(8)フランス

1.最近の教員給与に関する施策等の動向

 私立学校教員(注139)や一部の契約教員を除き、フランスの初等・中等・高等教育に携わる教員は全員が国家公務員、なかでも正規の職員であるところの官吏(Fonctionnaire)である。官吏法制の特色は、資格別競争試験による採用、国家公務員全体で約1,500あるといわれる「職員群(注140)(Corps)」の一つへの身分帰属、年功序列による昇進と強固な身分保障等である。
 教員の給与は、国家官吏全体のいわば一本化された給与体系の中に位置付けられている。このなかで教員という職員群の給与レベルが位置付けられ、職員群の中で決められた官等(Grade)及び号俸(echelon)に従って個々人の給与が決められる仕組みとなっている。従って、教員独自の給与体系があるわけではなく、教員のみの給与に関する独自の政策を、他の国家官吏と切り離して把握する余地も限られているといえよう。
 こうしたなかで、教員の給与に関する事項として1989年の「新教育基本法」をあげることができる。同法により改正された点のひとつが、初等教育教員の格差是正でこれが給与の変更につながったからである。従来「教諭(instituteur)」として区分されていた初等教育教員は学歴が様々で、高卒だけの教員も多くいた。このため、採用試験の資格要件を最低大学学士に引き上げるとともに、職員群の区分を初等教育教員(professeurs des ecoles)と改め、教員の質を引き上げることとしたものである。(注141)この結果、従来カテゴリーBとされていた「教諭」の職員群はカテゴリーAへと位置づけが変更され、大学卒と同じ職員群に属するとともに同じ給与体系に編入されたのである。
 国家官吏の給与改定は、次の2つのケースで行われる。

  • (注139)2005年における教員数は、初等・中等・高等教育すべてをあわせ、公立学校860,198人、私立学校144,940人の計1,005,138人となっている。(Reperes & References Statistiques sur les enseignements, la formation et la recherche, 2006. 以下「Reperes」と表記)なお、私立学校のうち、国の履修カリキュラムと同一のカリキュラムを実施する契約私立学校(私立学校児童生徒数の97パーセント以上を占める)の教員は、公務員の身分は与えられていないものの、公立学校教員と同等の雇用条件が保証されており、給与も国から直接支給される。(「諸外国の教員」文部科学省、平成18年、p.119)
  • (注140)フランスの公務員(agent public)は、正規職員である官吏と、それ以外の非正規職員(agent non-titulaire)に区分され、職員群に属するのは官吏のみである。職員群とは、職種と責任の度合いに応じた官吏の分類概念であり、採用は職員群毎になされ、多くの官吏は、一つの職員群で官吏生活を終えるのが通常である。
     職員群は、その責任の程度や、採用要件としての学歴に応じ、3つのカテゴリーに分類される。
    • カテゴリーA:政策立案、部局管理
    • カテゴリーB:政策の実施、カテゴリーCの官吏の指揮監督
    • カテゴリーC:実行
     更に、カテゴリーAのなかで要求される資格が最も高く、採用のための競争が最も厳しいクラスが、カテゴリーA+とされることもある。
     次に、各カテゴリーのなかで採用資格、職務内容ごとに職員群に分類される。こうした職員群は、我が国国家公務員の「行政職俸給表(一)」「行政職俸給表(二)」「教育職俸給表(一)」「教育職俸給表(二)」といった各俸給表に所属する公務員の集団に似ているが、分野、機能、職権ごとに極めて詳細に分類されている点が異なる。
  • (注141)初等教育教員の採用方法や身分については、1990年8月1日付け政令第90-680号に規定されている。

イ)社会情勢の変化を勘案した制度改革

 職員群ごとの職務の範囲と責任の重さを比較し、社会情勢の変化によりアンバランスが生じていると判断される場合には、その職員群全体の位置(言い換えれば職責に応じた身分を示す「税込み指数(indice brut)」全体)を見直す。小学校教諭(instituteur)を廃止し“professeurs des ecoles”に変更した1990年の改革がこれに該当する。

