私立学校教員(注139)や一部の契約教員を除き、フランスの初等・中等・高等教育に携わる教員は全員が国家公務員、なかでも正規の職員であるところの官吏(Fonctionnaire)である。官吏法制の特色は、資格別競争試験による採用、国家公務員全体で約1,500あるといわれる「職員群(注140)(Corps)」の一つへの身分帰属、年功序列による昇進と強固な身分保障等である。
教員の給与は、国家官吏全体のいわば一本化された給与体系の中に位置付けられている。このなかで教員という職員群の給与レベルが位置付けられ、職員群の中で決められた官等(Grade)及び号俸(echelon)に従って個々人の給与が決められる仕組みとなっている。従って、教員独自の給与体系があるわけではなく、教員のみの給与に関する独自の政策を、他の国家官吏と切り離して把握する余地も限られているといえよう。
こうしたなかで、教員の給与に関する事項として1989年の「新教育基本法」をあげることができる。同法により改正された点のひとつが、初等教育教員の格差是正でこれが給与の変更につながったからである。従来「教諭(instituteur)」として区分されていた初等教育教員は学歴が様々で、高卒だけの教員も多くいた。このため、採用試験の資格要件を最低大学学士に引き上げるとともに、職員群の区分を初等教育教員(professeurs des ecoles)と改め、教員の質を引き上げることとしたものである。(注141)この結果、従来カテゴリーBとされていた「教諭」の職員群はカテゴリーAへと位置づけが変更され、大学卒と同じ職員群に属するとともに同じ給与体系に編入されたのである。
国家官吏の給与改定は、次の2つのケースで行われる。
職員群ごとの職務の範囲と責任の重さを比較し、社会情勢の変化によりアンバランスが生じていると判断される場合には、その職員群全体の位置(言い換えれば職責に応じた身分を示す「税込み指数(indice brut)」全体)を見直す。小学校教諭(instituteur)を廃止し“professeurs des ecoles”に変更した1990年の改革がこれに該当する。
毎年発表される消費者物価指数の上昇に対応するため、国家公務員の給与算定の基礎となっているポイント価値(VP)を定期的に見直すもの。直近では、2006年7月1日に0.5パーセント引き上げられた。また、フランスでは最低賃金(SMIC=Salaire Minimum de Croissance)が定められており原則毎年見直されるが、国家公務員のなかのカテゴリーCに属する労働中心の職員群の最低号俸がこのSMICに抵触することがあり、この場合は職員群の俸給指数を見直すこととなる。
以上から、教員を含む国家官吏の給与水準を引き上げる最も重要な手段は、ポイント価値(VP)の引き上げということになる。1982年ごろまでは物価上昇が激しいこともあり、消費者物価指数の上昇にほぼ見合った改定がなされていたが、その後15年間の改定率は、物価上昇率の合計25パーセントに対し15パーセント程度にとどまっている。組合側は物価上昇に見合った引き上げ及び一定割合を上回った時の自動的引き上げを主張しているが、当局側は官吏の年功による自動昇給を盾にこれを拒んでいる。
なお、こうした国家官吏給与引き上げの際、民間企業の給与水準と比較するかどうかという点に関しては、フランス政府の場合全く考慮されない。
フランスの職員は、そのほとんどが国家官吏(注142)である。官吏法は、国家・地方官吏の身分を強く保障しており、現実には、懲戒免職の対象となるような服務違反を犯さない限り、意に反した身分喪失は稀である。また、フランスの教員には他の公務員と同じように、組合を結成する権利(団結権)とストライキ等を行う権利(争議権)が認められている。但し、民間企業職員のような協約締結権は認められていない。
初等学校教員は各大学区総長が教員資格を授与し県に置かれた大学区視学官が任命する。また、中等教育教員及び上級中等教育教員は国民教育大臣がそれぞれ任命権者である。職員群ごとの身分規程は、個別の政令によって定められている。(注143)
教員は国家官吏であることから、競争試験(concours)による採用が原則である。初等学校教員は大学区(注144)ごとに、中等学校教員は、中等教育教員、上級中等教育教員とも専門教科別に全国試験として実施される。国民教育省の資料によれば、2006年に実施された採用試験では、中等教育教員(外部一般募集(注145))の応募者50,025名、受験者35,604名に対し合格者は5,946名(受験者に対する合格率16.70パーセント)、上級中等教育教員(同)の応募者27,946名、受験者15,084名に対し合格者は1,440名(受験者に対する合格率9.55パーセント)であった。
