(7)フィンランド

1.最近の教員給与に関する施策等の動向

 フィンランドでは、2006年6月1日に発表された教員給与を規定する労働協約(Collective Labour Contract:OVTES)において能力・実績に基づく給与の導入について締結されており、業績志向の要素を取り入れることが可能になった。現在、業績志向の要素をどのような形で給与制度に組み込んでいくか、ということについて継続的な議論が行われている。2006年10月時点では、政府側と組合の交渉が続けられており、能力・実績に基づく給与制度の詳細は2007年の秋を目処にまとめられる予定である。(注103)

労働協約『OVTES』(注104)

 労働協約『OVTES』(注104)

  • (注103)OAJインタビュー、2006年11月1日。
  • (注104)フィンランド教育省ウェブページ(URL:http://www.minedu.fi/OPM/)。

2.教員の身分

 フィンランドの教員は地方公務員であり、地方自治体が教員の採用・解雇及び給与の支給を担当している。教員には他の公務員と同等の権利が与えられ、組合を通じて労使交渉やストライキを行うことが出来る。

3.教員の任命権者

 教員を採用するのは地方自治体だが、実際の選考方法は自治体によって異なり、自治体が選考を行うところ、各学校の校長及び教員・親から構成される理事会(governing body)が選考を行うところ、校長が選考を行うところなど様々である。地方自治体は校長や理事会に対し適切な人事が行われるよう助言やモニタリングを行うが、各学校の自主性を尊重している。(注105)

  • (注105)ヘルシンキ市教育局インタビュー、2006年10月30日。

4.教員採用の方法

 OECDが実施した調査によると、大学の教員養成課程を修了した学生の90パーセントが学級担当教員として地方自治体に採用されている。また、大学において各専門分野を専攻しつつ教科担当教員課程(1年程度のプログラム)を修了した学生の85パーセントが教科担当教員として採用されている。(注106)

  • (注106)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.50.

5.校長、教頭、教職員等の職務内容

 校長、教頭及び教員の主な職務内容は以下のとおりである。フィンランドでは、教職員の採用数やどのような教職員を雇うか(パートタイム教員、カウンセラー等)は各学校が独自に定めることが出来る。(注107)よって、教職員の採用を含む学校経営が校長の重要な職務の一つとなっている。

校長・教頭・教員の職務内容(注108)

校長の職務内容 教頭の職務内容 教員の職務内容
授業
授業準備
個別学習指導
カリキュラム編成
教材作成
成績評価
生活指導(集団・個人)
学校行事
クラブ活動(学内)
学年・学級経営
学校経営
保護者対応
地域対応
関係団体対応
研修
事務資料作成
授業
授業準備
個別学習指導
カリキュラム編成
教材作成
成績評価
生活指導(集団・個人)
学校行事
クラブ活動(学内)
学年・学級経営
学校経営
保護者対応
地域対応
関係団体対応
研修
事務資料作成
授業
授業準備
個別学習指導
カリキュラム編成
教材作成
成績評価
生活指導(集団・個人)
学校行事
クラブ活動(学内)
学年・学級経営
保護者対応
地域対応
関係団体対応
研修
  • (注107)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.22.
  • (注108)OAJからの回答による。

6.学校における教員組織の状況

 フィンランドでは、すべての科目を担当する学級担当教員(基礎学校の1~6年生対象)ならびに、ある特定の科目を教える教科担当教員(7~9年生対象)がいる。これらの教員のほかに、特別支援担当教員、カウンセラーや学校看護婦(スクールナース)等が勤務している。

7.給料表

 フィンランドでは法定最低賃金は定められておらず、労働者の給与や賃金は公的及び民間セクターごとに協約によって定められる。(注109)過去30年に亘り、労働者の給与水準並びに労働環境に関する交渉は、雇用者から成る主要団体と労働組合の間で行われることが一般的であった。労働協約は、雇用者団体と労働組合の交渉により、税制等と連動した一般的な所得政策の合意(General income policy settlement)として採用されている。
 教員給与も他の公務員と同様に、雇用者と組合の交渉によって給与が定められる。教員給与の場合、地方自治体雇用者機関(Commission for Local Authority Employers)とフィンランド最大の教職員組合であるOAJが交渉機関となり、合意された教員給与はOVTESに詳細に記載される。教員の給料は主に職歴、保有資格及びCost-of-Livingと呼ばれる勤務区域の物価水準によって計算される。(注110)
 給料は勤続年数に応じて増加する仕組みとなっており、勤続2年次が2パーセント、5年次は2パーセント、8年次は5パーセント、13年次は5パーセントの昇給が約束されている。OVTESによると、学級担当教員、教科担当教員、特別支援教員及び校長の給料は以下のように定められている。