ロ)物価上昇への対応

 毎年発表される消費者物価指数の上昇に対応するため、国家公務員の給与算定の基礎となっているポイント価値(VP)を定期的に見直すもの。直近では、2006年7月1日に0.5パーセント引き上げられた。また、フランスでは最低賃金(SMIC=Salaire Minimum de Croissance)が定められており原則毎年見直されるが、国家公務員のなかのカテゴリーCに属する労働中心の職員群の最低号俸がこのSMICに抵触することがあり、この場合は職員群の俸給指数を見直すこととなる。
 以上から、教員を含む国家官吏の給与水準を引き上げる最も重要な手段は、ポイント価値(VP)の引き上げということになる。1982年ごろまでは物価上昇が激しいこともあり、消費者物価指数の上昇にほぼ見合った改定がなされていたが、その後15年間の改定率は、物価上昇率の合計25パーセントに対し15パーセント程度にとどまっている。組合側は物価上昇に見合った引き上げ及び一定割合を上回った時の自動的引き上げを主張しているが、当局側は官吏の年功による自動昇給を盾にこれを拒んでいる。
 なお、こうした国家官吏給与引き上げの際、民間企業の給与水準と比較するかどうかという点に関しては、フランス政府の場合全く考慮されない。

2.教員の身分

 フランスの職員は、そのほとんどが国家官吏(注142)である。官吏法は、国家・地方官吏の身分を強く保障しており、現実には、懲戒免職の対象となるような服務違反を犯さない限り、意に反した身分喪失は稀である。また、フランスの教員には他の公務員と同じように、組合を結成する権利(団結権)とストライキ等を行う権利(争議権)が認められている。但し、民間企業職員のような協約締結権は認められていない。

  • (注142)なお、用務員、学校給食職員等は市町村が任用する官吏である。

3.教員の任命権者

 初等学校教員は各大学区総長が教員資格を授与し県に置かれた大学区視学官が任命する。また、中等教育教員及び上級中等教育教員は国民教育大臣がそれぞれ任命権者である。職員群ごとの身分規程は、個別の政令によって定められている。(注143)

  • (注143)初等教育教員(professeurs des ecoles)は1990年8月1日付け政令第90-680号、中等教育教員(professeurs certifies)は1972年7月4日付け政令第72-581号、そして上級中等教育教員(professeurs agreges)は1972年7月4日付け政令第72-580号である。

4.教員採用の方法

 教員は国家官吏であることから、競争試験(concours)による採用が原則である。初等学校教員は大学区(注144)ごとに、中等学校教員は、中等教育教員、上級中等教育教員とも専門教科別に全国試験として実施される。国民教育省の資料によれば、2006年に実施された採用試験では、中等教育教員(外部一般募集(注145))の応募者50,025名、受験者35,604名に対し合格者は5,946名(受験者に対する合格率16.70パーセント)、上級中等教育教員(同)の応募者27,946名、受験者15,084名に対し合格者は1,440名(受験者に対する合格率9.55パーセント)であった。
 なお、中等教育教員組合のひとつである全国中等教員組合SNES(Syndicat National des Enseignements de Second degre)によれば、公務員給与/民間給与の高低と教員採用試験の競争率の間に正の相関関係が認められる由である。

  • (注144)1~6県を1単位とする大学区がフランス本土に26、更に海外県全体で1、海外自治体全体で1の計28大学区が設けられている。
  • (注145)外部の一般募集に加え、他の公務員や非正規公務員を対象とする内部募集及び民間企業勤務者を対象とする第三試験に若干名の枠が設けられている。(詳細は、「諸外国の教員」文部科学省、平成18年、p.138~p.139参照)

