2 教育内容等の改善の方向

(1)人間力の向上を図る教育内容の改善

1.基本的な考え方

ア 言葉や体験などの学習や生活の基盤づくりの重視

  • 現行学習指導要領の総則では、「生きる力をはぐくむことを目指し、創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開する中で、自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」とされている。
  • 教育に求められているのは、生涯にわたる学習の基礎を培うという観点に立って、子どもに基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力(確かな学力)、自らを律しつつ、他人と共に協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性(豊かな心)、たくましく生きるための健康や体力(健やかな体)などの「生きる力」をはぐくむことである。
  • 教育課程部会においては、教育課程の構造を明確化することが、学校教育の目的や目標を実現する基本的な手立てとなるのではないかとの考えの下、「確かな学力」や「生きる力」の育成に関する議論を整理し、その実現のための道筋を示そうと取り組んでいる。
  • 義務教育答申においては、学習指導要領全体の見直しについて、例えば、次のような点を重視する必要があるとしている。
    • 「読み・書き・計算」などの基礎・基本を確実に定着させ、教えて考えさせる教育を基本として、自ら学び自ら考え行動する力を育成すること
    • 将来の職業や生活への見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる教育を充実し、学ぶ意欲を高めること
    • 家庭と連携し、基本的な生活習慣、学習習慣を確立すること
    • 国際社会に生きる日本人としての自覚を育てること
  • この四つの点は互いに密接に関連しており、一体となった体系的な指導がなされてこそ効果が上がると考えられる。「豊かな心」と「健やかな体」をはぐくむことは学習への意欲を生み出し、「確かな学力」の育成につながる。また、「確かな学力」の育成は、将来の職業や生活の基礎を培うものであり、他の人々とともに豊かな人生を生きる力へとつながるものである。
  • 子どもの心と体や学習の状況を見ると、「生きる力」を育てるためには、まずは、1生活習慣、学習習慣、読み・書き・計算など、学習や生活の基盤を培うことが重要である。そして、2将来の職業や生活への見通しを与える、国際社会に生きる日本人としての自覚を育てるなど、実生活を視野に入れて、学習や生活の目標を持たせることが重要である。子どもの発達の段階に応じて、こうした学習や生活の基盤づくりを重視する必要がある。
  • その際、言葉を重視することが大切であるとの意見、体験を充実することが重要であるとの意見が数多く示されている。
  • 言葉は、「確かな学力」を形成するための基盤であり、生活にも不可欠である。言葉は、他者を理解し、自分を表現し、社会と対話するための手段であり、家族、友だち、学校、社会と子どもとをつなぐ役割を担っている。言葉は、思考力や感受性を支え、知的活動、感性・情緒、コミュニケーション能力の基盤となる。国語力の育成は、すべての教育活動を通じて重視することが求められる。
  • 体験は、体を育て、心を育てる源である。子どもには、生活の根本にある食を見直し、その意義を知るための食育から始まり、自然や社会に接し、生きること、働くことの尊さを実感する機会を持たせることが重要である。生活や学習の良い習慣をつくり、気力や体力を養い、知的好奇心を育てること、社会の第一線で活躍する人々の技や生き方に触れたり、自分なりの目標に挑戦したりする体験を重ねることは、子どもの成長にとって貴重な経験となることが指摘されている。
  • 学習や生活の基盤づくりを進めていくためには、学校の教育内容及び教育方法について、実生活と一層意識的に関係付ける必要がある。具体的には、発達の段階に応じて、自然体験、社会体験、職場体験、文化体験等の適切な機会を設定することが求められる。身近な実生活とのかかわりの中で、実感を持って各教科等の知識や技能を習得できるようにすることが重要である。また、その知識や技能を実生活において生かしていくという視点を持たせることも重要である。
