1.現在の教員養成システムについての基本的認識

 近年我が国では、学部段階の高等教育の広範な普及とともに、「知識基盤社会」の到来や、グローバル化、情報化、少子・高齢化など、社会構造が大きく変化しており、変化のスピードも速くなっている。そのため、社会の様々な分野において、専門的職業能力を備えた人材が求められるようになっている。

 従来専門的職業の一つとして認められている教員についても、教育を取り巻く社会状況がこれまでになく大規模かつ急激に変化し、また、子どもたちの学ぶ意欲の低下や規範意識・自律心の低下、社会性の不足、いじめや不登校等の深刻な状況など、学校教育が抱える課題が一層複雑化・多様化しており、このような変化や諸課題に対応し得るより高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力量ある教員が求められるようになってきている。

 このため、今後の教員養成の在り方としては、学部以下の段階で、教科指導や生徒指導など教員としての基礎的・基本的な資質能力を確実に育成するとともに、大学院段階で、現職教員の再教育も含め、特定分野に関する深い学問的知識・能力を有する教員や、教職としての高度の実践力・応用力を備えた教員を幅広く養成していくことが重要である。

 他方、教員養成の実態については、関係審議会等から「教員養成に対する明確な理念・目的意識が欠如」「体系的なカリキュラムの編成・実施が不備」「理論や講義が中心で、演習・実習等が不十分」「教職経験者による指導が少ない」など、学校現場の実態やニーズとの乖離が指摘されてきた。特に国立の教員養成学部については、学部の目的・性格の明確化や機能の充実強化のために組織の再編統合等も提言された。

 これらの指摘を受け、各大学では、例えば、教育実習の充実、学校・教育委員会等との連携の強化、ボランティア等の体験活動の導入、学部組織の見直しなど、教育内容、方法、体制等に係る様々な改善・工夫が重ねられてきており、更なる改革に向けての機運も醸成されつつあるが、現状では、学校現場での諸課題に対応し得る実践力・応用力を備えた教員の育成に、必ずしも十分に成功しているとは言い難い。

 特に大学院段階は、昭和50年代以降いわゆる新教育大学が現職教員の再教育に道筋を付け、既存大学にも同様の目的の修士課程が整備されたが、我が国の大学院制度が研究者養成と高度専門職業人養成との機能区分を曖昧にしてきたこともあり、また実態面でも高度専門職業人養成の役割を果たす教育の展開が不十分であったことから、教員養成分野でも、ともすれば個別分野の学問的知識・能力が過度に重視される一方、学校現場での実践力・応用力など教職としての高度の専門性の育成がおろそかになっており、本来期待された機能を十分に果たしていない。

 このような教員養成の課題を踏まえ、教員養成システム全体の充実・強化を図っていくためには、学部段階における教員養成の着実な改善・充実を図るとともに、とりわけ大学院段階における養成・再教育の在り方を見直し、制度的な検討を含め、その格段の充実を図ることが必要である。

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