教員の職務の本質は、学校における教育活動を通じて、児童生徒の人格形成に直接携わることであり、このような職業であるが故に、教職は、児童生徒や保護者のみならず、国民や社会全体の尊敬と信頼によって支えられる職業として理解されている。教員や教員を目指す者は、まず、このような教職の特性を自覚することが必要であり、また、その地位に安住せず、常に向上心を持って、日々の研鑽に努めることが求められる。
教員に求められる具体的な資質能力については、平成9年の教育職員養成審議会第1次答申等において、以下のように示されている。
今後も、教員にはこのような幅広い資質能力が求められるという前提に立ち、養成・採用・研修の各段階を通じて、これらの資質能力を確実に身に付けさせるという観点から、今後の教員養成・免許制度の在り方について検討することが必要ではないか。
近年、我が国では、「知識基盤社会」の到来や、グローバル化、情報化、少子・高齢化、社会全体の高学歴化など、社会構造が大きく変化しており、また、こうした変化のスピードも従来以上に速くなっている。本来、学校や教員は、こうした社会の変化に適切に対応して教育活動を行っていくことが求められているが、現状は、これらの変化に迅速かつ適切に対応しきれていないのではないか。
また、都市化や核家族化の進展等を背景として、家庭や地域社会の教育力が低下し、これに伴い、学校や教員に対する期待が高まっている。本来、子どもたちの教育は、学校、家庭、地域社会の適切な役割分担と連携のもとに行われるべきであり、その意味で家庭や地域の教育力の向上は重要な政策課題であるが、現状においては、例えば、子どもの躾などの面で、学校や教員に過度の期待が寄せられているのではないか。
さらに、こうした社会状況や子どもたちの変化等を背景として、学校教育が抱える課題も、例えば以下のように一層複雑・多様化してきている。
このような社会の急激な変化や学校教育が抱える今日的課題、教員に対する期待の高まり等に迅速かつ適切に対応していくためには、教員には、不断に最新の専門的知識や指導技術等を身に付けていくという「学びの精神」が、これまで以上に求められているのではないか。
現在、大多数の教員は、使命感や意欲を持って教育活動に当たり、日々の自己研鑽に努めているが、一部の教員による不祥事が後をたたず、また、いわゆる指導力不足教員の増加等を背景として、教員全体に対する社会の信頼が揺らいできているのではないか。
一方、社会の変化への対応や保護者からの期待の高まり等を背景として、教員が多くの業務を抱え込み、その結果、本来の教育活動に専念できないような状況が一部に生じてきているのではないか。
我が国の教員養成は、幅広い視野と高度の専門的知識を兼ね備えた人材を広く教育界へ求めるため、「大学における教員養成」と「開放制の教員養成」を原則としているが、その理念や戦後の社会の発展、学校教育の普及・充実に果たした役割等を考慮すると、この原則は今後とも尊重していくことが適当ではないか。
一方、時代の変化に伴い、社会全体の高学歴化が進み、教員養成を行う大学の数が飛躍的に増加する中で、現在、大学における教員養成や開放制の原則が、必ずしも当初のねらい通りには機能しなくなってきているのではないか。このため、現在の教員養成については、例えば、次のような課題が生じているのではないか。
これらの課題は、これまでも教育職員養成審議会の答申等において、しばしば指摘されているが、教員養成を担当する大学関係者の意識改革と主体的な取組みにより改善できる部分も少なくないことから、現行制度の下でも実施可能なことは、引き続き積極的な対応を促していくべきではないか。
我が国の教員養成・免許制度について、大学における養成や開放制の原則という基本的な理念は尊重しつつも、これからの社会の進展や学校教育をめぐる状況の変化に迅速かつ適切に対応できるよう、制度のリニューアルを図っていくことが必要ではないか。
その場合、最も重要なのは、児童生徒や保護者はもとより、広く国民や社会から尊敬と信頼を得られる質の高い教員を養成・確保することである。こうした観点に立った場合、教員養成・免許制度の改革の基本的な視点としては、例えば、次のような点が考えられるのではないか。
このような基本的な視点に立って、教員養成・免許制度の改革を考えた場合、新たに教員免許更新制(教員免許状に有効期限を設け、一定の要件の基で更新の可否を決定する制度)の導入について検討することは、意義があるのではないか。
一方、現在の学校教育や教員を取り巻く状況を考慮すると、教員養成・免許制度の改革にあたっては、次のような点に留意する必要があるのではないか。
教員免許更新制については、具体的な制度設計にもよるが、一般的に導入の意義(メリット)を示すとすれば、例えば、次のような点が考えられるのではないか。
教員免許更新制は、免許制度における位置づけはもとより、養成・採用・研修や評価、処遇等との関係を明確にし、教員の資質能力を全体として高めるとともに、教職に対する信頼の確立につながるような制度として考えることが適当ではないか。
初任者研修や10年経験者研修等の現職研修は、教職生活全体を通じた体系的な研修の一環として行われるものであり、教員の専門性の向上を図る上で重要な役割を果たすものである。教員免許更新制は、これらの現職研修と相まって、専門性の向上が一層促進されるような制度として考えられないか。
公立学校の教員については、教員免許更新制と公務員法制(分限制度等)との関係、また、私立学校の教員については、更新制と労働法制との関係を整理することが必要であるが、この点については、身分上の問題と資格制度上の問題を切り離して、整理することはできないか。
現在、他の資格制度において、更新制を導入しているものは少ないものの、例えば、業務の安全確保が求められる資格や、業務の遂行上、一定の身体・技能が必要とされる資格等においては、更新制が設けられているものもある。資格制度の在り方は、本来、当該制度の特性や業務の性質等を踏まえて検討されることが基本である。教員の職務の本質は、日々の教育活動を通じて、一人一人の児童生徒がその一生を安全、幸福に、かつ有意義に生きることができる基礎を培うことである。また、児童生徒が教員を選ぶことができない中で、一生を左右しかねない重要な役割を担う職業であり、このような職務の重要性と特殊性に鑑みると、教員免許状は、広い意味で、児童生徒の将来の安全確保に関わる資格と位置づけることはできないか。
平成14年の中教審答申は、更新制を実施した場合の効果や問題点を明らかにしつつ、更新制の導入の可能性について検討したものである。これに対して、今回は、更新制の意義や位置づけ、具体的な制度設計等を含め、更新制を導入することについての検討が求められている。このような検討の趣旨を考慮すれば、平成14年中教審答申で指摘された課題を解決しつつ、どうすれば更新制が有効に機能するのかという観点から、検討を行う必要があるのではないか(別紙参照)。
平成14年の中教審答申は、将来的な更新制の導入を否定しているものではなく、科学技術や社会の急速な変化等に伴い、再度検討することもあり得ることが示されている。近年、学校教育を取り巻く社会状況は、以下のような点で大きく変化しているのではないか。
初等中等教育局教職員課
-- 登録:平成21年以前 --