なお、中等教育教員組合のひとつである全国中等教員組合SNES(Syndicat National des Enseignements de Second degre)によれば、公務員給与/民間給与の高低と教員採用試験の競争率の間に正の相関関係が認められる由である。
公立初等学校の校長(directeur)は単一クラスの学校以外で置かれ、教員の間から選ばれて大学区視学官によって任命される。任命された校長は、学校のクラス数の規模により教務の全部もしくは一部を免除される。他の教員と同等の身分であることからも教職員に対する監督権は与えられておらず、学校の円滑な動きに注意を払うとともに、教員相互の連絡調整を保障することが求められる。また、校長を務めたのち元の教員に戻ることも一般的である。なお、初等学校には副校長(教頭)は置かれない。
他方、公立中等学校の校長は、コレージュではprincipal、リセではproviseurと呼ばれ、管理職の職員群からのみ選定のうえ国民教育大臣によって任命される。また、副校長(教頭)が置かれる。校長、副校長等中等学校の管理職に就くためには通常の教員の職員群から管理職の職員群に移行する必要がある。このためには、最低5年間の教務を終了したのち希望して選抜試験に合格のうえ、適任者リストに掲載され任命されなければならない。初等学校の校長と異なり、中等学校の校長は授業を担当せず、教職員に対する監督権など管理職権限が与えられているほか、学校内において国を代理し、学校運営に係る議決機関である管理評議会を主宰し、かつ、その議決を執行することが求められている。
我が国と異なり、教員は教務(enseignement)に専念すればよく、極端にいえば授業時間以外は学校にいる必要がない。(注146)従って、授業時間以外の時間は自宅等で授業の準備、宿題の採点、課題作成などを行っているものと見做される。また、教務以外の仕事は必要に応じ専門の職員が別途置かれる。
初等教育学校では、教員のなかから選ばれた校長のもとに教員と給食等を担当する職員が教員組織を構成する。校長に人事権や教職員管理権限はないほか、約15パーセントの1クラスのみからなる学校には校長が置かれない。また、副校長(教頭)も置かれない。
中等教育学校では、管理職の職員群から任命される校長、副校長ほか会計等担当の職員が配される。校長は配属される教員や職員を監督する。
フランスの国家官吏の俸給は、一般号俸俸給表と上位号俸俸給表の2本立てとなっている。既に述べたように、官吏はそれぞれが帰属する職員群が決まっており、更に職員群毎に、官吏は垂直的に官等もしくは職級(classe)に分類される。官等・職級には号俸(echelon)が付されており、この各号俸について、国家官吏全体のなかの階層上の地位を示す指数(indice brut=税込み指数)が決められている。この税込み指数に対応する俸給指数(indice majore)に従って俸給(traitement)の年額が決まる仕組みとなっている。
一般号俸俸給表は、税込み指数が1,015以下職員を対象としており、現在、俸給指数としては、現在190から820までの631指数が定められている。更に、指数の1ポイント(VP)あたりの俸給年額(基本給)が決まっており(注147)、2006年7月1日に改定されたVPは年額53.9795ユーロとなっている。すなわち、俸給指数500の官吏は、53.9795×500=26,989.75ユーロの俸給年額(年金掛け金及び税引き前)、言い換えれば、これを12で割った2,249.15ユーロの俸給月額を受け取ることとなる。他方、上位号俸俸給表は、税込み指数1,015以上の高級官吏を対象とするもので、A、B、B2、C、D、E、F及びGの8段階に分かれている。更に、AからDまでは各3号俸、Eは2号俸が設けられ、各々俸給年額が決められている。
公立初等・中等学校教員の職員群は、現在3つに分かれている。
いくつかの採用試験の区分に従って、初等教育(注148)で1区分(professeurs des ecoles=初等教育教員)、中等教育(注149)は2区分(professeurs certifies=中等教育教員とprofesseurs agreges=上級中等教育教員)、更にはコレージュ、リセ及び職業リセの校長、副校長(教頭)を初めとする管理職を対象とする1区分(personnels de direction=管理職員)に分かれている。採用試験の区分には受験資格があり、初等教育教員及び中等教育教員は大学学士以上、上級中等教育教員は修士以上となっている。
初等教育・中等教育教員(PROFESSEURS CERTIFIES) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
職級 | 号俸 | 昇給に必要な期間 | 税込み指標 | 俸給指標 | ||
最速昇給 | 普通昇給 | 年功昇給 | ||||
特別級 | 7号俸 | 3年 | 966 | 782 | ||