5.校長、教頭、教職員等の職務内容

 公立初等学校の校長(directeur)は単一クラスの学校以外で置かれ、教員の間から選ばれて大学区視学官によって任命される。任命された校長は、学校のクラス数の規模により教務の全部もしくは一部を免除される。他の教員と同等の身分であることからも教職員に対する監督権は与えられておらず、学校の円滑な動きに注意を払うとともに、教員相互の連絡調整を保障することが求められる。また、校長を務めたのち元の教員に戻ることも一般的である。なお、初等学校には副校長(教頭)は置かれない。
 他方、公立中等学校の校長は、コレージュではprincipal、リセではproviseurと呼ばれ、管理職の職員群からのみ選定のうえ国民教育大臣によって任命される。また、副校長(教頭)が置かれる。校長、副校長等中等学校の管理職に就くためには通常の教員の職員群から管理職の職員群に移行する必要がある。このためには、最低5年間の教務を終了したのち希望して選抜試験に合格のうえ、適任者リストに掲載され任命されなければならない。初等学校の校長と異なり、中等学校の校長は授業を担当せず、教職員に対する監督権など管理職権限が与えられているほか、学校内において国を代理し、学校運営に係る議決機関である管理評議会を主宰し、かつ、その議決を執行することが求められている。
 我が国と異なり、教員は教務(enseignement)に専念すればよく、極端にいえば授業時間以外は学校にいる必要がない。(注146)従って、授業時間以外の時間は自宅等で授業の準備、宿題の採点、課題作成などを行っているものと見做される。また、教務以外の仕事は必要に応じ専門の職員が別途置かれる。

  • (注146)このため、職員室は先生のロッカーと掲示連絡板及び共通で使用する若干の机があるのみである。

6.学校における教員組織の状況

 初等教育学校では、教員のなかから選ばれた校長のもとに教員と給食等を担当する職員が教員組織を構成する。校長に人事権や教職員管理権限はないほか、約15パーセントの1クラスのみからなる学校には校長が置かれない。また、副校長(教頭)も置かれない。
 中等教育学校では、管理職の職員群から任命される校長、副校長ほか会計等担当の職員が配される。校長は配属される教員や職員を監督する。

7.給料表(俸給表)

 フランスの国家官吏の俸給は、一般号俸俸給表と上位号俸俸給表の2本立てとなっている。既に述べたように、官吏はそれぞれが帰属する職員群が決まっており、更に職員群毎に、官吏は垂直的に官等もしくは職級(classe)に分類される。官等・職級には号俸(echelon)が付されており、この各号俸について、国家官吏全体のなかの階層上の地位を示す指数(indice brut=税込み指数)が決められている。この税込み指数に対応する俸給指数(indice majore)に従って俸給(traitement)の年額が決まる仕組みとなっている。
 一般号俸俸給表は、税込み指数が1,015以下職員を対象としており、現在、俸給指数としては、現在190から820までの631指数が定められている。更に、指数の1ポイント(VP)あたりの俸給年額(基本給)が決まっており(注147)、2006年7月1日に改定されたVPは年額53.9795ユーロとなっている。すなわち、俸給指数500の官吏は、53.9795×500=26,989.75ユーロの俸給年額(年金掛け金及び税引き前)、言い換えれば、これを12で割った2,249.15ユーロの俸給月額を受け取ることとなる。他方、上位号俸俸給表は、税込み指数1,015以上の高級官吏を対象とするもので、A、B、B2、C、D、E、F及びGの8段階に分かれている。更に、AからDまでは各3号俸、Eは2号俸が設けられ、各々俸給年額が決められている。
 公立初等・中等学校教員の職員群は、現在3つに分かれている。
 いくつかの採用試験の区分に従って、初等教育(注148)で1区分(professeurs des ecoles=初等教育教員)、中等教育(注149)は2区分(professeurs certifies=中等教育教員とprofesseurs agreges=上級中等教育教員)、更にはコレージュ、リセ及び職業リセの校長、副校長(教頭)を初めとする管理職を対象とする1区分(personnels de direction=管理職員)に分かれている。採用試験の区分には受験資格があり、初等教育教員及び中等教育教員は大学学士以上、上級中等教育教員は修士以上となっている。

