3 学校教育の質の保証のためのシステムの構築

(1)基本的な考え方

  • 義務教育答申では、義務教育の構造改革において、義務教育システムを国の責任によるインプット(目標設定とその実現のための基盤整備)→実施の責任を有する自治体や学校が担うプロセス(実施過程)→国の責任によるアウトカム(教育の結果)の検証という構造でとらえている。
  • こうした基本的な考え方を教育内容や方法の改善に当てはめてみると、まず、目標の設定については、義務教育の目標を明確化することも踏まえて、国が各教科の到達目標を明確に示すことが必要である。そして、こうした目標を実現するために優れた実践事例に関する情報提供などの基盤整備も国の役割である。
  • また、各学校が、子どもの状況等を踏まえて生き生きとした教育活動を行うためには、その実施プロセスを柔軟で弾力的なものとする必要がある。学習指導要領は、すべての子どもに対して指導すべき内容を示す基準であり、学校においては、必要がある場合には、これに加えて指導することができる。国民として共通に学ぶべき学習内容を明確に定めた上で、学校ができるだけ創意工夫を生かして教育課程を編成できるようにすることが求められる。
  • 教育の結果の検証については、到達目標の明確化とも関連するが、子どもが学習を進めるに当たって具体的な指針となるよう、具体的な評価の在り方や規準について引き続き検討することが必要である。また、国においては、子どもの学習到達度の把握・検証のため、全国的な学力調査を実施することが適当である。
  • こうした義務教育の構造改革という観点を踏まえ、学校教育の質を保証するため、学習指導要領の見直しについては、
    1. 学習指導要領における到達目標の明確化
    2. 情報提供その他の基盤整備の充実
    3. 教育課程編成実施に関する現場主義の重視
    4. 教育成果の適切な評価
    5. 評価を踏まえた教育活動の改善
    という視点に立って検討を進めることが必要である。

(2)学校教育の質の保証

ア 学習指導要領における到達目標の明確化

  • 学校教育の目標を明確化するため、特に義務教育については、国が各教科の到達目標を明確に示すことが必要である。
  • 各教科の到達目標については、まず、到達目標をどのようなものとして設定するかという問題がある。基礎的・基本的な内容で、すべての子どもが到達を目指すものとして考えるべきではないかとの意見、現在学校で用いられている学習の評価規準との整合性を踏まえるべきであるなどの意見が示された。
  • また、到達目標に達しない子どもについては、補充的な指導を十全に行うべきであるとの意見が多かった。
    さらに、基本的な生活習慣についても、家庭教育で取り組むべき目標として示していくことが必要ではないかとの意見もあった。
  • 学習指導要領に示されている教育内容は、いわゆる基礎・基本であり、特にその内容が精選されている以上、そのすべてを確実に習得させることを目指すとの考え方が基本となるが、その一方で、義務教育を修了しても四則計算の基本が十分に身に付いていない子どもがいることも指摘された。
  • 教育の機会均等を目標とする義務教育において必要な水準を確保するためには、知識・技能の面では、「読み・書き・計算」のような、基礎・基本の中でも特に実生活に直接にかかわるような内容について、反復学習や補充的な学習等を通じて確実に定着させることが求められる。
  • 思考力や表現力などの能力の面の目標については、例えば、PISA調査において知識・技能を実生活に活用する力を問うて計測しようという試みを行っているので、こうしたことを参考としながら、検討を行っている。
  • その際、できるだけ具体的なものとするため、例えば、「A4・1枚(1,000字程度)で自分の考えを表現する」などの例示を示すことについて検討を行っている。

