育を行うことが高等専門学校教育の特色であるが,これを損なわない程度において高等学校卒業生の高等専門学校への編入学を促進することは,特に高等学校専門学科卒業生に更に高度な専門教育を受ける機会を提供するとともに,普通科卒業生を含めた高等学校卒業生への多様な進路選択を提供するという観点から有効である一方,高等専門学校への進学ルートを多様化し,4年次において新たに優秀な学生を受け入れることが高等専門学校教育の更なる活性化にも資すると考えられる。
     なお,この場合,編入学した学生の実態に応じて,補習指導等きめの細かい指導が行われることが必要である。

(3)大学への編入学者増加への対応

  •  高等専門学校を卒業後,さらに高度な教育を受けるため,技術科学大学をはじめとして大学3年次等に編入学する途が開かれており,平成18年度では卒業生の26パーセントが編入学している。
  •  大学への編入学者数は,高等専門学校に新たに専攻科制度が創設された平成3年以降も増加を続けており,平成3年当時年間1,300人程度であったものが,平成18年度では年間約2,700人と倍増している。
  •  高等専門学校からの編入学者を受け入れる大学側では,高等専門学校教育との連続性に十分配慮したカリキュラム編成など,円滑な編入学の観点から,受け入れ体制の整備が求められる。また,今後,必要な整備を進めつつ大学側と高等専門学校が戦略的に連携し,大学への編入学枠を拡大することにより,ものづくりに長けた高等専門学校の優秀な学生に対する進路の拡大に貢献していくことが考えられる。

(4)教育基盤の強化

(教員等の確保)

  •  高等専門学校教育の良さは,優秀で意欲と情熱にあふれた教員によって支えられていると言っても過言ではない。今後とも高等専門学校における教育の質を維持・向上していくためには,優れた教員を引き続き確保していくことが極めて重要である。また,実践的な専門教育を進めていくには,企業等での実務経験のある教員の存在も不可欠である。このような優秀な教員を確保することにより優秀な学生が集まり,優秀な人材を社会に輩出していくことにより,それらを通じてまた優秀な教員が集まるという好循環を生み出すことが必要である。
  •  高等専門学校の教員は,高等学校教員と類似の任務(授業,学生指導,部活動指導,学生・保護者相談),大学教員と類似の任務(研究・学会活動,オープンキャンパス,認証評価・JABEE認定,社会人教育,国際交流・地域貢献)に加え,高等専門学校独自の任務(学生寮指導,広報活動,ロボットコンテスト等の各種行事等)を担っており,多面的な役割を担っている。とりわけ近年は,18歳以下の学生に対する生活指導などについて以前よりきめ細やかな対応が求められるのを始めとして小中学生に対する理工系分野への関心喚起,入学する学生の多様化,競争的な資金への応募の増加,社会貢献の要請など,様々な面で業務量が増大する傾向にある。
  •  このような業務の多忙化傾向の中で,高等専門学校の良さの一つとされている,学生と教員のつながりが密接であるという点について,変化が生じているのか否かということも含め,関係者において実情を把握した上で,業務の効率化を含め対応策を検討していくことが重要である。
  •  教員等の確保に際しては,既述のとおり退職技術者などの企業人材も含め,外部人材の活用を積極的に促進することについて,仕組みを構築することが重要である。

(ファカルティ・ディベロップメント(FD)の実施等)

  •  教員の能力向上策については,高等専門学校設置基準において,大学同様,教育内容等の改善のための組織的な研修(ファカルティ・ディベロップメント(FD))等の実施が規定されており,国立高等専門学校機構において教員研修等を実施しているところであるが,このような取組も重要である。
  •  これらの方策の検討・実施に当たっては,国立高等専門学校の場合,国立高等専門学校機構と各学校との間で適切に役割分担をしながら進めていくことが重要である。
  •  このほか,高等専門学校教育における一つの特色となっている学生寮における生活指導に関しては,各高等専門学校の実情を十分に踏まえつつ,学生寮の管理・運営体制の改善等も含め,長所をより充実させていくことも必要である。

(施設・設備の更新及び高度化)

