「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法」について
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経緯 |
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1983年の連邦報告書『危機に立つ国家』を契機として,各州は学力向上を目標とする教育改革を推進。連邦政府は,教科別の到達目標となる教育スタンダードや州内統一学力テスト等の実施によるアカウンタビリティを重視した各州の取組を積極的に支援(「教育サミット」(1989年)の呼びかけ、教育改革振興法「2000年の目標」制定(1994年)など)。
こうした連邦政府による州教育改革支援の一つの集大成として,2002年1月8日,初等中等教育法(1965年)の改正法となる同法を制定。 |
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2. |
目的及び手法 |
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目的は全般的な学力向上と貧困地域出身者やマイノリティの成績格差の縮小を目的として,アカウンタビリティを重視した各州の教育改革をさらに徹底する方向で,次の四点を柱とする取組を推進。 |
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州内統一学力テストの実施と結果の公表(アカウンタビリティの重視) |
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2005年までに第3学年から第8学年までの各学年を対象に「教育スタンダード」に対応した英語と数学の州内統一学力テストを実施 |
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学力テストの結果を州単位,各学校単位,生徒集団単位で公表 |
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連邦補助金の使用における州及び地方(学区)の裁量拡大 |
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学区や州の連邦補助金の多くの部分について学区や州の弾力的使用の承認 |
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基礎学力(読解力中心)向上政策への集中投資 |
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教育機会の選択拡大。 |
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3. |
成果及び評価 |
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2003年6月,連邦教育省は同法に基づく補助金受給のために提出されていた各州の教育改革案をすべて承認したと発表。これにより,すべての州は,教育スタンダードの策定や州内統一の学力テスト,テスト結果のほか卒業率や教育条件等も内容とする学校及び学区の実績報告書の公表など,上記 から の取組を実施あるいは実施に向けた準備を進めていることが明らかになった。
連邦教育省が実施している全国学力調査(NAEP)の全国平均に大きな変化は見られないものの,各教科において若干の向上がみられる。 |
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全国学力調査(NAEP)の成績(全国平均)の推移 |
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読解力 |
算数 |
第4学年(読解力) |
第8学年(読解力) |
第4学年(算数) |
第8学年(算数) |
2000年 |
213 |
− |
226 |
273 |
2002年 |
219 |
264 |
− |
− |
2003年 |
218 |
263 |
235 |
278 |
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(注) |
NAEPは連邦教育省が教科別に第4学年,第8学年,第12学年を対象として2〜5年ごとに実施しているサンプル調査(500点満点)。
2000年以前は点数の算定方法が異なるため,比較できない。 |
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(参考)
連邦の教育改革振興法(NCLB)に対する一般の理解は依然低調−−公立学校に関する年次意識調査
教育専門誌カッパンは,2004年9月,民間調査会社であるギャラップ社とともに一般市民を対象として実施している公立学校に対する意識調査の結果を発表した。36回目を数える今回の年次報告では,地元の公立学校に関する問題点や評価などに関する例年の質問項目のほか,連邦教育改革振興法「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法(No Child Left Behind Act)」を中心とする今日の教育改革の取組について調査が行われた[注]。
連邦の教育改革振興法の理解
今回の調査によると,連邦の教育改革振興法に関する理解は,公立学校に子どもを通わせる児童・生徒の親の間で若干広がってきている(「大変よく知っている」あるいは「よく知っている」との回答は37%。前年は22%)ものの,6割以上は認識しておらず,同法の認知度は依然として低いことが明らかになった。このため,学校の教育成果に関するアカウンタビリティを重視する同法の改革手法の是非について,回答者全体の半数以上(55%)が「何ともいえない」と答えた。ただし,同法についてある程度認識している者に限ると改革手法を支持する者が,支持しない者を上回った。
各学校への改善策導入の決定に関する判断材料として州統一の学力テストを用いることについては,回答者全体の67%が実績評価に不十分であると回答しており, 英語と数学を中心とする現行のテストについては「他教科についても実施すべき」とする回答が大勢(83%)を占めた。また,改善策のひとつとして同法に規定されている低迷校在学者の転校の保障について,仮にそうした学校に子どもが在学している場合,転校を希望する者は16%で,80%は学校改善への追加的支援策を求めると答えた。
地元公立学校の評価
例年実施されている,地元の公立学校に対する五段階評価(A, B, C, D, Fの順で,Aが最高)については,AまたはBとする回答が全体の47%を占めた。「地元の公立学校が抱える最大の問題」は「財政難」とする回答が21%と最も多かった。また,公立学校改革の手法としては「既存の公立学校の改善」のほうが「(既存の公立学校に代わる)新たな教育制度の構築」よりも望ましいと考えられており,教育バウチャーの導入については半数以上が「反対」と慎重な態度が見られた。
大統領候補の教育政策
2004年11月に実施される総選挙に関連して,「公教育の改善に関心が高いと思われる政党は」との問いに民主党との回答が共和党を上回ったが,「教育政策に絞った場合どちらの大統領候補に投票するか」との問いにはブッシュ,ケリー両候補とも同じ41%の支持が示された。(資料参照)
注: |
調査は,全米から層化抽出された18歳以上の男女,1,003名を対象として,2004年5月28日から6月18日にかけて,電話によるインタビュー形式により実施された。 |
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[Education Week(2004年9月1日)/Phi Delta KAPPAN, September2004, pp.41-56] |