官等・職級と号俸を示している表

初等教育・中等教育教員(PROFESSEURS CERTIFIES)
職級 号俸 昇給に必要な期間 税込み指標 俸給指標
最速昇給 普通昇給 年功昇給
特別級 7号俸 3年     966 782
6号俸 3年     910 740
5号俸 2.5年     850 694
4号俸 2.5年     780 641
3号俸 2.5年     726 600
2号俸 2.5年     672 559
1号俸 2.5年     587 494
普通級 11号俸 - - - 801 657
10号俸 3年 4.5年 5.5年 741 611
9号俸 3年 4年 5年 682 566
8号俸 2.5年 4年 4.5年 634 530
7号俸 2.5年 3年 3.5年 587 494
6号俸 2.5年 3年 3.5年 550 466
5号俸 2.5年 3年 3.5年 510 438
4号俸 2.5年 2.5年 2.5年 480 415
3号俸 1年 1年 1年 450 394
2号俸 9ヶ月 9ヶ月 9ヶ月 423 375
1号俸 3ヶ月 3ヶ月 3ヶ月 379 348
上級中等教育教員(PROFESSEURS AGREGES)
職級 号俸 昇給に必要な期間 税込み指標 俸給
最速昇給 普通昇給 年功昇給 指標
特別級 6号俸 -     HEA3 962
1年     HEA2 915
1年     HEA1 880
5号俸 4年     1,015 820
4号俸 2.5年     966 782
3号俸 2.5年     901 733
2号俸 2.5年     852 695
1号俸 2.5年     801 657
普通級 11号俸 - - - 1,015 820
10号俸 3年 4.5年 5.5年 966 782
9号俸 3年 4年 5年 901 733
8号俸 2.5年 4年 4.5年 835 683
7号俸 2.5年 3年 3.5年 772 634
6号俸 2.5年 3年 3.5年 716 592
5号俸 2.5年 3年 3.5年 664 553
4号俸 2年 2.5年 2.5年 618 517
3号俸 1年 1年 1年 565 477
2号俸 9ヶ月 9ヶ月 9ヶ月 506 435
管理職員(PERSONNELS DE DIRECTION)
官等 号俸 昇給に必要な期間 税込み指標 俸給指標
特等 6号俸   HEA3 962
1年 HEA2 915
1年 HEA1 880
5号俸 3年 1,015 820
4号俸 2年 966 782
3号俸 2年 901 733
2号俸 1.5年 852 695
1号俸 1.5年 801 657
1等 11号俸   1,015 820
10号俸 2.5年 966 782
9号俸 2.5年 901 733
8号俸 2年 835 683
7号俸 2年 772 634
6号俸 2年 716 592
5号俸 2年 664 553
4号俸 2年 618 517
3号俸 1年 565 477
2号俸 1年 506 435
1号俸 1年 457 399
2等 10号俸   852 695
9号俸 2.5年 807 661
8号俸 2.5年 747 616
7号俸 2年 682 566
6号俸 2年 645 538
5号俸 2年 598 503
4号俸 2年 560 474
3号俸 2年 522 447
2号俸 2年 485 419
1号俸 1年 450 394

一般号俸俸給表(抜粋)(注150)

単位:ユーロ(注151)
俸給指数 控除前俸給額 各月控除額 各月控除後俸給額 居住地手当(月額) 家族扶養付加手当(月額)
年額 月額 退職年金
7,85パーセント
第1地域 第2地域 子ども1人:2.29€
子ども2人 子ども3人 4人以上
190 10,256.11 854.67 67.09 787.58 40.07 13.35 71.12 176.45 125.48
191 10,310.08 859.17 67.44 791.73 40.07 13.35 71.12 176.45 125.48
192 10,364.06 853.67 67.79 795.88 40.07 13.35 71.12 176.45 125.48
中略                  
499 26,935.77 2,244.64 176.20 2,068.44 67.33 22.44 78.00 194.81 139.24
500 26,989.75 2,249.14 176.55 2,072.59 67.47 22.49 78.14 195.17 139.51
501 27,043.73 2,253.64 176.91 2,076.73 67.60 22.53 78.27 195.53 139.78
中略                  
818 44,155.23 3,679.60 288.84 3,390.76 110.38 36.79 107.30 272.90 197.81
819 44,209.21 3,684.10 289.20 3,394.90 110.52 36.84 107.30 272.90 197.81
820 44,263.19 3,688.59 289.55 3,399.04 110.65 36.88 107.30 272.90 197.81

上位号俸俸給表(注152)