学級担当教員(初等教育段階)の給料表(注111)

単位:ユーロ(注112)
カテゴリー 教員の保有資格 1.Cost-of-Living(都市部) 2.Cost-of-Living(農村部)
40304028 修士号、初等教育教員資格、数学・母国語・第二公用語・外国語いずれかの中等教員資格 2279.53 2226.79
40304029 修士号、初等教育教員資格、40304028以外の科目の中等教員資格 2204.33 2153.33
40304030 修士号、初等教育教員資格 2142.69 2093.11
40304031 初等教育教員資格 2093.83 2045.38
40304098 学士号、幼稚園教諭資格 1708.24 1668.86
40304033 その他 1629.13 1592.17

教科担当教員の給料表(注113)

単位:ユーロ(注114)
カテゴリー 教員の特徴 1.Cost-of-Living(都市部) 2.Cost-of-Living(農村部)
40304005 修士号、基礎学校・後期中等教育教員資格或いはシニア教科担当教員資格 2,332.46 2,278.47
40304007 40304005以外の基礎教員、教科担任、学級担任、特別支援教員資格 2,195.80 2,145.00
40304008 修士号 1,924.69 1,880.16
40304009 学士号 1,842.28 1,799.67
40304010 修士号・学士号以外 1,741.27 1,701.00

特別支援教員の給料表(注115)

単位:ユーロ(注116)
カテゴリー 教員の特徴 1.Cost-of-Living(都市部) 2.Cost-of-Living(農村部)
40304012 修士号、特別支援教員資格 2,330.18 2,276.27
40304014 学士号、特別支援教員資格 2,270.74 2,218.18
40304013 特別支援教員資格 2,197.94 2,147.08
40304015 修士号、初等中等教育教員資格 2,142.69 2,093.11
40304016 特別支援教員資格(EHA2レベル)
あるいは初等中等教育教員資格
2,073.71 2,025.74
40304017 その他 1,812.49 1,770.56

(注)EHAとは知的障害の度合いを現す

校長の給料表(注117)

単位:ユーロ(注118)
カテゴリー 学校の種類 教員数(単位:人) 1.Cost-of-Living(都市部) 2.Cost-of-Living(農村部)
40301001 基礎学校(初等教育段階)校長 (12-23) 2,828.75-3,027.93 2,763.06-2,967.40
40301001 基礎学校(初等教育段階)校長 (24-30) 2,922.02-3,160.31 2,854.19-3,086.93
40301001 基礎学校(初等教育段階)校長 (31---) 3,037.93-3,297.74 2,967.40-3,221.18
40301002 基礎学校(前期中等教育段階)校長 (---6) 2,922.02-3,160.31 2,854.19-3,086.93
40301002 基礎学校(前期中等教育段階)校長 (7-14) 3,160.31-3,438.01 3,086.93-3,358.17
40301002 基礎学校(前期中等教育段階)校長 (15-19) 3,297.74-3,580.84 3,221.18-3,497.70
40301002 基礎学校(前期中等教育段階)校長 (20---) 3,438.01-3,746.09 3,358.17-3,659.10
40301003 特殊教育学校校長 (6-11) 2,992.02-3,160.31 2,854.19-3,086.93
40301003 特殊教育学校校長 (12-20) 3,037.93-3,297.74 2,967.40-3,221.18
40301003 特殊教育学校校長 (21-25) 3,297.74-3,580.84 3,221.18-3,497.70
40301003 特殊教育学校校長 (26---) 3,438.01-3,726.09 3,358.17-3,659.10

