韓国では、教員の給与水準が民間企業に比して低いものと認識されていたことから、韓国政府は民間企業と同水準にまで、教員給与をキャッチアップさせることを企図し、「教育改革5ヵ年計画」を1999年6月2日に提案した。この提案は「公務員給与拡大5ヵ年計画」(Five Year Plan to Upgrade the Salary of Public Servant)と連動していた。この計画には6つの方針が掲げられ、その1つが能力や功績に応じた人事・給与制度の構築であった。
国立及び公立の学校に勤務する教員は、国家公務員法における特定職公務員である「教育公務員」に指定され、国家公務員法の規定を受けると同時に、教育公務員の資格・任用・報酬・研修及び身分保障等については、別途教育公務員法によって規定されている。雇用形態は、他の国家公務員と同様に終身雇用であり、その身分は定年(62歳)まで保障される。(注39)教員には他の公務員と同様に、団結権、団体交渉権は認められているが、争議権は認められていない。
教員資格は、学校段階に応じて、初等学校の教員資格と中等学校(中学校、高等学校)の教員資格とに区別される。初等学校で教える場合には初等学校の教員資格、中等学校で教える場合には中等学校の教員資格が必要である。校長あるいは教頭になるためには、いずれの教育段階においても、上級の「校長資格」「教頭資格」がそれぞれ設けられており、一般教員の資格を取得した後、研修を受けながら段階的に昇格していかなければならない。
初等教育の資格には、校長、教頭、1級正教師、2級正教師、準教師の5種類ある。教育大学あるいは専門大学の教員養成課程卒業により取得できる資格は、2級正教師及び準教師である。その他の資格については、一定の勤務経験の後、研修を受けた者に対し、1級正教師、教頭、校長の資格が教育人的資源部長官により授与される。
また中等教員の資格には、初等教員の資格同様、校長、教頭、1級正教師、2級正教師、準教師の5種がある。一般総合大学内の教員養成学部及び、教育学部、教育大学院を卒業した際に取得できる資格は、2級正教師、準教師である。1級正教師、教頭、校長の資格について、一定の勤務経験の後、研修を受けた者に対し、教育人的資源部長により授与される。(注40)
教員は、教育人的資源部長官から委任を受けた市・道の教育長によって採用される。
1990年まで、国立の教育大学及び一般総合大学の教員養成学部の卒業者を正規教員として、無試験で採用し、不足した定員を教員採用試験によって選定していた。しかし91年にこの制度が廃止され、公開の競争試験による採用が制度化された。3年間の経過措置がとられた後、1994年以降、完全に競争による教員採用制度が採られている。
国公立の学校における教員採用試験の手順は、まず採用者である市・道教育長が毎年11月に欠員教員の数を考慮して採用定員を決定する。そして12月の初めに第一次採用試験が行われ、ここで募集定員の120パーセントが採用される。翌年の2月初旬に第一次試験合格者を対象に論述、面接試験等による第二次試験を実施して最終合格者を決定する。なお、2006年度の教員採用試験の競争比率は6.3倍である。(注41)
教員の法令上の種類と役割は、「初等中等教育法」(1997年)に示されている。校長、教頭、教員の役割は、それぞれ第20条1項~3項までに記されている。
教員の学校配置は、教育人的資源部が国家公務員の定員を管掌している行政自治部等の関係部署と協議して、教員の定員を確定する。教員配置基準は、「初等・中等教育法施行令」に依拠している。
校長・教頭以外に、学級ごとに教員1人を配置する。各学級担当教員以外に、体育・音楽・美術・英語担当教員を置くことができ、その算定基準は、学校別に3学年以上で3級ごとに0.75人とする。その他、各学校は、養護教員を置くことができるが、18学級以上の初等学校には、必ず養護教員を1人置かなければならない。
校長・教頭以外に、3学級までは、学級ごとに教員1人を配置するが、3学級を超過する場合、1学級増加するごとに1.5人以上の比率で配置することができる。中学校では、3学級ごとに1人以上の実業科担当教員を置く。
校長・教頭以外に、3学級までは、学級ごとに教員1人を配置するが、3学級を超過する場合、1学級増加するごとに2人以上の比率で教員を配置する。高等学校では、3学級ごとに1人以上の実業科担当教員を置く。(注42)
公立学校の教員の給与は基本となる給料と諸手当を合算したものである。
基本となる給料制度は、他の国家公務員同様「公務員報酬規程」に示されている。同規程によると初等学校、中学校、高等学校の教員は、単一の号俸制度で運営されている。
また、初任給の号俸は教員の資格の水準に合わせて決定される。給料表は学校や地域ごとに異なることはない。
月収、単位:ウォン(注43)
出所:韓国教育人的資源部
