障害者権利条約文部科学省関連の項目(第2回)についての意見書

2008年11月27日 第7回政府意見交換会

障害者権利条約文部科学省関連の項目(第2回)についての意見書

日本障害フォーラム

 

1.障害者権利条約への批准に向けた検討の場の設置について

 権利条約批准に向けた検討の場としては貴省が主催している「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」(以下、協力者会議)では不十分である。
 権利条約第2条で「障害に基づく差別」を定義し、第3条で非差別の原則、第5条等において、平等・非差別の規定をおいている。直接差別、間接差別、合理的配慮を行わないことは差別となるとされ、差別に対して、効果的な法的保護を障害者に保障するとある。これは教育の分野でも当然適用される。また権利条約第24条では、生涯学習等の規定もされている。よって、権利条約の批准に向けた検討の場は関連する全ての条項に対する検討の場となるべきであり、特別支援教育の問題に限られるべきではないという理由から、協力者会議では不十分である。
 第4回意見交換会の質疑応答の場で若干触れたが、合理的配慮や就労の体系など、教育問題と類似する労働分野での課題を抱える厚生労働省の労働部門においては、2008年4月より「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応のあり方に関する研究会」を立ち上げている。最低限同様の、権利条約に基づいて障害をもつ子ども・障害者の教育における課題や論点を整理し、政策に生かすための検討の場をもつべきである。この取り組みでは、少なくとも議事や資料は迅速に公開され、そこに参加する団体にはJDFといった権利条約への取り組みを行ってきた障害関連団体と専門家を含めるべきである。この要望について、現時点での貴省のお考えを聞かせていただきたい。

 

2.インクルーシブ教育等について

(1)障害をもつ子どもに対する異別(別異)取り扱いについて

 第4回意見交換会において、学校教育法施行令第5条等により、障害のある子どもとない子どもを手続き的に別々に取り扱い、原則として別学校へという就学の仕組みが異別取り扱いにあたるのではないか、という意見を出したところである。
 それに対し、現行の就学の仕組みについて就学基準があり、特別支援学校の対象は障害の基準で判断するとの答弁がされた。

 学校教育法施行令の第5条では
市町村の教育委員会は、就学予定者(法第17条第1項又は第2項の規定により、翌学年の初めから小学校、中学校、中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)で次に掲げる者について、その保護者に対し、翌学年の初めから2月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。

  1. 就学予定者のうち、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、その障害が、第22条の3の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)以外の者
  2. 視覚障害者等のうち、市町村の教育委員会が、その者の障害の状態に照らして、当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者(以下「認定就学者」という。)

 と規定されており、これらの仕組みのもとで、就学の入り口のところで障害のある子どもとない子どもは分けられ、障害を理由に別異の取り扱いを受けている。さらに、通常学校に通う障害のある子どもは、こうした制度の下で不利益を被っている状況にある。権利条約第2条の「障害に基づく差別」(Discrimination on the basis of disability)では、「障害に基づくあらゆる区別」を差別と規定しているが、こうした不利益をこうむっている状況は差別であると考えるが貴省の見解をお聞きしたい。

(2)インクルーシブ

 障害者の権利条約(以下、権利条約)第24条の「インクルーシブ」の解釈について、2008年8月26日に開催された第4回政府意見交換会(以下、第4回意見交換会)において、障害のない子どもに提供されている場に、すべてではないにせよ障害をもつ子どもを受け入れるものと理解されることが確認された。
 権利条約では同条第1項で締約国は「あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度」を確保すると規定し、同条第2項(b)に自分の生活する地域においてインクルーシブで質の高い教育にアクセスすることができること(can access)を確保する、とある。
ところが、わが国における現行制度では、障害のない子どもに提供されている場には「特別の事情」があると認められる場合にのみ、自己の暮らす地域の市町村からその地域の学校への就学通知が送られる。その結果、それ以外の障害をもつ子どもは、原則として地域の学校に就学できない。
 この手続き規定およびその基となる就学制度は、「自己の住む地域において」インクルーシブ教育すなわち「障害のない子どもに提供されている場に、障害のある子どもを受け入れる」教育を確保する、という条約の規定に明らかにそぐわないと考える。第4回意見交換会で貴省より、「就学制度のあり方を条約との関係で今後十分考えて行きたい」との見解をいただいた。これについて、今後どのようなスケジュールでどのように検討するのかを明確にご回答いただきたい。

(3)普通学級・普通学校に通う障害のある子どもの現状

 第4回意見交換会において、通常学級に通う障害をもつ子どもの受けている不利益について指摘したところである。難聴児の問題についても個別支援が無い状態で放置されている状況を指摘した。関連して、自民党の馬渡龍治議員の国会質疑も言及させていただいた。これに対して、第4回意見交換会の質疑応答において、貴省より現行制度上の不都合を詳細に把握していない、という発言があった。その後、現行制度上の不都合があるのか調査し何らかの結果が出たのか。出たとするとどのような結果が出たのかお聞きしたい。
 例えば、通常学級への就学を希望している障害をもつ子どもは、一連の就学相談の過程で不利益をこうむる実態があり、相談が障害者団体や関連団体に寄せられている。
 この現状に対する見解をお聞きしたい。

