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第6章 関連する諸課題について


1.総合的な体制整備に関する課題について

 障害者基本計画においては、障害者の社会への参加や参画に向けた施策の一層の推進を図ることを目的に、障害者一人一人のニーズに対応して総合的かつ適切な支援を行うことを基本方針としつつ、乳幼児期から学校卒業後まで一貫して計画的に教育や療育を行うこと等が示されている。

 これを踏まえ、協力者会議最終報告では、学校教育における体制整備の方向性として、関係機関の有機的な連携と協力、「個別の教育支援計画」(注4)、「特別支援教育コーディネーター」(注5)などの具体的な内容が提言された。

 文部科学省においては、全都道府県教育委員会に対する委嘱事業(注6)等を通じ、平成19年度を目標として、すべての小・中学校において総合的な支援体制を整備することを目指している。

 この委嘱事業においては、各都道府県等のレベルで、「特別支援連携協議会」や「専門家チーム」の設置、「巡回相談員」による小・中学校への指導・助言などが推進されており、また、各学校のレベルでは、「校内委員会」の設置、「特別支援教育コーディネーター」の指名、「個別の教育支援計画」の策定などが推進されている。

 引き続き、こうした体制整備を推進するとともに、その進捗状況を踏まえつつ、以下のような課題についても検討する必要がある。

1 個別の教育支援計画及び個別の指導計画について
 個別の教育支援計画については、今後、小・中学校も含めた策定の推進を検討するとともに、関係機関と連携した効果的な運用方法を確立する必要がある。また、今後の運用状況を踏まえつつ、「個別の指導計画」と併せて学習指導要領等への位置付けを行うことや、就学相談・指導や卒業後の就労支援における活用などを検討する必要がある。

2 特別支援教育コーディネーターについて
 協力者会議最終報告及び平成16年1月に文部科学省より公表された「小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」においては、すべての盲・聾・養護学校及び小・中学校において、特別支援教育コーディネーターを指名し、校務分掌に明確に位置付けることが求められている。今後は、引き続き研修等を通じた人材養成を推進しつつ、可能な限りコーディネーターとしての校務に専念できるよう必要な配慮が行われるようにすることや、いじめや不登校等に対応する小・中学校の生徒指導体制の整備と関連付けた活用も含め、一層の効果的・効率的運用を促す必要がある。また、盲・聾・養護学校(特別支援学校(仮称))においては、センター的機能を担う中核的存在としてコーディネーターが適切に位置付けられるようにすることも重要である。
 なお、特別支援教育コーディネーターの指名に関しては、校務分掌における位置付け、必要とされる研修や一定の経験等をどの程度求めていくのかについて様々な意見があるところであり、これらを含め、今後の各学校における運用状況を踏まえつつ、その在り方について引き続き検討する必要がある。

3 学校内外の人材の活用と関係機関との連携協力
 総合的な支援体制整備に当たっては、生徒指導主事、養護教諭、スクールカウンセラー、学校医などの学校内の人材はもとより医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の外部の専門家の総合的な活用を図ることや福祉、医療、労働など関係機関等との連携協力を進める必要がある。さらに、親の会やNPO等との連携を図り、全体として有機的なネットワークを構築する必要がある。

(注4) 「個別の教育支援計画」とは、障害のある幼児児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な支援を行うことを目的として策定されるもので、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面からの取組を含め関係機関、関係部局の密接な連携協力を確保することが不可欠であり、教育的支援を行うに当たり同計画を活用することが意図されている。なお、「新障害者プラン」(障害者基本計画の重点施策実施5か年計画)の中では、盲・聾・養護学校において「個別の支援計画」を平成17年度までに策定することとされている。この「個別の支援計画」と「個別の教育支援計画」の関係については、「個別の支援計画」を関係機関等が連携協力して策定するときに、学校や教育委員会などの教育機関等が中心になる場合に、「個別の教育支援計画」と呼称しているもので、概念としては同じものである。

(注5) 特別支援教育コーディネーターについて、協力者会議最終報告では、小・中学校又は盲・聾・養護学校において関係機関との連携協力の体制整備を図るために、各学校において、障害のある児童生徒の発達や障害全般に関する一般的な知識及びカウンセリングマインドを有する学校内及び関係機関や保護者との連絡調整役としてのコーディネーター的な役割を担う者として提言されている。

(注6) 文部科学省では、平成15年度から「特別支援教育推進体制モデル事業(平成17年度からは「特別支援教育体制推進事業」とし、厚生労働省の「発達障害者支援体制整備事業」と連携協働して実施している。)」を全都道府県に委嘱して推進している。本事業においては、各都道府県において推進地域を設定し、推進地域内の小・中学校等においては、幼児児童生徒の実態把握や適切な支援方法等について検討を行うための「校内委員会」の設置や、「特別支援教育コーディネーター」の指名、「個別の教育支援計画」の策定を行うこととしている。また、各都道府県教育委員会等においては、教育委員会の職員、教員、心理学の専門家、医師等により構成され、小・中学校等からの申し出に応じ、LD、ADHD、高機能自閉症か否かの判断や望ましい教育的対応等の専門的な意見を示すための「専門家チーム」の設置、小・中学校等を定期的に巡回し、LD・ADHD・高機能自閉症等の幼児児童生徒に対する指導内容・方法に関する指導や助言を行う「巡回相談」の実施及び障害のある幼児児童生徒に対する総合的な支援体制の整備を促進するため、教育、福祉、医療、労働等の関係部局や、大学、親の会、NPO等の関係者からなる「特別支援連携協議会」を設置することとしている。