単位:ユーロ(注153)
号俸外(hors echelle=HE)グループ官吏俸給表
グループ シェヴロン(chevron)
1 2 3
A 47,555.94 49,445.22 51,982.26
B 51,982.26 54,195.42 57,110.31
B2 57,110.31 58,621.74 60,187.14
C 60,187.14 61,482.65 62,832.14
D 62,832.14 65,693.05 68,553.97
E 68,553.97 71,252.94  
F 73,897.94    
G 81,023.23    
  • (注147)これをポイント価値(valeur du point=VP)と呼ぶ。
  • (注148)初等教育には、2~5歳児を受け入れる保育学校(ecole maternelle、2歳児の約3分の1、3~5歳児のほぼ100パーセントが就学)と我が国の小学校1~5年生にあたる小学校(ecole primaire)の双方を含む。
  • (注149)中等教育には、我が国の小学校6年生と中学校1~3年生を対象とする中学校(college=コレージュ)と、我が国の高等学校1~3年生を対象とする高等学校(lycee=リセ)を含む。このうち我が国の高等学校1年生に相当するまでの教育が義務教育となっている。また、リセには大学入学資格試験(baccalaureat)合格後、グランゼコールを目指す学生用の準備クラス(classes preparatoires)が併設されていることがある。
  • (注150)1985年10月24日デクレ別表より作成。
  • (注151)1ユーロ=154円、2006年11月1日現在の為替レート。
  • (注152)1985年10月24日デクレ85-1148号第60条。
  • (注153)1ユーロ=154円、2006年11月1日現在の為替レート。

8.諸手当

(a)国家公務員共通の2つの手当

  • イ)居住地手当(indemnite de residence):地域による生活費の格差を是正するためのもので、全国を3つの地域に分け、パリを初めとするZone1には俸給の3パーセント、次のZone2には1パーセントが支給される。Zone3に加算はない。
  • ロ)家族扶養補助金(supplement familial de traitement):現在の支給額は次の通り。
    • 子供1人:月額2.29ユーロ(注154)
    • 子供2人:最低月額71.12ユーロ、最高月額107.29ユーロとし、俸給指標449と同7の間は俸給に比例した額。
    • 子供3人:同じく、最低月額176.45ユーロ、最高月額272.90ユーロとし、俸給指標449と同715の間は俸給に比例した額。
    • 子供4人以上:3人を超える子供1人あたり、最低月額125.48ユーロ、最高月額197.81ユーロとし、俸給指標449と同715の間は俸給に比例した額。
  • (注154)1ユーロ=154円、2006年11月1日現在の為替レート。

 以上、家族扶養補助金は人口増加を図ったフランスの政策を色濃く反映しており、子供の数が増えるほど手厚い手当を支給する仕組みとなっている。

(b)教員特有の手当

  • ハ)進路指導手当(indemnite de suivi et d'orientation des eleves):中等教育教員全員に年額1,164.84ユーロが支給される。更に、クラス担任の教員には、クラスの性格等によって年額870ユーロ、1,196ユーロ、あるいは1,369ユーロの手当が支給される。
  • ニ)時間外手当(heures supplementaires):我が国でいうところの時間外手当ではなく、いわば学校公認の補習授業に対する手当である。週1回1時間定期的に行う補習授業に対しては、教員の資格により年額938.93ユーロから1,492.33ユーロの手当が支給される。また、定期的に実施されるわけではない補習授業に対しては、教員の資格により1時間当たり29.99ユーロから52.44ユーロの手当が支給される。
  • ホ)優先教育地区勤務手当(indemnite de sujetions speciales pour exercice des fonctions en zone d'education prioritaire (ZUP)):優先教育地区(ZUP)とは、地区の社会的・経済的事情より学業不振の生徒が多い地区を特に指定し、教員の加配等特別の措置を講じている地区で、1981年からとられている政策である。2005学校年開始期において、海外県も含めたフランス全国にある初等学校のうち7,056校(13.9パーセント)、コレージュの1,107校(21.2パーセント)がZUP地区にある。(注155)こうした地区のある学校に勤務する教員に対しては、年額1,122.60ユーロの手当が支給される。
  • (注155)「Reperes」p.61.
  • ヘ)交代教員特別手当(indemnite de sujetions speciales de remplacement):学期途中にお産等何らかの事情で他校に交代教員が必要になった場合、代替で授業を行う教員に対して支給される手当で、自宅からの距離等により手当額が決められている。