  • 教育と社会との連携は学校教育の側からのみ語られるべきものではない。家庭や社会の側においては、生活習慣の確立を図ることや、子どもに身近な人々とのかかわりを実感させ、豊かな社会的経験を得させることが必要である。そのためには、家庭教育の充実を図っていくことや学校外の人材(地域の人材や専門家など)が学校教育や地域での教育活動に参画することが重視されなければならない。家庭での学習課題を工夫し生活や学習の良い習慣づくりを支援することや、家庭や地域での体験的な学習、主体的な学習を学校でも積極的に評価することなどを検討していく必要がある。
「人間力」の向上
  • 現行学習指導要領が目標としている「生きる力」を実社会や実生活との関係でより具体化し、社会との関係で学校教育に求められているものは何かについて、学校と社会との間の共通認識を形成することが重要である。
  • 教育課程部会では、例えば、「将来的に国民として自立し、納税や勤労の義務を果たせるようになることが義務教育の最大の到達目標」といった意見に見られるように、学校教育の目指すべきものとして、子どもの社会的自立、職業的自立を重視することが求められているとの意見が示されている。
  • こうした考え方を踏まえて、社会の側からの視点、国際的な通用性の視点も参考としつつ、学校教育の目標を整理し、教育課程の構造を明確化する作業を行っている。学校や教師が力を入れて取り組む方向を明確にすることで、学校力、教師力を十分に発揮できるよう支援することとしたい。
  • 社会の側からの視点としては、内閣府人間力戦略研究会の「人間力戦略研究会報告書」(平成15年4月)を基にした「人間力」という考え方、文部科学省の「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書(児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てるために)」(平成16年1月)で示されている「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)」などがある。
  • 国際的な通用性という視点としては、「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA調査)の概念的な枠組みの基本であるOECDの「主要能力(キー・コンピテンシー)」という考え方がある。
  • 例えば、上記の内閣府の研究会の報告によれば、「人間力」は、知的能力的要素、社会・対人関係力的要素、自己制御的要素などで構成されており、自立した一人の人間として生きていくための総合的な力を育成することを目指すという意味において、「生きる力」と同じ趣旨のものである。
  • この「人間力」という考え方を用いることは、現実の社会で大人がどのように生き、そこでは何が必要とされるのかを見せることによって、学ぶことの意義を子どもたちに伝え、何のために学ぶのかという目的意識を明確にすることをねらいとしている。こうした視点から学校教育を見直してみることによってその足らざるところを補い、より充実したものに改善していこうとするものである。
  • これまでのところ、具体的には、例えば、
    • 主体性・自律性
      (例)自己理解(自尊)・自己責任(自律)、健康増進、意思決定、将来設計
    • 自己と他者との関係
      (例)協調性・責任感、感性・表現、人間関係形成
    • 個人と社会との関係
      (例)責任・権利・勤労、社会・文化・自然理解、言語・情報活用、知識・技術活用、課題発見・解決
      などの構成要素に整理することができるのではないかとの検討を行っている。
  • この場合において、「個人と社会との関係」ということをとらえるに当たっては、政治経済や産業という観点に偏ることなく、文化や生活という観点も重要である。また、グローバル化が進展する中で、社会・国家のみならず国際社会に積極的に参加し、その発展に貢献していくとの視点も重要である。自国の社会、文化、伝統への理解を図り、国際社会に生きる日本人としての自覚を育てることが重要である。
