〔3-6〕高等教育の発展を支える各方面の取組

(1)国の高等教育行政の在り方

(ア)国の機能・役割

  • 大学は国家・社会に対して一定の自律性を保持することがその本質的特徴であり、大学に対する国の関与及び支援は、国家・社会の側から見た大学の公共性に着目してなされる。公共性と自律性とは相互に緊張関係に立つが、必ずしも相矛盾するものではない。したがって、関与と支援の程度は、大学の自律性を尊重しつつも、公共性についての国家・社会の側の理解の仕方に影響を受け、また、関与に応じた支援が行われるのが基本となる。
  • 国の今後の役割は、1.制度的枠組みの設定、2.将来像の提示、3.質の保証システムの整備、4.大学・社会・学習者に対する情報提供、5.財政支援等が中心となろう。その際、大学の自律性に十分配慮し簡素で効率的な高等教育行政となるよう留意する必要がある。
  • 特に3に関して、「高等教育の質」を保証するためには、設置認可の的確な運用を基礎としつつ、認証評価制度の充実、経営状況の悪化した高等教育機関への対応、大学入学者選抜の改善、初等中等教育の充実等の各種関連施策を総合的に推進する必要がある。
  • このような高等教育行政及び高等教育の振興方策についての考え方は、今後の教育基本法及び教育振興基本計画の在り方の検討の中でも十分に生かされるべきである。

(イ)多元的な評価機関の形成

  • 高等教育行政の機能・役割の変化に際しては、多元的な評価機関が形成されることが不可欠の前提となる。機関別・専門職大学院別の評価に加えて分野別評価が、分野の特性に応じて学協会等関係団体の協力を得ながら発展することが期待される。各種評価機関の形成のための国の支援も必要である。

(ウ)多様で安定的な財源確保の取組

  • 大学の自律性を保障するためには、大学の経営のための財源の多様性・安定性を確保することが是非とも必要である。学生納付金、附属病院収入、公財政支援、外部資金、寄附金、資産運用益、学校債等の各財源別に改善ないし促進方策を更に検討する必要がある。
  • 公財政支援に関しては、多元的できめ細やかなファンディング・システムが形成されることが、大学の財政的基盤の充実とともに自律性を保障する上からも望ましい。

(2)地方公共団体の取組

  • 公立大学を設置し管理運営を行う場合には、例えば公立大学法人制度を活用するなどして、大学の自律性を十分に尊重しながら、設置目的を明確化し、それぞれの地域の更なる向上発展への貢献のため、地域社会の様々な要請等を踏まえつつ、より一層の教育研究機能の強化に向けた改革努力を支援することが期待される。
  • 国立や私立も含めた地域の大学全体との関係については、委託研究等の産学官(公)連携の推進や学校教員の養成、公開講座の実施等につき、大学の教育研究活動と地方公共団体の施策展開の有機的な連携を図ることが期待される。その際、地方公共団体側がその判断に基づき寄附金等相応の財政的支援を行うことも、有力な手段の一つとして考えられる。
  • 構造改革特区制度を活用して地方公共団体が策定する特区計画の下での大学の設置に関して、地方公共団体には、構造改革特別区域法に基づく責務を十分果たしつつ、創意工夫に富む取組を行うことが期待される。

(3)産業界等の取組

  • 学士・修士・博士等の学位取得者の採用・処遇に関し、産業界は、それぞれの学位の種類に応じた取扱いがなされるよう、十分に配慮することが期待される。例えば、博士課程の質的向上に関する大学側の努力と博士号取得者に対する企業側の処遇・活用の努力とは、同時並行的になされなければ効果は期待できないと考えられる。
  • 今後は、知的セクターの人材層を厚く形成するとともに、様々な分野で知的活動を行う人材が流動し、我が国社会全体の知的基盤を構成していくことが重要である。高等教育機関は、その中核として、人材(研究者、大学教員)の受入と輩出を他の様々な機関との間で一層活発に行うことが期待される。
  • また、高等教育機関は人材を養成し社会へ送り出すものであることから、人材(学生)の輩出と受入(社会人学生)という点でも社会と双方向の関係に立つ。即ち、産・官・政といったセクターの人材戦略が高等教育機関の人材養成に与える影響は大きいものがあり、研究面にとどまらず人材養成面でも十分な産学官連携が求められる。特に、留学生教育に多くの資源を投じてきているこれまでの状況を踏まえれば、留学生を含めた人材の活用を社会全体で真剣に図っていく必要がある。
  • 人材の流動化を一層促進し我が国社会の活性化を図るためには、産業界が社会人の大学院等への進学・再入学を積極的に支援することが重要である。この点に関しては、修士課程等への企業派遣の促進の他にも、雇用関係を一旦離れてから進学・再入学し学位を取得した者に対して十分な処遇を用意することも期待される。
  • また、研究開発を自社内部で完結させる「自前主義」には効率性や競争力確保の上でも限界があることから、各企業の経営・研究開発戦略において、大学との共同研究や技術移転等の産学官連携を柱の一つとして明確に位置づけることが期待される。短期的な経済情勢や国の支援策の如何によらない持続可能な産学官連携の体制の構築が求められている。
  • 産業界には、国内の大学を投資対象として一層積極的に評価・活用することが期待される。各企業の合理的な経済行動に影響を与えるためには、我が国の大学の研究水準や経営状態等に関する大学側からの適時適切な情報の提供が不可欠であるが、より効率的な投資行動のため、産業界側にも最新の正確な情報を能動的に収集する努力が自ずと求められよう。こうした動きは、我が国の大学にとっての競争的環境の醸成にも大いに資するものと思われる。
  • このような産業界の取組を促進するため、様々な機会を捉えて大学側と産業界側の情報交換の場を設けることは極めて重要である。また、そうした場を通じて、産業界側の意欲的な取組を評価し顕彰すること等も有効と考えられる。

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