資料4 教職大学院におけるカリキュラムイメージについて(2005年11月21日検討資料)

1.はじめに

1.はじめに

 この「教職大学院におけるカリキュラムイメージについて」(以下「カリキュラムイメージ」)は、中央教育審議会中間報告「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(平成18年 月 日)(以下「中間報告」)に別添2として掲載されている「(補論)教職大学院におけるカリキュラムについて」(以下「補論」)を実際に実施し、運営していくことを想定して、各大学における教職大学院の設置検討の参考として供するものである。
 本来、各大学のカリキュラム等は、制度の趣旨に則って各大学、大学院が自主的に設定するものであり、この点は教職大学院といえども同様である。それにもかかわらずあえて「カリキュラムイメージ」を策定し、提供しようとするのは、教職大学院が前例のない始めての試みであり、かつ今後の教員養成及び教員研修に重大な影響を及ぼす可能性を持っているからである。この点について「答申」が、「(教員養成の専門職大学院の創設により)学部段階及び修士課程など他の教員養成課程に対して、この大学院が実践的指導力の育成に特化した教育内容、事例研究、模擬授業など効果的な教育方法、これらの指導を行うにふさわしい指導体制など、力量ある教員養成のためのモデルを制度的に提示することにより、より効果的な教員養成のための取組を促すことが期待される」と述べているところである。
 教職大学院は白紙の状態において設定され、運営されるものではなく、現実には現に設営され、運営されている学部段階の教員養成、修士課程における養成・研修、さらに任命権者が行う教員研修等と関係しつつ展開するものである。それらはそれぞれ30年以上の経験による蓄積を持っていて、それぞれ存在意義を発揮し、一つの安定した仕組みとして機能している。これから設置される教職大学院が、こうした既存機関に対して新しい役割を発揮するためには、それぞれの成果や蓄積を取り入れつつ、一方においてそこから思い切って「離陸」しなければならない。
 このためには、それら各機関における必要な改善は当然のこととしつつ、これらの改善に依拠するのみならず、教職大学院という新たな仕組みの中に再構築されることにより、現在及び今後に求められる学校における高度専門職業人としての教員養成の充実を図る必要がある。
 このため、この「教職大学院」という新たな制度とその修了者に対する社会的な信頼を安定的に確保するために、そのカリキュラムについての共通のイメージと、養成すべき教員像について具体的な到達目標を例示することとしたものである。

2.カリキュラム設計に当たっての基本的な考え方

(1)理論と実践の架橋・融合・往還

 大学は研究の場であり、その成果を蓄積している。そして教育現場は幼児・児童・生徒の発達成育・成長をつかさどる場であり、日々の営みとしての実践とともに経験が蓄積されている場である。教職大学院はこの二つの「世界」の架橋となり、融合を目指している。そして構成する教員と学生は二つの「世界」を行ったり来たりすることによって、教育現場に生起する課題の解決を通して、教員としての資質能力の向上を果たすとともに、学校現場の改革・改善に寄与しようとするものである。

(2)授業の形態

 大学は伝統としてあらかじめ成立している学問研究のカテゴリーやアイテムにしたがって、その成果と蓄積を「講義」として講述し、さらに学生の理解を図るために予習をさせておくことを目的として、あるいは当人の問題意識と結合するために「演習」という形態を採用している。分野によっては「実験」「実習」という形態も採用されている。
 教職大学院の授業形態は、そうした伝統的授業形態から思い切って離陸することが求められる。
 教育現場における「課題」自体を中心にすえ、そうした課題について教員、学生がともに調査・研究し、その解決を図る条件、方法を探る共同の研究、討議、発表等が教職大学院の授業の主要なものになることが重要である。
 「課題」として、例えば「落ち着きのない児童のいる学級の運営をどう工夫するか」があったとすれば、学生はこうした課題についてのこれまでの研究や実践の成果について共同で手分けして研究文献、実践記録等について調査する、そしてその結果を発表する、そのプロセスを教員はリードし、指導する、次に具体的改善策などについて検討・研究し、実際の教室等で試行してみる、その結果について該当校の教員を含めて共同で検討し、反省的考察を行い、それらのすべてを報告書にまとめて公表する。この間に必要な知識、情報について教育学、教育心理学、障害児教育、医学などの専門教員がまた必要なら教科専門の担当教員が、講義等の形態によって提供することも重要である。
 こうした授業形態の呼び名は各大学で創意工夫する必要があり、従来の「講義」「演習」等とは違うものを編み出すことが必要になる。
 以下に挙げる授業形式を参考にして、各教職大学院がさまざまな工夫を試みる必要がある。

  • 「フィールドワーク」
     設定したテーマに関わる代表的な実践事例について、大学院生が実地に学校等の現場に出向き、調査を行う(カリキュラム編成・年間予定の作成、等)
  • 「学校における実践経験」
     設定したテーマに関わって自ら体験・見聞した事例についてのレポートを行う。教職大学院における「学校における実習」の内容、あるいはこれに相当するものとして読み替えた現職経験の中から事例を析出することが基本になる。
  • 「シミュレーション」
     授業テーマに関わるある条件を設定し、その設定した条件下において想定できる実際のモデルプランを複数示し、その企画立案・効果等についての検証を行う。「学校における実習」と関わらせて、実際に学校現場において応用するという形での発展があり得る。
  • 「ワークショップ」
     設定したテーマに即した「事例」を大学院生がそれぞれに持ち寄る。担当教員(大学教員)は、それら「事例」の発表をベースに、それらの背景的事象への体系的考察を導き、必要に応じて類似の「事例」を提示する等のファシリテーター的な役割を担う。
  • 「ロールプレーイング」
     「事例」の検討に際してある条件を設定し、その条件下で各大学院生が割り当てられた役割を担う形で検討を行う。担当教員(大学教員)は、「事例」及び条件の設定を行う等のファシリテーター役を担う。
     いずれの授業形式を採用する際においても、「共通理解」を育むことが教職大学院の目的であることに鑑み、複数の担当者が分担して単に回り持ちする形式(オムニバス形式)は極力避けるものとする。