  •  高等専門学校の実習工場の設備について,学校設置以来更新していない老朽化したものがあるなど,最新の技術動向に対応した教育を行う上で課題が多いと考えられる。学生が自らの五感を使ってものづくりを体験するための設備や,現場技術者として活躍できるだけの技術を身に付けるための設備は,実践的・創造的技術者の養成を目的とする高等専門学校教育において極めて重要である。また,教員として優れた人材を引き付けるためには,基盤的設備の整備のみならず,先端的な設備の充実を図ることにより,高等専門学校の魅力を高めるとの視点も重要である。
  •  高等専門学校の施設については,専攻科の設置や学科の改組への対応,狭隘教室の解消などの教育環境の改善,多人数寮室の解消など学生寮の居住環境改善が進められてきたが,現在の状況としては,国立高等専門学校では建築後25年以上を経過した建物が全体の約73パーセント(そのうち全面改修が済んでいるものは約1/3のみ)となるなど,老朽化が深刻化しており課題となっている。
  •  あわせて,専攻科の拡充,地域連携強化のためのスペース確保等,新たなニーズへの対応や,学生寮においては,自習室やコンピュータ室の不足解消等,教育の場としての機能改善が望まれる。
  •  このため,安全の確保や効果的な教育研究を進めるために,耐震性の劣る施設を中心に,緊急性・優先度を踏まえつつ施設・設備の計画的な整備を進めていくことが必要である。
  •  また,これまで国立高等専門学校の施設・整備については補正予算によって措置される場合が多かったが,実践的・創造的技術者の養成を担う国立高等専門学校の重要性や,施設の整備状況を踏まえ,毎年度の施設整備予算を安定的に確保するなど,計画的な整備を支援していくことが必要である。
  •  また,これらは公私立の高等専門学校においても同様の状況であり,私立においては施設・設備に関する私学助成の充実が必要となる。

(多様な学生への支援)

  •  15歳人口の減少とともに,高等専門学校についても,入学してくる学生の多様化が指摘されている。ものづくりに関心がある,あるいは,人にはない個性がある多様な学生を受け入れ,高等専門学校の教育の中で潜在的能力に気付かせ,その向上を目指すことが重要であり,また,上述の第4学年への編入学者や,専攻科に入学する社会人学生も含め,多様な学生への支援について,適切に対応していくことが必要である。

(事務部門の強化)

  •  国立高等専門学校の運営に当たっては,教員だけでなく,事務部門の努力も肝要である。それぞれの高等専門学校の実情に合わせた管理運営を行うために,事務部門職員の教育や管理職員の育成の努力,技術スタッフの充実が必要である。また,事務部門の業務については,各高等専門学校で行う事務と,国立高等専門学校機構が効率化・一元化して行う事務とを適切に分担・連携させる必要がある。

(財政的支援(民間資金等も含む)の在り方)

  •  我が国の高等教育に対する公財政支出の対GDP比は,2003年において0.5パーセントとなっているが,これはOECD加盟国中最低の水準であり,欧米諸国の1/2の水準である。平成17年1月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において指摘されているように,今後,高等教育に対する公的支出を欧米諸国並みに近づけていくよう最大限の努力が払われる必要がある。先般,政府として教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,教育振興基本計画がとりまとめられたところである。高等専門学校についても,国の厳しい財政状況を反映し,公財政支出は抑制基調となっているが,社会からの高い評価を受けている高等専門学校の人材養成機能の重要性に鑑み,積極的に支援していくべきである。
  •  その際,国立高等専門学校機構運営費交付金や私立大学等経常費補助金といった基盤的経費の確保が重要である。更に競争的な資金についても,国において,高等専門学校がある程度長期にわたり継続的に支援を受けられるプログラムも含め,拡充に努めるとともに,各高等専門学校においても,競争的な資金の一層の獲得に向けた努力を行っていくことが期待される。
  •  同時に,求人倍率の高さを踏まえれば,高等専門学校は,企業ニーズに合致した人材を輩出していると言えるが,このことに鑑み,民間資金の受入を一層促進することについても取り組んでいくべきである。また,経済界においては,次代を担う人材の育成こそが我が国の将来の発展を支えるとの認識の下,企業に高く評価されている高等専門学校教育に対しては,一層の財政的支援を行うことが期待される。

(5)社会経済環境等の変化に対応した教育研究組織の充実

1充実の必要性

  •  各高等専門学校においては,既述2に示した社会経済環境の変化を踏まえ,本科,専攻科その他の教育研究組織を含めたその高等専門学校全体の教育研究組織が時代の要請するものに相応しいものであるかどうかを常に見直し,充実を図っていくことが必要である。
  •  その際,画一的にとらえるのではなく,各高等専門学校の置かれている地域の状況や,国・公・私立の役割,位置付け等について留意することが必要であることは言うまでもない。

2学科のあり方の見直し

  •  高等専門学校の学科の新設や改編等の状況については,近年においては,公私立高等専門学校で学科の大括り化を行っている例が見られるのを除けば,学科改編の大部分が学科の名称変更に留まっているところであるが,急速に進展する科学技術の高度化の動向や地域のニーズを踏まえ,既存の学科の再編を含め,学科のあり方についても絶えず検討がなされていく必要がある。