 なお、リセや職業リセ及びコレージュの校長、副校長には以下の手当が支給される。支給額は、学校の規模等によっている。

  • ト)特別服務手当(indemnite de sujetions speciales):校長、副校長に支給。
  • チ)管理手当(indemnite de responsabilites de direction):校長のみに支給。
  • リ)割り増し手当(bonification indiciaire (BI)):校長、副校長に支給。
  • ヌ)新割り増し手当(nouvelle bonification indiciaire (BI)):一部の校長のみに支給。

 これらの諸手当の合計は、リセの校長で年額19,163.25ユーロ(第5級校)から9,269.03ユーロ(第2級校)、職業リセあるいはコレージュの校長で年額15,206.78ユーロ(第4級校)から8,189.44ユーロ(第1級校)となる。また、リセの副校長で年額9,050.20ユーロ(第5級校)から5,753.59ユーロ(第2級校)、職業リセあるいはコレージュの副校長で年額7,103.08ユーロ(第4級校)から5,483.70ユーロ(第1級校)となる。(注156)
 校長や副校長には教員に支給される手当は、優先教育地区勤務手当(同額)を除き一切支給されない。また、初等学校の校長には、一部または全部の授業義務の免除があるのみで、特別の手当てはない。

  • (注156)国民教育省からの入手資料による。

9.能力・実績に基づく給与

 公立初等学校教員の勤務評定(notation)は、該当大学区の担当視学官(inspecteur)によって行われる。教え方や学科の知識について評定され、20点満点による評価と文章による評定からなる評定は教育評定(note pedagogique)と呼ばれる。前述の通り、監督責任を持たない初等学校の校長がかかる勤務評定に加わることはない。
 公立中等学校教員のうち中等教育教員の勤務評定は、当該校校長の行う評価を40点、当該教員の専門科目を担当する視学官の行う評価を60点とし、これらを合計して算出される。前者を管理評価(note administrative)と呼ぶが、評点は予め国民教育省から通知された狭い範囲内で実施することが求められており、校長の自主的裁量の範囲は極めて少ない。(注157)また、後者は初等教育と同じく教育評定と呼ばれ、評定実施時の意見交換等によって教員の教授方法を改善する目的も有している。
 上級中等教育教員の勤務評定も基本的には中等教育教員に準じるが、管理評価が大学区総長に名においてなされるとともに、教育評価が国民教育省の上級視学官(inspecteurs generaux)によって行われる点が異なる。
 こうした勤務評定の結果は、現在の号俸から上位の号俸への昇給あるいは昇格を決定する際考慮される。昇給に必要な最低年限は、最速昇給(grand choix)、普通昇給(choix)及び年功昇給(anciennete)の3種類設けられており、最速昇給が号俸ごとに張り付いている教員全体の30パーセント以内、普通昇給は同50パーセント以内と決められている。このいずれにも該当しない場合は、年功昇給に必要な期間が過ぎると自動的に1号俸昇給することになる。
 教員が普通昇給を続けた場合、採用後10.5年を経て普通級7号俸になり、同号俸で初めて特別級への昇格の道が開けることとなっている。また、昇格が認められると直近上位の号俸に格付けられるとともに、普通級で昇格までに経過した期間を特別級において経過したものと見做して扱われる。

中等教育教員等の昇格

 中等教育教員等の昇格

上級中等教育教員の昇格

 上級中等教育教員の昇格

管理職の昇格

 管理職の昇格

 昇格する教員の数は省の布告(arrete)で決められている。例えば2006~2007年の昇格割合上限は、中等教育教員の職員群で昇格可能対象者数の5.2パーセント(注158)、上級中等教育教員では昇格可能対象者数の4.2パーセント(注159)、である。

