「チームとしての学校」において,教職員一人一人が力を発揮できるよう,人材育成や業務環境の改善等の取組を進める。
教職員が意欲を持って,それぞれの専門性を生かし,自らの職責を果たすことができるようにするためには,一人一人の教職員の能力や業績を適正に評価し,適切に人事や処遇等に反映することが極めて重要である。そのために,職員の評価に係る制度として,地方公務員法は勤務評定制度を設けている。
しかし,勤務評定制度については,「評価項目が明示されない」「上司からの一方的な評価で結果を知らされない」「人事管理に十分活用されない」等の問題点も指摘されており,文部科学省は,公務員制度改革の状況も踏まえつつ,平成15年度から平成17年度までの間,都道府県・指定都市教育委員会に対して,教員の評価システムの改善に関する調査研究を委嘱し,教員に係る人事評価の改善を進めてきた。
調査研究における評価のイメージは,おおむね,以下のとおりである。
平成26年6月に地方公務員法が改正され,勤務評定制度に代えて人事評価制度が導入される予定である(平成28年4月施行予定)。地方公務員法で導入される人事評価制度は,能力・業績の両面から評価するものであり,評価基準の明示や自己申告,面談,評価結果の開示等の仕組みにより客観性等を確保し,人材育成にも活用するものとされている。
地方公務員法の改正内容や留意事項等については,総務省の通知により既に示されており,それらに基づき,教育委員会は,公立学校の教職員に係る人事評価について,必要な見直しをそれぞれ行うことが求められている。
人事評価制度を今後,更に改善・充実していくためには,人材育成と業務改善の向上の2つの視点を重視することが大切である。
改正後の地方公務員法では,人事評価制度を任用,給与,分限その他の人事管理の基礎とすると規定している。校長等の評価者は,教職員一人一人をしっかりと評価することが求められており,評価者に対する研修を充実することが重要である。
その上で,学校において,教職員同士や専門スタッフ等との協働を進めていくために,チームとしての活動を適切に評価できるような工夫を講じることが重要である。
また,人事評価を行うに当たっては,校長が,教員の授業を見たり,校務の取組状況等を把握したりすることが重要であり,その際,校長は,適時,適切なフィードバックを行うことが人材育成の観点から重要である。
なお,学校評価と教職員の人事評価は,密接に関連するものであり,両者を連動させた取組の工夫についても検討していく必要がある。
優れた教育実践等で成果を上げた教職員に対する表彰制度の取組は,多くの教育委員会においても実施されているが,国においても,学校教育における教育実践等に顕著な成果を上げた教職員を文部科学大臣が表彰し,その功績を広く周知することにより,教職員の意欲及び資質能力の向上に資することを目的として,平成18年度から文部科学大臣優秀教職員表彰を実施している。平成26年度は,国・公・私立の830人の教職員を表彰した。
優れた教育実践等で成果を上げた教職員や高い指導力のある教職員を顕彰する仕組みについては,国,教育委員会ともに,更なる推進を図っていく必要がある。
その上で,学校において,教職員同士や専門スタッフ等との連携・分担を進めていくために,チームとしての取組を教職員表彰の対象として加えることも考えられる。
また,表彰する際には,どのような点が優れているのかを明らかにすることによって,優れた取組を幅広く共有し,より汎用性のある形で全国に展開していくことが重要である。
なお,表彰に伴う措置として,特別な研修機会を付与するなどの取組を進めていくことも大切である。
教員勤務実態調査やTALIS等において,教員の多忙化が指摘されているように,社会や保護者等からの学校の要請の多様化や,学校現場を取り巻く環境の複雑化・困難化,様々な教育課題への対応等を背景とした教員の負担の増加は大きな課題となっている。
また,全国公立学校教頭会の調査においても,教頭が費やしたい職務内容としては,職場の人間関係づくり,教職員の評価・育成や校内研修などがあげられているが,実際には,各種調査依頼への対応や外部対応に時間を費やしており,取り組みたい業務に十分に取り組むことができていない実態が明らかになっている。
これからの学校が,複雑化・多様化した課題を解決し,子供たちに力を身に付けさせていくためには,学校や教員一人一人の業務を見直し,改善していくことが求められる。
まず,業務の範囲については,現行の学校制度が整備された当時は想定されていなかった業務や役割が増大してきたことを踏まえ,全ての業務や役割を学校で担うという発想に立つのではなく,学校として,必ずしも行う必要がない業務,他の機関と連携した方が効果的な業務など,教員の業務と同様,地域や学校の実態も踏まえ,整理することが必要である。
次に,業務の進め方についても,学校だけ,教員だけで抱え込むのではなく,必要に応じて,専門スタッフや関係機関,地域と連携・協働することが重要である。その際,教職員の業務の軽減と効率化を図るとともに,教育活動に関する情報を教職員間で共有することなどにより,教育活動の質の向上を図るためにも,ICTを活用し,校務の情報化を推進することが必要である。
また,学校や教員自らが業務の範囲や進め方について,問題意識を持ち,見直す意識を持つことが重要であることから,学校評価に取り組む中で,業務改善に係る目標設定等を行うなど,教職員や専門スタッフ等の間での課題意識等の共有を進め,学校におけるチームとしての取組を推進していくことが求められる。