3新分野への展開

  •  高等専門学校の教育分野としては,既述1(1)にあるとおり,制度創設時の経緯から,工業系学科が中心となっている。その後,昭和42年には「商船」に関する学科が加えられた後,平成3年には学科の対象分野の制限が撤廃され,「工業」「商船」以外の学科の設置が可能となった。具体的な新分野としては,平成3年の大学審議会答申では,「当面,例えば農業,商業,外国語,情報,芸術,体育などが考えられる」とされていたところである。しかしながら,現在でも工業・商船系以外の学科の設置は4学科(「情報デザイン学科」「コミュニケーション情報学科」「国際流通学科」「経営情報学科」)に留まっているのが現状である。
  •  今後,産業構造の変化も踏まえ,例えば工業系分野を基盤とした理工系分野の新たな融合・複合分野やソフト系の分野,第三次産業分野の学科設置も含め,地域及び我が国全体のニーズを踏まえた新学科設置により新分野への展開を図ることも検討していくことが重要である。
     具体的には,例えば社会経済のあらゆる場面に活用が広がり高度な人材が多数必要とされる情報通信技術(ICT)分野を中核とした融合分野,工業系分野とバイオや医学等との融合・複合分野,工業デザイン,食の安全や供給・流通及び国土環境の保全や地球環境問題への対応などにも取り組む農林水産業分野,経営・会計や流通などの商業分野などが考えられる。

4地域のニーズを踏まえた専攻科の課程の充実

(専攻科の整備・充実)

  •  高等専門学校卒業後に,継続してより高度の教育研究指導を行う課程として設置されている専攻科は,現在,多くの高等専門学校では本科の入学定員の約10パーセント程度の入学定員としているが,学生のニーズ,企業のニーズ双方ともに高い(入学志願倍率:2.0倍(平成19年度),求人倍率34倍(平成18年度))。
  •  生産技術のイノベーションを担う新しい技術者育成のニーズや,地域産業の発展に貢献する人材育成のニーズなど,社会の多様な人材育成ニーズへの対応とともに,学生の継続教育に対するニーズに対応するため,高等専門学校本科の組織体制の見直しと合わせ,地域や各高等専門学校の実情に応じ,入学定員の拡充を含め,専攻科の整備・充実を図っていくことが適当である。
  •  また,専攻科の活用は,高等専門学校卒業生をはじめとする社会人の再教育ニーズに応える上からも有効であり,その教育研究機能の充実を図るべきである。

(専攻科修了生に対する学位授与)

  •  現在,高等専門学校卒業後,大学評価・学位授与機構が認定した専攻科において所定の単位を修得した者で,大学評価・学位授与機構の審査を経て合格と判定された者に学士の学位が授与されているが,高等専門学校教育にも柔軟に対応し得る学士の学位授与について,更に検討が必要である。