  • なお、ここでは、実社会とのかかわりの中で、「生きる力」をより具体化し発展させるという観点から、「人間力」という考え方を用いて見直しを行っているが、今後も、学校教育において「生きる力」を育成することが重要であることに変わりはない。

イ 確かな学力の育成

学力に関する考え方
  • 学ぶ意欲や知的好奇心を育て、「確かな学力」を育成することは、学校教育の基本的な役割である。教育課程の構造を明確化する一環として、それをはぐくむ道筋(手立て)を明らかにすることが求められる。
  • 現行学習指導要領の学力観については、これをめぐって様々な議論が提起されているが、義務教育答申でも指摘しているとおり、基礎的・基本的な知識・技能の育成(いわゆる習得型の教育)と、自ら学び自ら考える力の育成(いわゆる探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的にとらえるべきものではなく、この両方を総合的に育成することが必要である。
  • そのためには、知識・技能の習得と考える力の育成との関係を明確にする必要がある。まず、1基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させることを基本とする。2こうした理解・定着を基礎として、知識・技能を実際に活用する力の育成を重視する。さらに、3この活用する力を基礎として、実際に課題を探究する活動を行うことで、自ら学び自ら考える力を高めることが必要である。これらは、決して一つの方向で進むだけではなく、相互に関連しあって力を伸ばしていくものと考えられる。知識・技能の活用が定着を促進したり、探究的な活動が知識・技能の定着や活用を促進したりすることにも留意する必要がある。
  • こうして習得と探究との間に、知識・技能を活用するという過程を位置付け重視していくことで、知識・技能の習得と活用、活用型の思考や活動と探究型の思考や活動との関係を明確にし、子どもの発達などに応じて、これらを相乗的に育成することができるよう検討を進めている。
  • 探究的な活動を行うことは、子どもの知的好奇心を刺激し、学ぶ意欲を高めたり、知識・技能を体験的に理解させたりする上で重要なことであり、自ら学び自ら考える力を高めるため、積極的に推進する必要がある。こうした活動を通して、各教科等それぞれで身に付けられた知識や技能などが相互に関連付けられ、総合的に働くようになることが期待される。
  • なお、現行の学習指導要領に至るまでのある一時期において、子どもの自主性を強調する余り、教師が指導を躊躇する状況があったのではないかという指摘がある。探究的な活動については、知識・技能の習得や活用を視野に入れて、関連付けを図りながら、教師の指導の一環として行われることが必要である。広い意味で、教えることの大切さに留意する必要がある。
基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させる
  • 教育課程部会や教育課程企画特別部会においては、例えば、「一定のことは暗記し反復により定着させるべきである」との意見に見られるように、「読み・書き・計算」などの基礎的・基本的な知識・技能の面については、発達の段階に応じて徹底して習得させ、学習の基盤を構築していくことが大切との意見が示された。
  • 知識・技能のうちでも、特に、乗法九九や都道府県の位置と名称などは、実生活との関連においても、その後の学習の基盤としても重要な事項であり、基本的な意味を押さえた上で、反復学習などの丁寧な繰り返し指導が有効である。
  • また、音読、暗記・暗唱などの活動を適宜取り入れることが重要である。学習に関する基本的な能力を高め、その後の学習を効果的に進めることにつながるとの意見も示されている。
  • 知識・技能の確実な定着に当たっては、知識・技能を実際に活用する力の育成を視野に入れることが重要である。知識・技能を生きて働くようにすること、すなわち実生活等で活用することを目指すからこそ、その習得に当たっても、知的好奇心に支えられ実感を伴って理解するなど、生きた形で理解することが重要となる。
  • 生命や粒子、民主主義や法といった概念や原理、法則などは、個々の知識を体系化することを可能とし、個々の知識を活用する上での助けとなるものであり、教育内容として重視し、適切に位置付けていくことが必要である。
