障害者権利条約批准・インクルーシブ教育推進ネットワーク

2010年10月18日

障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方に関する意見書

障害者権利条約批准・インクルーシブ教育推進ネットワーク
一木玲子(愛知みずほ大学教員)

 

1 障害者権利条約批准・インクルーシブ教育推進ネットワークの紹介

 日本が障害者権利条約を批准するに際して権利条約に則った教育関連法改正の実現を求めるために結成された市民団体であり、障害当事者や保護者、教員、研究者、弁護士、小児科医など、多様な人による幅広い全国ネットワークである。障害者権利条約24条のわかりやすいパンフレットの作成、通信の発行、全国集会など権利条約やインクルーシブ教育の啓発活動、政府や文科省との交渉などを行っている。全国に119の賛同団体をもつ(2010年10月時点)。2007年12月1日結成。

 

2 はじめに

  1. 障害者権利条約におけるインクルージョンとは、障害のある人を「排除(エクスクルージョン)しない」という意味である。社会や学校から排除されてきた障害のある人がこれ以上排除されないために各国に法制度として実施すべきことを規定したのが障害者権利条約であり、現時点での人権の到達点といえるものである。インクルーシブ教育とは障害児者を排除しない教育であり、障害児者を排除しないために、障害児者は排除されないために社会全体の力をつけるのがインクルーシブ教育であり、共生社会の実現のためには学校教育こそインクルージブな環境でなければならない。この前提をなくしてインクルーシブ教育について議論することの危険性をまず指摘したい。
  2. インクルーシブ教育は学校全体の改革であるとユネスコ・サラマンカ宣言(1994年)は提唱している。2010年の子どもの権利委員会総括所見は「極端に競争的な環境によって引き起こされる悪影響を回避する目的で、締約国が学校制度および大学教育制度を再検討するよう」勧告しており、現在、特別支援学校、特別支援学級の在籍者が増加している状況は、地域の学校がインクルーシブではなく、すべての子どもにとって安心して学習できない場になっていることの反映であるととらえることができる。これらを謙虚に受け止めて、障害の有無を問わず、すべての子どもが地域の学校で学習することができる体制と条件整備という観点からインクルーシブ教育制度を構築することが、今必要なことである。
  3. 以下、国連の障害者権利条約(以下、権利条約と記載)や他の人権に関する諸国際規約に基づいてヒアリング事項を評価し提言を行う。

 

3 ヒアリング事項について

1.現行の特別支援教育の評価

評価1、特別支援教育は障害の種類と程度により就学先が規定されている原則分離教育制度であり、インクルーシブ教育制度ではない。(権利条約2条、3条、24条関連)

    現状:

       2009年に奈良県下市町教育委員会は、車いすを使用している子どもの中学校入学を拒否し、保護者は入学許可を求めて訴訟をおこした。地方裁判所は中学校入学を認め、その子は3カ月(一年間の学校生活の実に4分の一)遅れでようやく入学している。これは現行の原則分離教育制度に基づいて行われた結果である。

    根拠:

      (1)現行の制度は、障害の有無で子どもの区別して取り扱い、また障害の種類と程度による就学基準(学校教育法施行令第22条の3)により子どもの就学する場を規定している点で、権利条約3条「非差別」の原則に反し、権利条約2条の「障害に基づく区別、排除および制限は差別」とする点に該当する。

      (2)また、この制度により、特別支援学校や特別支援学級に就学した場合、子どもが生活する地域の学校、つまり子どもにとっては校区の学校に通えない、離される事態が引き起こされることから、現行の特別支援教育は、権利条約24条2項(a)「障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと」、(b)「 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、その生活する地域社会において、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること。」に抵触する。

      (3)認定就学制度は現行の医学モデルによる就学基準でいったん判定した上で、「小中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情がある」と市町村教育委員会が認める者が対象である点から、あくまでも例外措置である。また、国による合理的配慮等の制度保障がなく市町村の状況に左右され格差を生みだすものである。

      (4)2010年6月、国連子どもの権利委員会は「必要な設備および便益を用意するための政治的意思および財源が欠けていることにより、障害のある子どもによる教育へのアクセスが引き続き制約されていることにも留意する」と、日本政府がインクルーシブ教育を行っておらず予算を措置していないことに強い懸念を表明しインクルーシブ教育に転換し予算を措置するよう勧告している。((e)「障害のある子どものインクルーシブ教育のために必要な便益を学校に備えるとともに、障害のある子どもが希望する学校を選択し、またはその最善の利益にしたがって普通学校と特別支援学校との間で移行できることを確保すること)