文部科学省は,平成19年に学校現場の負担軽減プロジェクトチームを設け,当面取り組むべき事項として,平成20年度以降,文部科学省が学校を対象として行う定期的な調査の見直しを行っている。具体的には,調査の廃止・統合,調査項目の削減等を図るとともに,学校が見通しを持って対応できるよう,年間調査計画の作成,周知を行ってきており(※1),引き続き,調査の見直しに係る取組を進めていく必要がある。
また,教育委員会においても,学校現場を対象とした調査等を実施する場合には,その必要性,実施方法について絶えず検討・改善を図ることが求められる。
文部科学省は,平成27年7月,各教育委員会における学校現場の業務改善に向けた支援に資するよう,「学校現場における業務改善のためのガイドライン」を作成した。
このガイドラインは,主として,学校の設置者である教育委員会が主体的に学校現場の業務改善に取り組み,支援するという観点から策定されたものであり,併せて,教育委員会が業務改善に取り組む際の参考となる実践事例を取り上げるとともに,学校における日々の業務改善に資するようなポイントを示している。
国や教育委員会は,このガイドラインも活用し,教職員が業務を効率的・効果的に進めることができるような支援を行うとともに,関係団体等と連携して,学校や教職員の意識や働き方を改革するための取組を進めるべきである。
学校における教育活動は,教職員と児童生徒等の人格的な触れ合いを通じて行われるものであることから,教職員が心身ともに健康を維持して教育に携わることができるようにすることが重要である。また,児童生徒等に対する影響だけではなく,教職員にとっても,意欲的に職務に取り組み,やりがいを持って教育活動を行うことが重要である。
しかし,精神疾患により病気休職している公立学校の教職員数は,平成4年度から平成21年度にかけて17年連続して増加し,平成25年度においても,5,078人と,依然として高水準で推移しており,教職員のメンタルヘルス対策の改善・充実は喫緊の課題となっている。
精神疾患による病気休職者数が高水準で推移している背景について,単純に一般化することは難しいが,平成25年3月に取りまとめられた「教職員のメンタルヘルス対策について(最終まとめ)」は,教職員のメンタルヘルス不調の背景等として,業務量の増加及び業務の質の困難化や教職員の業務の特徴等をあげている。
具体的には,学校は,管理職等以外の教職員は,職位に差がない一般の教職員が大多数を占めており,企業に比べ管理職が少ない,いわゆる鍋蓋型組織であり,管理職が所属教職員の全てについて日常的に健康状態を見て支援や相談対応等を行うことが難しいこと,また,教職員の職務は,属人的対応が多く,個人で抱え込みやすい性質があるとともに,学級担任や事務職員など,教職員が一人で対応するケースが多くなる傾向にあり,一部の教職員に業務の負担が偏るケースがあること等を指摘している。
メンタルヘルス対策としては,予防的な取組が重要であり,教職員本人の「セルフケア」の促進とともに,校長,副校長・教頭,主幹教諭等の「ラインによるケア」(※2)の充実が必要である。
そのため,メンタルヘルスに関する研修を充実するとともに,校長等は,「ラインによるケア」に取り組むことができるよう,日常的に教職員の状況を把握し,校務分掌を適切に整えておくことが大切である。
平成26年には,労働安全衛生法が改正され,平成27年12月からストレスチェック制度が導入されることとなった。
この改正は,労働者の心理的な負担の程度を把握するための,医師,保健師等による検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務づけるものであり(※3),ストレスチェックを実施した場合には,事業者は,検査結果を通知された労働者の希望に応じて,医師による面接指導を実施し,その結果,医師の意見を聴いた上で,必要な場合には,作業の転換,労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならないとされている。
国,教育委員会は,学校においてストレスチェックに係る制度が円滑に導入されるよう,制度の周知等に取り組む必要がある。一方で,教員の業務の特性に鑑みると,作業の転換,労働時間の短縮等の措置を直ちに講じることが困難な場合も考えられる。
また,良好な職場環境の整備充実のため,学校の規模や状況を踏まえ,産業医の配置や衛生委員会の設置など労働安全衛生体制の整備や業務改善等に取り組むことが重要である。
「チームとしての学校」を進めるに当たっては,学校種や学校の実態等を踏まえ,どのような専門スタッフが必要になるのか,また,どのようなマネジメント組織が必要になるのか,等について,教育委員会がリーダーシップを発揮して検討を進めていくことが重要である。総合教育会議や大綱の策定等を通して,地方公共団体が目指す学校の姿について明らかにすることも大切である。
そのような取組を進める上でも,教育委員会の教育長の果たす役割は大きい(※4)。教育長のリーダーとしての資質や能力を高めるための方策としては,現在,国において,市区町村の教育長等を対象とし,事例発表や研究協議等を行う研修会(※5)を実施しているが,今後,こうした取組の充実を図っていくことが期待される。
あわせて,教育長を補佐する教育委員会事務局の役割が大きいことから,教育委員会事務局の体制の充実を図ることも大切である。
