資料3 (補論)教職大学院におけるカリキュラムについて

中央教育審議会
初等中等教育分科会教育養成部会
専門職大学院ワーキンググループ(第9回)平成17年9月13日

(補論)教職大学院におけるカリキュラムについて

1.全体構造

 教職大学院における教育課程・教育内容は、大きく分けて、全ての学生が共通的に履修する「共通科目(基本科目)部分」と、「学校における実習」部分、各コースや専攻分野により選択さてる「コース(分野)別選択科目部分から構成される。

全体構造の図

科目群への科目の配置と履修の在り方

 現行の修士課程における教員養成の仕組みは、修士課程において深く研鑽を積み、特定の分野について得意分野を持った教員を養成することを前提としている。
 他方、子どもたちの学ぶ意欲の低下や規範意識・自律心の低下、社会性の不足、いじめや不登校等の深刻な状況など、学校教育が抱える課題が一層複雑化・多様化している状況の中で、1児童生徒数の減少に伴う学校の小規模化や教員組織の小規模化、2家庭や地域との関係において学校が担うべき役割の変容、3教科やクラスの枠を超えた多様な指導形態・方法の理解の必要性、等の様々な要因をも考慮すると、今後、所属する学校のみならず地域の学校群において、学校教育が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って幅広く指導性を発揮できる教員(スクールリーダー)の養成が求められる。また、新しい学校づくりの有力な一員としての役割が期待される活力ある新人教員についても、学校現場における職務についての広い理解を前提として、自ら学校における諸課題に積極的に取り組む資質・能力を有することが求められる。

 このため、教職大学院においては、設定された全ての領域について授業科目を開設し、体系的に教育課程を編成することとし、学生は、全ての領域にわたり履修することとするが、各領域に具体的にどのような授業科目を開設するか、また領域ごとの履修単位数をどう配分するかについては、各大学院における設定に委ねることとする。

科目における「理論と実践の融合」

 これまで、ともすれば多くの教員養成カリキュラムにおいては、理論に関する科目と実践に関する科目とは区別され、理論的な諸科目は実習により自然に融合するはずとの考えに立ち、実践に関する内容は専ら学部段階の教育実習にのみ負わされていた。このため、理論と実践との融合は双方の受講という形で学生にのみ負わされているのが現状である。

 教職大学院において、学校現場における実践力・応用力など教職に求められる高度な専門性を育成するためには、学校教育における理論と実践との融合を強く意識した体系的な教育課程を編成することが特に重要である。

 この「理論と実践の融合」の観点から、それぞれを教員・科目が役割分担するのではなく、全ての教員・科目が実践と理論とを架橋する発想に立つ必要がある。例えば、共通科目部分は理論的教育、コース(分野)別選択部分は実務的教育というような二分法的な考えをすべきではない。

 具体的には、

  1. 授業観察・分析や現地における実践活動・調査(フィールドワーク)、実務実習など、学校における活動自体に特化した科目を設定するとともに、
  2. 個々の科目内部において、ケーススタディや授業観察・分析、シミュレーション授業、現地調査等を含めたものとする、

 など、理論的教育と実務的教育との実効的な架橋を図る工夫が必要である。

 特に上記2についてその授業内容は、諸学問の体系性に根ざす単なる「理論のための理論」ではなく、学校における教育課題の把握や教員の実践を裏付けるとともに、様々な事例を構造的・体系的にとらえるものとする必要がある。具体的には、

  1. 実践的指導力を備えた教員の養成の観点から、教員に必要な実践的な指導技術(スキル)を獲得させるものであること、
  2. スキルを取り上げる際、なぜそのスキルを活用するのかについての背景、必要性及び意味について説明できるものであること(意味付け、説明理論、現状や問題点を俯瞰できるものであること。)、
  3. ケーススタディや授業観察・分析、シミュレーション授業、現地における実践活動・現地調査(フィールドワーク)等により、教育現場における検証を含むものであること、

 が重要である。

教育方法の工夫

 教職大学院における授業のについては、少人数で密度の濃い授業を基本としつつ、理論と実践との融合を強く意識した新しい教育方法を積極的に開発・導入することが必要である。
 具体的には、例えば、ケーススタディ、シミュレーション授業、授業観察・分析、ロールプレイ、各種のインターンシップ、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)などの教育方法を積極的に開発・導入することが必要である。