2.障害のある児童生徒の就学の在り方について

 児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して適切な指導及び必要な支援を行うという特別支援教育の理念にかんがみると、障害のある児童生徒の義務教育諸学校への就学相談・指導は、就学時のみならず就学後を含めて一層重要な役割を担うこととなる。このため、その在り方については、以下の観点を含め、引き続き検討し、必要な見直しを行うことが適当である。その際には、国際的な動向や平成14年9月から実施されている認定就学制度の運用状況等にも十分留意することが必要である。

1  就学指導に際しての児童生徒の教育的ニーズの的確な把握及び反映の一層の充実
ア) 児童生徒の教育的ニーズをきめ細かく把握しこれを就学先の決定に反映するための調査・審議を専門的に行う機関である就学指導委員会等の構成、開催方法等
イ) 児童生徒本人及び保護者の意向を把握しこれを就学先の決定に反映するための就学指導の在り方
ウ) 乳幼児期からの相談体制の構築を含めた就学前からの教育相談の在り方
エ) 個別の支援計画の活用を含めた関係機関等と連携した就学指導の在り方
 など、就学指導に際して児童生徒の教育的ニーズを的確に把握しこれを教育内容や就学先の決定に反映する取組を一層充実する観点
2  就学後における児童生徒の教育的ニーズの的確な把握及び反映の一層の充実
ア) 就学後における継続した就学相談・指導の在り方
イ) 校内委員会等の校内組織の在り方
ウ) 児童生徒の教育的ニーズを反映した転学の弾力化
 など、就学後において児童生徒の教育的ニーズを的確に把握しこれを教育内容や就学先の決定に反映する取組を一層充実する観点
3

 就学指導についての的確な説明及び情報提供の一層の充実
障害のある児童生徒の就学指導の過程や就学先における教育内容等について、児童生徒及び保護者に対する説明及び情報提供を一層充実する観点

3.特別支援教育の普及啓発について

 今回の制度的見直し等を進めるに当たっては、特別支援教育の理念と基本的考え方が、盲・聾・養護学校の校長はもちろんのこと、小・中学校等の校長をはじめとする学校のすべての教職員はもとより、国民一般に広く理解・共有されるようにすることが重要である。

 特に、小・中・高等学校等において、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習の機会が充実されるようにすることが重要であるとともに、「特別支援教室(仮称)」の構想を実現するためには、通常の学級を担当する教員や、障害のない児童生徒及びその保護者の理解と協力が不可欠となる。このため、国及び教育委員会においては、研修や広報活動等を通じた普及啓発を積極的に推進すべきである。

 なお、障害のある児童生徒の義務教育諸学校への就学や個別の教育支援計画の策定については、十分な制度の周知を図りつつ、保護者の理解を得られるような形で進めていく必要がある。

4.就学前及び後期中等教育等における特別支援教育の在り方について

 LD・ADHD・高機能自閉症等を含めた障害のある子どもへの対応については、幼児段階での早期発見・早期支援が重要であることから、幼稚園及び保育所との連携を考慮しながら、幼児段階における特別支援教育の推進の在り方についても検討が必要である。

 また、今後、高等学校に在籍しているLD・ADHD・高機能自閉症等の生徒に対する指導及び支援の在り方、養護学校(特別支援学校(仮称))高等部の充実方策や、障害のある児童生徒に係る前期中等教育と後期中等教育との接続の在り方など、後期中等教育における特別支援教育の推進に係る諸課題について、早急な検討が必要である。特に、障害者の自立と社会参加を支援する観点から、中学校や関係機関と連携しつつ、就労を目指した職業教育の充実を図ることは重要な課題である。さらに、高等教育機関での修学支援を図ることも重要である。

5.法令上の用語等の見直しについて

 現在の学校教育法における特殊教育の規定にある「欠陥」や「心身の故障」等の語については、特別支援教育の理念にふさわしくないと考えられることから、特別支援教育への転換に伴う法令上の用語等の見直しについて法制的な検討を行う必要がある。

6.国の役割について

 国においては、以上のような制度的な見直し等を進めるに当たり、各都道府県・市町村の教育委員会や各学校に対して、見直し等の全体像や移行スケジュールを含む明確な方針を適時・適切に提示することにより、円滑な移行が図られるようにすることが必要である。

 また、特別支援教育に係る制度的な見直し等を進めるに際しては、引き続き教育の機会均等及び教育水準の維持向上が図られることが重要である。このような観点から、義務教育費国庫負担制度の改革の動向等を踏まえつつ、教職員配置等の所要の条件整備についても併せて検討する必要がある。その際、盲・聾・養護学校(特別支援学校(仮称))等に就学する幼児児童生徒の保護者に係る経済的負担については、引き続きその軽減に努めることが重要である。

 さらに、特別支援教育を取り巻く状況の変化等を踏まえ、政策的ニーズの高い課題や教育現場等の喫緊の課題に対応した専門的な研究・研修を一層充実していくことが、国の重要な責務である。国立特殊教育総合研究所においては、これまで以上に、教育現場のニーズに応じて教員の実践的な指導力を向上させるための戦略的かつ機動的な研究活動や研修事業等の展開を図り、特別支援教育のナショナルセンターとしての役割を十全に果たすことが強く期待される。また、その際、大学等の関係機関との連携協力による取組が重要である。

 なお、特別支援教育の推進など障害のある幼児児童生徒に対する支援については、例えば、スポーツ活動などを通じて自立及び社会参加を支援する地域の取組や、障害のある子どもの学校休業日や放課後の支援など厚生労働省等における関連施策と十分連携しながら推進することが望まれる。


別紙
参考

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