    形式知のみでなく、いわゆる暗黙知も重視すべきであるとの意見がある。こうした観点からも、家庭や地域社会とも連携しつつ、体験的な活動や音読、暗記・暗唱、反復学習などを通じて、知識・技能の体験的、身体的な理解ということに十分配意する必要がある。
  • このような知識・技能の様々な特性を踏まえて、子どもの発達や学年の段階に応じた教育内容の整理や指導方法の工夫が必要である。基礎的・基本的な内容については、小学校・中学校・高等学校において、あえて教育内容を重複させることが重要であるとの意見も数多く示されている。
  • 基礎的・基本的な知識・技能については、これまでの審議においては、特に、義務教育を念頭において検討を進めてきており、1社会的に自立していくために実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能と、2義務教育及びそれ以降の様々な専門分野の学習を進めていく上で共通の基盤として習得しておくことが望ましい知識・技能とに区分して整理するという検討を行っている。
  • 具体的には、各教科等を通じて、
    1. 実生活において不可欠な知識・技能
       例えば、整数、小数、分数の意味が分かり四則計算ができること、ヒトや動物のつくり、酸素や二酸化炭素の性質について知ることなど。
    2. 学習を進めていく上で共通の基盤となる知識・技能
       例えば、三平方の定理について理解すること、物質は粒子からできていることについて理解することなど。
      といった類型を設けて、整理を進めてきている。
知識・技能を活用し、考え行動する力の重視
  • 現行学習指導要領は、自ら学び自ら考える力の育成を目指して、具体的には、思考力・判断力・表現力等をはぐくみ、知識・技能等を学習や生活において生かし、総合的に働かせることを目標としている。
  • こうした方向性は国際的にも模索されており、例えば、PISA調査は、知識・技能を実生活において活用する力を測定することを目指している。
  • 教育課程部会及び教育課程企画特別部会においては、コミュニケーション能力を重視すべきである、知識・技能を活用する力が重要であるなどといった、教育を通じて育てるべき「力」を教科横断的に明確にしていく必要があるとの意見が示されている。
  • このような観点から、各教科等ごとに義務教育修了段階において子どもに身に付けさせたい力を比較検討した。その結果、各教科等を横断してはぐくむべき能力として、例えば、
    1. 体験から感じ取ったことを表現する力(感性や想像力を生かす)
      (例)
      ・日常生活や体験的な学習活動の中で感じ取ったことを言葉や歌、絵、身体などを用いて表現する。
      ・自国や他国の歴史・文化・社会などから自分たちとは違う世界を想像し、共感したり分析したりしたことを表現する。 など
    2. 情報を獲得し、思考し、表現する力(言語や情報を活用する)
      (例)
      ・文章や資料を読んだ上で、自分の考えをA4・1枚(1,000字程度)で表現する。
      ・自然事象や社会的事象に関する様々な情報や意見をグラフや図表などから読み取ったり、これらを用いて分かりやすく表現したりする。 など
    3. 知識・技能を実生活で活用する力(知識や技能を活用する)
      (例)
      ・需要、供給などの概念で価格の変動をとらえて生産活動や消費生活に生かす。
      ・衣食住や健康・安全に関する知識を生かして自分の生活を管理する。 など
    4. 構想を立て、実践し、評価・改善する力(課題探究の技法を活用する)
      (例)
      ・学習や生活上の課題について、事柄を比較する、分類する、関連付けるなど考えるための技法を活用し、課題を整理する。
      ・理科の調査研究において、仮説を立て、実験・観察を行い、その結果を整理し、考察をまとめ、表現したり改善したりする。
      ・芸術表現等において、構想を練り、創作活動を行い、その結果を評価し、工夫・改善する。 など
    が考えられるのではないかという議論がなされている。