  • (注157)某有名リセの校長によれば、40点のうち国民教育省から指示される点数の範囲は上下2点程度であり、この範囲を超えて上あるいは下に評価するためには、別途数ページの理由書を作成する必要があるとのことであった。
  • (注158)初等教育教員を構成員とする職員組合SNUipp-FSUによれば、初等教育教員は中等教育教員等の昇格の職員群に属するが、昇格率はわずか1.15パーセントに抑えられており、最終的に全体の40パーセント程度が特別級に昇格する中等教育教員との歴然たる格差があるとのことである。
  • (注159)中等教育教員を構成員とする職員組合SNESによれば、約2年前までは上級中等教育教員のほぼ全員、中等教育教員(但し、professeurs certifies)の80パーセント程度が最終的に特別級に昇格していたが、最近は制限が厳しくなりつつあり、今後そのような高い昇格率は望めないだろうとのことであった。

10.給与と結びつかない教員評価の内容・方法

 勤務評定以外の評価は行われていない。

11.勤務時間管理

 公立初等・中等学校教員の勤務時間は、学校での拘束時間ではなく、実際の授業時間で決められている。授業時間以外に学校にいる義務は全くなく、もしいたとしても時間外手当が支払われるわけではない。
 初等学校教員は週26時間、中等学校教員は週18時間、上級中等学校教員は週15時間の授業が義務付けられており、1学校年は年間36週と定められている。従って、学期ごとに決められる時間割りに従った授業が実施されていることを確認することによって勤務時間が管理されている。(注160)
 こうした授業時間が一般の公務員や民間企業職員の週35時間(年間1,607時間)と比較して短いとの批判が常にあるが、授業の準備、宿題や論文の出題と採点等に多くの時間が必要であり、こうした時間を勘案すると短くはないと教員側は反論している。実際2002年の調査によれば、週の実働時間は上級中等学校教員41時間2分、中等学校教員39時間29分、職業リセ教員40時間4分など、中等学校教員全体の平均実働時間は39時間47分となっている。(注161)

  • (注160)時間割りによっては、出勤の必要でない日も生じる。
  • (注161)「Reperes」p.283.

12.長期休業期間中の勤務及び給与

 授業の行われる年間36週以外の16週は、原則休業してよい。但し、新学期の始まる10月に先立って数日間新学期の準備のために出勤する、あるいは、バカロレア等各種試験が実施される際には出勤する必要がある。国家公務員の給与は年俸額が決まっており、その十二分の一が毎月支給される。従って、長期休業期間中にも給与は支給される。

13.他の職種との給与水準の比較

 国家公務員の中での公立初等中等学校教員の相対的給与水準は、公務員省の統計においては、「管理職員」の範疇に含まれつつも、その平均は下回っており、国家公務員全体の平均とほぼ同水準となっている。また、高等教育教員を含めた平均月収を民間企業職員と比較した場合、民間企業の中間職員の水準は上回っているものの、管理職員の平均は大きく下回っている。(注162)

国家公務員の平均年収

管理職員 30,658(399)
 管理職(教員以外) 41,461(539)
 大学教授 48,220(627)
 大学助教授 32,323(420)
  初等中等学校教員 25,746(335)
 士官(将官を除く) 39,763(517)
中間職員 23,714(308)
 コレージュ普通教育担当教員 24,384(317)
 初等教育教諭 22,675(295)
 事務員 23,489(305)
 警察官 30,212(393)
 技術者 24,923(324)
 下士官 24,577(320)
一般職員 18,457(240)
 事務員 14,606(190)
 警察官 23,441(305)
 工員 16,042(209)
 一般軍人 16,449(214)
全体平均 25,474(331)