(3)学生の受け入れ

 これまで述べてきたことから明らかなように、教職大学院の教育研究が既成学問研究のカテゴリーやアイテムから出発するのではなく、教育現場に生起するさまざまな課題について調査・研究し、その課題の解決を目指すものである以上、学生の受け入れの方式も従来の修士課程とは異なるものを各教職大学院が工夫することが必要である。
 この場合、学部で行われている「AO入試」の方式が参考になるであろう。

例えば、教職大学院に「現職教育委員会」や「教職大学院選抜委員会」のような組織を設置し、入学前年度の5月頃に入学希望者を公募する、希望者の入学後の研究課題をじっくりと聞き取り、その課題で有効な研究が可能かどうか、どのような教員チームを設営すればより有効なものとなるか、10月頃までに検討を重ねる、10月頃にその確認を行い問題がなければ4月の入学について確約する、場合によっては小論文試験のようなものが必要と判断すれば実施してもよい、入学確約を受けて本人も入学意志を明確にする(入学確約書の提出)、その後できるだけ担当予定教員チームが準備に当たる指導を行い、4月には直ちに正規の活動に入れるようにする、というようなプロセスも考えられる。

  • (※)現職教員の場合の志願可能時期
  • (※)学部卒生の場合

(4)カリキュラムの履修により養成すべき資質・能力

1.教職大学院でより焦点化して養成すべき具体的資質・能力

 教職大学院において焦点化して養成すべき資質・能力は、現実には総合的なものであり、教職活動の一連のプロセスを高度にマネジメントしながら実際に遂行できる力量であるが、あらかじめ分節化して明示すれば次のようになる。

  • (ア)問題や事象に関して理論との架橋・往還によって問題の解決の方向を見通せる高度の「解釈力・診断力」
  • (イ)それに支えられた具体的な問題解決策の「企画力」
  • (ウ)それを実地に試みるのに必要な優れた授業力をはじめとする「実践的な展開力」
  • (エ)これらに関して客観的に評価したり反省的に思考する等の「評価力」
2.上記の諸資質・能力の3つの位相

 教職大学院で養成されるべき上記の諸資質・能力には、例えば以下のようにそれぞれ位相の違いがあることを考慮しておく必要がある。

  • (ア)児童生徒・学級等に対し教員が個人として関わる位相
  • (イ)学年・学校など教員が同僚・教員集団と共に協力して関わる位相
  • (ウ)所属する学校を超えて地域の諸学校の中で地域の教育力をつくり出す位相

 上記の3つの位相に教員が関わる場合に必要になる資質・能力は次のように考えられる。

  • (ア)の位相に関して:教員が児童生徒、さらにその集団等を指導する場合に必要になる個人の資質・能力としての高度な専門的な力量
  • (イ)の位相に関して:その資質・能力を生かして教員を指導する力
  • (ウ)の位相に関して:上記の(ア)(イ)をもとにして、さらに所属する学校が地域において「組織としての教育力」を発揮する場合の中核として活動する力量

 例えば、共通科目を例に取り具体例を挙げれば、5領域のそれぞれにおいて養成されるさまざまな力量は、まず教員が個人として教職活動のさまざまな場面において児童生徒やその集団に対して「指導できる」という力量にはじまり、同学年の・同教科の同僚教員や学校の教員集団全体に対して「話をきける」「アドバイスできる」「説明できる」「やって見せられる」「学校内で生産的な議論ができる」などの形式で記述される力量、さらに、所属する学校の教育力を地域の学校全体の教育力充実に生かすための「学校の実践を客観的・論理的に俯瞰し整理できる」「他の学校・教員と情報交換ができる」「学校間で批判的建設的な議論をリードできる」などの形式で表現できる力量を含んでいる。

2.学校における実習

1.学校における実習(実務実習(教職専門実習))のねらい

 教職大学院における「学校における実習」は、単に学部段階における教育実習の延長ではなく、その教育実習を通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、ある程度長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級経営等の状況を経験することにより、自ら学校における課題に主体的に取り組むことのできる資質能力を培うものである。つまり教職大学院における実習は、明確に高度に専門的な「実務実習」であることが必要である。
 指導教員の指導のもとで実習を履修することにより、現職教員は、理論と実践の架橋・融合・往還の意味と意義を実感し、理論知を実践知に変換する資質・能力を獲得する。それは、共通科目との、あるいはコース別専門科目との関連がより計画された実習である。さらにまた、指導教員のもとで、特定の問題・課題の解決策を立て、それを実地に検証する計画された実習である。言い換えれば、テーマ・目的、あるいは内容・方法が明確に計画された実習である。指導教員の指導・助言のもとで計画→実施→分析・評価→改善という履修過程全体が指導教員の指導・助言のもとでマネジメントされる実習である。

