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資料


2. 初等中等教育段階の学校内外における青少年の奉仕活動・体験活動の推進
  〜多様な体験を重ね、豊かな人間形成と将来の社会参加の基盤づくりを〜

   初等中等教育段階の全ての青少年に対し多様な奉仕活動・体験活動の機会が与えられるように、学校内外を通じて質量共に充実した体験活動の機会を拡充していく必要がある。小・中・高等学校の時期における発達段階に応じたふさわしい活動を行うことが重要である。
   特に、高校生の時期には、自己を確立し、成人となる基礎を培う段階に当たることから、奉仕活動などの社会体験は、自己の在り方や生き方を考え、将来の進路を主体的に選択する能力や態度を身につけると共に、社会についての認識を深める上で不可欠な要素と考えられる。
   学校においては、1活動のコーディネートの窓口を明らかにするとともに、全教員が協力してに取り組むための校内推進体制の整備、2地域の協力を得るための学校ボランティア(学校協力)委員会(仮称)など体制づくりに努める必要がある。また、実施に際しては、発達段階に応じた活動の実施、興味関心を引き出し自発性を高める工夫や、自発的なボランティア活動等の高校における単位認定など、活動の適切な評価などに配慮して取り組む必要がある。また、教育委員会においては、各学校における取組がスムーズに行われるよう、学校での具体の活動の実施のために必要な支援措置を講じるなど様々な措置を行う必要がある。
   地域においては、教育委員会が、地域の関係団体や関係行政機関等と連携しつつ、支援センターなどの推進体制を整備し、学校の教育活動と地域の活動の効果的な連携に留意しながら、1教材・プログラムの開発、指導者の養成・確保とともに、2ボランティア活動を積極的に評価する高校入試の工夫や「ヤングボランティアパスポート(仮称)」の作成、活用などによる地域における活動の促進等に努める必要がある。
   国においては、こうした学校や地域における取組を支援するため、推進体制の整備や教員研修等に対する支援、参考となるプログラムの開発や事例集の作成等を行うとともに、全ての青少年が発達段階に応じて、奉仕活動・体験活動を着実に経験できるようにするため、1奉仕活動・体験活動の実施状況の全国調査、2学校や地域を通じた活動の目標の検討、3ボランティア活動等と関連付けた大学入試の推進が求められる。

     平成13年6月の学校教育法及び社会教育法の改正により学校内外を通じた体験活動の促進が求められることとなった。学校においては、平成14年度から実施される新学習指導要領において、「生きる力」の育成を目指す観点から体験活動を重視するとともに、新たに「総合的な学習の時間」の創設等を行ったところであり、体験活動を教育活動に適切に位置付け、その充実を図ることが求められている。また、平成14年度から学校週5日制が完全実施されることを受け、家庭や地域における多様な体験活動の振興や奨励を一層推進する必要がある。
     高校までの青少年の時期においては、豊かな人間性や社会性を培うため、学校教育や地域において、社会奉仕体験活動、自然体験活動、職業体験活動など、質量共に充実した多様な体験活動を提供していくことが求められる。
     小・中学生の時期においては、その成長が著しいことから、その発達段階にふさわしい多様な体験を行うことが重要である。また、高校生の時期においては、自己を確立し、成人となる基礎を培う段階に当たることから、社会奉仕や職業など社会に関わる体験は、自己の在り方や生き方を考え、将来の進路を主体的に選択する能力や態度を身につけるとともに、社会についての認識を深める上で重要な要素と考えられる。そのため、学校教育や地域において、小・中・高等学校それぞれの段階において青少年がその発達段階に応じて充実した多様な体験活動を経験できるようにするためには、学校や地域、地方公共団体や国において、以下の取り組みが求められる。