    提言:

       原則としてすべての子どもが普通学級に籍を置く制度に転換し、本人や保護者、ろう児、難聴児、盲ろう児の希望に応じて特別支援学級、特別支援学校を選択できるよう法制度を改めること。

 

評価2、普通学級における合理的配慮と必要な支援が整備されていないために本人及び保護者に負担が強いられている。(権利条約2条、24条関連)

    現状:

      (1)障害児の就学奨励費が障害のある子どもが特別支援学校や特別支援学級に在籍していると支払われるのに、普通学級在籍の場合は支払われない。

      (2)2008年度から特別支援教育支援員を地方交付税予算で措置されているが、予算が少ないため、また自治体裁量で配置条件等が決められているため必要としている子どもに行きわたっておらず、学習や学校行事における保護者の付き添いや費用請求が行われている。

      (3)東京都大田区では普通学級就学に際して子どもの学校生活に保護者が協力する旨の書類に捺印することが求められている。東京都東村山市の「東村山市立学校支援員配置費用の補助に関する規則」では、肢体不自由の子どもの支援員等の費用が20万円を超える場合は保護者が負担することになっている。

    根拠:

      (1)権利条約24条2項(C)「各個人の必要〔ニーズ〕に応じて合理的配慮が行われること」、(d)「障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要とする支援を一般教育制度の下で受けること」に抵触している。

      (2)合理的配慮とは、「障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないもの」をいう。「過重な負担を課さないもの」については、「過度な負担」と認定されても他の方法を考案するなどその人の請求する権利は消滅しないし、国によってはこの定義は学校教育にはなじまないという意見がある。むしろ、合理的配慮を行わないことは障害に基づく差別である(権利条約2条)ことを重視すべきである。

    提言:

       国の予算措置の仕組みを変え、普通学級に合理的配慮と必要な支援を整備すること。

 

評価3、個別の支援をフル・インクルージョンという目標に即して実施しておらず、交流及び共同学習を推進することでインクルーシブ教育として位置付けている。(権利条約24条関連)

    現状:

      (1)交流及び共同学習の回数は、特別支援学校小学部の過半数が年間1~3回という実施状況である。(特別支援教育総合研究所平成17年度調査研究報告書「交流及び共同学習に関する調査研究」)

      (2)一方、金沢市教育委員会は「交流及び共同学習は50%を基準とする」と明記し、他の自治体も時間数は異なるが実施回数が制限されており、フル・インクルージョンへの移行が歯止めされている。

    根拠:

      (1)権利条約24条2項(e)で、「フル・インクルージョンという目標に則して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置がとられること」とある。特別支援学校や特別支援学級などの個別化された支援措置は完全なインクルージョンを目指して行われなくてはならない。

    提言:

      (1)特別支援学校、特別支援教室ではなく普通学級に籍を置く特別支援教室を充実させること。

      (2)現行の交流及び共同学習をフル・インクルージョンに移行するために回数を増やしていき普通学級への移籍を図ること。

 

評価4、特別支援教育における障害の定義が医学モデルであり、権利条約が提唱している社会モデルではない。(前文(e)、1条関連)

    現状:

       特別支援教育の目的は「障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授ける」とされている。これは、個人の能力を伸ばすことにより障害の克服・軽減を図る医学モデルに基づいた考え方であり、障害者権利条約で提唱されている社会モデルではない。

    根拠:

      (1)権利条約の前文(e)には、「障害が機能障害〔インペアメント〕のある人と態度及び環境に関する障壁との相互作用であって、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものから生ずる」と書かれ、障害は環境や制度、人間の意識態度にも存在して障害者の社会参加を妨げているとする社会モデルを採用している。

      (2)第9回障がい者制度改革推進会議に文部科学省が提出した意見書に次の記載がある。「文部科学省としては、・・・条件整備が整わない中での理念のみのインクルーシブ教育は、結果として、子どもの『能力を可能な最大限度まで発達させる』との目的(権利条約第24条)を損なう恐れがあることに留意すべきであると考える」
       「能力を可能な最大限まで発達させる」こととインクルーシブ教育がまるで対立しうるかのように対置されているが、これは医学モデルに基づく発想である。障害を社会モデルでとらえると、「発達させる」という目的を達成するための手段・方法としてインクルーシブ教育が必要になることが理解されていない。インクルーシブ教育とは指摘されているようにまさに「能力を可能な限り発達させる」ための手段であり、障害者や高齢者の社会参加が阻まれ、日本が先進国の中でもノーマライゼーションが立ち遅れた国となっているのは、分離を前提とした医学モデルに基づいた特別支援教育が最大の弊害になっているからである。