実務経験者による指導

 教職大学院におけるカリキュラムにおいては、上記のように、学校教育に関する理論と実践との融合を意識した指導方法・内容である必要があり、このため、実務経験を有する者による、具体的事例を基とした内容であることが重要である。
 実務経験を有する者は、専任教員の一部である「実務家教員」のほか、授業科目・内容により例えば非常勤の教員として実務経験者を積極的に活用することも有効である。
 実務経験を有する者の範囲については、優れた指導力を有する教員や指導主事、教育センター職員等学校教育関係者や校長等管理職などの経験者が中心になることが想定されるが、それのみならず、医療機関、家庭裁判所や福祉施設など教育隣接分野の関係者、また例えばマネジメントやリーダーシップなどに関する指導については民間企業関係者など、幅広く考えられる。
 具体的には、例えば下記のような事例が考えられる。

想定される具体例
  • 教科等の指導法に関する内容:
    教員や指導主事、教育センター職員等教員経験者など
  • 生活指導、教育相談等に関する内容:
    (学校教育における事例等に関する内容など)
    教員や指導主事、教育センター職員等教員経験者など
    (児童生徒の心身に関する専門的知識、事例等に関する内容など)
    医療機関関係者(医師など)、家庭裁判所関係者(調査官等)、福祉関係者(児童相談所職員、児童福祉司)など
    (問題行動等に関する内容)
    警察関係者、福祉等関係者(児童相談所職員、保護司)など
  • 学級経営、が公経営に関する内容:
    (マネジメント、リーダーシップ等に関する内容)
    企業経営関係者(危機管理、情報、人事管理等関係者)など

 なお、実務経験者による指導は、上記に述べたとおり、単に実務の専門的識見・経験を語るのみならず、事例等を理論的に説明し、また現状や問題点を俯瞰できるものである必要がある。この観点から、各教職大学院においては、実務の経験・知見を理論化し、適切に教授できる実務経験者を採用することが求められる。

 なお、実務経験者による指導は、その経験による知見を背景とした指導として有用であるが、その活用に当たっては、実務経験者による授業のほか、研究者教員とのティームティーチングによる実践と理論との融合による授業形態の工夫なども有効である。

2.学校における実習部分

 教職大学院においては、学部段階における教育実習をさらに充実・発展し、実践的な指導力の強化を図る観点から、10単位以上、「学校における実習」を含めることとし、教職としての一定の実務経験を有する学生については、入学前の教職経験を考慮し、10単位の範囲内で教職経験をもって教職大学院における実習とみなすことができることとしている。

 学部段階における教育実習の内容は、ともすれば授業実習に偏りがちであり、この点について、平成9年の教育職員養成審議会第一次答申においても指摘されている。
 特に教職大学院における実習においては、附属学校や実習協力校等との連携を密にし、学校運営、学級経営、生徒指導、教育課程経営をはじめ学校の教育活動全体について総合的に体験し、考察する機会とする必要がある。

 このため、教職大学院における「学校における実習」は、学部段階における教育実習を通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、ある程度長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級運営等の状況を経験することにより、自ら学校における課題に主体的に取り組むことのできる資質・能力を培うものとする。

3.共通科目(基本科目)部分

 近年の少子化の進展に伴う学校の小規模化により、学校、学年、教科ごとの教員数が減少してきており、その中で、複数の教員がお互いに指導力を向上させ、教員全体としての指導力の維持・向上を図るためには、所属する学校内のみならず広く地域単位で中核的な役割を担う教員が求められている。
 また、これまでの学級単位における各教科の指導から、グループ指導、少人数指導や習熟度別指導など学級の枠を超えて多様な学習集団に対応した指導方法の理解と習得が必要となっており、また「総合的な学習の時間」の実施や選択教科の拡充など、教科の枠を超えて教科指導を総合的に理解する必要が生じている。このため、従来の教科や学級の枠を超えて、多様な指導形態・指導方法を工夫し効果的に実践できる教員が求められている。

 このような、教員に対する高度の専門性への社会的要請に対応するためには、教職大学院においては、上記1で述べたとおり、高度な専門性を有する教員の養成のためのどのようなコース・選択をとる場合においても、全ての学生が共通に履修すべき授業科目群を設定し、その基本的要素を共通的に定めておく必要がある。
 この際、各教職大学院において提供される教育プログラムの設計に当たって共通に踏まえるべき教育課程の枠組みは、主に2つの軸をもって構成することが考えられる。
 第一の軸は、体系的に開設すべき授業科目の領域の種類であり、第二の軸は、教職大学院で育成すべき資質は単に教員個人に還元されるべき資質ではなく、第一の軸の各領域で修得した知識・技術をさらに学校現場の中核的・指導的な教員として、所属する学校のみならず広く地域全体の教育力の組織的な改善・充実に活用できる資質の育成を含むものであることである。