 「基礎学校(初等教育段階)」(elementary school)は、1~6学年の学校、「基礎学校(前期中等教育段階)」(elementary upper school)は、7~9学年の学校を指す。校長の給料は、学校の種類、学校の所在地及び学校規模等に基づき設定される。(注119)

  • (注109)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.53.
  • (注110)Cost-of-Livingは、カテゴリーIが都市部、カテゴリーIIがその他(農村部)という区分。
  • (注111)OVTES2005-2007、p.64.
  • (注112)1ユーロイコール154円、2006年11月1日現在の為替レート。
  • (注113)OVTES2005-2007、p.16.
  • (注114)1ユーロイコール154円、2006年11月1日現在の為替レート。
  • (注115)OVTES2005-2007、p.64.(注116)1ユーロイコール154円、2006年11月1日現在の為替レート。
  • (注117)OVTES2005-2007、p.45.
  • (注118)1ユーロイコール154円、2006年11月1日現在の為替レート。
  • (注119)OAJからの回答による。

8.諸手当

 勤続年数に応じた定期的な昇給に加え、勤続10年、15年、20年次には定期手当が支給される。また、僻地の学校に勤務する教員にも手当が支給される。その他にも、低学年(1,2年生)や、聴覚障害をもつ児童生徒を担当する教員への手当がある。(注120)諸手当は給料をベースとし算出される。

教員の諸手当(注121)

諸手当の種類 受給額
定期手当(Periodic bonus for service 勤続10年4パーセント、15年6パーセント、20年6パーセント
僻地手当(Development Area Benefit 給料の0.03パーセント
1、2年生担当手当 給料の0.04パーセント
複式学級担当手当 給料の0.04パーセント
聴覚障害児教育担当手当 給料の0.04パーセント
その他 教員としてのスキル、業績、時間外授業手当等

 また、追加的な任務を担当する教員に対しては手当が支給される。
 各教員は新年度の初めに校長と相談し、指導方針ならびに児童生徒の指導以外に行う追加的な任務を決定する。追加的任務には図書館の管理やクラブ活動の顧問等があり、その任務を教員が実際に行ったかどうかは校長が評価する。(注122)

  • (注120)OAJからの回答による。
  • (注121)OAJからの回答より作成。
  • (注122)ヘルシンキ市教育局インタビュー、2006年10月30日。

9.能力・実績に基づく給与

 フィンランドでは2006年6月1日に発表されたOVTESにより、教員給与へ能力・実績を反映させることが制度上可能となった。これは校長、教頭及び教員に適用される。業績は賞与という形態ではなく給料に加算する形で反映される予定だが、詳しい基準等は現在交渉中である。(注123)

  • (注123)ヘルシンキ市教育局インタビュー、2006年10月30日。

10.給与と結びつかない教員評価の内容・方法

 教員評価は実施されていない。

11.勤務時間管理

 勤務日数は、校長・教頭が年間225日、一般教員が年間190日程度(授業がある日)となっている。決められた授業時間数を越えた授業に対しては、時間外授業手当が支給される。1回の時間外授業につき、給料の約3-4パーセントが支給されることとなっている。(注124)

  • (注124)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.54.

12.長期休業期間中の勤務及び給与

 教員の給与は、OVTESによって定められている金額を12等分し毎月支払う仕組みになっていることから、夏期休暇等の長期休業期間中も給与は支払われる。(注125)校長・副校長等の管理職教員は教員に比べ法定勤務日数が長いことから長期休業期間中も勤務することがあるが、一般教員は原則として長期休業期間中には職務を行わないこととなっている。

  • (注125)ヘルシンキ市教育局インタビュー、2006年10月30日。

13.他の職種との給与水準の比較

 教員給与は、教員と同様の学歴を持つ国家公務員の給与水準と比べ低く、国際比較を見ても、フィンランドの教員給与は、OECD諸国の教員平均給与よりも若干低くなっている。(注126)教員組合は、低い給与水準が教職を志す若者の減少につながっていると指摘している。(注127)

  • (注126)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.54.
  • (注127)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.54.