6号俸 | 3年 | 910 | 740 | |||
5号俸 | 2.5年 | 850 | 694 | |||
4号俸 | 2.5年 | 780 | 641 | |||
3号俸 | 2.5年 | 726 | 600 | |||
2号俸 | 2.5年 | 672 | 559 | |||
1号俸 | 2.5年 | 587 | 494 | |||
普通級 | 11号俸 | - | - | - | 801 | 657 |
10号俸 | 3年 | 4.5年 | 5.5年 | 741 | 611 | |
9号俸 | 3年 | 4年 | 5年 | 682 | 566 | |
8号俸 | 2.5年 | 4年 | 4.5年 | 634 | 530 | |
7号俸 | 2.5年 | 3年 | 3.5年 | 587 | 494 | |
6号俸 | 2.5年 | 3年 | 3.5年 | 550 | 466 | |
5号俸 | 2.5年 | 3年 | 3.5年 | 510 | 438 | |
4号俸 | 2.5年 | 2.5年 | 2.5年 | 480 | 415 | |
3号俸 | 1年 | 1年 | 1年 | 450 | 394 | |
2号俸 | 9ヶ月 | 9ヶ月 | 9ヶ月 | 423 | 375 | |
1号俸 | 3ヶ月 | 3ヶ月 | 3ヶ月 | 379 | 348 |
上級中等教育教員(PROFESSEURS AGREGES) | ||||||
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職級 | 号俸 | 昇給に必要な期間 | 税込み指標 | 俸給 | ||
最速昇給 | 普通昇給 | 年功昇給 | 指標 | |||
特別級 | 6号俸 | - | HEA3 | 962 | ||
1年 | HEA2 | 915 | ||||
1年 | HEA1 | 880 | ||||
5号俸 | 4年 | 1,015 | 820 | |||
4号俸 | 2.5年 | 966 | 782 | |||
3号俸 | 2.5年 | 901 | 733 | |||
2号俸 | 2.5年 | 852 | 695 | |||
1号俸 | 2.5年 | 801 | 657 | |||
普通級 | 11号俸 | - | - | - | 1,015 | 820 |
10号俸 | 3年 | 4.5年 | 5.5年 | 966 | 782 | |
9号俸 | 3年 | 4年 | 5年 | 901 | 733 | |
8号俸 | 2.5年 | 4年 | 4.5年 | 835 | 683 | |
7号俸 | 2.5年 | 3年 | 3.5年 | 772 | 634 | |
6号俸 | 2.5年 | 3年 | 3.5年 | 716 | 592 | |
5号俸 | 2.5年 | 3年 | 3.5年 | 664 | 553 | |
4号俸 | 2年 | 2.5年 | 2.5年 | 618 | 517 | |
3号俸 | 1年 | 1年 | 1年 | 565 | 477 | |
2号俸 | 9ヶ月 | 9ヶ月 | 9ヶ月 | 506 | 435 |
管理職員(PERSONNELS DE DIRECTION) | ||||
---|---|---|---|---|
官等 | 号俸 | 昇給に必要な期間 | 税込み指標 | 俸給指標 |
特等 | 6号俸 | HEA3 | 962 | |
1年 | HEA2 | 915 | ||
1年 | HEA1 | 880 | ||
5号俸 | 3年 | 1,015 | 820 | |
4号俸 | 2年 | 966 | 782 | |
3号俸 | 2年 | 901 | 733 | |
2号俸 | 1.5年 | 852 | 695 | |
1号俸 | 1.5年 | 801 | 657 | |
1等 | 11号俸 | 1,015 | 820 | |
10号俸 | 2.5年 | 966 | 782 | |
9号俸 | 2.5年 | 901 | 733 | |
8号俸 | 2年 | 835 | 683 | |
7号俸 | 2年 | 772 | 634 | |
6号俸 | 2年 | 716 | 592 | |
5号俸 | 2年 | 664 | 553 | |
4号俸 | 2年 | 618 | 517 | |
3号俸 | 1年 | 565 | 477 | |
2号俸 | 1年 | 506 | 435 | |
1号俸 | 1年 | 457 | 399 | |
2等 | 10号俸 | 852 | 695 | |
9号俸 | 2.5年 | 807 | 661 | |
8号俸 | 2.5年 | 747 | 616 | |
7号俸 | 2年 | 682 | 566 | |
6号俸 | 2年 | 645 | 538 | |
5号俸 | 2年 | 598 | 503 | |
4号俸 | 2年 | 560 | 474 | |