 この制度的に定める共通的・基本的内容は、大きく以下の各領域から構成される。

1.教育課程の編成・実施に関する領域

 (教科等の内容を学校における教育課程及び学校教育全体の中で俯瞰する内容)

具体的内容例

  • 学習指導要領と教育課程の編成実施
  • 個に応じた指導の充実
  • 指導と評価の一体化、教育課程の自己点検・自己評価
  • 総合的な学習の時間の全体計画の内容と取り扱い(各教科・道徳・特別活動との関連、学年間や学校段階間の指導との関連への配慮を含む。)など

2.教科等の実践的な指導方法に関する領域

 (児童生徒の確かな成長・発達と創造的な学力を保証する教科等の実践的指導力に関する内容)

具体的内容例

  • 教科等の意義・目的(教科間の関連指導の工夫を含む。)
  • 授業計画(学習指導案の作成)
  • 教材研究(教材の収集・選択・分析、教材化の工夫など)
  • 指導方法(授業構成・授業形態の工夫(少人数指導や習熟度別指導など、個に応じた指導等)を含む。)
  • 指導と評価(テスト等の作成、評価の在り方) など

3.生徒指導、教育相談に関する領域

 (学習や発達の過程における児童生徒の諸課題を適確に診断・理解し、適切に対処するための実践的指導力に関する内容)

具体的内容例

  • 児童生徒理解の内容と方法(思春期等に見られる心身症、精神疾患等に関する知識を含む。)
  • 教員と児童生徒、児童生徒間の人間関係
  • 児童生徒の健全育成の取組み
  • ガイダンスの機能と教育相談の充実
  • 問題行動等に関する事例研究
  • 学校における生徒指導体制
  • 家庭・地域や関係機関との連携 など

4.学級経営、学校経営に関する領域

 (児童生徒に充実した学校・学級生活を保障する学校・学級経営とともに、その課題の分析と解決の方策に関する内容)

具体的内容例

  • 学級経営の内容と果たす役割
  • 学級経営と学校経営(学年経営案、学年会、学校行事など)
  • 保護者と連携を図った学級経営
  • 学校組織、校務分掌とその機能
  • 校内研修の意義・形態・方法
  • 開かれた学校づくり(家庭や地域社会との連携、学校間交流の推進、学校運営と学校評議員、情報公開と説明責任)
  • 学級・学校運営と評価 など

5.学校教育と教員の在り方に関する領域

 (上記1から4までを総覧し、現在の社会における学校教育の位置付けを理解し、教員としての役割を考える。)

具体的内容例

  • 学校と社会(社会における学校教育の位置付け、学校教育の役割、学校教育が抱える課題等の俯瞰)
  • (上記のような学校における)教員の社会的役割と社会的・職業的倫理
  • (上記のような社会・学校における)教員に必要なコミュニケーション論(対生徒、保護者、同僚、学校外(関係機関、広く社会))

 特に「4 学級経営、学校経営に関する領域」について、例えば「マネジメント」や「リーダーシップ」、「業務計画・改善手法」などについて、教育分野以外における理論・実践などを効果的に含めることが有効である。

 これら共通的・基本的内容は、現職教員としての経験を有する学生と学部新卒者とが共に履修することが適切な科目、別々に履修することが適切な科目があり得るが、いずれの内容についても履修する必要があることには差異はない。

 これら共通的・基本的内容について、各教職大学院に共通する基本的要素として、設置基準上明らかにすることとなる。
 具体的には、上記共通的・基本的内容について、教職大学院はその全ての領域にわたり授業科目を開設し、体系的に教育課程を編成することとし、学生は全ての領域にわたり履修することとするが、各領域ごとの履修単位数の配分については、各学生の主たる履修専攻等も考慮しつつ各大学院において設定することとする。

 なお、領域ごとの履修単位数の配分については各大学院における設定に委ねられるものの、体系的に教育課程を編成するものとする旨を設置基準等上に規定する以上、その単位数の合計は、各大学院が定める総単位数のうち相当程度(学校における実習の単位を引いたもののうち少なくとも半数を超える数)となることが目安となる。

 また、教育課程の基準における小・中学校等学校段階ごとの教員の別について、小・中学校に関する諸制度全般について義務教育に関する改革を一体的に進めていることを踏まえ、また1.において述べたように、教職大学院が、学校現場の抱える諸課題を広く構造的・総合的に理解することを基本とするものであるという趣旨に照らし、さらに、小学校における教科専門の深化が求められている一方、中学校においても、小学校と同様きめ細かい生徒理解や指導の改善が求められていること等を踏まえ、特に小・中学校等の差は制度上設けないこととしている。このため、小・中学校等に係る特に区分・特化が必要な内容は、各教職大学院において各科目群の中に必要な科目を設けることとする。