2.基本的考え方

  1. 学部段階での教育実習とは、質及び量の両面において明確に違ったものとなるよう計画する。
  2. 学校現場の現代的教育課題と具体的に関わることができる実践的能力を育成する方向で、教育理論との融合を視野に入れたものになるものとする。
  3. 学生個々の指導力の向上は当然として、広く学校教育を改革する方向性を目指すものとする。
  4. 教職大学院側は、単に学校現場に委嘱することで事足れりとしたり、また大学院内部においても特定教員のみに過重な負担がかかるようなものにしてはならない。
  5. この実習が学生の資質向上に資するものになるのは当然として、大学側の教育研究の展開にとっても意味のあるものになるものとする。
  6. 見学だけになったり、傍観的姿勢に陥らせることのないように、実習学生が主体的に学校の運営、学級経営に関わり、実習校における責任ある当事者の一員となるものとする。
  7. 実習校に対して過重な負担が生じないよう関係機関が配慮し、必要な措置を行うとともに、実習が実習校における教育研究活動にとっても成果をもたらすものになるものとする。
  8. 実習学生が修了後に学校現場に採用された場合は、初任者研修の相等部分は修了したものとみなされ得る内容とするよう計画する。

3.実習の実施設定のタイプ

 教職大学院の実習の時期とタイプは、地域的な条件、学生全体の構成上の特徴、学生個々の研究計画の特色と進展状況等によって、さまざまなタイプが考えられる。
 現実にはこれらの組み合わせになるが、「学校における実習」の主旨と実施に当たる学校側にとってメリットとなるようなものになることを重視すれば、学生が「勤務に準ずる」態勢となることが望ましい。
 タイプ別に分類すると、以下のようになる。

  1. 実施学年
    • (ア)第一年次
    • (イ)第二年次
  2. 実施時期
    • (ア)通年型
    • (イ)半期型
    • (ウ)期間限定集中型
  3. 実習校の設定
    • (ア)特定実習校に長期張り付け型
    • (イ)複数の実習校にリレー式実施型
  4. 現職教員学生との関係
    • (ア)現職教員学生とセットで配置
    • (イ)学部卒学生のみを配置

 同一校に一緒に配属するかどうかについては、特に学部新卒学生にとっての実習の効果の面からと、実習校への教育上の影響の両面から検討することが必要である。

5.現職教員学生の扱い

 現職教員の学生については原則として「学校における実習」の相当部分を、自習に係る単位を修得したものとみなすことができるものとするが、現行の修士課程の就学において現職教員は入学1年目を大学院におけるフルタイムの修学に当て、2年目を勤務校に復帰してパートタイムで修学することが通常の形態となっている。教職大学院についてもこうした方式を採用することが想定されるが、学部新卒学生が相当に負担の重い「学校における実習」に就いていることと合わせると、むしろ1年目を勤務校において勤務しつつ研究課題等の準備調査等に当てる、という方式がより良いものと考えられる。さらにその勤務校と「学校における実習」の実施校とが同一の形がとれれば、現職教員が学部新卒学生の実習の指導・援助が可能となりさらにより良いこととなる。この点については教育委員会等任命権者との連携が不可欠であり、教育委員会等派遣側の配慮が必要となる。

(※)1年制コース可能との関係

4.教職大学院における実習と研修・教職経験の関係

 学部新卒学生の場合、教職大学院での実習は、例えば教員養成系大学・学部等を中心に実施されている教員採用試験合格者を対象とする「応用実践実習」(例:授業補助、休み時間や放課後の遊び相手、学級経営補助、教室内・廊下の掲示、採点補助、授業参観見学、学年・学級懇談会見学、給食指導補助、授業記録作成補助等)、あるいは教育委員会が実施する長期にわたる新規採用者研修における内容を含んでいる。
 現職経験を欠く学部新卒学生には、これに加えて、学部の教育実習生の指導などの体験を課すことが望ましい。その上でさらに、上記のような高度に専門的な「実務実習」を指導教員のもとで課すものとする。
 現職教員の実務実習で留意すべきことは、それが単なる「研修」とは異なることである。現職教員にとっての実務実習は、指導教員のもとで、特定の問題・課題の解決策を立て、それを実地に検証するより計画された実習であることがより強調される必要がある。(例えば教科教育系の場合、得意分野としての当該教科の学習に関して児童生徒の関心や学習の能力を飛躍的に高め得るように工夫・開発された教材・指導方法を実地に試行するための実習である必要がある。)その意味からも、例えば現職教員の場合、経験年数が長く、またこれまでに相当の研修を経験してきたことなどから、経験年数を持ってこの実習の一定単位を取得したものとすることが可能であるが、専門職大学院における実習は、研修とはかなり異なること、また単に教職経験を持って置き換えられるものでも必ずしもないことに十分留意する必要がある。

5.実習の設定に当たっての留意点

  1. 単位数は10単位以上とする。
  2. 実習の時期については、上記のうちの1年次の後期を基本とするが、科目全体の履修状況と実習計画の内容によっては2年次中心に、あるいは1年次から2年次にまたがって実施することも考えられる。
  3. 現職教員学生の場合、経験年数を考慮はするがそのまま読み替えはせず、レポートを課すなどすることにより、現職教員学生が自発的・積極的に自己の教職経験の内容について整理や組み替えを図るようにする。
  4. 学部新卒学生には、学部の教育実習生の指導等を担当させるなどの工夫により、即戦力としての力量の形成を図ることも必要である。
  5. 実務実習は、タイプの異なる複数の学校で履修することを原則とする。
  6. 教職大学院の趣旨からも、実習の計画においては、学生個々の指導力の向上だけでなく、所属する学校全体あるいは地域の学校全体の教育力の充実につながる視点が組み込まれていることが望ましい。
  7. 学部段階における実習(基礎実習や応用実習)においては、「観察」が比較的大きな割合を占めていたが、これがややもすると実習生の傍観的態度を生んできたことに鑑みて、教職大学院における実習においては、主体的に学校運営や学級運営に関わり、実習校の責任ある一員として参加できるよう、大学院と実習校との間で十分な実習計画が詰められていることが必要である。
  8. 学部段階における実習と異なり、教職大学院における実習においては、実習校における学生の位置付けと役割がこれまでと異なるため、実習校に過重な負担と新たな運営の困難をもたらすことも考えられることから、実習校に対しては何らかの配慮・措置を行うとともに、実習校の教育活動にとっても成果をもたらすものとなるように、実習計画の立案に当たっては実習校との間で十分な計画の調整が図られる必要がある。