3号俸 | 2年 | 522 | 447 | |
2号俸 | 2年 | 485 | 419 | |
1号俸 | 1年 | 450 | 394 |
俸給指数 | 控除前俸給額 | 各月控除額 | 各月控除後俸給額 | 居住地手当(月額) | 家族扶養付加手当(月額) | ||||
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年額 | 月額 | 退職年金 7,85パーセント |
第1地域 | 第2地域 | 子ども1人:2.29€ | ||||
子ども2人 | 子ども3人 | 4人以上 | |||||||
190 | 10,256.11 | 854.67 | 67.09 | 787.58 | 40.07 | 13.35 | 71.12 | 176.45 | 125.48 |
191 | 10,310.08 | 859.17 | 67.44 | 791.73 | 40.07 | 13.35 | 71.12 | 176.45 | 125.48 |
192 | 10,364.06 | 853.67 | 67.79 | 795.88 | 40.07 | 13.35 | 71.12 | 176.45 | 125.48 |
中略 | |||||||||
499 | 26,935.77 | 2,244.64 | 176.20 | 2,068.44 | 67.33 | 22.44 | 78.00 | 194.81 | 139.24 |
500 | 26,989.75 | 2,249.14 | 176.55 | 2,072.59 | 67.47 | 22.49 | 78.14 | 195.17 | 139.51 |
501 | 27,043.73 | 2,253.64 | 176.91 | 2,076.73 | 67.60 | 22.53 | 78.27 | 195.53 | 139.78 |
中略 | |||||||||
818 | 44,155.23 | 3,679.60 | 288.84 | 3,390.76 | 110.38 | 36.79 | 107.30 | 272.90 | 197.81 |
819 | 44,209.21 | 3,684.10 | 289.20 | 3,394.90 | 110.52 | 36.84 | 107.30 | 272.90 | 197.81 |
820 | 44,263.19 | 3,688.59 | 289.55 | 3,399.04 | 110.65 | 36.88 | 107.30 | 272.90 | 197.81 |
号俸外(hors echelle=HE)グループ官吏俸給表 | |||
---|---|---|---|
グループ | シェヴロン(chevron) | ||
1 | 2 | 3 | |
A | 47,555.94 | 49,445.22 | 51,982.26 |
B | 51,982.26 | 54,195.42 | 57,110.31 |
B2 | 57,110.31 | 58,621.74 | 60,187.14 |
C | 60,187.14 | 61,482.65 | 62,832.14 |
D | 62,832.14 | 65,693.05 | 68,553.97 |
E | 68,553.97 | 71,252.94 | |
F | 73,897.94 | ||
G | 81,023.23 |
以上、家族扶養補助金は人口増加を図ったフランスの政策を色濃く反映しており、子供の数が増えるほど手厚い手当を支給する仕組みとなっている。
なお、リセや職業リセ及びコレージュの校長、副校長には以下の手当が支給される。支給額は、学校の規模等によっている。
これらの諸手当の合計は、リセの校長で年額19,163.25ユーロ(第5級校)から9,269.03ユーロ(第2級校)、職業リセあるいはコレージュの校長で年額15,206.78ユーロ(第4級校)から8,189.44ユーロ(第1級校)となる。また、リセの副校長で年額9,050.20ユーロ(第5級校)から5,753.59ユーロ(第2級校)、職業リセあるいはコレージュの副校長で年額7,103.08ユーロ(第4級校)から5,483.70ユーロ(第1級校)となる。(注156)
校長や副校長には教員に支給される手当は、優先教育地区勤務手当(同額)を除き一切支給されない。また、初等学校の校長には、一部または全部の授業義務の免除があるのみで、特別の手当てはない。
公立初等学校教員の勤務評定(notation)は、該当大学区の担当視学官(inspecteur)によって行われる。教え方や学科の知識について評定され、20点満点による評価と文章による評定からなる評定は教育評定(note pedagogique)と呼ばれる。前述の通り、監督責任を持たない初等学校の校長がかかる勤務評定に加わることはない。