イ 情報提供その他の基盤整備の充実

  • 学習指導要領における目標や内容の示し方については、現実には、教師にも個性があり、能力の違いもあるので、教育の機会均等を確保する観点から、学習指導要領がそういった差を埋めるためのマニュアルであることが重要であるとの意見があった。また、学習指導要領の理念や目標は素晴らしいが、それを実現するための手立ての部分が明確でないのではないかとの意見が示された。
  • 学習指導要領が大綱化・弾力化したことによって、その記述自体が薄くなっているが、このために、学習指導要領の趣旨が、学校に伝達されるまでの過程において、解釈の余地を生み、例えば、子どもの主体性や興味・関心を重視する余り、教師が子どもに対して必要かつ適切な指導を実施せず教育的な効果が十分上がっていない取組など、教育実践に影響を与える結果となったのではないかとの意見もあった。
  • このため、教育課程に関する情報提供について、これをより積極的に行うことによって、各学校における教育課程に関する裁量を実質的に拡大することが必要である。学習指導要領の記述の在り方を含め、検討する必要がある。
  • その際、教師だけでなく、保護者をはじめとする国民や社会に対して、学校教育の目標やそれを実現するための学校教育活動の構造を分かりやすく示すことが必要である。例えば、総則と各教科等との関係や各教科等相互の指導内容の関連性について、図表などを用いるなどの工夫を凝らし、より分かりやすい形で明確に示していくことが考えられる。
  • 指導方法については、従来の一斉指導の方法を重視することに加えて、習熟度別指導や少人数指導、発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的かつ適切に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれる。
  • 子どもの学習意欲を高めることが課題となっていることから、年間の読書冊数や各種検定への取組など具体的な目標設定の工夫が重要であると考えられる。指導方法の事例蓄積や分析によって、優れた指導方法を教師の間で共有化したり、子どもがどこでつまずくのかなどについての研究成果を示すなど、学校、教職員と行政が情報を共有することは教師への支援として重要であるとの意見があった。
  • 教科書、教材の質、量両面での充実も必要である。特に、教科書については、義務教育の質の向上を図る上で主たる教材として重要な役割を果たすものであり、子どもが学習内容について十分に理解を深め、基礎・基本を確実に身に付けられるよう工夫され、かつ、特色ある教科書が提供されることが必要である。
  • 子どもの状況の変化や保護者や社会からの要請の多様化・高度化する中で、教師の仕事はこれまで以上に多岐にわたっている。社会全体の価値観が多様化する中で、子どもの教育をめぐって学校の指導の在り方について、説明を求められる場面が多くなり、教師が相当のエネルギーを傾けているとの指摘もある。教育委員会に学校に対する意見申立てのための第三者機関を設けているとの取組も紹介された。
  • 学校が作成する事務的な調査資料等の量が増加しているとの指摘がある。文部科学省を含め、教育行政においては、調査の必要性について見直し、ICTの活用、調査の実施時期・調査期間などの実施方法を工夫することによって、学校の事務負担の軽減を図ることが望まれる。
  • 基盤整備という観点からは、教育成果を高めるとともに情報活用能力など社会の変化に対応するための子どもの力をはぐくむため、ICT環境の整備、教員のICT指導力の向上、校務のICT化等の教育の情報化が重要である。
  • 政府においても、2005年度までに世界最先端のIT国家を目指して策定したe-Japan戦略等において、教育の情報化についての目標が定められたが、文部科学省が行った「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によれば平成17年9月末現在における目標達成は極めて厳しい状況となっている。
  • 文部科学省としても、次期IT戦略において教育の情報化に関する新たな目標を策定するなど一層の推進を図ることとしており、今後、各地方公共団体においても積極的に教育の情報化に取り組むことが期待される。
  • 義務教育答申においては、子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標であるとしつつ、学校の教育力、すなわち「学校力」を強化し、「教師力」を強化することを通じて、これを育てるとしている。
  • また、同答申では「確固とした教育条件を整備する」ため、「国と地方が協力して」、「教職員配置、設備、教材、学校の施設など教育を支える条件整備を確固たるものとする必要がある。」としている。
  • この報告の中でも、教育内容・方法の各般にわたり、学校教育の改革と充実のための方策が示されている。こうした改革や充実を具体的に実現するためには、学校教育の基盤整備が不可欠である。同答申に基づき、義務教育の基礎をしっかりと保証し、義務教育の質の向上のための構造改革を進めていく必要がある。