6.実習で扱われる項目の具体例

 実習の内容についてはさまざまであり、かつ、項目で提示されるようなものよりは、総合的・実践的なものが重要であるが、共通に扱われるべく考慮しておく必要のあるものの例は、以下のとおり。

  1. 教科領域等指導系
     この系は、教員の資質の要である授業力を養う部分であるので、実習の履修5単位のうち、履修の50パーセント程度を充てる。(なお、ここでは特殊学級及び普通学級における軽度発達障害等の児童・生徒の指導の観点も取り入れるようにする。)
  2. 特別活動系
    この系は、児童生徒の理解やコミュニケーション力の推進を図る観点から、実習の履修5単位のうち10パーセント程度を充てる。
  3. 生徒指導・進路指導系
    この系は、児童生徒の理解に基づくキャリア指導等の資質の推進を図る観点から、実習履修5単位のうち20パーセント程度を充てる。
  4. その他
    個別学校で行われる実習以外に、大学側が独自に企画し、学生全体が参加したりする事業も企画されて良いであろう。

3.共通科目部分

1.共通科目のねらい・目的

 「共通科目」部分については、その科目の履修により、初等中等教育諸学校における教育課題について、包括的・体系的な理解を共有し、学校における実践場面において、自らの担当部分以外との関連も広く見据えながら指導のリーダーシップを発揮することのできる教員の基層的な力量の醸成を目指す。
 上記の目的に鑑み、この共通科目部分の各科目の内容は、特定の教科や学校種のみに偏らないよう配慮することが必要である。(例:「中等教育の-」「○○(まるまる)科教育の-」等の科目設定はこの部分に関しては行わない)

2.履修方法

 「共通科目」としての設定をするという趣旨に照らし、5つの領域すべてにわたって、当該教職大学院に在籍する全学生が共通に学ぶ科目の配置を行うこととされている(特定のコースの学生のみが履修するような設定は、この「共通科目」については行わない)。
 共通科目部分は、「最低必要修得単位数全体から『学校における実習』の最低必要修得単位数を引いたもののうちの半数以上」との目安から18単位以上であることから、本カリキュラムイメージにおいては、合計20単位程度を基本として提示する。

3.開講形式・単位数

 通常の開講形式(毎週○(まる)曜日○(まる)時限、というような設定)のほか、「学校における実習」と組み合わせる形(「実習」の合間に随時省察の機会として実施するような形)、あるいは集中形式の授業等も考えられる。
 本カリキュラムイメージにおいては、1科目2単位(60~90時間)を基本として科目を提示する。

4.授業方法

 上記の目的に鑑み、授業方法は、学校現場における実際の「事例」に即して行うことを基本とする(方法については後述)。その際、なるべく広範な「事例」(多様な学校種、多様な教科種等)を持つ大学学生たちを一つの授業に集め、それら広範な「事例」の検証を通して、初等・中等教育の学校における教育課題について包括的かつ総合的な理解を得るよう配慮することが望ましい(クラスサイズとしては10~15人程度を想定)。
 すでに述べたように授業に当たってはいわゆる単なる「座学」を廃し、学校現場における実際の「事例」(想定事例を含む)に即して、学生相互が多様な「事例」(多様な校種、多様な教科種、多様な問題群に及ぶことを基本とする)を交換しあうことを通じて、それらの問題の所在、対処法、背景を含む構造的な理解を醸成するとともに、その分析力、理解力を修得することにより、将来における類似の事例への応用・展開能力を養成することを企図する。(なお、授業方法・形式例については1.2.(2)授業の形態参照)

5.共通科目の設定に当たっての留意点

1.網羅的な授業にしないこと

 共通科目の各領域における科目設定に当たっては、一般には、例えば2つの方法が考えられる。
 第1は、例えば理論編(的領域)と実践編(的領域)に分ける設定の仕方である。また第2は、各領域の広範な内容を2つのグループに括り、それぞれを2単位の授業科目とする方法である。
 しかし、前者とした場合では、理論編(的領域)の部分の科目が、ややもすると従来の大学院に見られる概論タイプの授業になりやすいという問題がある。
 一方、第二の、広範な内容を関連した分野毎に2つに分けてそれぞれを2単位の科目とする場合も、担当者同士の連絡・連携・協働を欠いたオムニバス式による、当該領域で必要と考えられる内容を網羅しただけの授業になりやすいという問題がある。授業内容が広範囲に及ぶことや、担当者不足の理由から複数の担当者による授業形式は十分にあり得ることであるが、その場合にも、授業のテーマやねらいが貫かれ、連絡、連携、協働による、かつ理論と実践の架橋・融合・往復が十分に保証されている授業科目・内容の設定に工夫が期待される。