公立中等学校教員のうち中等教育教員の勤務評定は、当該校校長の行う評価を40点、当該教員の専門科目を担当する視学官の行う評価を60点とし、これらを合計して算出される。前者を管理評価(note administrative)と呼ぶが、評点は予め国民教育省から通知された狭い範囲内で実施することが求められており、校長の自主的裁量の範囲は極めて少ない。(注157)また、後者は初等教育と同じく教育評定と呼ばれ、評定実施時の意見交換等によって教員の教授方法を改善する目的も有している。
上級中等教育教員の勤務評定も基本的には中等教育教員に準じるが、管理評価が大学区総長に名においてなされるとともに、教育評価が国民教育省の上級視学官(inspecteurs generaux)によって行われる点が異なる。
こうした勤務評定の結果は、現在の号俸から上位の号俸への昇給あるいは昇格を決定する際考慮される。昇給に必要な最低年限は、最速昇給(grand choix)、普通昇給(choix)及び年功昇給(anciennete)の3種類設けられており、最速昇給が号俸ごとに張り付いている教員全体の30パーセント以内、普通昇給は同50パーセント以内と決められている。このいずれにも該当しない場合は、年功昇給に必要な期間が過ぎると自動的に1号俸昇給することになる。
教員が普通昇給を続けた場合、採用後10.5年を経て普通級7号俸になり、同号俸で初めて特別級への昇格の道が開けることとなっている。また、昇格が認められると直近上位の号俸に格付けられるとともに、普通級で昇格までに経過した期間を特別級において経過したものと見做して扱われる。
昇格する教員の数は省の布告(arrete)で決められている。例えば2006~2007年の昇格割合上限は、中等教育教員の職員群で昇格可能対象者数の5.2パーセント(注158)、上級中等教育教員では昇格可能対象者数の4.2パーセント(注159)、である。
勤務評定以外の評価は行われていない。
公立初等・中等学校教員の勤務時間は、学校での拘束時間ではなく、実際の授業時間で決められている。授業時間以外に学校にいる義務は全くなく、もしいたとしても時間外手当が支払われるわけではない。
初等学校教員は週26時間、中等学校教員は週18時間、上級中等学校教員は週15時間の授業が義務付けられており、1学校年は年間36週と定められている。従って、学期ごとに決められる時間割りに従った授業が実施されていることを確認することによって勤務時間が管理されている。(注160)
こうした授業時間が一般の公務員や民間企業職員の週35時間(年間1,607時間)と比較して短いとの批判が常にあるが、授業の準備、宿題や論文の出題と採点等に多くの時間が必要であり、こうした時間を勘案すると短くはないと教員側は反論している。実際2002年の調査によれば、週の実働時間は上級中等学校教員41時間2分、中等学校教員39時間29分、職業リセ教員40時間4分など、中等学校教員全体の平均実働時間は39時間47分となっている。(注161)
授業の行われる年間36週以外の16週は、原則休業してよい。但し、新学期の始まる10月に先立って数日間新学期の準備のために出勤する、あるいは、バカロレア等各種試験が実施される際には出勤する必要がある。国家公務員の給与は年俸額が決まっており、その十二分の一が毎月支給される。従って、長期休業期間中にも給与は支給される。
国家公務員の中での公立初等中等学校教員の相対的給与水準は、公務員省の統計においては、「管理職員」の範疇に含まれつつも、その平均は下回っており、国家公務員全体の平均とほぼ同水準となっている。また、高等教育教員を含めた平均月収を民間企業職員と比較した場合、民間企業の中間職員の水準は上回っているものの、管理職員の平均は大きく下回っている。(注162)
管理職員 | 30,658(399) |
---|---|
管理職(教員以外) | 41,461(539) |
大学教授 | 48,220(627) |
大学助教授 | 32,323(420) |
初等中等学校教員 | 25,746(335) |
士官(将官を除く) | 39,763(517) |
中間職員 | 23,714(308) |
コレージュ普通教育担当教員 | 24,384(317) |
初等教育教諭 | 22,675(295) |
事務員 | 23,489(305) |
警察官 | 30,212(393) |
技術者 | 24,923(324) |
下士官 | 24,577(320) |
一般職員 | 18,457(240) |
事務員 | 14,606(190) |
警察官 | 23,441(305) |
工員 | 16,042(209) |
一般軍人 | 16,449(214) |
全体平均 | 25,474(331) |
国家公務員 | 民間企業職員 | ||
---|---|---|---|