  • このように、1感性に基づいて情報を処理する力や、2理性に基づいて情報を処理する力などを通じて、体験から知識・技能を獲得し、深め、実際に活用するための基盤となる力を養うとともに、3知識・技能を実際の生活や学習において活用する力、4課題探究や創意工夫をすることで、課題自体を発見したり、課題を解決したりする力を育成することが重要である。1~4の力はいずれも、言葉の重視、体験の充実と深く関連する力である。
  • こうした1~4の力は、現行学習指導要領においても、各教科等において、それぞれ位置付けられているが、今後は、各教科等を横断して、学校教育活動全体で力を伸ばしていくことが合理的であり、また有効であると考えられる。
  • なお、1及び2の力については、文化審議会答申(「これからの時代に求められる国語力について」平成16年2月)において、考える力、感じる力、想像する力、表す力の育成として提起されている力と関連していると考えられる。
  • 教育課程部会では、今後、こうした力を育成するために、指導内容との結び付け、活動例の設定などについて、具体的に整理しようとする試みを行っている。

ウ 子どもの社会的自立の推進

  • 子どもの社会的自立を推進するに当たっては、上記で記した「確かな学力」の育成とともに、「豊かな心」と「健やかな体」をはぐくみ、社会的自立の基礎を培うことが、その基盤となる。学力の低下傾向の一つの原因として、子どもの学習意欲や学習習慣の問題が指摘されている。
豊かな心と健やかな体をはぐくみ、社会的自立の基礎を培う
  • 今日、子どもたちは、社会と豊かにかかわる機会を持てなくなりつつある。子どもが、大人とかかわる機会は、本来、家庭や地域において、自然に恵まれるものであるが、今日、学校教育がそのきっかけづくりをすることが求められている。人と人との交流の様々な場面、家庭、地域社会、国家、ひいては国際社会に至るまで、その一員としての自覚(具体的には、協調性、責任感、権利、勤労など)を身に付けることが重要である。また、社会的事象を考えるために必要な科学的な知識を身に付けることが求められる。
  • 子どもたちに、基本的な生活習慣を確立させるとともに、遵法意識をはじめとする社会生活を送る上で人間として持つべき最低限の規範意識を青少年期に確実に身に付けさせることが重要である。その際、人間としての尊厳や健全な倫理観などの道徳性を養い、それを基盤として、主体的に判断し、適切に行動できる人間を育てることが大切である。また、生涯にわたって芸術に親しむ態度を育成するとともに、他者の気持ちを理解したり、人生をより豊かなものとするため、感性や想像力、表現力の育成も重要な課題である。
  • 子どもたちの体力の低下が懸念される中で、人間の心の発達・成長を支え、人として創造的な活動をするために、幼いころから体を動かし、生涯にわたって積極的にスポーツに親しむ習慣や意欲、能力を育成するとともに、心身の健康の保持・増進のために必要な知識、習慣や生活を改善する力を身に付けさせることが求められる。また、子どもの生活の安全・安心に対する懸念が広まっており、安全教育の充実も課題である。
個性や能力を伸ばし、主体性・自律性を育成する
  • 我が国の子どもは、国際的に見て自尊感情に乏しいとの指摘がある。同時に、規範意識の低下やいわゆるキレる子どもの存在など自己統制の面での課題も指摘されており、自己実現を目指す自立的な人間の育成が課題である。
  • とりわけ、主体性や自律性の育成は、人格の形成や自己実現を目指す上で核となるものであり、人間関係や社会参画の基盤となる重要な要素でもある。
  • この場合において、自己理解(自尊・自己肯定)の考え方と自己責任(自律・自己統制)の考え方を調和の取れた形で総合的に身に付けさせていくことが課題である。
  • 「確かな学力」を育成する上でも、このことは重要である。例えば、学習を進める上では、知的好奇心を働かせることや学ぶことの楽しさを味わうことが基本となるが、同時に、学習目標を設定してその実現のために忍耐力を持って粘り強く取り組むことも必要である。
  • 知的好奇心や夢を大切にしながら、学校生活や家庭生活・社会生活全体を通じて、子どもが実体験を重ね達成感を得ていく中で、人生や生活を前向きにとらえる姿勢や目標の実現に向けて努力を重ねる態度を身に付けさせたい。
  • 夢と現実とを結ぶためには、夢を目標に、目標を計画に具体化してそれを現実のものとする、そういう機会を学校の教育活動全体を通じて数多く経験させることが重要であるとの指摘がある。
