今なぜ「奉仕活動・体験活動」を推進する必要があるのか
1.奉仕活動・体験活動を推進する必要性及び意義
都市化や核家族化・少子化等の進展により,地域の連帯感,人間関係の希薄化が進み,個人が主体的に地域や社会のために活動することが少なくなっている。個人と社会との関わりが薄らぐ中で,青少年の健全育成,地域の医療・福祉,環境保全など社会が直面する様々な課題に適切に対応することが難しくなっている。 このような社会状況の中にあって,個人や団体が地域社会で行うボランティア活動やNPO活動など,利潤追求を目的とせず,社会的課題の解決に貢献する活動が,従来の「官」と「民」という二分法では捉えきれない,新しい「公共」のための活動とも言うべきものとして評価されるようになってきている。 本報告では,このような,個人が経験や能力を生かし,個人や団体が支え合う新たな「公共」を創り出すことに寄与する活動を幅広く「奉仕活動」として捉えた。このような「奉仕活動」を行うことは,個人に生涯にわたる主体的な学習の契機や社会参加の場を提供し,個人が自己実現をし,豊かな人生を送るための鍵ともなり,「個人がより良く生き,より良い社会を創る」ことにつながる。 このため,国民が,周囲の人々や地域のために何かを行うことに喜びを感じ「奉仕活動」をごく自然に行うことができるように,社会全体で活動に取り組みやすい環境づくりをすることが求められる。 また,青少年の時期には,学校内外における奉仕活動・体験活動を推進する等,多様な体験活動の機会を充実し,豊かな人間性や社会性などを培っていくことが必要である。そのような機会の充実を図ることが,社会に役立つ活動に主体的に取り組む,新たな「公共」を支える人間に成長していく基盤にもなると期待される。 |
現在,我が国では,都市化の進展や核家族化・少子化等により,地域の連帯感が薄れ,地域社会における人間関係の希薄化が進んでいる。こうした傾向は,自分に直接かかわる事柄以外は行政にゆだねる傾向を招き,政府や地方自治体など行政を肥大化させ,社会における自己中心的な考え方とあいまって,個人が地域や社会のために活動を行うことができにくい一因となっている。
社会の主要な構成者である企業も,社員のもつ,親,家族の一員,地域の一員としての役割について理解し,尊重してきたとは言えず,「会社人間」と言われるように,会社以外に居場所や活動の場を持たない個人を生み出してきた。高齢化の急速な進展により,我が国の老年人口は平成25年までに800万人増加して3000万人を突破すると言われており,高齢者が社会との関わりを維持し,活力を持ちながら生きることができるようにすることや,高齢者の能力をいかに活用するかが社会において重要な問題になっている。
また,今日,地域社会の様々な分野で,例えば,青少年の健全育成,地域の福祉・医療,災害・防災への対応,治安の維持,環境保全など解決が求められる様々な問題が生じている。しかしながら,迅速かつ機動的な対応や状況に応じたきめ細やかな対応という点では,公平・公正を基本とする行政のみの対応ではおのずと限界がある。
一方,こうした社会状況の中にあって,新たな動きが見られるようになってきている。我が国を含め多くの国々で,個人や団体の地域社会におけるボランティア活動やNPO活動など,利潤追求を目的としない,様々な社会問題の解決に貢献するための活動を行うことが社会の中で大きな機能を果たすようになってきている。このような活動は,個人が社会の一員であることを自覚し,互いに連帯して個人がより良く生き,より良い社会を創るための活動に取り組むという,従来の「官」と「民」という二分法では捉えきれない,言わば新たな「公共」のための活動とでも言うべきものであり,豊かな社会を支えるための大きな原動力となっている。
こうした活動を貫く考え方は,社会が成り立つためには,個人の利潤の追求や競争のみならず,相互に支え合う互恵の精神が必要であり,同時に個人が自己実現や豊かな人生を送るためには,生涯にわたって学習を重ね,日常的に社会の様々な課題の解決のための活動に継続して取り組むことが必要であるというものである。
本答申においては,こうした活動を幅広く「奉仕活動」として捉え,個人や団体が支えあう新たな「公共」による社会をつくっていくためには、このような「奉仕活動」を社会全体として推進する必要があると考えた。
また,「奉仕活動・体験活動」の意義は,個人の側,特に成長段階にある青少年の側からもとらえることができる。
人間は生まれてから,次々と経験を蓄積して人間としての成長を遂げていく。新たな経験をすると,それが既に蓄積されている経験の中の関連する要素と結合して,その一部を変形したり,切り捨てたりしながら,新たに蓄積される経験を形成していく。そのような経験には,奉仕活動・体験活動などのような直接経験もあるし,書物,テレビやコンピュータなどによる間接経験もある。それらが様々に結合して,その人の行動の仕方やものの考え方を形成していく。
したがって,経験は直接,間接の両方をバランスよく豊かにした方が良いとされる。青少年の奉仕活動・体験活動は,まだ直接経験の乏しい段階において,直接経験を豊かにするという貢献をする。