ウ 教育課程編成に関する現場主義の重視

  • 前述のとおり、到達目標を明確にするための検討が進められているが、同時に、その到達目標を達成するための各学校の具体的な取組については、可能な限りそれぞれの創意工夫を生かす仕組みとすることが求められる。
  • 学習指導要領はすべての子どもに共通に教える内容を示している(学習指導要領の「基準性」)。このことを前提としながら、今後の学習指導要領の在り方を考えるに当たっては、国として全国的な教育の機会均等や教育水準の維持・向上のために必要な役割を果たしつつ、同時に、地方自治体や学校の自由度をいかに高めるかという観点が重要である。
  • 教育内容の設定については、現行学習指導要領で定められた共通の指導内容について、「(○○の)事項は扱わないものとする」等と定める、いわゆる「はどめ規定」は、もとよりこれらの発展的な内容を教えてはならないという趣旨ではないが、この点の周知が不十分であることにかんがみ、その在り方を見直すべきとの意見が出された。
  • 授業時数については、現在、総授業時数及び各教科等ごとの授業時数について、学校教育法施行規則で「標準」として規定されているが、各学校において年度当初の計画段階から標準を下回って教育課程を編成することは通常考えられないとされている。
  • 教育課程部会においては、各学校の創意工夫を生かすという観点から、各教科等ごとの授業時数については、柔軟に扱えるようにすべきではないかとの意見があった。その際、各教科等ごとではなく、複数の教科等の授業時数をまとめて示すことも一つの方法ではないかという意見があったが、一方で、入学試験等の内容に影響を受けるので、引き続き教科等ごとの時間設定を基本とすべきとの意見もあった。
  • このことについては、諸外国では、1各学年・各教科ごとの授業時数の設定を学校に任せている例、2複数の学年・教科をまとめて年間の授業時数を定めている例などがあるので、議論を深めるため、例えば、合科的な指導をより柔軟に行うためには、どのような教科等の組合せが考えられるかなど、各学校の教育課程編成に当たっての柔軟性を高めるための仕組みや、その際の学校の説明と公表の在り方などについて、更に検討を行うことが必要である。
  • 学習指導要領によらない教育課程編成が可能な仕組みとしては、研究開発学校制度や構造改革特別区域研究開発学校設置事業などがあるが、学校教育の目標や各教科の到達目標を明確にすることを踏まえ、義務教育の共通性の確保などについて国が責任を果たしつつ、一定の教育成果を上げている学校が学習指導要領の特例措置を講じようとする場合にはより弾力的に対応することを今後検討する必要がある。

エ 教育成果の適切な評価

学習評価

  • 各学校における教育の質の保証のためには、その成果の適切な評価が重要である。
  • 子どもの学習の評価については、到達目標に照らしてより確実な習得に資するようにすること、学習発表会や各種検定など学習の進捗状況や知識・技能等の獲得が目に見えて実感できるような評価の工夫など、具体的な評価の在り方について今後検討が必要である。また、子どもの学習機会をより豊富なものとする観点から、家庭での学習課題(宿題)や学校外の学習活動の評価の在り方についても検討することが必要である。