  • また、夢と現実とが異なる場合に、現実を忌避するのではなく、自らがやるべきこと、やれることを誠実に行い、夢や目標に近づくために計画を立て少しずつでも前進する気持ちが大切であるとの意見もある。
  • 学習・生活の両面にわたって、目標を立て、それに挑戦し、試行錯誤を重ねながら、達成する体験を重視する必要がある。
エ 社会の変化への対応
  • 情報、環境、法や経済など様々な分野の教育内容について比較検討してみると、分野の違いはあれ、社会の変化の中で、自らの責任ということを十分自覚した上で、情報を獲得し、判断して、行動できる人材の育成を目指しているという点で変わりはない。こうした考え方は、「確かな学力」の育成や子どもの社会的自立で目指している学校教育改革の方向性と合致するものである。
  • したがって、各分野の基礎的・基本的な知識・技能は、必要性に応じて各教科の教育内容の中に位置付けることを検討する必要があるが、力の育成の面については、ねらいとするところは共通であり、どの分野のどのようなプログラムを用いるかは、各学校の判断に任せることが適当である。
  • また、学校教育の現状を考慮したときに、教育内容を増加させる方向だけでなく、時代の変化等により共通に指導する意義が乏しくなった内容については、見直しをする必要がある。
  • 情報教育については学校の教育活動全体を通じて取り組まれているところであるが、情報通信技術(ICT)の特性について十分留意しながら、発達の段階に応じた教育を推進することが必要である。特に、小学校・中学校段階における教育については、総合的な学習の時間の情報に関する学習、中学校の技術・家庭科、高等学校の情報科との関連を整理しつつ体系化し、その充実を図ることが必要である。
  • メディア・リテラシー(各メディアの働きを理解し、適切に利用する能力)の育成については、新聞・雑誌・テレビなどのマスメディアに多く接するだけでなくパソコン・携帯電話・インターネットなどメディアの普及・多様化が急速に進む中で、これらが言葉、コミュニケーション、マスコミュニケーションに大きな影響を与えていることから、各教科等の連携を図りつつ、学校教育活動全体を通じて指導の充実を図ることが必要である。
  • その際、例えば、小学校段階では、通常の話し言葉や書き言葉との違いを理解すること、使用に当たって自他を傷つけることのないよう十分注意させることなどについて指導すること、中学校段階では、抽象的思考、科学的理解ができるようになるので、各教科において、学習内容の進展に伴い、活用のための基礎を習得させることなどについて指導することが考えられる。
  • 環境教育については、社会科、理科、生活科、家庭科、技術・家庭科、総合的な学習の時間等の学校の教育活動全体を通じて取り組まれているところであるが、特に持続可能な社会の構築が強く求められている状況も踏まえ、エネルギー・環境問題という観点も含め、さらなる充実が必要である。
  • 科学技術教育、小学校段階の英語教育などについては、国際的な教育課程比較なども参考にしながら、その充実を図っていく必要がある。

2.具体的な教育内容の改善の方向

  • 文部科学大臣からは、教育内容の改善の観点として、「社会の形成者としての資質の育成」、「豊かな人間性と感性の育成」、「健やかな体の育成」、「国語力の育成」、「理数教育の改善充実」、「外国語教育の改善充実」という六つの観点が示された。
  • これらの観点については、各教科等ごとの専門部会において専門的な議論を行っている。

1)国家・社会の形成者としての資質の育成等

  • 教育の目的は、国民の人格の形成と国家・社会の形成者の育成にある。また、子どもたちの健やかな心と体の育成も重要な課題である。学校生活を通じて社会性や集団性を育成すること、健康で安全に生活できる能力を身に付けさせること、子どもたちの創造性や体力をはぐくむ教育活動の充実を図ることが必要である。
  • ここでは、今回の審議において具体的な手立てを講ずる必要があると考えられる、1子どもたちに身に付けさせようとする資質・能力の育成、2知識・技能の確実な定着、といった課題を軸に各教科等ごとに議論を行い意見を整理している。
ア 国家・社会の形成者としての資質の育成
資質・能力の育成