2.共通科目全体を通しての高度のシソーラス(索引)の構築

 共通科目は広範囲にまたがるからといって単に浅く広いだけの履修で終わらないように留意する必要がある。共通科目は単なる教育上の物知りをつくることではないからである。学生は、教員が学校教育全般に関する高いレベルの理論的・実践的知識や技術の蓄積の中から、いつでも必要な情報、知識、技術等を検索し、引き出し、それらを課題解決に役立てることができなければならない。1つには、共通科目を履修することによって、いわば、この検索、活用に必要な高度で体系的な検索、ないし索引のための辞典を学生各自が構築することにつながることが期待される。さまざまな分野を自在に読み解き、必要な情報や知識を引き出し利用するに当たっての鍵となる知識・概念のシソーラスの構築と言い換えてもよい。

3.連携協力校での実地の検証が必要

 共通科目部分における科目には、場合によっては、各人が現実の問題や課題に関して考案し設計した解決策・対応策が具体的な実習計画として組み込まれ、実際に連携協力校において実地に検証されることも検討されることが望ましい。特にシミュレーション等の授業形態をとる場合には、連携協力校における実践を念頭に置きつつ、その改善に具体的に資するものになるよう配慮することが重要である。

4.共通科目の名称及び養成する資質能力の記述の仕方

 これらの趣旨に沿った各科目名は、例えば「‥の事例研究」「‥の実践と課題」等となるべきであって、少なくとも従来しばしば見られた「‥学概論」「‥実践論」、あるいは「学校教育の諸課題」といった授業科目とはならないはずである。
 さらに、共通科目で養成すべき資質・能力は、後に示す具体例の記述にならって、具体的に記述されることが必要である。

 以上のように共通科目の単位数は決して多くはない。しかしそれでもなお、教職大学院には、5領域全体を通して、多くの困難な課題に直面する学校の教育活動を創造的に展開できる高い見識と厚みのある実践的な力量の育成につながるカリキュラム上の工夫を期待したい。

6.各領域の内容

(1)教育課程の編成・実施に関する領域

(教科等の内容を学校における教育課程及び学校教育全体の中で俯瞰する内容)

【具体的内容例】
  • 学習指導要領と教育課程の編成実施
  • 個に応じた指導の充実
  • 指導と評価の一体化、教育課程の自己点検・自己評価
  • 総合的な学習の時間の全体計画の内容と取扱い(各教科・道徳・特別活動との関連、学年間や学校段階間の指導との関連への配慮を含む。) など
【一般目標】
  • a)各学校種を通じての教育課程の編成方法、及び構成要素相互間の関連の在り方等について理解するとともに、カリキュラム・マネジメント(個々の児童・生徒の学びの履歴の管理)の在り方について理解する。
  • b)各学校の実状(児童生徒の状況、教職員集団の力量、地域との関係等)を見据えた上で、当該校の教育課程全体の編成について複数のプランを立て、それぞれに予想される効果等を科学的に検証した上で最善のプランの選択を行い、教職員集団をリードしてその実施に当たることができる力量を身に付ける。
【到達目標】
  • カリキュラムの実質的な領域と内容について熟知している。
  • カリキュラム・デザインを描くことができる。(年間、単元)
  • 計画性に優れている。
  • カリキュラム・コーディネーターとしての知識と技量を有している。
  • 計画と評価の方法を言語化することができる。
  • 子どもの生活や間違いにヒントを得て、新しい教材を開発することができる。
  • 子どものつまづきや間違いを生かそうとする発想を有している。
  • 指導案を作成し、子どもの実態に応じて変更することができ、そのことを言語化できる。
【科目例】
  • 「教育課程経営の実践と課題」
    • 方法:フィールドワーク(典型的な事例についての実地調査)
      シミュレーション(ある条件下での複数のプランの立案、その効果予測等)
    • 内容:
      1. 教育課程の立案・実施
        • 小学校の場合、中学校の場合、高等学校の場合等各校種の事例研究
        • 小規模校・大規模校、都市部・へき地校等各校種の事例研究
        • 「教科センター方式」の事例研究
        • 2学期制・3学期制等の実践事例研究
        • 学年暦・時間割・授業時間等の設定について、多様な事例研究
      2. 教科指導と教科外指導の全体計画・実施
        • 学校行事の配置・実施についての事例研究
        • 「学校裁量の時間」の使い方に関する事例研究
  • 「カリキュラムマネジメントの実践と課題」
    • 方法:ワークショップ(各学生による、実践事例の持ち寄り)
      フィールドワーク
    • 内容:
      1. 「個に応じた指導」の実施
        • 小学校、中学校、高等学校等、各学校種の事例研究(担当者、全体指導との関わり、実施態勢等)
        • 複式学級の事例研究
        • 学びの履歴の管理に関する事例研究(ポートフォリオ等)
      2. 「評価」
        • 相対評価、絶対評価、

(2)教科等の実践的な指導方法に関する領域

(児童生徒の確かな成長・発達と創造的な学力を保証する教科等の実践的指導力に関する内容)

 本領域においては、学生は自らの担当教科等における指導方法に関する内容を念頭に履修することとなるが、本領域の履修により修得される資質能力は、当該特定教科における指導方法ではなく、広く教科領域一般における指導方法開発に係る内容であることに留意する必要がある。

【具体的内容例】
  • 教科等の意義・目的(教科間の関連指導の工夫を含む。)
  • 授業計画(学習指導案の作成)
  • 教材研究(教材の収集・選択・分析、教材化の工夫など)
  • 指導方法(授業構成・授業形態の工夫(少人数指導や習熟度別指導など、個に応じた指導等)を含む。)
  • 指導と評価(テスト等の作成、評価の在り方) など
【一般目標】
  • a)全教科・各校種に共通する「教科の授業」の在り方(「教科」の全体構成・基本的な授業技術・教科における教育実践と学問との関係・多様な教育方法・知識と技能との関係・情報機器の利用等)について、体系的に理解するとともに、各校種における教科外活動の在り方に関して、教科の授業との関連も含めて総合的に理解する。
  • b)他教科・他学年の授業との関連を踏まえて、ある特定の授業の構成・立案に関して指導・助言ができ(教育実習生指導を含む)、かつその授業の評価を適切に行える力量を身に付ける。
【到達目標】