学級担任や障害児に対する指導、現職研修機関での勤務等、特別な職務を遂行する教員に対するものの他、僻地勤務手当や家族手当等様々な手当が存在する。(注44)
2001年2月12日、教育人的資源部は、小中学校の教員、教頭、校長、その他の事務職員の仕事を評価し、優れた教育活動を行ったと認められた教員に対し、成果賞与金を支給することを決定した。これは基本給に含まれるものではなく、一時金として支給されるものである。当初は、各学校の教員の70パーセントを対象に、前年の業績をベースとして月給の50~150パーセントに相当する成果賞与金の支給を想定していたが、査定の評価基準の設定が困難であったこと、また、教員団体や組合が強硬に反対したことから、内容の変更を余儀なくされ、教員の業績をAからCの3段階に分けて評価し、評価に基づいて決められた成果賞与金を給付することとなった。しかし最下位グループ(Cグループ)に査定された教員からの反発により、この計画も失敗し、結果として全体の90パーセントを一律にした上で残余の10パーセントで評価に応じて差をつけるという制度となった。(注46)
この一時金である成果賞与金支給の基となる評価は、都・市の教育監、教育長、学校長等が、所属教育公務員の意見を反映し、「成果給審査委員会」の審議を経て決める。年功序列よりも、担任、補職、授業時数、表彰実績、学習指導及び生活指導能力等が基準となる。(注47)
国家公務員服務規程によると、教員の評価は所属学校の校長及び教頭が行う。その権限の割合は同等である。教頭の評価は校長が行う。評価内容は、業績記録にある功績、職務遂行能力、職務態度が含まれている。また評価材料の1つとして、12月31日にそれぞれ自己評価報告書を提出させている。(注48)
国家公務員服務規程により、一週間の勤務時間数が定められている。教育課程運営に支障がない範囲内で教員の出・退勤時間を個々の学校毎に自由に設定できることとされている。勤務時間外の勤務については月67時間以内で号俸別に1時間を単位に給料に応じた額が支払われる。(注49)
長期休業期間中にも学期中と同様に給料が支払われる。また条件を満たす場合には手当も支給される。(注50)
教員には社会的信用や、休業期間が年間100日程度取得できる等のメリットがある一方で、給与面においては民間企業の職員と比べ低水準となっている。(注51)業績ではなく教員としての経験によって賃金が決定されるという制度が、教員のモチベーションを下げ、教員モラルの低下につながるとの指摘もある。(注52)
人材確保に関する問題として、初等学校教員希望者の減少及び中学校及び高等学校教員希望者の増加が挙げられる。前者の問題の原因として、地方で教職につくことへの拒否感や、急激な都市化に伴う人口増加による、教員の需要拡大への対応の遅れが挙げられる。(注53)さらに、初等学校教員を志望する学生がほぼ100パーセント採用されていることも、教員の競争意識を低下させ、優秀な人材の確保を困難にしている。このような問題に対し、韓国政府は優秀な人材を選別・確保する為に、「中長期的な初等学校教員供給計画」を打ち出している。
一方、中学校及び高等学校教員を志望する学生数は増加傾向にあり、超過供給となっていることから、1998年から2001年までの雇用率は20.4パーセントに留まっている。教員志望者の雇用率を上げるため、政府は教員1人あたりの児童生徒数を減らし、教育大学と一般大学の教育学科の役割を差別化させる等の措置を講じている。(注54)
教員給与は民間企業と比べ低かったことから、1999年6月2日、韓国政府は2004年までに民間企業と同じ水準まで教員給与を引き上げる「教育改革5ヵ年計画」を提案した。この計画に含まれる方針のひとつが、能力・実績に基づく給与制度の導入であった。
教員が組織する団体としては、教員組織である韓国教員団体総連合会(KFTA)、労働組合である韓国教員労働組合(KTWU)がある。KFTAは、一般的な教育制度について政府と交渉し、KTWUは教員の給与等、社会経済的な地位に関する問題について交渉する。こうした二元的な政策に対し、非効率さを指摘する声もある。
KFTAは1949年に創設され、組合員数は学校形態、組織上の地位等に関わらず約20万人にのぼる。KFTA会員の割合は、小学校教員の60パーセント、中学校教員の45パーセント、高等学校教員の20パーセントである。
一方、KTWUは1987年9月に創設され、1989年に労働組合として認定され、1999年に法的な教員労働組合となった。2000年末時点で、会員数は約8万人となっている。
KFTA、KTWUの他にも、各地で様々な教員組織が設置されている。他の組合も、KFTA、KTWUと同様に教員の権利や地位の保護・向上を求めているが、組織の法的根拠や交渉目的等が異なっている。(注55)
現時点において未調査
初等中等教育局財務課