〔4〕首長、議会と教育委員会との関係の改善

(1)首長と教育委員会の関係を見直す際の視点

  • 地方自治体における行政責任は、その多くは首長が負っているが、教育に関する事務については、主に首長から独立した教育委員会が責任を負っている。教育委員会が所管する教育事務については、首長の指揮命令は及ばず、首長は教育委員の任命や財政措置を通じて間接的に責任を負っている。このような仕組みとされている理由は、教育について政治的中立性の確保が強く求められ、合議制の機関を通じて中立・公平な意思決定や住民意思の反映を図ることが適当だと考えられるからである。
  • 一方、教育事務の中でも大学に関するものや私立学校に関するものは、首長の権限と責任のもとに置かれている。これは、大学については、いわゆる「大学の自治」を実現するための学内組織が置かれ、その管理運営について高い独立性が保たれているからと考えられる。
  • また、私立学校の場合、公立学校と異なり、学校の設置・運営は地方自治体が提供するものではなく、民間の学校設置主体である学校法人等によって、建学の精神に基づき特色ある教育活動が展開されているものである。教育委員会は、公立学校を所管するものとして制度設計されたもので、私立学校の自主性を最大限尊重し、私学振興を図る観点から、教育委員会は私立学校の所轄庁とはされなかったものと考えられる。
  • 教育委員会の所管とされている公立教育機関の管理運営についても、財政的権限は首長に委ねられている。これは、自治体の財政を統一的に処理することにより、効果的で均衡のとれた自治体運営を実現する必要があるからである。このため、財政支出を伴う事業については、教育委員会は常に首長の合意を得つつ実施することが必要となっている。
  • このように、教育委員会は、地方自治体の中で独立・完結して教育事務を担っているのではなく、首長と役割を分担しながら、必要な事務を行っていると言える。こうした地方自治体内における教育委員会の位置づけを前提として、首長と教育委員会の関係を見直すにあたっては、教育に関する事務の中で首長から独立して執行する必要があるものは何であるかを明確にすることが必要である。

(2)首長と教育委員会の権限分担の弾力化

1.学校教育、社会教育

  • 上記の視点に立った場合、教育に関する事務の中で首長から独立して執行する必要があるものとしては、教育の政治的中立性の確保及び教育の自主性の尊重のために必要な1.学校や社会教育機関における教育内容に関すること、2.教科書その他教材の選択に関すること、3.教職員の採用その他人事に関すること、4.教員免許状の授与に関すること、5.学校や教員に対する評価に関すること、等が考えられる。このため、首長と教育委員会との権限分担については、学校教育及び社会教育に関するものは引き続き教育委員会の事務として存置すべきである。
  • このうち社会教育は、主として公民館、図書館、博物館において行われているが、このうち公民館が自主事業として実施する各種の講座は、学校における教育活動と同様に人格形成に直接影響を与えるものであり、対象が成人であったとしてもその内容については政治的中立性の確保が必要となる。また、図書館、博物館についても、図書や展示資料の選択について政治的中立性が要請されるものである。

2.文化財保護

  • 文化財保護については、文化財は国民共通の貴重な財産であり、一旦滅失・毀損すれば現状回復が不可能であることといった特性を踏まえて、開発行為との均衡を図る必要があることから、行政の中立性が強く要請されるものである。
  • このような状況を踏まえ、文化財保護行政については、引き続き教育委員会の担当とすることを基本としつつ、文化財を積極的に活用した地域づくりを進めるなど一定の必要性がある場合には、文化財保護と開発行為との調整の仕組みを整えた上で、地方自治体の判断により、首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべきである。

3.生涯学習、文化、スポーツ

  • 生涯学習、文化財保護以外の文化、スポーツに関わる行政分野については、学校教育との連携や事業の安定・継続の点でのメリットが重視され、これまで教育委員会が所管することとされてきた。完全学校週五日制のもと、学校、家庭、地域社会が連携して子どもを育成していくことがますます重要となることや、学校教育が生涯学習の基盤となる力を身に付けるものとして位置づけられていることからも、生涯学習、文化、スポーツに関わる行政分野は、基本的に今後も学校教育、社会教育と一体的に教育委員会において執行されることが望ましいと考えられる。
  • 一方、生涯学習、文化、スポーツに関わる行政分野は、地域づくりにも大きく関わるものであり、首長部局との関係も深く、首長部局で担当する場合は、新規事業の企画や予算確保、他の行政分野における諸施策との連携協力、公立大学や私立学校との連携といった点でメリットがあるところである。現在でも、一部自治体では、事務を教育委員会から首長に委任したり、教育委員会の事務を首長部局の職員に補助的に行わせる方法により、首長部局がこれらの事務を執行しているケースも見られる。
  • このような状況を踏まえ、生涯学習、文化、スポーツに関わる行政分野については、基本的には教育委員会の担当とすることのメリットが大きいものと考えられるが、地方自治体の実情や行政分野の性格に鑑み、地方自治体の判断により、首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべきである。