14.人材確保の方策

 フィンランドではこれまで深刻な教員不足に陥ったことはないものの、教職を志望する学生数は過去30年間で減少傾向にある。フィンランド政府の調査によると、学生の多くは教職を「大変な仕事である」と認識しており、特に男子学生の教職志望者は過去10年間継続して減少している。教員不足が最も顕著な科目は数学及び自然科学であり、志願者が定員に達しないこともある。一方、特別支援学級教育、カウンセリング、芸術や実技を行う科目には毎年定員以上の応募が集まり、教員不足の心配はされていない。(注128)教員を志望する学生が減少傾向にある背景として、教員組合(OAJ)は、教員給与の低さを指摘している。(注129)
 フィンランドにおける教員の人材確保の課題のひとつが高齢化対策である。2000年から2010年の間におよそ2万人の教員が定年を迎えることもあり、現在フィンランドでは質の高い教員を、特に農村地において確保することが急務となっている。(注130)さらにフィンランドでは、教職課程を修了した学生のおよそ10パーセントから15パーセントが教員以外の職業についていることに加え、教員になった新卒学生の5人に1人が5年以内に教師を辞めている。(注131)このような事態を受けフィンランド政府は給与制度の見直しを政策課題として検討しており、その一環として能力・実績に基づく給与の導入を検討している。

  • (注128)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.10.
  • (注129)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.53.
  • (注130)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.10.
  • (注131)"Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers: Country Background Report for Finland", June 2003, p.10.

15.教員給与の優遇措置

 フィンランドにおける教員給与水準は他の公務員と同等であり、特別な優遇措置は実施されていないとヘルシンキ市教育局は述べている。(注132)

  • (注132)ヘルシンキ市教育局インタビュー、2006年10月30日。

16.教員組合、団体の状況

 フィンランドにおける最大の教職員組合は、教員組合(Trade Union of Education in Finland:OAJ(注133))と呼ばれる団体である。OAJは主に地方自治体の雇用制度担当組織である地方自治体雇用者機関との交渉窓口となり、フィンランドにおける教員給与の決定プロセスに関与している。

OAJウェブページ(注134)

 OAJウェブページ(注134)

 OAJは1973年12月28日に設立された。2006年1月1日時点の組合員数は、11万4,983人であり、フィンランド全土の教員の96パーセント以上が組合員となっている。OAJの主目的は、フィンランドにおける教員の利益を保護することにあり、教員の給与、労働時間等の諸待遇に関する交渉を行っている。OAJの意思決定はカウンシルと呼ばれる委員会で行われ、年に2回カウンシル会議が実施される。OAJの中央事務局及び11の地方事務局は、組合員に対し以下の福利厚生を提供している。

組合員への福利厚生

  • (ア)給与・待遇に関するアドバイス
  • (イ)教員失業支援基金(Teacher's Unemployment Benefit Fund)への加盟
  • (ウ)各種保険
  • (エ)Opettaja誌の発行(Opettajaとはフィンランド語で「先生」の意味)
  • (オ)余暇・リクリエーションのサービス

OAJが発行する雑誌『Opettaja』(注135)

 OAJが発行する雑誌『Opettaja』(注135)

 OAJの組合員は、幼稚園教諭から大学講師、職業訓練学校の教員まで多岐に亘る。OAJは、主にホワイトカラーの労働者から構成される労働組合AKAVA(Confederation of Unions for Academic Professionals in Finland)の最大会員である。(注136)

17.教育予算の近年の動向

 フィンランド統計局によると、2004年の教育省の予算額は5,970百万ユーロであったが、2006年には6,470百万ユーロとなり増加傾向にある。教育省の予算は政府総予算の16パーセントを占めており、同予算のほかにも地方自治体及び民間セクターから、教育、研修、研究開発等の分野に資金が提供されている。(注137)

教育省予算の推移

単位:百万ユーロ(注138)
2004年 5,970
2005年 6,197
2006年 6,470

出所: フィンランド統計局及びフィンランド教育省

  • (注137)フィンランド教育省ウェブページ(URL:http://www.minedu.fi/OPM/)。
  • (注138)1ユーロイコール154円、2006年11月1日現在の為替レート。

お問合せ先

初等中等教育局財務課