  • 自分たちの力でより良い国づくり、社会づくりに取り組むことは、民主主義社会における国民の責務である。また、大人の世代から子どもの世代へと文化や伝統を継承していくことは教育の重要な役割である。さらに、現代社会のグローバル化の進展を考えると、世界の地域的枠組みを踏まえて異文化を理解し国際貢献をすることのできる国際社会に生きる日本人としての自覚を育てることも重要である。
  • 日本人あるいは社会人としての素養を身に付ける必要がある。そのためには、我が国の伝統、文化、歴史に関する教育が重要である。これらは、我が国の伝統、文化、歴史の継承・発展の基礎である。
  • 少子化に伴う人口減少社会となる21世紀を生きる子どもたちには、例えば、自他の権利を尊重して義務を果たす、社会・国家・国際社会に積極的に参加し、その発展に貢献するなどの資質・能力を身に付けることが期待される。
  • 社会科、家庭科、技術・家庭科などの教科においては、社会や家庭生活を客観的な視点から理解するための具体的な資質・能力を育成することが求められる。例えば、家庭の一員として衣食住や消費、技術活用などの生活を自分で管理・工夫できること、身近な人々と協調性を持って責任ある行動をとることができること、子育ての大切さや親の役割を理解し行動できること、社会的な見方や考え方を身に付けること、各種の資料や新聞記事などから必要な情報を読み取ることができること、社会的事象について調べたり発表したりできること、自分の考えやその根拠を具体的・論理的に説明できること、などが重要である。
  • このような教育を通して、民主主義社会、経済社会、あるいは家庭、地域や学校の一員として主体的・文化的な生活を送るとともに、職業生活についての前向きな見通しを持ち、社会、国家、ひいては国際社会を理解し、そこに積極的に参加し貢献していく意欲を育てることが求められる。
  • 近年、ニートの問題など若者たちの社会とかかわろうとする意欲に低下が見られる中で、働くことに対する実感的な理解を深めることが大切であり、各教科等を通じて、協調性や責任感など他者とかかわる力の育成、社会生活の中での責任や勤労などの観念の理解・定着を図る必要がある。
  • 具体的には、小学校・中学校・高等学校を通じて、奉仕体験、長期宿泊体験、自然体験、文化芸術体験、職場体験、就業体験(インターンシップ、デュアルシステム)などの体験活動を計画的・体系的に推進することが必要である。特に、ニートの問題が指摘される中、キャリア教育の推進が求められている。例えば、中学校において5日間以上の職場体験を行う「キャリア・スタート・ウィーク」などを通じて社会や職業を体験させ、生活や人生の実感を持たせることが重要であり、このことが学習意欲の喚起や自尊感情の形成につながる。
  • 今日、子どもたちが社会の変化に主体的に対応できるようにするためには、情報、環境、法や経済などに関する教育の充実が求められている。また、科学技術教育については、理数教育の改善(後述)を図るととともに、科学が発達し様々な技術が活用される社会において、科学技術と社会との関わりについて、安全、リスク等の問題も含めて理解させること、ものづくりなどを通して技術を適切に評価し、管理できる力を育てることが重要である。
知識・技能の定着
  • 知識・技能の側面では、社会や家庭生活を客観的な視点から理解するための基礎的・基本的な知識・技能を身に付けることが必要である。
  • 国家・社会の成り立ちや機能、地域構成などを理解させるために必要な基本的な事項、例えば、都道府県の位置と名称や我が国の領土など国土の地域構成、主な国々の名称や世界の地域構成、我が国の産業や歴史の年代の表し方や時代区分、日本国憲法の基本的な原則などを確実に定着させることが重要である。
  • 衣食住の基礎的・基本的な知識、例えば、栄養素の基本的な働きなどを確実に定着させることや、技術を理解するために必要となる社会や環境との関係や技術の価値(知的財産等)などについて知ることも重要である。
  • 例えば、地図帳を用いて地名を検索できること、相手に応じた接し方ができること、法や社会のルールをしっかり守ることの重要性を認識すること、マナーの基本を理解し身に付けていること、日常の衣食住、情報機器や道具の適切な活用、家庭生活・経済生活に関する基本的な技能、特に食育の充実が求められる中で、食の重要性を理解し基本的な調理の技能を身に付けることなどが期待される。
