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中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月21日)(抜粋)

3章 学校の自主性・自律性の確立について(抄)

 校長・教頭への適材の確保と教職員の資質向上
 学校において個性や特色ある教育活動を展開するためには、校長及びそれを補佐する教頭に、教育に関する理念や識見を有し、地域や学校の状況・課題を的確に把握しながら、リーダーシップを発揮するとともに、教職員の意欲を引き出し、関係機関等との連携・折衝を適切に行い、組織的、機動的な学校運営を行うことができる資質を持つ優れた人材を確保することが重要である。このため、教育に関する職に就いている経験や組織運営に関する経験、能力に着目して、幅広く人材を確保する観点から、任用資格と選考の在り方を見直すとともに、校長が自らの教育理念に基づいて、特色ある教育活動を展開することを促進する観点から、在職期間の長期化や若手教職員の中からの積極的な任用に取り組むなど校長、教頭の人事の在り方を見直すことが必要である。併せて、教職員の人事の在り方についても、今後教職員が意欲的に地域に根差した学校づくりに取り組むことを促進するとともに、「総合的な学習の時間」の導入や選択教科の拡大など、教育課程審議会答申(平成10年7月)において示された新しい教育課程の考え方に基づいて多様な教育活動を円滑に推進する観点から、見直しを図る必要がある。
 また、教職員の資質向上と意識改革を図ることが重要である。すなわち、地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫を凝らした教育活動を展開していくには、校長、教頭のリーダーシップに加えて、教職員一人一人が、学校の教育方針やその目標を十分に理解して、それぞれの専門性を最大限に発揮するとともに一致協力して学校運営に積極的に参加していくことが求められている。このことは生涯学習社会を構築し、学校が地域の専門的教育機関として期待される役割を担うためにも重要である。そのため、今後、教職員が日常の職務の遂行や学校内外の研修への積極的な参加など様々な機会を通じて、学校運営に積極的に参画していく意欲や態度、それに必要な知識を修得することが重要となる。また、子どもを取り巻く状況の変化に対応し、より多様な活動を通じて子どものよさを様々に引き出す教育活動を、専門分野を異にする教職員が一体となって支え、展開していくとともに、学校運営全体を視野に入れた総合的な事務処理を推進することが求められている。このような観点から、教員の研修制度を見直し、研修内容、方法の改善を図るとともに、養護教員、学校事務職員、学校栄養職員などについても、その専門性を高め、学校運営に積極的に参画していく意欲や態度を培う観点から、それらの教職員に対する研修の充実が必要である。
 以上のような観点から、これに関連する制度等について以下のように見直し、改善を図る必要がある。
 なお、学校の自主性・自律性を高め、学校の裁量権限と責任がこれまで以上に大きくなることに対応して、校長や教頭に適材を確保し、責任をもって学校運営に当たってもらうためには、校長及び教頭について、管理職手当を含めその職務と責任に相応する処遇の改善を図る必要がある。
 また、教員についても、優れた人材を確保し、研修等を通じてその専門性を一層深め、資質の向上を効果的に図っていくためには、教職自体を魅力あるものにするとともに、教員が自らその資質能力を継続的に向上させようとする意欲を喚起しなければならない。そのような観点から、その職務と責任に見合った処遇の改善を図る必要がある。


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具体的改善方策

(校長・教頭の任用資格の見直し)
 「学校教育法施行規則」第8条に定める校長の資格については、同条の規定を改め、「教諭の免許状を所有し、かつ教育に関する職に5年以上勤務した経験を有すること」に加え、10年以上教育に関する職に就いた経験がある者については、教諭の免許状を所有しなくても校長に任用できることとするとともに、特に必要がある場合には、都道府県教育委員会等がこれと同等の資質・経験を有すると認める者についても校長に任用できるものとすること。
 「学校教育法施行規則」第10条に定める教頭の資格については、「学校教育法」第28条第4項に「教頭は、校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる。」と規定されていることを踏まえ、教諭の免許状の所有要件の取扱いについて検討すること。
 「学校教育法施行規則」第8条に定める教育に関する職の範囲について、新たに、学校栄養職員、実習助手、児童自立支援施設以外の児童福祉施設において教育を担当する者の職や専修学校において教育を担当する者の職を含めるなど、その範囲を拡大すること。

(校長・教頭の選考と人事の在り方等の見直し)
 校長の選考に当たっては、教育や法令に関する知識等に偏った筆記試験を行わない方向で見直すとともに、教頭の選考についても、そのような筆記試験の比重を縮減するなど、より人物・識見を重視する観点から改善を図ること。
 校長、教頭としてふさわしい資質と意欲をもった若手教職員や学校外の人材を積極的に任用するため、年功序列にとらわれない新たな評価方法や任用方法を研究開発し、人事の在り方を見直すこと。
 校長が自らの教育理念に基づいて、特色ある教育活動を推進できるようにするため、校長の在職期間の長期化を図るなど人事異動の在り方を見直すこと。
 学校運営の複雑化・多様化に対応し、校長を補佐できるよう、学校の規模や地域の状況に応じて、教頭の複数配置を推進すること。
 校長、教頭の学校運営に関する資質能力を養成する観点から、例えば、企業経営や組織体における経営者に求められる専門知識や教養を身に付けるとともに、学校事務を含め総合的なマネジメント能力を高めることができるよう、研修の内容・方法を見直すこと。

(教職員の人事の在り方の見直し)
 教職員の人事について、地域や学校の実態に応じ、計画的な人事行政が行われるよう採用や異動、校長、教頭への任用等の人事異動の方針や基準について、絶えず適切な見直しを図ること。
 教職員の帰属意識を高め意欲的に学校づくりに参画することができるよう、様々な学校や地域での勤務を重ねることによる職能成長の重要性にも十分配慮しつつ、例えば、当該教職員が比較的長期間勤務したり、繰り返して勤務するような拠点的な勤務校という考え方を採り入れるなどの工夫を講じること。

(教職員の研修の見直しと研修休業制度の創設)
 中堅教員の研修について、将来の校長、教頭としての人材を育成する観点から上記クと同様に研修の見直しを行うとともに、教職以外の経験を豊富にするため、社会教育施設等での勤務体験や長期社会体験研修の充実を図ること。
 国内外における大学院での学修や研究機関等での研修、ボランティア活動への参加などについて、休業扱いとすることにより、教員が教職以外の幅広い活動を通じて自発的にその資質向上を図ることを可能とする研修休業制度の創設について検討すること。
 養護教員、学校事務職員、学校栄養職員等の研修について、これらの職員の専門性を高め、学校運営への積極的な参画を促す観点から、研修内容を見直し、その充実に努めること。

(適格性を欠く教員等への対応)
 子どもとの信頼関係を築くことができないなど教員としての適格性を欠く者や精神上の疾患等により教壇に立つことがふさわしくない者が子どもの指導に当たることのないよう適切な人事上の措置をとるとともに、他の教員に過重な負担がかかることのないよう非常勤講師を任用するなど学校に対する支援措置を講じるよう努めること。また、教員としての適格性を欠く者については、教育委員会において、継続的に観察、指導、研修を行う体制を整えるとともに、必要に応じて「地方公務員法」第28条に定める分限制度の的確な運用に努めること。


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