全国的な学力調査

  • 全国的な学力調査については、義務教育答申において次のように提言している。
    • 各教科の到達目標を明確にし、その確実な習得のための指導を充実していく上で、子どもたちの学習の到達度・理解度を把握し検証することは極めて重要である。客観的なデータを得ることにより、指導方法の改善に向けた手掛かりを得ることが可能となり、子どもたちの学習に還元できることとなる。このような観点から、子どもたちの学習到達度・理解度についての全国的な学力調査を実施することが適当である。
    • なお、実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。
    • 具体的な実施の方法、実施体制、結果の扱い等について更に検討する必要がある。その際には、自治体や学校が全国的な学力状況との関係でそれぞれの学力状況を把握することにより、教育の充実への取組の動機付けとなることが重要な視点であると考えられる。
    • また、あわせて、収集・把握する調査データの取扱いに慎重な配慮をしつつ、地域性、指導方法・指導形態などによる学力状況との関係が分析可能となる方法を検討する必要がある。なお、学力調査の調査内容に関しては、知識・技能を実生活の様々な場面などに活用するために必要な思考力・判断力・表現力などを含めた幅広い学力を対象とすることが重要である。
  • 全国的な学力調査については、こうした考え方を踏まえて、小学校第6学年、中学校第3学年の国語、算数・数学について、全児童生徒が参加できる規模で平成19年度に調査を実施することとし、文部科学省において準備を進めている。その際、ここで指摘されているような調査の具体的実施方法、実施体制、結果の扱いなどについては、既に文部科学省に専門家会議が設置され、具体的な検討が進められているところである。

学校評価

  • なお、学校や地方自治体の裁量を拡大し主体性を高めていく場合、それぞれの学校や地方自治体の取組の成果を評価していくことが、教育の質を保証する上で重要となる。また、近年の学校教育の質に対する保護者・国民の関心の高まりにこたえるためにも、学校評価を充実することが必要になっている。
  • さらに、先述した到達目標の設定や子どもの学習評価においては、例えば、情意面などについては具体性や明確性を持たせにくい。こうした点については学校教育のプログラムもあわせて評価するという考え方もあり得る。また、全体として、「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」を調和の取れた形で育成する、定量的な評価と定性的な評価のバランスを確保するという意味からも、学校評価の一層の推進が必要である。

オ 評価を踏まえた教育活動の改善

  • このような教育成果の様々な評価は、教育活動にフィードバックされ、教育の質の向上が図られることに重要な意味がある。例えば、学校評価については自己評価を基本としつつ、その客観性を高めるための外部評価を充実することにより、評価が教師の資質・能力の向上や学校運営の改善に活用されることが重要である。
  • 特に、学習評価や全国的な学力調査、学校評価などを通してとらえられる教育の成果や課題については、これを学校や一人一人の教師がしっかりと受け止め、教育の改善へとつなげていくことが何よりも重要である。義務教育の構造改革全体の中で、教育課程の改善の趣旨の実現という観点から、教育課程部会においてもさらに具体的な検討をする必要がある。

(3)教育行政の在り方の改善

  • 教育行政については、1(4)で指摘したとおり、学校教育の現場をどの程度把握しているか、地域や保護者をはじめ国民や住民に対して十分な説明責任を果たしているか、学校を支えるための条件整備を十分に行っているかなどの課題を抱えており、その改善が必要である。
  • 教職員配置、設備・教材、学校の施設など教育を支える条件整備については、国と都道府県、市区町村がそれぞれの役割と責任を果たしながら連携・協力し、学校教育の目的や目標を実現することができるようその充実を図ることが必要である。
  • 特に、学校教育の現場の把握や国民や住民に対する説明責任は極めて重要である。文部科学省が行ったスクールミーティングは、例えば、教育課程の在り方についても、子ども、保護者、教職員などの率直な意見を直接聞き、意見交換を重ねるなど、教育の現状把握という観点から一定の成果を上げたものと考えられる。
  • 今後は、教育課程の検討・実施に当たって、学校や地方教育行政における優れた実践を共有化し、そのために支援すること、また、課題がある場合には適切な修正を行うことが必要である。実証的な現状把握に基づく教育課程行政が求められる。その際、大学の研究者のみでなく、NPOや民間の力を活用することが重要である。
  • 教育課程の在り方は国民の大きな関心事項でもあることから、文部科学省においては、本報告を活用して、より積極的に子ども、保護者、教職員など多くの国民の意見を聞き、学習指導要領の見直しなどに反映することに努めるべきである。
  • なお、学校の事務負担の軽減などについては、速やかに対応することが求められる。

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