(A群)(教員個人としての資質に関する内容(以下同じ))

  • 少なくとも1つは教科の専門性において卓越し、常に最新の内容と方法を獲得する方法を知っており、それを遂行できる
  • 模範授業ができる。
  • 高度な指導技術を身に付けており、必要に応じていつでも使え、そのレパートリーを増やしていける。
  • 生徒の成績に関わって、優れた結果を出せる。
  • 子どもとその達成に関する評価能力が優れている。
  • 授業の診断と問題発見ができ、解決の手立てを見い出して、実行できる。
  • 自分の実践を振り返り、評価・改善する方法を知っており、実践できる。
  • 学習する子どもの間の相互作用に着目できる
  • 子どもに届く語りかけができる。
  • 表情や様子から子どもの反応を読み取ることができる。
  • 授業記録、実践記録が書ける。
  • 体験的授業を組織できる。

(B群)(同僚・教員集団との協力に関する内容(以下同じ))

  • 他の教師にアドバイスをしたり支援できる能力に長けている。
  • 授業の診断と問題発見ができ、解決の手立てを発見し、それを実行して言語化することができる
  • 新任教師に対するメンター教師としての役割を果たせる。
  • 教育実習生に対し、…
  • テーマに基づく研究を実施することができる。
  • 授業記録、実践記録に基づいて校内研修を組織することができる。
  • 授業評価ができる
【科目例】
  • 「教科教育の実践と課題」
    • 方法:フィールドワーク(自教科・自校種以外に関する調査→相互交流)
    • 内容:以下のようなテーマに即して各学生が調査を行い、相互に総合的に検討する。
      • 教科と学問、指導における「知識」と「技能」の関係
      • 各教科、各学年指導における特性
      • 「板書」「示範」等の実際、その教育効果
      • 教科指導と情報処理、教具の活用
  • 「学校教育参画演習」
    • 方法:シミュレーション、あるいは学校現場への参画
    • 内容:学校教育における、以下のような実際場面への「参画」を行う(企画・立案・実施・省察・評価)
      • 修学旅行、見学等の校外活動
      • 「総合的な学習の時間」のコーディネート
      • 教育実習生の指導
      • 特別活動
      • 道徳の授業づくり
  • 「教育方法の実践と課題」
    • 方法:ワークショップ(多様な教育方法に関して、相互に実践例を持ち寄り、検討)
    • 内容:以下のようなテーマに即しての、各学生の持ち寄った事例を基にした検討(企画・立案・実施・省察・評価)
      • TAの活用、ティームティーチング
      • 少人数指導、複式学級
      • 習熟度別学級編成
      • 体験型授業

(3)生徒指導、教育相談に関する領域

(学習や発達の過程における児童生徒の諸課題を適確に診断・理解し、適切に対処するための実践的指導力に関する内容)

【具体的内容例】
  • 児童生徒理解の内容と方法(思春期等に見られる心身症、精神疾患等に関する知識を含む。)
  • 教員と児童生徒、児童生徒間の人間関係
  • 児童生徒の健全育成の取組
  • ガイダンスの機能と教育相談の充実
  • 問題行動等に関する事例研究
  • 学校における生徒指導体制
  • 家庭・地域や関係機関との連携 など
【一般目標】
  • a)各学校種における児童・生徒の抱える生徒指導上の諸問題を総合的に理解するとともに、その代表的な指導方法(カウンセリング・集団づくり・関係機関との連携等)について熟知する。
  • b)各児童・生徒の抱える生徒指導上の諸問題に関して、適切な指導法を選択して実施するとともに、生徒指導・教育相談に当たる他の教員たちに対して適切な指導ができる。
【到達目標】

(A群)

  • 生徒理解、生徒指導の多様な方法を知っており、とりわけ集団づくりを中心とした方法を実践することができる。
  • 児童会、生徒会指導についての知識を有している。
  • カウンセリングマインドを理解しており、教育相談に生かすことができる。
  • 子どもの内的葛藤や問題行動に対する理解と評価に優れている。
  • 子どもに対する気付きを大切にし(子ども理解)、方向性を持って働きかけることができる。

(B群)

  • 教師集団による対応ができる
  • 現職教師の相談に乗れる。
【科目例】
  • 「生徒指導と機関連携-その実践と課題」
    • 方法:フィールドワーク、あるいはワークショップ
    • 内容:児童・生徒指導の諸問題の理解にたち、関係諸機関との連携の実例を検討
      • 社会教育施設(学童、児童館その他)
      • 警察
      • 司法・矯正施設(家庭裁判所、その他)
  • 「キャリアガイダンス参画演習」
    • 方法:シミュレーション、あるいは学校現場への参画
    • 内容:学校教育における、以下のような実際場面への「参画」を行う(企画・立案・実施・省察・評価)
      • 進路指導の情報収集・管理・提供、
      • キャリアガイダンスの実務(進路相談等)
【その他テーマ例】
  • 学校カウンセリングの実践と課題
  • 教員のカウンセリングマインド
  • 学力不振の事例研究
  • 触法行為の事例研究

(4)学級経営、学校経営に関する領域

 (児童生徒に充実した学校・学級生活を保障する学校・学級経営とともに、その課題の分析と解決の方策に関する内容)