「チームとしての学校」を推進するためには,教育委員会の専門性を組織として高めることが不可欠であり,指導主事や管理主事の資質・能力の向上や,指導主事等がその専門性を十分に発揮できるような環境の整備が求められる。
指導主事は,学校における教育課程,学習指導その他学校教育に関する事項の指導に関する事務に従事している。指導主事は,「教育に関し識見を有し,かつ,学校における教育課程,学習指導その他学校教育に関する専門的事項について教養と経験がある者でなければならない」(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第18条第4項)とされており,ほとんどの場合,学校の教員が任用されている。
学校が抱える課題の複雑化・多様化に伴い,教育委員会に求められる専門性も複雑化・多様化しており,指導主事の専門性にかかる期待は,年々大きくなっている。
その一方で,指導主事は,学校への指導・助言だけでなく,教育委員会の様々な業務も担っていることから,指導主事が事務業務に追われて,学校への指導が十分にできていない,指導主事が自らの専門性を高める機会が不足している,という課題も指摘されている。
また,小規模の市町村では,指導主事の配置が少数,あるいは1名もいないところも多い。
今後,学習指導要領の改訂の動向も踏まえ,「アクティブ・ラーニング」の視点を踏まえた指導方法の不断の見直し等による授業改善や「カリキュラム・マネジメント」を通した組織運営の改善を学校で進めていくためには,教育委員会の方針に基づいて,指導主事が学校に対して指導・助言を行っていくことが重要であり,指導主事の資質の向上や配置の充実が必要である。特に,幼稚園や子ども園については,幼児教育専任の指導主事を教育委員会に配置してほしいという意見があった。
そのために,指導主事を対象とした研修の充実に取り組むとともに,教職員を対象とした研修の企画・実施や,学校経営・教育指導等に対して具体的な指導・助言を行うことができるような経験を積む機会の充実を図ることが大切である。
また,指導主事の力を生かすために,都道府県教育委員会,教育センター,教育事務所,市町村教育委員会それぞれに配置されている指導主事が,しっかりと連携しつつ,役割分担をして,学校に対する指導・助言を行っていくことが重要である。
さらに,指導主事の配置が充実するよう,引き続き,国や都道府県の支援が必要である。
また,近隣の市町村が連携し,複数の市町村で指導主事を共同設置するなど,教育事務の処理の広域化に取り組むといった工夫も考えられる(※6)。
教育委員会は,教員の任命権者又は服務監督権者として,服務管理をはじめとして,教職員の人事管理に取り組んでおり,引き続き,研修の充実等の方策を講じ,服務管理の徹底に取り組む必要がある。
一方で,教育委員会は,任命権者として,教職員の力を引き出し伸ばすことができるような施策や,教員の本務である教科指導や生徒指導を伸ばすために必要な人事施策についても考えていく必要があることから,いわゆる指導行政と管理行政との間での連携をより重視していくような視点で組織を充実していくことが求められている。
また,教員とは異なる専門性や文化を有する専門スタッフに係る人事管理を十分,担うことができるような体制整備を進める必要がある。
そのため,教育委員会において,教職員の人事管理を主として担当している職員(管理主事等)の資質能力の向上を進めていくことが重要である。国は,管理主事等を対象にした研修を実施しているところであるが,内容の見直しを行うとともに,研修受講者の活用等の方策を検討するべきである。
教員勤務実態調査の結果によれば,小・中学校教員の約70%が保護者への対応が増えたと回答し,保護者への対応をストレスと感じる教員が50%を超えている。
さらに,保護者や地域からの相談や要望の内容も複雑化・困難化しており,対応に苦慮する事例も見られる。
不当な要望に対しては,法令にのっとって対応し,学校側の姿勢がぶれないことが重要である。そのためにも,担任や担当の教職員だけに対応を委ねることのないよう,問題の初期の段階から組織的に対応し,校長は教職員を,教育委員会は学校,校長を支援するという姿勢を日頃からはっきり示し,学校の要請に応える体制を整えておく必要がある。
また,教育委員会や学校は,保護者やPTA,地域への情報提供や学校評価の取組,コミュニティ・スクール等の仕組みの活用等を通して,学校の人員や予算等の実態について説明し,学校として対応可能な範囲について,日頃から理解を求めておくことが重要である。
あわせて,社会教育の機会を充実することにより,学校と家庭,地域社会の連携・協働関係を深めておくことも有効であると考えられる。
相談や要望を受けた際に,第三者的立場から中立的に問題解決を支援したり,教職員が専門的な知見を直接聞いたりできるような仕組みを作ることによって,学校の負担軽減につなげることが考えられる。
関係機関・団体における取組として,日本弁護士連合会の民事介入暴力対策委員会では,平成22年から行政対象暴力の一形態として教育対象暴力の検討が行われている。国,教育委員会は,このような関係機関・団体とも連携して,不当な要望等への対応について,学校現場に対する情報提供等を進めていくべきである。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成28年01月 --