2 ティーチング・アシスタント(TA)について

概要

 優秀な大学院学生に対し,教育的配慮の下に,学部学生等に対するチュータリング(助言)や実験,演習等の教育補助業務を行わせ,大学教育の充実と大学院学生のトレーニングの機会提供を図るとともに,これに対する手当ての支給により、大学院学生の処遇の改善の一助とすることを目的とした制度。

ティーチング・アシスタント(TA)の活用状況

 TAの人数

<参考> TAの人数の推移

 16,063人(平成5年度)(13.1パーセント)から73,943人(平成16年度)(30.3パーセント)
※ ( )は大学院生全体に占める割合

TAを活用する大学

 TAの職務内容(平成16年度)

調査対象

 全ての国公私立大学(短期大学を除く。放送大学は私立大学に含む。)
平成16年度の調査対象大学数は709校(国立87校、公立77校、私立545校)

ティーチング・アシスタント(TA)に関するこれまでの大学審議会答申等の主な提言について

平成5年度以降の高等教育の計画的整備について(答申)(平成3年5月17日 大学審)

  • 高等教育機関が,本来期待されている教育機能を十分に発揮するためには,まず,一人一人の教員が教育指導能力の向上に努めることが基本であることはいうまでもない。
     このため,欧米の大学で広く普及している教員の教授内容・方法の改善・向上への取組み(ファカルティ・ディベロップメント)を,我が国でも本格的に導入していく必要がある。大学院に教授方法に関する授業科目を開設するなどの工夫も考えられる。
     また,教員の教育活動に対する意欲を向上させるためには,教員の業績評価に当たって,研究上の業績に加えて教育上の優れた業績についても,これを積極的に評価することが重要であり,各大学等で実情に応じた適切な評価方法を具体的に検討することが求められる。
     さらに,社会人を教員として積極的に採用することにより,大学等と社会の交流を拡大し,大学等の教育に刺激を与えることが期待される。
    教員の教育活動を補助し,学生に対するきめ細かな指導を行うためには,ティーチング・アシスタントの積極的な活用も期待されることから,その導入のための具体的な支援措置を検討する必要がある。

21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申)(平成10年10月26日 大学審)

  • (別紙1)…多岐にわたる教育の改善方策についての本審議会の提言を受け,各大学においては様々な取組が進められてきた。平成10年7月に公表された「大学におけるカリキュラム等の改革状況について」の文部省調査によれば,平成9年度までに全体の9割以上の大学が科目区分や必修・選択科目の見直し等を実施しているほか,全体の9割以上の大学が授業計画(シラバス)の作成を行っている。その他,少人数教育の実施,ティーチング・アシスタントの活用,学生による授業評価の導入,セメスター制の採用等,教育の質的向上のための様々な具体的取組が進展してきている。

新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-(答申)(平成17年9月5日 中教審)

  • 研究者等の養成の場合と同様の要素に加え,これまで脆弱であった教育を担う者としての自覚や意識の涵養と学生に対する教育方法等の在り方を学ぶ教育を提供することが求められる。このため,例えば,ティーチングアシスタント(TA)等の活動を通じて,授業の実施方法や教材等の作成に関する教育などを実施することが考えられる。
  • 博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため,博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援の充実を図ることが重要である。これまで,日本学術振興会の特別研究員事業,及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充等を行ってきており,これを引き続き推進することが必要である。今後は,これらに加え,進学意欲を持つ優秀な学生が経済的な事情から進学を断念することがないよう,大学院受験前など可能な限り早期に,奨学金や授業料免除などの経済的支援制度が受けられるか否かを判断することができる措置について検討する必要がある。

TA制度と大学教員の養成をめぐる課題について(参考)

1 我が国のTA制度の課題に関する研究者の指摘

  1. TA予算の増額や採用枠の拡大
  2. TA業務の明確化
  3. TAの給与や待遇面の改善
  4. TAの資質向上を目的とした研修会などの実施
    • TAに対する任用条件として「教育的指導力」を指摘する大学は多いが、研修制度を実施している大学は稀(多くの大学は科目担当教員にTAの指導を全面的に委任し、研修を大学全体の制度としてシステム化していない)。
    • 研修会を通じ、心構え、対教員・対学生に対する関係性の構築の仕方、討論・論文・レポートなどの指導方法、禁止された業務内容、トラブル対処法などを学習すべき。
  5. TA制度の評価システムの確立
    • 現状は明確な評価基準なし。教員からの評価のみならず、TAや受講学生からの評価も必要。
  6. 大学全体のTA制度を統括するシステムの構築
  7. TA経験を大学教員に任用する際の「教育業績」や「履歴」として評価すること
    • 助手・講師の採用の際に、TA経験の有無を評価する大学の事例あり。

 注)北野(2006年)による(平成14~16年に24大学を対象としたインタビュー調査の結果)。なお、苅谷(1992年)は、TA導入に関して、「研究の時間を割いてまで、大学院生に教育経験を与えようというのであれば、その経験が生きるための制度的な支え、組織的な訓練の場というものを合わせて導入する必要」、「講座の主任教授との関係が大学院生の就職機会を左右しやすい日本の大学院では、TA制度のナイーヴな導入は、運用次第ではTAを「大学における知的皿洗い」におとしめる危険性をもっている」と指摘。

2 米国におけるTA訓練プログラムの状況

  • 米国のTAは、単独で授業担当やシラバス作成を行うなど、日本のTAに比して従事する業務が一層高度かつ広範。1960年以降、TAは量的に拡大。TAの教育の質が問題になった1970年代以降、訓練・養成プログラムが本格化
  • 各大学における訓練プログラムの実施主体は、1.全学、2.学科、3.学部、4.コース担当者、5.教育学部それぞれが実施する場合に区分。FDの中心である教授センター(Center for Teaching)が相応の役割を担当。
  • 全学レベルの参加は任意の場合が多(ある調査では、調査対象大学中、26パーセントで全学レベルのプログラムを実施し、13パーセントの大学で出席を義務化。)学科プログラムへの参加は義務の場合が多く、実施期間も長く、TAセミナーの出席に対する単位認定を行う大学の例あり。
  • 1993年以降、アメリカ大学カレッジ協会(AACU)と大学院協会(CGS)の共同による「将来の大学教員準備(Preparing Future Faculty,PFF)」プロジェクトが開始。
     優れたTA訓練プログラムを有する大学が選定され、クラスター(複数の大学・学科間、教授センターなどの機関で構成する連合体)を形成。クラスターの運営委員会の管理の下、大学院生は他大学へ出向いて多様で具体的な実践を学習。大学院生は、所属大学の研究指導教員以外の新たな助言者(menrtor)を得、「同僚的(collegial)」な共同活動を展開。

 ※ TA訓練プログラムやPFFプログラムは、大学教員と大学院生との間の教育経験のサイクルを形成し、「プレFD」としてFDを促進する可能性

参考文献

  • 北野秋雄編著『日本のティーチング・アシスタント制度』(2006年 東信堂)
  • 苅谷剛彦著『アメリカの大学・ニッポンの大学』(1992年 玉川大学出版部)
  • 和賀崇「アメリカの大学における大学教員準備プログラム」(2003年 『大学教育学会誌』第25巻第2号)

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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