(4)初等中等教育局が管轄する通常学級での障害のある子どもの教育を充実するための課題

 インクルーシブ教育の制度化に際して、通常学級で障害のある子どもが障害のない子どもと平等に教育を受けるためには、通常教育の抜本的改革が必要であることはいうまでもない。まず、以下の2つの点について、通常教育全体に責任をもつ初等中等教育局の見解をうかがいたい。

    ○1 現在、国で定めている40人である通常学級の学級編制基準を縮小する
    ○2 各学年の学習内容を障害のある子どもが学ぶことを念頭において見直す(学習指導要領の見直し)

 また、特別支援教育の推進策として実施されている支援員の全校配置や教職員に対する研修だけでは、通常学校・学級での障害のある子どもの教育の充実は不十分である。例えば、現状では、いわゆるLD、ADHD,高機能自閉症と診断された子どもが通常学級から排除される事態も生じている。こうした問題をどのように解決していくのか具体的にお聞きしたい。

 

3.教育を受けるために必要な支援や合理的配慮について

(1)合理的配慮の提供義務と過度な負担について

 教育は基本的人権であり、国家の義務でもある。合理的配慮実施義務を規定する法律をもつ他の国の中には、義務教育の分野に関する合理的配慮については、その基本的権利性に照らして、他の分野における合理的配慮義務の抗弁(過度な負担等)よりも厳格に判断される、としている国もある。
 日本においても、過度な負担という合理的配慮義務に対する抗弁は、非常に厳格に判断されるべきであると考えるが、貴省の見解をお聞きしたい。

(2)合理的配慮の決定プロセスと今後の検討について

 権利条約や子どもの権利条約における障害をもつ子どもの意見表明権等の規定から、合理的配慮の内容等の決定プロセスについては、障害をもつ子どもの保護者や教員、障害をもつ本人等が加わって策定するようにすべきであるが、貴省の考えを明らかにされたい。
 たとえば、米国においては、法律(Individuals with Disabilities Education Improvement Act, 2004)で、障害をもつ子どもの保護者、一人以上の通常学校の教員、一人以上の特殊教育の教員、地域教育機関の代表、評価について説明できる人、保護者や教育機関の自由裁量で子どもを熟知している人を加えることができ、適切である場合には障害をもつ本人が加わり、個別指導計画を策定することになっている。さらに、調停、行政不服申し立て等の救済措置も設けられている。
 日本の現行制度上の個別指導計画では、教員が作ったものがそのまま提示されるにすぎない。また、特別支援員も、全ての学校に通う障害をもつ子どものニーズへの支援に対して有効な手立てとなっていない。
 第4回意見交換会において、合理的配慮について、関係省庁と検討し、協力者会議でも取り扱う旨の回答があった。合理的配慮に関連して、関係省庁との協議や協力者会議の今後の日程や、どのようにとりまとめ、施策に反映させるのかご教示願いたい。

(3)通学等における支援

 現在、普通学校や特別支援学校に通う障害をもつ子どもの通学について、親の同伴が就学の際の条件として課せられたり、多額な交通費が自己負担になっていることが多い。どの学校に通う如何にかかわらず、少なくとも義務教育の期間には、通学を始めとする必要な支援については本人・保護者の費用を無料とすべきであるが、貴省の見解を明らかにされたい。

(4)特別支援学校の課題

 現在の特別支援学校の中には、児童生徒数の増加によって過密状態となり、教室不足で図書館をなくして教室に転用している、あるいはトイレが不足しているという教育の場として最低限の条件が損なわれている実態があることについて、第4回意見交換会で指摘させていただいたところである。また、障害種別をこえた特別支援学校への一本化によってろう学校が他の障害種別の学校と統合され、ろう児が他の障害をもつ子どもと一緒に教育されている現状がある、との指摘もさせていただいた。
 これらの現状は障害をもつ子どもの権利が侵害されていると考えるが、改善策等について、貴省の見解を明らかにされたい。

 

4.第24条第3項に関連して

(1)言語としての手話とろう者への教育

 第4回意見交換会において、権利条約において、手話を言語と規定し(第2条)、第24条第3項(b)において、「手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること」と規定されたことについて、ろう教育のあり方の認識をお尋ねしたところである。そこに関する質疑等の中で、貴省の担当より、手話を言語と規定するのは難しいが、想いや感情を伝え合うと辞書にあり、意思疎通するものと解釈すれば、手話も言語である、という発言があった。
 「手話の取得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進」という規定の実現のために、JDFとしては、ろうの子どもの集団での教育が必要であり、手話を言語として位置づけたろう教育の確立が必要である、との意見を出したところであるが、貴省からは明確なコメントがされなかった。
 これに関して、条文の実施のために、貴省はもっと具体的に、一般国民、特に当事者にわかるような方向性を示す責任があると思われる。手話と教育の両方の能力を備える教員をどのように確保するのか、そうした教員によってどの場所でろう社会の言語的アイデンティティは確保するべきであると考えるのか、具体的にお答えいただきたい。

(2)盲ろう者に関連して

 第4回意見交換会において、盲ろう者を独自の障害として認識はしていないとの貴省の見解が披露された。それに対して、盲ろうの当事者より、盲ろうの子どもは盲学校か、ろう学校に行くことになるが、自分が望むろう学校に入れなかった、という経験が披露されたところである。自らの望む学校に行けない実態がある。盲ろう児への教育についても今後、検討すべきではないかと考えるがいかがか。

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)