4.幼児教育

  • 幼児に対する教育を行っている公立・私立の幼稚園、保育所等は、所管する自治体や部局が様々であり、このうち、教育委員会が関与しているものは公立幼稚園のみである。しかしながら、幼児教育は、保護者を含め地域住民にとって身近で関心の高い課題であり、また市町村の実施する小学校教育との接続も視野に入れた体系的な取組が必要である。
  • このため、幼児教育については、公立・私立の幼稚園、保育所等を通じ、義務教育との接続も視野に入れた総合的・体系的な施策を展開する上で、市町村教育委員会が積極的な役割を果たしていくことを検討すべきである。

5.私立学校

  • 私立学校については、これまで首長が私立学校の所轄庁とされてきた経緯も踏まえ、私学としての自主性を尊重しつつ、公立学校との交流連携など教育委員会の関わりについて検討することが必要である。

(3)首長と教育委員会との連携

  • 生涯学習、文化、スポーツについては、教育委員会のみならず、自治体全体としての取組が必要である。また、青少年の非行防止や就職対策など、教育に関連して、教育委員会だけでは処理しきれない分野横断的な行政課題が多く生起する中で、特に青少年教育等について首長と教育委員会が連携していくことが、ますます重要となっている。
  • このため、教育委員と首長との協議会を定期的に開催し、十分意思疎通を図ることが望まれる。また、首長が学校を訪問したり、教育委員と定期的に協議したり、小中学校の校長の研修会に参加して直接議論する機会を設けることも重要である。
  • このほか、教育に関する審議会の設置や、地方自治法上市町村が策定することとされている基本構想の活用なども、首長と教育委員会の連携を深める上で有効な方策と考えられる。

(4)教育財政における教育委員会と首長の関係

  • 教育関係の予算の編成・執行については、首長の権限であり、首長は予算案の調製にあたって、教育委員会の意見を聞くこととされている。
  • 制度発足当初、教育委員会は、首長に対して教育関係予算の原案を提出することができ、それに首長が修正を加える場合には、教育委員会の原案を付して議会に提出しなければならないこととされるなど、一定の財政的権限が付与されていた。この制度は、自治体の総合的な行政運営に支障があるとの指摘もあり、昭和31年の地教行法制定の際に廃止されたところである。
  • 教育委員会が独自の判断で特色ある教育行政を行うためには、予算に関する権限が必要であるとの意見がある。しかし、歳入と歳出を一体的に扱い、自治体全体として調和のとれた財政運営を行う必要がある以上、歳出のみについて教育委員会が独立した権限を持つことは実際には困難と考えられる。
  • 今後、教育関係予算の編成・執行にあたって、首長部局が教育委員会に対して総枠を示し、その枠内では教育委員会の判断に委ねるなど、首長部局が教育委員会の独自性を尊重するとともに、現行の意見聴取制度を活用するなど十分な協議を行い、共通理解を持って進めることが望まれる。

(5)教育委員会と地方議会の関係

  • 教育委員会が行う公立教育機関の管理運営についての説明責任は、主に地方議会における質疑・答弁を通じて果たされており、教育委員会と議会の関係は教育行政における住民自治の観点から極めて重要であると考えられる。教育委員会は、議会を通じ、住民に対する説明責任を積極的に果たしていくことが望まれる。
  • また、首長が教育委員を選任するにあたっては、議会同意を得ることが必要とされている。教育委員会は、首長から独立した機関として位置づけられているため、その選任にあたっての議会の同意は教育委員に適材を確保する上で極めて重要である。このため、議会は、教育委員の選任について同意するにあたっては、教育委員としてふさわしい人材か否かを十分吟味し慎重に行うことが望まれる。

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