    提言:

       障害定義を社会モデルにし、社会全体が障害を克服・軽減するための教育を行うインクルーシブ教育体制を整え教育の目的を改正すること。

 

評価5、就学の手続きにおいて、保護者の意見聴取が義務づけられているが、普通学級就学を希望している保護者と子ども本人に公平な情報提供と意見聴取が行われていない。(権利条約7条、8条、23条関連)

    現状:

       2009年度の愛知県の就学指導で、普通学級を希望した保護者に対して学校が話し合いの場を設定したが、母親一人に対して、校長、教頭、教務主任、養護教諭、教育委員会担当者の5人が一同に対応し、心理的圧迫を受けたという報告がある。同校に障害のある子どもが在籍して支援員が配置されているのにその説明は一切なく、教育委員会担当者が「特別扱いはしませんが良いのですか」という発言をしている。このような事例は全国的にみられ、普通学級希望と言えない状況に保護者を追い込んでいる実態がある。

    根拠:

      (1)保護者の意見聴取は2007年度から義務づけられたが、就学時健康診断の判定を前提にした就学指導が行われているため、普通学級に就学を希望している保護者に対して公平な情報提供と聴取が行われていない。これは、権利条約8条2項(b)「すべての段階の教育制度、特に幼年期からのすべての子どもの教育制度において、障害のある人の権利を尊重する態度を促進すること」及び23条「家庭及び家族の尊重」に抵触する。また、障害児本人の意見が聴取尊重される法整備がされておらず権利条約7条「障害のある子ども」に抵触する。

      (2)国連子どもの権利委員会総括所見(2010)は、「・・・意見を聴かれる子どもおよびその親の権利の尊重を促進することを目的とした、意識啓発キャンペーンを実施すること」と、保護者と同様に子ども本人の意見を聴取し正当に評価するよう日本政府に勧告している。

    提言:

       就学先決定に際しては、保護者及び子どもの意見を尊重する旨を法令化し、決定権を付与すること。

 

評価6、学校教育関係者にインクルーシブ教育に関する知識が乏しく、医学モデルに立脚した指導をするため障害児を普通学級から排除しがちである。(権利条約4条、8条関連)

    現状:

      (1)特別支援教育に関する研修が国や地方教育委員会、学校等により精力的に行われているが、医学モデルに立脚したものであるために、普通学級にいる子どもが共に学ぶための研修にはなっていない。

      (2)その結果、障害のある子どもに対して十分な指導をしたい、力をつけたいと思えば思うほど、普通学級よりも特別支援学級、特別支援学校のほうが自立につながるのではないかと教員は考えてしまい、普通学級から障害児を追い出してしまう状況になっている。

      (3)一方、現行の分離教育制度においても、現実には、就学指導委員会の判定を受けずに、あるいは受けてもなお、地域の普通学級で学びたいという子どもや親の希望に応えて、共に学ぶ実践を積み重ねてきた実績がある。しかし、制度的な裏付けがないために、教師個人の努力になりがちであり、実践の共有や、学校全体、地域全体としての実践になりにくい。

    根拠:

      (1)権利条約4条1項(i)「この権利条約において認められる権利により保障される支援及びサービスを一層効果的に提供するため、障害のある人と共に行動する専門家及び職員に対する当該権利に関する訓練を促進すること」、権利条約8条2項(b)「すべての段階の教育制度、特に幼年期からのすべての子どもの教育制度において、障害のある人の権利を尊重する態度を促進すること」に抵触する。

      (2)子どもの権利条約総括所見(2010)で、(g)「教職員、ソーシャルワーカーならびに保健・医療・治療・養護従事者など、障害のある子どもとともに活動している専門的職員を対象とした研修を行なうこと」を勧告されている。これは障害のある子どもの権利に関する委員会の一般的意見9号(2006年)に基づきインクルーシブ教育に関する研修のことを指している。

      (3)ユネスコでは1990年頃より教員のための教材等の開発が行われている。通常学級における子どものつまずきは子どもではなくカリキュラムに問題があるとする見方を身につけ、多様性に対応できる教員の養成のための教材として世界各国で使用されている。日本も権利条約の理念に則り国際人権規約レベルの教職員研修を企画、立案し実行すべきである。