(1) 学校における体験活動の充実のための取組
     学校においては、地域における活動との連携と適切な役割分担を図りながら、体験活動を教育課程に適切に位置付け実施する必要がある。その際、学校において次のことに配慮することが重要である。
  1 学校としての体制づくり
       各学校においては、奉仕活動・体験活動のコーディネートの窓口となる担当を明らかにし校長の指導の下に全教員が協力して校内推進体制を整備する必要がある。また、地域の人々の協力を得るとともに関係団体等との継続的な連携関係を構築し学校の活動に幅広い支援が得られるように、保護者、地域の関係者等による学校ボランティア(学校協力)委員会(仮称)を設けるなど推進体制を整備することが求められる。
  2 教員の意識・能力の向上
       学校の体制づくりとあわせて、教員一人一人が奉仕活動・体験活動の意義や理念を正しく理解し、奉仕活動・体験活動に係る指導の力量を高めていくことが不可欠である。奉仕活動等の経験のない教員も多い現状を踏まえ、教員一人一人が自信を持って奉仕活動・体験活動の指導に当たることができるように、校内の研修はもとより、後述のような教育委員会等が実施する研修や、ボランティア団体等の外部機関が実施する研修等に積極的に参加することが求められる。
  3 活動実施上の配慮
       体験活動を学校の教育活動として実施する場合、以下の点に配慮した取組が必要である。
    教育課程の編成上の配慮
         発達段階に応じた適切な活動の機会の提供が行われるよう、自校の教育目標や地域の実情を踏まえ、学校として活動のねらいを明確にし、(a)特別活動、総合的な学習の時間をはじめとする教育活動に適切な位置づけを行うこと、(b)小・中・高等学校等のそれぞれの取組に継続性を持たせ、発達段階に即して活動の内容や期間等を工夫すること、(c)各教科等における学習指導との関連を図ることなどが必要である。
    興味・関心を引き出し、自発性を高める工夫
         子どもの興味関心を引き出し、自発性を育てる工夫として、例えば、(a)発達段階や活動の内容に応じ、活動の企画段階から子どもを参加させたり、(b)子どもが選択できるよう多様な活動の場を用意することも考えられる。
    事前指導・事後指導
         子どもたちがこれから取り組む活動についてあらかじめ調べたり、準備をしたりすることを通じ、意欲をもって活動できるようにするとともに、活動後は、感じたり気づいたことを振り返り、まとめたり発表したりするなど、適切な事前指導・事後指導が大切である。
    活動の円滑な実施のための配慮
         活動を効果的かつ安全に行うために必要な知識・技能やマナー等の習得のための事前指導が必要である。また、活動内容によってはあらかじめ実地調査による点検等を行う必要がある。
         さらに、活動によっては、例えば、受入人数の適正化や受入先との綿密な連絡調整
【  学校における多様な体験活動の例  】

 

  学校における多様な体験活動の例
         など企画段階での配慮、活動を実施する際の留意点などについての十分な調整、参加者への周知・活動を支援するボランティア等の参加など受入先等への十分な配慮が必要である。また、例えば、学校において受入先を公表すること、感謝状や受入先であることを示す証を贈呈するなど活動の場を提供した受入先が社会的にも評価されるような取組も重要である。
    活動の適切な評価
         体験活動の評価については、点数化した評価ではなく、子どものプラスの面を積極的に評価し、どのような資質や能力が育っているのかという観点を重視して適切に行う必要がある。その際、子どもの感想・意見、保護者の感想・意見、受入先の感想・意見等を把握するなどの工夫をするとともに、その結果を次年度以降の活動の在り方に反映させていくことが求められる。また、高等学校においては、生徒の地域での自主的なボランティア活動等について、後述の「ヤングボランティアパスポート(仮称)」等の活用などにより、これらの活動を単位認定するなど積極的に評価することが考えられる。また、高等学校の単位認定を積極的に推進する観点から、各学校が単位を認定する際に活用しうる具体的なガイドラインを策定するなどの取組を行うことが考えられる。
    事故発生時の備え
         緊急時対応マニュアルを作成するとともに、必要に応じた地域の警察・消防等への事前の連絡、緊急時の連絡先リストの作成などの準備、保険の利用を行うことが必要である。なお、指導者等を含め損害事故や賠償事故を安価な保険料でカバーする保険の開発が望まれる。
  4 教育委員会の役割
    学校での取組の推進、支援
         都道府県、市町村の教育委員会においては、学校における取組が着実に実施されるように、後述の協議会・支援センター等を通じて、関係団体等と連携しつつ、基本的な活動方針等の策定や、児童生徒の発達段階に応じた適切な活動プログラムの開発や教員向け手引書の作成を行うほか、学校での具体の活動の実施のために必要な支援措置を講じ、学校の取組を推進し、支援することが求められる。
    教員の意識・能力の向上
         教育委員会においては、教員の資質能力の向上のため、地域のボランティア推進団体等の協力も得ながら、次のような取組を行うことが考えられる。
    教員の初任者研修を始め各種研修においてボランティア講座や体験活動等の機会を設ける(初任者研修においては、奉仕体験活動、自然体験活動に関する指導力の向上を重視する)。
    活動の企画や指導などの中心となる教員を養成するために、地域のボランティア推進団体等が実施するコーディネーターや指導者の養成講座等への参加を研修に位置づけること、ボランティアセンター、NPO等での長期社会体験研修の実施。
         また、以下のような取組を行うことが考えられる。
    夏休み等の長期休業期間など、授業がない期間を利用して、教員に奉仕活動、体験活動等も含めた研修の実施や機会の提供を図る。

