2001年から能力・業績に基づく給与として、業績賞与を導入している。
教員は国家公務員であり、団体権、団体交渉権といった基本的な労働権に関して他の国家公務員と変わらない。(注56)なお、公務員には、所定の手続きを満たした上で争議権の行使が認められるが、実際にストライキを実施した例は極めて少ない。(注57)
シンガポールにおいて、唯一学士レベルで教員養成を行なう機関である国立教育学院(National Institute of Education:NIE)と教育省(Ministry of Education: MOE)の連携の下、教育養成・教員制度改革が進められている。シンガポールは国土が狭小である為、地方教育行政組織は存在せず、教員採用・人事全般については教育省が直接管理しており、教員の任命権者も教育省である。教育省は1997年に学校区(School Cluster)制を導入している。教育省は校長職経験者から「区教育長」(Cluster Superintendent)を任命し、政府立校(Government School)、政府補助立校(Government Aided School)の人事管理、区内の財源運用、研修プログラム、カリキュラムや使用する教科書・教材の決定に関する権限を与えている。
国立教育学院に在籍する学生は、訓練生身分として、一般教育職員(General Education Officer: GEO)として教育省に雇用された形となっているが、実際に学校教員として勤務する場合には、卒業後に各人が希望校に履歴書等を送り直接申し込む。(注58)政府立校では校長が審査・選考し、採用候補者を区教育長に報告して教育省が任命する。政府補助立校では学校経営委員会(School Management Committee)が、またインディペンデントスクールでは学校理事会(Board of Governors)が校長とともに審査・選考を行い、その結果を受けて教育省が任命する。(注59)
職務について規定する法令はないが、実際には次のような職務を行っている。(注60)
現時点において未調査
シンガポールの給料表は教員身分によって分類されている。教員身分に関しては、国立教育学院や大学の学士号取得者がGEO1、GCE-AレベルやOレベルのみの保有者(普通教育修了資格保持者)がGEO2と区分され、GEO1の給料はGEO2と比べ15パーセントほど高くなっている。
単位:シンガポールドル(注61)
出所:シンガポール教育省
教科や生徒指導等の部局主任(Head of Department:HOD)や各教科や学年の担当主任(Subject Head/Level Head)はその職務に応じて諸手当があり、その差額は年間3,000から4,800シンガポールドル程である。その他にも、以下のような手当等が支給されている。
医療積立基金(Medisave)への政府補助、歯科治療費補助、政府官舎の賃貸、生命保険共済等。
能力・実績に基づく給与は2001年から一時金である業績賞与として導入されている。校長の推薦に基づき教員の評価を担当するのは教育省学校局(School Division)であり、外部評価業務を担当している。
学校局は全国を4地区に分け支局を置き、区教育長とともに学校の自己評価活動を促進すると共に、区内や学校内にも多様な教員表彰制度が設けられており、優れた教員の教育実践を共有し、勤務意欲を高めるよう工夫されている。毎年9月1日の「教師の日」には、数名の優秀な教員に対して、「優秀教員大統領表彰」(President's Award for Teachers: PAT)が大統領から直接授与される。また国家青少年会議と教育省は、30歳以下の教員を対象とした「若手優秀教員賞」(Outstanding Youth in Education Award: OYEA)も設けている。児童生徒の人間性の発達や国家の教育活動への貢献等の面で秀でた教員を検証することで、教職の地位と専門職性の向上、国家の教育活動全体の底上げを図っている。(注62)
昇進等の人事、給料や報賞の査定は、校長と区教育長が教員の教育業績や授業パフォーマンス、研修コースの受講単位数等から決定する。副校長や校長になるための年齢制限もないことから30代の管理職もよく見られる。
教育省は個々の教員の資質や専門技能にあわせて、その早期向上を図るため、「教員職能:キャリア開発計画」(Education Service Professional Development and Career Plan: Edu-Pac)という職階制度を設けている。Edu-Pacは以下3つのトラックに分類される。
教員は通常の公務員と同様の週44時間勤務となっている。年間12週間の学校休暇期は休暇扱いとなるが、校長からの校務・研修命令が出た場合は除かれる。
時間外手当は支払われない。(注64)
基本的に長期休業期間中に職務に従事することを義務付けられてはいないが、緊急時には登校することもある。
現時点において未調査
国立教育学院での育成期間中、学生はGEOの訓練生身分として教育省に雇用される。在学生には給料が支払われ、授業料の大部分が補助金でまかなわれている。
また、教員、副校長、校長に優秀な人材を確保する為、給与水準を高くしているということはないが、労働市場の中で競争的な給与にしている。
教員は他の国家公務員と同程度の給与水準にある。
STU(Singapore Teacher's Union)という、国内最大の教職員組合が1946年から教員の労働条件改善や権利保護等の活動を行っており、13,000人以上(全体の46パーセント以上)の教員がこの団体に加盟している。組合構成員はOrdinary Branch MemberとGeneral Branch Membersの二種類に分類されており、後者は組合の管理職を担当するもので、前者はそれ以外の一般構成員である。STUは教職員センター等の施設を所有する他、災害補償制度(Personal Accident Group Insurance Scheme:STUPAS)や、医療保障制度(STU Medical Assistance Scheme:STUMAS)等の保障を行っている。(注65)
教員給与は中央政府が100パーセント負担し、中央政府から直接支払われる。また、公財政状況によって教員の人件費削減が政策課題となったことはない。
単位:シンガポールドル(注66)
出所:シンガポール財務省‘The Budget for Financial Year 2004/2005’2004年
初等中等教育局財務課