青少年の現状を見ると,多くの人や社会,自然などと直接触れ合う体験の機会が乏しくなっている。特に,情報化や科学技術の進展は,直接経験の機会を減少させている。青少年の豊かな成長を支えるためには,学校や地域において,青少年に対し意図的,計画的に「奉仕活動」をはじめ多様な体験活動の機会の充実を図り、思いやりの心や豊かな人間性や社会性、自ら考え行動できる力などを培っていくことが必要である。いじめ,校内暴力,引きこもりなど青少年をめぐり様々な深刻な問題が生じており,子どもたちの精神的な自立の遅れや社会性の不足などが見られる。このような中で,青少年に,社会の構成員としての規範意識や,他人を思いやる心など豊かな人間性をはぐくんでいくためには,社会奉仕体験活動,自然体験活動など様々な体験を積み重ね,社会のルールや自ら考え行動する力を身に付け,自立や自我の確立に向けて成長していくことができる環境を整備することが求められている。
また,そのような機会の充実を図ることが,将来にわたって,日常的に社会に役立つ活動に主体的に取り組む人間に成長していく基盤をつくり,新しい「公共」を担う「良き市民」を育成することにつながる。
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1.で述べたように「奉仕活動・体験活動」を身近なものとしてとらえ,日常生活の中で継続して行う活動として定着させていくことが大事であり,こうした観点から,本審議会では,奉仕活動や体験活動に関する基本的事項,すなわち,「奉仕活動・体験活動」の概念や「奉仕活動」に係る自発性や無償性の考え方等について,以下のように整理した。
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奉仕活動・体験活動の概念 「奉仕活動」という用語をめぐっては様々な議論がある。例えば,「奉仕活動」は押し付けの印象を与えることから,むしろ個人の自発性に着目し「ボランティア活動」としてとらえるべきではないかという意見がある。一方,青少年の時期には発達段階に応じて,教育活動として人や社会のために役立つ活動などを体験し,社会の一員としての意識や責任感を身に付けるようにすることも必要であり,そのようなことを考慮すると「奉仕活動」という用語が適当であるとする意見もある。 しかしながら,用語の厳密な定義やその相違などに拘泥することの意義は乏しいと考える。 我々は,「自分の時間を提供し,対価を目的とせず,自分を含め他人や地域,社会のために役立つ活動」を可能な限り幅広くとらえ,こうした活動全体を幅広く「奉仕活動」と考えることとしたい。ただし,言葉として,広く一般に定着していると考えられる場合など,「ボランティア」,「ボランティア活動」という用語を用いることがよりふさわしい場合には,そのまま「ボランティア」「ボランティア活動」としても用いることにする。 こうした観点から見れば,実際,我々の周りには,様々な種類や形態の活動が存在している。a)気軽に取り組める身近な活動から専門的能力が必要な活動や常勤で関わることが必要な活動,b)個人や子どもが参加する活動から,グループや大人と子どもが一緒になって参加する活動,c)コーディネーターやボランティア団体等の仲介が必要な活動から仲介者を介せず直接参加できる活動,などがある。さらに,地域においては,例えば,自治会活動,青年団活動,消防団活動,祭りなどの伝統行事への参加など従来から行われている地域の一員としての活動もある。 また,特に初等中等教育段階での青少年の活動については,その成長段階において必要な体験をして,社会性や豊かな人間性をはぐくむという教育的側面に着目し,社会,自然などに積極的にかかわる様々な活動を幅広く「体験活動」としてとらえることとする。 これらを踏まえ,本報告では,社会全体で奨励していくべき幅広い活動の総体を「奉仕活動・体験活動」と捉えたい。 |
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無償性・自発性の取扱い 国民にとって「奉仕活動」を身近なものとしてとらえる観点から,活動にかかわる無償性や自発性の問題については,次のようにとらえることが適当と考えられる。 すなわち,「奉仕活動」,「ボランティア活動」とも,無償性が強調されがちであるが,このような活動を行う際には,交通費や保険料,活動に必要な物品やコーディネート等に係る経費など,一定の社会的なコストを要し,このコストをどのように分担するかについては,個々のケースにより,様々な判断があり得る。このような活動を一般的に定着させていく過程では一部を行政が負担することも考えられる。また,寄附など社会がいろいろな形で負担する仕組みが形成される中で,実費等の一定の経費について,労働の対価とならない範囲で実費や謝金の支払いなど有償となる場合もあり得ると考えることができる。 また,奉仕活動等においては個人の自発性は重要な要素であるが,社会に役立つ活動を幅広くとらえる観点からすれば,個人が様々なきっかけから活動を始め,活動を通じてその意義を深く認識し活動を続けるということが認められてよいと考えられる。特に学校教育においては,「自発性は活動の要件でなく活動の成果」ととらえることもできる。 |
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日常性 「奉仕活動」を特別な人が行う特別な活動ではなく,新たな「公共」のための幅広い活動としてとらえることにより,日常的に参加できる活動として無理なく定着させていく必要がある。「奉仕活動」を行う立場とサービスを受ける立場は固定したものではなく,活動の内容に応じて,常に替わるものである。また,活動に楽しみを見いだせる工夫や心の余裕を持つこと,特定の個人に負担が集中しないような活動の企画や支援体制への配慮などが求められる。 |
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