    提言:

      (1)権利条約に基づいたインクルーシブ教育に関する養成・研修など学校関係者の意識啓発をすること。

      (2)今までの蓄積された共に学ぶ実践を評価し積極的に活用すること。

 

2、平成21年2月の調査研究協力者会議の中間とりまとめにおける就学先決定に関する提言の評価

評価  現行の就学の仕組みと根本の理念が変わっておらず、条約に則ったインクルーシブ教育制度の就学の仕組みとは言えない。

    根拠:

      (1)依然として障害により就学先を分ける原則分離教育制度であるからから。

      (2)保護者の意見は尊重ではなく聴取のままであり、子どもの意見は考慮されていない。

      (3)個別教育支援計画が従来のままの医学モデルに基づき作成されることになっており、インクルーシブ教育に逆行している。

 

3、障がい者制度改革推進会議の第一次意見(教育関係部分)の評価

評価  第一次意見の「推進会議の問題認識」は権利条約の理念に沿ったものであると評価できる。それに対して、「政府に求める今後の取り組みに関する意見」は、文言が後退している点で、政府及び文科省のインクルーシブ教育に対する姿勢を疑わざるを得ないものである。

    根拠

      (1)障害の有無を問わず、すべての子どもが地域の学校に通う原則インクルーシブ教育制度と、希望するものやろう児、難聴者、盲ろう児には分離された学校での教育を認める形になっていること、障害のある子どもや保護者の選択権を認めていること、全ての小学校・中学校で障害児への合理的配慮を行うことを明記していることなど、権利条約の内容に沿うものである。

      (2)「政府に求める今後の取り組みに関する意見」では、「・・・制度改革の基本的方向性についての結論を得るべく検討を行う」「・・・その基本的方向性についての結論を得る」と書かれているが、基本的方向性はすでに「推進会議の問題認識」に記載されているにも関わらず、さらに基本的方向性について検討するということは、推進会議の第一次意見をないがしろにするものである。推進会議の基本的方向性に則りそれらの具体的方策について結論を得ることが不可欠である。さらに、前者は「検討を行う」どまりで「結論を得る」とされていない点からも姿勢の弱さが見られる。

 

4、その他、特別委員会の論点(例)について気付いた点

(1)基本的方向性が曖昧であり、条約に則ったインクルーシブ教育制度に転換する意志がみられない。

    根拠

      ○1 総論に「日本的なインクルーシブ教育システムの構築を図る上で、現行の特別支援教育(特別支援学校、特別支援学級、通級指導、通常学級での指導・支援)をどのように位置付けるべきか」という論点がある。条約に基づいてインクルーシブ教育システムに制度改正するならば、「現行の特別支援教育をどのように転換するか」という表現になるはずである。特別支援教育を維持させる中でインクルーシブ教育に近づけようとする表現がこのほかにも随所に見られる。

      ○2 就学相談・就学先決定の在り方及び必要な制度改革について以下の記述がある。「移行期の個別の教育支援計画の作成を通じて、障害の状態・ニーズ、保護者の意向等を総合的に勘案し、就学先を判断する制度とした場合のメリット、デメリットは何か」「障害の有無にかかわらず、すべての子どもが地域の小・中学校に就学し、かつ通常学級に在籍することを原則とする制度とした場合のメリット、デメリットは何か」。前者は2009年2月に調査研究協力者会議が中間まとめで提言したもので、後者が推進会議の認識である。このように改革の基本的方向性が両論併記され、改革の方向性があいまいのまま意見交換が行われているため、議論が散漫になっている。第一次意見の基本的方向性に基づいて、実質的な改革の方策を議論すべきである。

(2) 委員会で権利条約の性格や基本ターム、制定過程の議論を踏まえた条約解釈が押さえられておらず、また人権に関する諸国際規約を踏まえずに議論が進んでいる。

    根拠

      ○1 例えば、合理的配慮の定義について委員から質問があったときに事務局が説明できなかったこと(次回の会議で資料は出されたが)、委員の間違った解釈に対して対応が曖昧なままで、捻じ曲げた条約解釈のまま議論が進むなどが見られた。