【具体的内容例】
  • 学級経営の内容と果たす役割
  • 学級経営と学校経営(学年経営案、学年会、学校行事など)
  • 保護者と連携を図った学級経営
  • 学校組織、校務分掌とその機能
  • 校内研修の意義・形態・方法
  • 開かれた学校づくり(家庭や地域社会との連携、学校間交流の推進、学校運営と学校評議員、情報公開と説明責任)
  • 学級・学校運営と評価 など
【一般目標】
  • a)組織としての学校やその基本単位としての学級という組織の在り方について、地域や保護者・他機関等の対外的な関係も含めて総合的に理解する。
  • b)ある具体的な学校において、その実状や特性の把握の上に立って、適切な経営を行うプランを立て、その実施に当たって指導的な役割を果たすことができる。
【到達目標】

(A群)

  • 授業や学級経営に優れている。
  • 学校経営(管理)の基礎を有している。
  • 集団づくりの手法を知っており、実践できる。
  • 時間の捻出と時間管理

(B群)

  • 学級経営や授業方法に関わって、他の教師にアドバイスできる。
  • 全校
  • 同僚や外部の専門家と協働して課題解決に当たることができる。
  • 保護者
  • 迅速対応
  • 情報共有
  • 学校カリキュラムを作成
【科目例】
  • 「学級経営の実践と課題」
  • 「学校経営の実践と課題」
    • 方法:フィールドワーク主体、一部ワークショップ形式も
    • 内容:
      1. 学校経営の在り方に関する事例研究
        • 経営戦略の建て方(公立と私立の競合、自由選択制等)
        • 学校経営における「裁量」
        • 株式会社立の学校
      2. 学校組織の在り方に関する事例研究
        • 校務分掌の在り方、職員会議等、合意形成の手立て
        • 異校種間連携
        • 学校と地域との関係(地域開放、学校評議員)
        • 校内研修
        • 教員の集団づくり
  • 「学校における『管理』実践とその課題」
    • 方法:フィールドワーク、もしくはワークショップ形式が主体
       部分的にロールプレーイング(模擬職員会議、模擬記者会見等)も取り入れる
    • 内容:
      1. 情報管理
        • 個人情報の扱い
        • マスコミ対応・保護者対応
      2. 労務管理
        • 教員の管理
        • 非常勤教職員の労務管理
      3. 危機管理
        • 想定される危機状況とその対応事例(そのための合意形成、対外的な対処、等)

(5)学校教育と教員の在り方に関する領域

 (上記1から4までを総覧し、現在の社会における学校教育の位置付けを理解し、教員としての役割を考える。)

  • (※)本領域は、「学校教育の位置付け・意義」→「学校の役割」→「教員の役割・在り方」が一連のものである必要から、科目設定に当たってもこの点に留意する必要。
【具体的内容例】
  • 学校と社会(社会における学校教育の位置付け、学校教育の役割、学校教育が抱える課題等の俯瞰)
  • (上記のような学校における)教員の社会的役割と社会的・職業的倫理
  • (上記のような社会・学校における)教員に必要なコミュニケーション論(対生徒、保護者、同僚、学校外(関係機関、広く社会))
【一般目標】
  • a)教員の在り方(職務の特性、教員としての生涯発達等)についての全体像を把握するとともに、各学校の置かれた状況の中で、「よい教育実践」を行う「よい教員」の在り方と、教員の資質向上に関する手立てについて具体的に理解する。
  • b)教育実践者としての自己を反省的に捉えるとともに、教員として他者とのコミュニケーションを保つ力量を備えるとともに、他の教員をリードする形で教員資質の改善に資することができる。
【到達目標】
  • 共感すなわち他人の尊厳を認め、感情移入ができる。
  • 反省すなわち自己を客観的に批判し得る能力を有している(専門職としての品質証明)
  • 研究的な実践活動を行うことができ、その成果をまとめることのできる文章表現力を有している。
  • 学校内や地方教育委員会の現職研修に関わって、プログラムを作成したり、組織することができる。
  • 教師の相談に乗れる。
  • 理論と実践の統合を志向する態度を有している。
  • 地域
  • 服務
  • 外から見える力、あれこれ
    話芸、演劇、伝統文化、ITを駆使できる力等、秀でるものがある。
【科目例】
  • 「教育コミュニケーションの実践と課題」
    • 方法:ワークショップ、ロールプレーイング
    • 内容:
      1. 教員と児童生徒間のコミュニケーションの実践的技法
        • 教員の同僚性・仲間づくりに関する実践
      2. 教員と保護者、地域のコミュニケーションの実践的技法
        • コミュニケーション能力指導の実践
  • 「教員評価の実践と課題」
    • 方法:ワークショップ、もしくはフィールドワーク
    • 内容:
      1. 行政(採用権者)における教員評価の実態、その構造的検討
        • 報償策、メリットペイ、フリーエージェント等の事例研究
        • 「指導力不足教員」認定、その処遇
        • 教員評価と研修、教員の待遇
      2. ピアレビュー、「教員の仲間」による評価
        • 「いい先生」の事例研究
        • 教員の集団性、その評価
    • 「教員採用・人事の実践と課題」
      • 方法:フィールドワーク、シミュレーション
      • 内容:
        1. 採用試験の実施に関する検討
          • → 募集
          • → 試験実施の理念、実際(採用試験問題の在り方、シミュレーション等)
        2. 教員の人事配置、異動に関する検討
          • → 校務分掌
          • → 主任・主幹
          • → 異動と教員のライフコース
【その他テーマ例】
  • 教員の力量形成プロセス

