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近年の少子化の進展に伴う学校の小規模化により、学校、学年、教科ごとの教員数が減少してきており、その中で、複数の教員がお互いに指導力を向上させ、教員全体としての指導力の維持・向上を図るためには、所属する学校内のみならず広く地域単位で中核的な役割を担う教員が求められている。
また、これまでの学級単位における各教科の指導から、グループ指導、少人数指導や習熟度別指導など学級の枠を超えて多様な学習集団に対応した指導方法の理解と習得が必要となっており、また「総合的な学習の時間」の実施や選択教科の拡充など、教科の枠を超えて教科指導を総合的に理解する必要が生じている。このため、従来の教科や学級の枠を超えて、多様な指導形態・指導方法を工夫し効果的に実践できる教員が求められている。
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このような、教員に対する高度の専門性への社会的要請に対応するためには、教職大学院においては、高度な専門性を有する教員の養成のためのどのようなコース・選択をとる場合においても、すべての学生が共通に履修すべき授業科目群を設定し、その基本的要素を共通的に定めておく必要がある。
この際、各教職大学院において提供される教育プログラムの設計に当たって共通に踏まえるべき教育課程の枠組みは、主に2つの軸をもって構成することが考えられる。
第一の軸は、体系的に開設すべき授業科目の領域の種類であり、第二の軸は、教職大学院で育成すべき資質は単に教員個人に還元されるべき資質ではなく、第一の軸の各領域で修得した知識・技能をさらに学校現場の中核的・指導的な教員として、所属する学校のみならず広く地域全体の教育力の組織的な改善・充実に活用できる資質の育成を含むものであることである。
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この制度的に定める共通的・基本的内容は、大きく以下の各領域から構成される。
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教育課程の編成・実施に関する領域
(教科等の内容を学校における教育課程及び学校教育全体の中で俯瞰する内容)
(具体的内容例)
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学習指導要領と教育課程の編成実施 |
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個に応じた指導の充実 |
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指導と評価の一体化、教育課程の自己点検・自己評価 |
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総合的な学習の時間の全体計画の内容と取扱い(各教科・道徳・特別活動との関連、学年間や学校段階間の指導との関連への配慮を含む。)など |
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教科等の実践的な指導方法に関する領域
(子どもの確かな成長・発達と創造的な学力を保証する教科等の実践的指導力に関する内容)
(具体的内容例)
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教科等の意義・目的(教科間の関連指導の工夫を含む。) |
・ |
授業計画(学習指導案の作成) |
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教材研究(教材の収集・選択・分析、教材化の工夫など) |
・ |
指導方法(授業構成・授業形態の工夫(少人数指導や習熟度別指導など、個に応じた指導等)を含む。) |
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指導と評価(テスト等の作成、評価の在り方)など |
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生徒指導、教育相談に関する領域
(学習や発達の過程における子どもの諸課題を的確に診断・理解し、適切に対処するための実践的指導力に関する内容)
(具体的内容例)
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子ども理解の内容と方法(思春期等に見られる心身症、精神疾患等に関する知識を含む。) |
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教員と子ども、子ども相互の人間関係 |
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子どもの健全育成の取組み |
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ガイダンスの機能と教育相談の充実 |
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問題行動等に関する事例研究 |
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学校における生徒指導体制 |
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家庭、地域や関係機関との連携など |
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学級経営、学校経営に関する領域
(子どもに充実した学校・学級生活を保障する学校・学級経営とともに、その課題の分析と解決の方策に関する内容)
(具体的内容例)
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学級経営の内容と果たす役割 |
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学級経営と学校経営(学年経営案、学年会、学校行事など) |
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保護者と連携を図った学級経営 |
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学校組織、校務分掌とその機能 |
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校内研修の意義・形態・方法 |
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開かれた学校づくり(家庭や地域社会との連携、学校間交流の推進、学校運営と学校評議員、情報公開と説明責任) |
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学級・学校運営と評価など |
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学校教育と教員の在り方に関する領域
(上記 から までを総覧し、現在の社会における学校教育の位置付けを理解し、教員としての役割を考える。)
(具体的内容例)
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学校と社会(社会における学校教育の位置付け、学校教育の役割、学校教育が抱える課題等の俯瞰) |
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(上記のような学校における)教員の社会的役割と社会的・職業的倫理 |
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(上記のような社会、学校における)教員に必要なコミュニケーション論(対子ども、保護者、同僚、学校外(関係機関、広く社会)) |
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特に「 学級経営、学校経営に関する領域」について、例えば「マネジメント」や「リーダーシップ」、「業務計画・改善手法」などについて、教育分野以外における理論・実践などを効果的に含めることが有効である。
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○ |
これら共通的・基本的内容は、現職教員としての経験を有する学生と学部新卒者とが共に履修することが適切な科目、別々に履修することが適切な科目があり得るが、いずれの内容についても履修する必要があることには差異はない。
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○ |
これら共通的・基本的内容について、各教職大学院に共通する基本的要素として、設置基準上明らかにすることとなる。
具体的には、上記共通的・基本的内容について、教職大学院はそのすべての領域にわたり授業科目を開設し、体系的に教育課程を編成することとし、学生はすべての領域にわたり履修することとする。
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○ |
なお、領域ごとの履修単位数の配分については各大学院における設定に委ねられるものの、体系的に教育課程を編成するものとする旨を設置基準等上に規定する以上、その単位数の合計は、一定程度(最低必要修得単位数全体から「学校における実習」の最低必要修得単位数を引いたもののうちの半数)以上となることが目安となる。
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○ |
また、教育課程の基準における小・中学校等学校段階ごとの教員の別について、小・中学校に関する諸制度全般について義務教育に関する改革が一体的に進められていることを踏まえ、また、教職大学院が、学校現場の抱える諸課題を広く構造的・総合的に理解することを基本とするものであるという趣旨に照らし、さらに、小学校における教科専門の深化が求められている一方、中学校においても、小学校と同様きめ細かい生徒理解や指導の改善が求められていること等を踏まえ、特に小・中学校等の差は制度上設けないこととしている。このため、小・中学校等に係る特に区分・特化が必要な内容は、各教職大学院において各科目群の中に必要な科目を設けることとする。
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このほか、各教職大学院の特色や指導目標等により、大学独自の共通・必修科目を設定することはあり得る。
(具体的内容例)
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特別支援教育に関する内容 |
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幼児教育に関する内容 |
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また、教員としての実践的指導力の向上には、幅広い人間性や深い教養が不可欠であり、各大学の判断と工夫により、入学者選抜等を含め教育課程内外において工夫することが重要である。
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なお、これら共通科目(基本科目)の履修に当たっては、コース(分野)別選択科目の内容の基礎となる理論の修得とともに、諸学問の体系性に根ざす単なる「理論のための理論」ではなく、学校における教育課題の把握や教員の実践を裏付けるとともに、様々な事例を構造的・体系的に捉えるものとする必要がある。(上記1.参照) |