      ○2 医学モデルに基づいた障害のとらえ方で議論がすすんでおり、社会モデルに基づいた障害のとらえ方が周知されていないので、学校の問題の責任を障害のある子どもに押し付けている意見が散見される。障害のある子どもの責任ではなく、学校制度の問題、カリキュラムに問題があるという社会モデルの見方の上で、対策を議論すべきである。

      ○3 子どもの権利条約など、人権に関する諸国際規約等について周知されていない。子どもの意見表明に際して、就学先決定について中学校就学ぐらいから子どもの意見を考慮するという意見があったが、これは子どもの権利条約及び子どもの権利条約に抵触する。

      ○4 各国の制度紹介が、差別禁止法の存在などを捨象し教育制度単独でなされている。差別禁止、障害者の権利保障という法枠組みで各国の障害児教育制度を紹介しないと、教育制度の形のみの紹介になり、差別禁止を基調として制定された権利条約の関連性が見えてこない。

 

以上

 

 

※参考資料1 2010年子どもの権利条約第3回総括所見における勧告(抜粋)

 

障害のある子ども

  1. 委員会は、締約国が、障害のある子どもを支援し、学校における交流学習を含む社会参加を促進し、かつその自立を発達させることを目的として、法律の採択ならびにサービスおよび施設の設置を進めてきたことに留意する。委員会は、根深い差別がいまなお存在すること、および、障害のある子どものための措置が注意深く監視されていないことを、依然として懸念する。委員会はまた、必要な設備および便益を用意するための政治的意思および財源が欠けていることにより、障害のある子どもによる教育へのアクセスが引き続き制約されていることにも留意する。

 

  1. 委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。

(a)障害のあるすべての子どもを全面的に保護するために法律の改正および採択を行なうとともに、進展を注意深く記録し、かつ実施における欠点を明らかにする監視システムを確立すること。

(b)障害のある子どもの生活の質を高め、その基本的ニーズを満たし、かつそのインクルージョンおよび参加を確保することに焦点を当てた、コミュニティを基盤とするサービスを提供すること。

(c)存在している差別的態度と闘い、かつ障害のある子どもの権利および特別なニーズについて公衆の感受性を高めること、障害のある子どもの社会へのインクルージョンを奨励すること、ならびに、意見を聴かれる子どもおよびその親の権利の尊重を促進することを目的とした、意識啓発キャンペーンを実施すること。

(d)障害のある子どものためのプログラムおよびサービスに対して十分な人的資源および財源を提供するため、あらゆる努力を行なうこと。

(e)障害のある子どものインクルーシブ教育のために必要な便益を学校に備えるとともに、障害のある子どもが希望する学校を選択し、またはその最善の利益にしたがって普通学校と特別支援学校との間で移行できることを確保すること。

(f)障害のある子どものためにおよびそのような子どもとともに活動している非政府組織(NGO)に対し、援助を提供すること。

(g)教職員、ソーシャルワーカーならびに保健・医療・治療・養護従事者など、障害のある子どもとともに活動している専門的職員を対象とした研修を行なうこと。

(h)これとの関連で、障害のある人の機会均等化に関する国連基準規則(国連総会決議48/96)および障害のある子どもの権利に関する委員会の一般的意見9号(2006年)を考慮すること。

(i)障害のある人の権利に関する権利条約(署名済み)およびその選択議定書(2006年)を批准すること。

(平野裕二訳 http://www26.atwiki.jp/childrights/pages/14.html )

 

 

※参考資料2 イタリアのインクルーシブ教育

 

■イタリアでは1970年代より障害児が原則として地域の学校に就学する法制度に転換し、現在では障害の種類や程度を問わず就学前から高等教育まで普通学級でのインクルーシブ教育が保障されている。2005年の統計では障害のある児童生徒のうち小学校に在籍している子どもは93.04%、中学校は96.39%、高等学校は94.94%である(Essere Studenti in Emilia-romagna、2005)。

 

■とりくみの経験から新しい学校の概念として以下が提唱されている。

○1 障害児も障害のない子どもも普通学級の中でこそ全体的な育ちが見られ学習も進展すること、

○2 抽象的な知だけでなく、身体的感覚的発達や社会化も重視して共に活動すること、

○3 分けない教育方法の工夫が重要であること

 

■1994年の障害者包括法(障害者基本法)において、就学前から高等教育までのインクルーシブ教育の保障と合理的配慮について明確に記載され、それらの権利は障害者の学習の困難性や障害に関係する能力の欠如から生ずるその他の困難性によって妨げられないことが明記されている。

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)