7.その他

 上記(1)~(5)のほか、5領域のうち複数にまたがる内容を含み、例えば特に「特別支援教育」「幼児教育」として括ることが適当な場合は、大学設定の共通科目として「特別支援教育」「幼児教育」といった科目設定もあり得る。
 この場合、共通科目部分における基本的理念は、特定校種に限定されない、当該教職大学院における全学生共通履修の科目であることから、幼稚園教員や盲・聾・養護学校教員に限らず、広く初等中等教育諸学校の教員が修得すべき内容として科目を設定することが適当である。

【科目例】

  • 「特別支援教育」
    • 方法:フィールドワーク、シミュレーション
    • 内容:
      • 軽度発達障害児の理解
      • 校内支援体制の確立に向けた取組の進め方
      • 校内委員会における実態把握の進め方と望ましい教育的対応の検討
      • 校内委員会の活動と関係機関との連絡調整
      • 保護者との教育相談の進め方
      • 「幼児教育」

3.コース別(分野別)選択科目部分

1.コース(分野)別選択科目のねらい

 コース(分野)別選択科目部分は、共通科目(基本科目)を確かな土台とした上で、各コース、学生の専攻分野、研究テーマ等に応じた科目を履修する。これは、1から5までの共通科目を修得した上で、それとの十分な関連の上で、学生がさらに専門的に絞り込んで修得したいと希望する選択分野である。その意味では、コース別(分野)別選択科目のねらいは、個々の学生の「得意分野」づくりを図ることにある。
 現行の修士課程は、特定の専門分野において深く研鑽を積み、特定の分野について得意分野を持った教員の養成を建前としてはいる。しかし、専攻・専修・コース設定に当たっては、「特定の分野」の意味が実際には中学校や高校の教科専門のイメージでしか捉えられてはこなかった。また、教科専門の内容が教員が現実に直面している学校・学級・児童生徒等の問題の文脈との関連はほとんど意識されていなかった一面がある。
 加えて、得意分野を特定教科の専修免許状の修得という意味で理解した場合でも、現行の修士課程では、いわゆる教科専修ではなくとも、学校教育専攻・専修の学生であればすべての教科の専修免許状を取得できてしまうという曖昧さや矛盾を抱えており、結果的に得意分野づくりにはなっていない現状がある。
 教職大学院は、得意分野に関して現行の修士課程とは明確に異なる。共通科目部分における科目の履修による幅広く厚みのある基礎の上に、コース(分野)別選択科目の分野として、学校教育における問題分野に対応したコース(分野)別選択科目群を開設・履修し、それぞれの分野において、専門職としての高度の実践的な問題解決能力・開発能力を有する人材を養成する。例えば「学級経営分野のエキスパート」「教材開発分野のエキスパート」「生徒指導分野のエキスパート」として、学校教育の主要な分野で組織の中心として活躍できる力量を持った人材を養成する。

2.コース別選択科目の設定に当たっての留意点

 各科目の具体の設定は基本的に各大学院の設定に任されているが、その設定に当たっては、以下の点は踏まえておく必要がある。

  1. コースとしては、例えば教科教育系、生徒指導系、学級経営系などが考えられる。これは、現在の学校・教員に最も期待されているのがこれらの分野における実践的な問題解決能力であり、教職大学院は当然この分野における高度の専門的な資質・能力の養成を目指さなければならないからである。
  2. その意味からも、各コースの科目設定は共通科目とのカリキュラム上の連絡が明確になっている必要がある。
  3. さらにそれだけでなく、3つの分野相互の間にも、例えば、授業と学級経営、授業と生徒指導、生徒指導と学級経営の間の関連を常に意識した科目群の設定になっていることが望ましい。
  4. 「教科教育系」に関して、「授業のエキスパート」「授業のプロ」を養成するためには、その分野に関する豊富な知識・技術の蓄積、児童生徒を感動させ学習への期待をふくらませられる教材開発力と授業の展開力の育成等が図られるような科目群の設定になっていることが望ましい。(この意味において、いわゆる「教科専門」についても、現在の学校現場が直面する課題に対応し得る実践力・応用力の育成との観点から、その専門性が教職としての高度な専門性の育成に資することが期待される。)
  5. 「生徒指導系」に関して、基本的にはさまざまのケースに基づく授業となろうが、その場合でも、単にさまざまの学説の紹介とそれに基づく診断名のラベルを貼るだけの授業に終わらないよう留意すべきである。
  6. 「生徒指導系」に関しては、さらに、児童生徒一人ひとりの内面的な諸問題に関して、教員が幅広く深い土台に立って解釈できるような厚みのある人間理解力が育成できるようなカリキュラム上の工夫が期待される。
  7. 「学級経営系」に関しては、学部と大学院修士課程で培った学級経営に必要な専門的な知識・技術の基礎として、ここでは具体的なケースに基づきながら、問題の診断と問題解決策の検討等、現在の学級崩壊と呼ばれる深刻な問題の解決に求められるより専門的なマネジメント能力の獲得を目指す。
  8. 「学級経営系」に関しては、3の原則に立って、例えば「授業を通しての自主と協働の学級づくり」という学級経営と授業の関連づけ、さらに「一人ひとりの自発的な成長を促す援助活動としての生徒指導に支えられた学級経営」といった相互の関連づけがカリキュラムの設定において十分に工夫されていることが望ましい。
  • (※)「教科教育系」「生徒指導系」「学級経営系」を、開設コースの「基本」とすることの適否。

3.基本的なコース設定及び単位数

 ここでは3つのコースを挙げているが、各教職大学院では、基本的には複数のコースを置くことを原則とする。
 またコース別選択科目の単位数は15単位程度以上を目途とする。

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高等教育局専門教育課