イギリスにおける小中高校生を対象とした活動プログラム〜シチズンシップ教育〜

【シチズンシップ教育の定義】
社会的・道義的責任(social and moral responsibility)
生徒の精神的、社会的、文化的成長を促進し、学校のクラスにおいてもクラスを超えた場でも、より自尊心と責任感のある人間に育成する。
2002年9月から11〜16歳の中等教育においてシチズンシップ教育が必修化されることが、ナショナル・カリキュラムのなかで規定された。5〜11歳の初等教育では独立教科として必修とはしないものの、各教科にその内容を組み入れ、充実を図ることが決まった。
今後は各学校ごとにシチズンシップ教育が推進され、そのなかでコミュニティ・サービスの体験学習が用いられていくことが見込まれている。しかし、イギリスでは教育課程における学校や教師の自由裁量度が大きく、ナショナル・カリキュラムに強制力はあまりないため、どの程度の時間をかけてどのようにシチズンシップ教育を実施するかは現場の裁量に負うところが大きい。
〈これまで学校で行われてきたシチズンシップ教育の事例:Haverstook school〉
ロンドンの下町にあたるカムデン地区にある鉄道の操車場の跡地にできた学校で、約45種類の言語を話す子どもがいるなど、多民族・多文化の生徒で構成されている。特別教育の必要な子どもや、給食費の払えない貧困家庭の子ども、避難民の子どもなど、教育上困難な問題を抱えている生徒の割合が多い。
ドラマの授業で生徒が有料の演劇会を開き、自分たちの励みとするとともに、その収益金を老人ホームに寄附している。
視察者など外部からの訪問者があった場合には、生徒会の役員が校内を案内するとともに、学校の現状について説明している。
以前は、暴力事件が多発していたが、これらの活動によって生徒が落ち着き、学校運営も着実に良い方向に進み始めている。

         また、教育委員会においては、1教員養成大学等と連携し教員を志望する学生を教育支援ボランティアとして活用すること、2教員採用選考においてボランティア活動等の経験を一層重視するための工夫(例:ボランティア活動等の有無を記載する欄を充実させる。)、も求められる。

(2) 青少年の学校及び地域における奉仕活動・体験活動の促進のための取組
     学校及び地域を通じて、初等中等教育段階の児童生徒に対して、奉仕活動・体験活動を推進するためには、学校・地域・家庭が連携してこれらの活動をサポートすることができるような仕組みづくりをすることが必要である。個別の教員や地域の有志の属人的な努力や善意だけにその推進を依存していては、活動を長期にわたって存続させることができず、その効果も減殺されてしまう。
     このため、これらの活動の推進を図るために、以下のような体制等を整備していく必要がある。
  1 学校及び地域の連携の在り方(図2ー2−1)
       学校の教育活動と地域の活動のそれぞれの特性を生かすとともに、相互の有機的な連携が求められる。
       

このため、特に市町村レベルにおいては、教育委員会が中心となり、あるいは主唱して、地域のボランティア推進団体や、福祉、農林水産、商工などの関連行政部局が密接に連携し、後述の支援センターなどの推進体制を整備することが重要である。特に支援センターにおいては、(a)情報提供及び趣旨の広報などの普及啓発、(b)地域におけるコーディネーター・指導者の養成・確保のための人材の発掘、人材リストの作成、人材養成のためのプログラム開発、研修機会の提供などの機能を担うことが期待される。

また、地域での活動と学校での教育活動が日常的に密接な関係を持つ必要があり、1学校支援委員会などの学校の推進体制への地域の関係団体の参加や、2地域で行われる奉仕活動・体験活動について、学校を通じて児童生徒やその保護者に情報提供を行うなど、日常的な連携協力関係を保つ工夫が必要である。