5学校の再編・整備による新しい機能を備えた高等専門学校の創設

  •  全国各地に設置されている高等専門学校は,それぞれの地域の高等教育機関として重要な役割を果たしているところである。今後,地域のニーズに対応した教育研究活動を強化し,教育の質の一層の向上を図っていくためには,地域における15歳人口の動向,入学志願者の動向を踏まえた入学者の質の確保の必要性など地域の実情を十分に考慮に入れつつ,必要に応じ,本科・専攻科の規模を含め,以下の観点からの組織体制の整備・充実について検討していくべきである。
  •  具体的には,時代や地域の要請に即応した,次のような新しい機能を備えた高等専門学校の創設を検討していくべきであり,このため,国立高等専門学校を再編・整備し,学科再編や教育研究資源の結集による教育の質の向上を図ることについて検討していくことが必要である。例えば,情報技術に強い高等専門学校とものづくりの基礎分野で構成されている高等専門学校のように,異なる分野の特色ある高等専門学校同士が相互補完して新しいモデルの高等専門学校を創設することなどが考えられる。
    • 地域の人材育成ニーズも踏まえた科学技術分野の融合化・複合化への対応及び場合によっては前述のような新しい分野への展開
    • 手厚い教員層によるPBL(Problem/Project Based Learning)の展開などきめ細かい教育の実施及び専攻科の充実強化
    • 全県域・広域での地域連携(共同教育,共同研究,受託研究,技術相談,理科教育支援,社会人教育等)の強化
  •  また,地域ニーズを十分踏まえた教育研究活動を展開していくために,地域連携の強化を図るための体制の整備も重要である。具体的には,多くの高等専門学校では現在も地域共同テクノセンター等を設置して地域連携を図っているところではあるが,専任の教職員が配置されていないのが現状であるので,地域連携を一層強化するためには,専任の教職員を配置するなど体制を充実することが重要である。
  •  このほか,学校の再編・整備を行わない場合においても,学校間の連携強化を図ることや,高等専門学校入学後の多様なコース選択を可能とするため,1,2年次の混合学級等の対応などを含め,学科を大括りなものにすること等により教育の質の向上を図るとの視点も重要である。大学科制により融合・複合領域の教育を行う場合には,豊富な教育内容を提供できる十分な数の教員の配置が必須である。
  •  現在,独立行政法人国立高等専門学校機構においては,前述のとおり時代や地域の要請に即応し,新しい機能を備えた高等専門学校の創設のため国立高等専門学校の高度化再編を進めているところであるが,国立高等専門学校を55校展開し,日本全体のネットワークを構築していることから,再編・整備を進めるに当たっては以下の観点の検討を進めることも重要である。
    • 全国的な教育研究ネットワークを生かし,高等専門学校の知的財産等を共有し全国的な展開を図りそこから得られる新たな知見を教育研究活動に生かすことや教育開発を行うセンターの設置など全国的な波及効果をもたらす取組,また国立高等専門学校が設置されていない地域を含む様々な地域の教育研究ニーズにきめ細かく対応した活動の展開の検討
    • 全国に展開している教育資源を集約して行われる高度な教育活動展開の検討

(6)高等専門学校の新たな展開

(東京都等大学を運営する法人が高等専門学校を運営する取組)

  •  東京都は,平成18年4月に東京都立工業高等専門学校と東京都立航空工業高等専門学校を統合・再編し,東京都立産業技術高等専門学校を設置するとともに,平成20年4月には産業技術高等専門学校を首都大学東京が管理運営を行うこととした。
     東京都は,産業技術高等専門学校を公立大学法人首都大学東京が管理することにより,人事制度の弾力化や,産業技術大学院大学との連携を視野に入れた一貫した技術者教育を行うこととしている。また,都立工業高校から高等専門学校への編入枠の設定,産業技術大学院大学に進学する高等専門学校生を対象とした奨学金の設定など教育機関の円滑な接続に配慮した取り組みも行っている。
     大学を設置する法人が高等専門学校を運営することについては,私立においても金沢工業高等専門学校(金沢工業大学),近畿大学工業高等専門学校(近畿大学)の例があり,大学を設置する法人がそのスケールメリットを活用し,高等専門学校の運営を行うことは,今後の高等専門学校運営の一形態として高等専門学校設置を検討する自治体にも参考となる。

(高等専門学校制度の活用方策を検討する地方公共団体等への支援の在り方)

  •  工業高校の中には,分野によって,産業界のニーズ等を踏まえたより高度な職業教育を行うため,全日制の3年間と専攻科の2年間を連携させ,高等専門学校と同様に5年間の教育に有効性を見いだし取り組み始めた学校もある。このような事例も踏まえ,産業界を中心に社会から高く評価されている高等専門学校制度の新たな発展については,国及び地方公共団体は前述の国立高等専門学校の再編・整備による教育の質の向上を図るだけでなく,公立の専門高校や大学校等を基に新たな公立高等専門学校を設置するといった可能性を含め,各地域における高等専門学校教育の潜在的ニーズを発掘し,ニーズがある場合には,それに対しどのような支援方策等(例えば,人的,物的支援の方策等制度面の対応等)が有り得るかについても検討していくことが重要である。
  •  検討にあたっては,現在の高等専門学校教育と同様の高い質を確保することが重要であり,このため,技術科学大学や近隣の国立大学からの人的協力を得る等の方策も有効であり,考慮していくべきである。

(7)社会との関わりの強化

(高等専門学校の認知度向上方策)