管理職員 | 2,427(32) | 管理職員 | 3,530(46) |
管理職(教員以外) | 3,370(44) | ||
教員 | 2,303(30) | ||
中間職員 | 1,727(22) | 中間職員 | 1,806(23) |
技術者 | 1,804(23) | ||
事務員 | 1,951(25) | ||
教員(旧制度) | 1,546(20) | ||
警察官 | 2,457(32) | ||
一般職員 | 1,506(20) | 一般職員 | 1,287(17) |
事務員 | 1,494(19) | 従業員 | 1,265(16) |
工員 | 1,269(16) | 工員 | 1,300(17) |
警察官 | 1,905(25) | ||
全体平均 | 2,026(26) | 全体平均 |
教諭(instituteur)廃止と初等教育教員(professeurs des ecoles)の新設は、しっかりとした学歴に裏付けられた優秀な人材を、初等教育においても確保するための方策であったと考えられる。しかしながら、下にも述べるように教員に対する人気が高いこともあって、特別の人材確保の方策は現在とられていない。
教員給与に対し、特段の優遇措置はとられていない。
第2次大戦前、教員の組合運動は禁じられていた。このため、学校教育の内容を改善する、あるいは、社会への貢献を最大化するための方策を研究する非営利団体(association)(注163)として組織化され、こうした非営利団体が母体となり、戦後の労働組合(syndicat)に発展したという経緯を有する。
国民教育省から入手した資料には29の団体名が掲載されているが、初等教育、中等教育、高等教育の教員別の組合、これらを束ねた団体、更にはフランスの主要労働組合別の組合等に分類できる。このなかで主要な団体は次の通りである。
―教務・教育・研究・文化・養成・同化の全国組合連合(FSU=Federation Syndical Unitaire de l'enseignement, de l'education, de la recherche, de la culture, de formation et de l'insetion):構成員19万人、22の教職員組合及びその他2組合の連合体
―全国教育中立組合(UNSA Education=Union Nationale des Syndicats Autonomes Education):構成員14万人、1928年に設立された全国連合団体から発展し1948年~2000年には国民教育全国連合(Federation de l'Education Nationale)として存続、2000年に現在の組織となった。1970年には55万人を集める最大の組織であったが、その後分裂等を繰り返し現在に至っている。
―中等教育教員全国組合(SNES=Syndicat National des Enseignants du Second degre):構成員7万5千人、上記FSUの設立母体となった組織
―初等教育教員全国連合組合(SNUipp-FSU=Syndicat National Unitaire des Institueurs, professeurs des ecoles et Pegc, Federation Syndical Unitaire):構成員数不明、同じくFSU系の初等教育教員の組合
下表は、最近の国民教育省の予算推移を示したものである。予算額は順調に伸び、国家予算に占める国民教育省の予算割合、国内総生産に占める国民教育省の予算割合とも、それぞれ23パーセント前後、4パーセント前後と堅調に推移している。
2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 | |
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学校教育 | 47.0 | 50.6 | 52.7 | 54.0 | 55.5 | 56.6 |
高等教育 | 8.0 | 8.6 | 8.7 | 8.8 | 9.1 | 9.3 |
計 | 55.0 | 59.2 | 61.4 | 62.8 | 64.6 | 65.9 |
国家予算 | 253.8 | 260.9 | 266.3 | 273.8 | 277.9 | 283.0 |
国家予算に占める国民教育省予算の割合 | 21.9パーセント | 22.7パーセント | 23.1パーセント | 22.9パーセント | 23.2パーセント | 23.3パーセント |
国内総生産に占める国民教育省予算の割合 | 3.9パーセント | 4.0パーセント | 4.0パーセント | 4.0パーセント | 4.0パーセント | 3.9パーセント |
出所:「Reperes」p.309.
初等中等教育局財務課