 このほか、各教職大学院の特色や指導目標等により、大学独自の共通・必修科目を設定することはあり得る。

具体的内容例

  • 特別支援教育に関する内容
  • 幼児教育に関する内容

 また、教員としての実践的指導力の向上には、幅広い人間性や深い教養が不可欠であり、各大学の判断と工夫により、入学者選抜等を含め教育課程内外において工夫することが重要である。

 なお、これら共通科目(基本科目)の履修に当たっては、コース(分野)別選択内容の基礎となる理論の修得とともに、諸学問の体系性に根ざす単なる「理論のための理論」ではなく、学校における教育課題の把握や教員の実践を裏付けるとともに、様々な事例を構造的・体系的にとらえるものとする必要がある。(上記1.参照)

4.「コース(分野)別選択部分」

(1)コース(分野)の設定の考え方

 各学生は、共通科目(基本科目)を確かな土台とした上で、各コース、学生の専攻分野、研究テーマ等に応じた科目を履修することとなる。

 コース(分野)設定においては、

  1. 教育現実における今日的課題を設定し、その解決の研究に必要な、学問分野の枠を超えた科目群(例えば「学力定着のための教材開発」における、教科教育法、認知心理学、学習集団論、など)をコース・専攻分野とする場合、
  2. 「教科カリキュラム研究科目群」「教育組織マネジメント研究科目群」「教育臨床研究科目群」など、各学生の関心領域に応じた科目群を、コース・専攻分野とする場合、
  3. 一般教授学、心理学、教科教育法学など、個別学問体系を基礎とする科目群を、コースや専攻分野として構成する場合、

 など、その設定方法は各大学院の特色や得意領域、指導目標等により様々な方法があり得る。

 教職大学院においては、事例に関する知識を、基礎的理論を基に構造的・体系的にとらえることのできる資質・能力を通じて、学校現場の課題に取り組むことのできる力量の育成を図ることが重要であることから、コース(分野)の設定に当たっては、各学生の関心領域に応じた科目とすることや、教育現実における今日的課題を設定し、その解決の研究に必要な、学問分野の枠を超えた科目群とすることが特に有効と考えられる。
 他方、学問体系を基礎とする科目群によるコース・専攻分野設定においても、1.で述べたとおり、その科目群の履修内容が、単なる「理論のための理論」ではなく、学校における教育課題の把握や教員の実践を裏付けるとともに、様々な事例を構造的・体系的にとらえるものとすることが重要である。

(2)フィールドワーク的な内容のとらえ方

 学校現場における実践力・応用力など教職に求められる高度な専門性を備えた教員を育成する観点から、事例に関する知識とそれを構造的・体系的にとらえる知見を踏まえつつ、現場の課題に実際に取り組むことのできる力量の育成が必要である。このことから、特にコース(分野)により選択する内容においては、現場における実践活動・調査(フィールドワーク)や実務実習的な内容が含まれることが重要である。

 この現場における実践活動・調査(フィールドワーク)や実務実習的な内容の実施の仕方としては、

  1. 設定したテーマについての課題演習・研究に関する科目の中で、必要な授業・講義、事例研究・分析、授業計画案作成等とともに、現場における実践活動・調査(例えば研究授業実施、教育課程編成、学習支援活動などのフィールドワーク)を含める場合のほか、
  2. 各学生の課題に応じた、学校での実務実習(例えば、教科カリキュラム編成・運営実務、教育組織経営実務の実習など)を課す場合、

 など、その実施内容・方法は、各大学院の特色や得意領域、教育目標等により様々な方法があり得る。

 いずれの場合においても、その実施に当たっては、大学の指導教員と調査・実習校の指導教員との間で、指導計画、実習指導、事後分析指導等に当たって、密接な連携・協力が必要である。

5.その他

 各教職大学院は、専門職大学院設置基準等に規定される教育課程の基準に基づき、各大学の特色や得意領域、教育目標等により独自の教育課程を編成することとなるが、高度専門職業人養成としての教員養成の観点からはある程度の共通的な認識が必要であり、教員養成に対する社会の要請に応えるべく、関係者が共同する形で到達水準に関しての共有すべき具体的モデルを作成することが重要である。
 また、上記到達水準の確保の観点から、例えば医師養成における共用試験の実施などが見られるが、修了者たる教員の質の保証・資質の向上を図る観点から、統一的な評価のための試験制度を設けることも考えられる。この実施に当たっても、教員養成における指導内容・到達水準の共通認識としてのモデルカリキュラムが必要である。
 このため、関係者により、本資料をもとに、教職大学院におけるモデル的な教員養成カリキュラムを作成することが期待される。

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