  •  高等専門学校は,卒業生を受け入れている産業界等からの評価は高いものの,量的には規模が極めて小さいということもあり,高等専門学校の入学の対象となる中学生及びその保護者をはじめ,社会一般からの認知度は低いのが現状である。
  •  しかしながら,高等専門学校が養成している実践的・創造的技術者は,科学技術創造立国を標榜する我が国の発展を担う貴重な人材である。安全で快適な社会を形成するための基盤整備を担っているのが技術者であり,社会全体として技術者の果たす重要な役割を認め,技術者の社会的地位を高める風土が形成されることが望まれる。そして,実践的・創造的技術者の養成において,規模は小さくとも貴重な貢献を行っている高等専門学校の果たしている役割について,より広く一般に知られるよう,関係者が一層の努力を行っていくことが重要である。
  •  その際,高等専門学校の活動について報道機関への積極的な情報提供や,ロボットコンテスト等各種行事と連携した広報活動のほか,高等専門学校の卒業生の社会における活躍状況について広くアピールしていくなど,卒業生とも連携した取組を進めることも有効である。
  •  また,産業界における高等専門学校卒業生に対する処遇については,既に大企業等で大学卒業生と同じ区分で処遇する例も見られるところではあるが,今後一層,高等専門学校卒業生の専門性等に対する高い評価が給与等の面での社会的評価の向上に適切に反映されていくことが重要であり,企業における取組の進展が期待される。

(高等専門学校の名称)

  •  現在の高等専門学校の名称については,その問題点等について平成3年の大学審議会答申においても指摘があり,今後の状況の変化等を踏まえて検討すべき課題とされたところであるが,今後とも引き続き検討を行うことが望まれる。

(共同研究の一層の推進)

  •  高等専門学校と地域社会や産業界との連携・交流の強化を図ることは,高等専門学校がその知的資源をもって積極的に社会の発展に貢献するために極めて重要である。
  •  とりわけ,共同研究の実施により,高等専門学校と地域社会との連携が進められてきており,今後とも地域社会との繋がりを一層強めることによって高等専門学校の発展を図っていくことが重要である。

(公開講座等社会に開かれた教育研究等の展開)

  •  高等専門学校においては,平成18年度には全体の95パーセントで公開講座が開設されており,地域・社会のニーズを的確に捉えた技術的・専門的な公開講座をこれまで以上に積極的に実施することが大切になっている。
  •  特に,学校教育法の改正(平成19年12月26日施行)により,高等専門学校の基本的役割として,目的としての教育を行うほか,その成果を社会に広く提供することにより社会の発展に寄与することが規定されたところであり,またそのための一方策としていわゆる「履修証明制度」について高等専門学校にもこれを適用することとされている。
  •  また,地域の大学等が地元の自治体との連携により地域活性化に貢献する人材を育成する取組として,科学技術振興調整費の「地域再生人材創出拠点の形成」プログラムがあるが,平成19年度から高等専門学校も応募可能となり,5校が採択されて活動を開始している。
  •  さらに,高等専門学校等の設備やノウハウを活用し,高等専門学校の教授や地域のベテラン技術者の協力の下,地域の中小企業のニーズに応じた講座と実習を一体的に行うカリキュラムを開発・実施し,中小企業等の若手技術者の育成を支援する取組が平成20年度に25校で行われている。(例:中小企業庁「高等専門学校等を活用した中小企業人材育成事業」など)
  •  これら制度等を活用し,地域に開かれた高等教育機関として,高等専門学校が地域や企業のニーズに応じた社会貢献の取組の推進・充実を図っていくことが重要である。

(国際的な展開)

  •  産業・経済や技術が国際的な広がりを強め,これに伴い技術者も国境を越えている現状から,高等専門学校においても,国際的に活躍できる能力を持った人材の養成のための教育が求められている。
     また,実践的な技術者を養成し,経済・産業の発展を図ろうとしている諸外国からは,実践的・創造的技術者を養成する高等教育機関として,高等専門学校やその教員による協力への期待がある。
     日本を世界により開かれた国とし,アジア,世界との間のヒト・モノ・カネ・情報の流れを拡大する「グローバル戦略」の一環と位置づけ,2020年の実現を目指し戦略的に優秀な学生を獲得していくことを目標にしている「留学生30万人計画」について,現在,中央教育審議会大学分科会留学生特別委員会で検討が進められている。高等専門学校においてもこの方針のもと積極的な取組が期待される。高等専門学校教員の海外高等教育機関への派遣,発展途上国への技術教育に関する協力についても組織的な取り組みを進めていくことが必要である。
     こうした高等専門学校の取組を支援するため,留学生にとって安心で魅力ある受け入れ体制の強化として,宿泊施設の整備,生活相談等留学生のフォローアップ体制の整備なども重要である。
  •  また,環境問題やエネルギー問題等の持続可能な社会を構築するための諸課題の解決には教育が重要な役割を担うことから,2002年の第34回国連総会において2005年から10年を「持続可能な開発のための教育の10年」とすることが決議されるなど,これらの取組を推進することが国際社会における課題となる中で,我が国の高等専門学校が持続可能な社会の構築に積極的に貢献していくとの視点も重要である。