国家公務員と民間企業職員の平均月収

国家公務員 民間企業職員
管理職員 2,427(32) 管理職員 3,530(46)
 管理職(教員以外) 3,370(44)    
 教員 2,303(30)    
中間職員 1,727(22) 中間職員 1,806(23)
 技術者 1,804(23)    
 事務員 1,951(25)    
 教員(旧制度) 1,546(20)    
 警察官 2,457(32)    
一般職員 1,506(20) 一般職員 1,287(17)
 事務員 1,494(19)  従業員 1,265(16)
 工員 1,269(16)  工員 1,300(17)
 警察官 1,905(25)    
全体平均 2,026(26) 全体平均  
  • 注:単位はユーロ、括弧内は万円単位の円貨換算額(1ユーロ=130円で換算)。国家公務員の平均年収は2003年の数値であり、同表中の「初等中等学校教員」は、初等教育教員、中等教育教員、中等体育教員及び職業リセ教員である。「コレージュ普通教育担当教員」と「初等教育教諭」は、現行よりも学歴要件が低い旧制度において採用された教員であり、現在は募集停止されている。国家公務員と民間企業職員の平均月収は2002年時点の数値であり、同表中の「中間職員」における「教員(旧制度)」は、「初等教育教諭」「コレージュ普通教育担当教員」などであり、一方、同表中の「管理職員」における「教員」には、これ以外の初等中等学校教員の他に高等教育教員も含む。いずれも課税前の給与から社会保障負担金を除いた額である。
     出所:公務員省、Rapport annuel de la function publique: Faits et chiffres 2004(188、190頁)。
  • (注162)「諸外国の教員」文部科学省、平成18年、p.145-146.

14.人材確保の方策

 教諭(instituteur)廃止と初等教育教員(professeurs des ecoles)の新設は、しっかりとした学歴に裏付けられた優秀な人材を、初等教育においても確保するための方策であったと考えられる。しかしながら、下にも述べるように教員に対する人気が高いこともあって、特別の人材確保の方策は現在とられていない。

15.教員給与の優遇措置

 教員給与に対し、特段の優遇措置はとられていない。

16.教員組合、団体の状況

 第2次大戦前、教員の組合運動は禁じられていた。このため、学校教育の内容を改善する、あるいは、社会への貢献を最大化するための方策を研究する非営利団体(association)(注163)として組織化され、こうした非営利団体が母体となり、戦後の労働組合(syndicat)に発展したという経緯を有する。
 国民教育省から入手した資料には29の団体名が掲載されているが、初等教育、中等教育、高等教育の教員別の組合、これらを束ねた団体、更にはフランスの主要労働組合別の組合等に分類できる。このなかで主要な団体は次の通りである。
 ―教務・教育・研究・文化・養成・同化の全国組合連合(FSU=Federation Syndical Unitaire de l'enseignement, de l'education, de la recherche, de la culture, de formation et de l'insetion):構成員19万人、22の教職員組合及びその他2組合の連合体
 ―全国教育中立組合(UNSA Education=Union Nationale des Syndicats Autonomes Education):構成員14万人、1928年に設立された全国連合団体から発展し1948年~2000年には国民教育全国連合(Federation de l'Education Nationale)として存続、2000年に現在の組織となった。1970年には55万人を集める最大の組織であったが、その後分裂等を繰り返し現在に至っている。
 ―中等教育教員全国組合(SNES=Syndicat National des Enseignants du Second degre):構成員7万5千人、上記FSUの設立母体となった組織
 ―初等教育教員全国連合組合(SNUipp-FSU=Syndicat National Unitaire des Institueurs, professeurs des ecoles et Pegc, Federation Syndical Unitaire):構成員数不明、同じくFSU系の初等教育教員の組合

  • (注163)1901年法に基づく協会。

17.教育予算の近年の動向

 下表は、最近の国民教育省の予算推移を示したものである。予算額は順調に伸び、国家予算に占める国民教育省の予算割合、国内総生産に占める国民教育省の予算割合とも、それぞれ23パーセント前後、4パーセント前後と堅調に推移している。

国民教育省の予算推移(研究費を除く)

単位:10億ユーロ
  2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年
学校教育 47.0 50.6 52.7 54.0 55.5 56.6
高等教育 8.0 8.6 8.7 8.8 9.1 9.3
55.0 59.2 61.4 62.8 64.6 65.9
国家予算 253.8 260.9 266.3 273.8 277.9 283.0
国家予算に占める国民教育省予算の割合 21.9パーセント 22.7パーセント 23.1パーセント 22.9パーセント 23.2パーセント 23.3パーセント
国内総生産に占める国民教育省予算の割合 3.9パーセント 4.0パーセント 4.0パーセント 4.0パーセント 4.0パーセント 3.9パーセント

出所:「Reperes」p.309.

お問合せ先

初等中等教育局財務課