  2 地域における活動の促進
       教育委員会、社会福祉協議会、NPO関係団体、スポーツ団体、青少年団体等地域の関係機関・団体が連携し、青少年の幅広い奉仕活動・体験活動の機会の一層の充実を図る必要がある。特に、中・高校生にとって、地域での自発的なボランティア活動は、人間としての幅を広げ大人となる基礎を培う意味で教育的意義が大きいが、現状では、小学生に比べても活動が十分に行われているとは言い難い。
       このため、例えば、(a)子どもとの遊びなど中・高校生が取り組みやすい活動の場の開拓や、(b)高校入試においてボランティア活動を積極的に評価する選抜方法等を工夫する(例:調査書におけるボランティア活動等の有無を記載する欄を充実させる。推薦入試においてボランティア活動等の経験についてレポートを提出させる。)、(c)高校
(図2ー2−1)

学校及び地域における連携イメージ
地域等の学校外における活動の例
地域のイベントに学校で参加する。
地域在住の外国人に日本文化を紹介する。
交通安全運動の街頭キャンペーンに参加する。
発掘調査等の補助
ボランティア活動に関するフォーラム等の開催補助
外国人への観光案内
地域におけるスポーツ大会開催等の支援
医療施設にいって、話し相手、図書の朗読、施設の清掃等を行う。
献血事業の補助(受付、案内等)
       生等が行う学校や地域におけるボランティア活動などの実績を記録する「ヤングボランティアパスポート(仮称)」を都道府県や市町村単位で作成し活用する、などの方策について検討する必要がある。特に「ヤングボランティアパスポート(仮称)」については、青少年の日常の活動の証としたり、高等学校における単位認定や、就職や入試への活用、文化施設、スポーツ施設等公共施設の割引や表彰を行うなど、色々な形での奨励策を検討することが適当である。国においても、「ヤングボランティアパスポート(仮称)」の全国的な普及・活用が促進されるように、例えば1全国的なボランティア推進団体、関係行政機関・団体等が連携協力しパスポートの標準的なモデルを作成する、2入試や就職等で適切に活用されるよう大学や企業等に対し働きかけるとともに、国等の行政機関においても、採用等に活用する、3青少年が文化施設、スポーツ施設を利用する場合の割引などを関係機関・団体等に呼びかけを行うなどの取組を検討する。

(3) 国等において取り組むべき方策
     国等においては、以上のような学校や地域における取組を支援するため、(a)地域における推進体制の整、(b)体験活動に関す員研修の充実、(c)青少年を対象とした学校や地域における魅力ある活動プログラムや活動に携わる指導者養成プログラムの開発・支援や、他のモデルとなる先駆的な実践の促進と学校や地域の参考となる事例集の作成、教員向け手引書の作成、(d)教員志望学生による教育支援ボランティアの全国的普及、(e)子どもゆめ基金(注1)等を通じた体験活動を行う団体等に対する助成の取組を推進するとともに、青少年が小中高等学校それぞれの段階においてその発達段階に応じた奉仕活動・体験活動の機会を得ることができるようにするために、次のような取組の検討が求められる。
  1 奉仕活動・体験活動の実施状況の全国調査
現状においては、青少年の奉仕活動・体験活動が必ずしも十分行われていない状況に鑑み、学校内外を通じた青少年の奉仕活動・体験活動の全国的な実施状況調査を実施し、その結果を分析・公表し、各学校及び地域での取組を促す。
  2 学校内外を通じた活動の目標の検討
活動の実施状況や支援体制の整備の進展状況等を見極めた上で、今後、青少年が高等学校卒業段階までに学校や地域を通じて行うことが期待される活動の目標を検討する。
  3 ボランティア活動等と関連付けた大学入試の推進
高等校段階までの青少年の学校内外の生活において、大学入学者選抜の在り方が与える影響が大きい。大学にとっても、高等学校段階までに多様な体験活動を行った生徒は、大学入学後の学ぶ姿勢や意欲が高く大学教育の活性化にも資するものと考えられる。このため、大学においては、受け入れ方針において、ボランティア活動等を積極的に行う学生を評価することを明確にし、例えば、論文試験にボランティア活動等の実践を含め高等学校時代の活動を前提とした出題も含める等、高等学校段階までの体験活動等の経験と関連付けた大学入学者選抜の取組が期待される。

※注1) 子どもゆめ基金
民間団体が行う子どもの体験活動などに助成を行うための制度で、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センターに設置されている。
(助成対象活動)
子どもの体験活動の振興を図る活動
子どもの読書活動の振興を図る活動
インターネット等で利用可能な子ども向け教材を開発・普及する活動
(助成対象団体)
青少年教育に関する事業を行う以下の民間団体。
民法34条法人
NPO法人
民間企業等の法人格を有する団体
法人格を有しないが、活動実施の体制が整っている団体(実行委員会組織等を含む)


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