  • 民主主義や法、自他の権利と義務、公正さといった基本的な概念について体験的に理解することが、実生活への活用を視野に入れた場合、特に重要であると考えられる。例えば、学校や学級での集団生活の中で、正義や公正さを重んじて身近なトラブルを解決していく態度や実践などが期待される。
  • 情報、環境、法や経済など社会の変化に伴って国家・社会の形成者として新たに必要とされる知識・技能の定着のための教育については、学校外の人材や学習機会を有効に活用し、各教科等の関係部分を相互に関連付けながら理解させることが重要である。
イ 豊かな人間性と感性の育成
資質・能力の育成
  • 社会の激しい変化の中で、子どもが、「豊かな人間性」を持ち感性を高めながら主体的に生きていくことができるようにすることが重要である。そのためには、社会の中で主体的に生きるための基本となる価値観や自主的・実践的態度を形成するとともに、豊かな情操を養う必要がある。
  • 子どもの実情を踏まえると、自他の生命を尊重し、学習や生活などに前向きに取り組む力を育てることを重視し、その前提となる健全な自尊感情や人間関係を築く力などを高めることが求められる。
  • 具体的には、幼児教育の段階から、人生や身近な人々との生活をより豊かなものとするために、集団活動を通して自分自身のよさや個性を見いだすこと、学びや生活の目標を立てたり、その実現に向けて粘り強く取り組んだりすること、弱いものいじめをしないなど他者を思いやる気持ちを持ったり、他者に感謝したり、協力したりする態度や実践が重要である。
  • 学校と家庭との連携を密にして、子どもに対して、「早寝早起き朝ごはん」など正しい生活リズムを持たせるなど、基本的な生活習慣を確立するとともに、社会生活を送る上で人間として持つべき最低限の規範意識を青少年期に確実に身に付けさせることが重要である。
  • あいさつや社会的マナー、他者の痛みを理解する心、感情を適切な方法で表現する力など人間関係を形成するために必要な力を育てるとともに、将来を見通して主体的に判断し、適切に行動できる能力を育てることが必要である。
  • また、自然や芸術、人間の気高い行動などのよさや美しさを子どもが感じ取ること、感じ取ったことを基に自分の思いや意図を持って言葉や歌、絵、身体などで創造的に表現することが求められる。
  • このような教育を通して、人生についての前向きな見通しや他者への思いやりを持って、身近な人々との豊かなかかわりを築くことができるようにすることが求められる。また、自然や美しいものなど人間の力を超えた崇高なものに対する畏敬の念を持つことも重要である。
  • 道徳においては、例えば、自尊感情を持って自分自身を大切にする「自助」、社会の中で助け合って生きる「共助」、そして充実した人生を実現するといった順序立てが必要なのではないか。人間の尊厳と自尊感情を基盤にして、主体的に自己実現をすることを重視する必要がある。
  • 自尊感情を肥大化させないようバランスが必要ではないか。人のものを盗んではいけないなど基本的な内容は、十分に教えることが大切である。健全な倫理観などの育成について発達の段階等を踏まえて、適切に指導内容を設定する必要がある。
  • 発達や学年の段階に応じた指導に関しては、心身の急激な変化の中でストレスを感じることの多い中学校期において、例えば、道徳の時間の取組と体験活動(特別活動等)とをより関連付けた指導などの充実が重要ではないかと考えられる。
  • 特別活動においては、生活を改善する話し合い活動、異年齢の集団活動、社会体験活動が重要である。その際、発達の段階に応じて内容を系統的に示すことが必要ではないか。キャリア教育で、好きなことを探すだけでは働く意欲に結び付かない面があるので、生きる力、働く力に結び付ける取組が必要と考えられる。
  • 音楽、図画工作、美術などにおいては、感性を高め、思考・判断し、表現するという一連のプロセスを働かせる力、主題を発想し、構想を立て、創意工夫をしながら創作活動を行ったり、作品を評価したりする力が重要である。
  • 一人一人の子どもが人間として成長・発達していく過程を大切にしながら、豊かな人生を形成していくために、想像力を働かせて自分の思いをかたちにしていくことが必要である。
  • 表現する楽しさや喜びを味わうことを通して、生涯にわたって音楽や美術などに親しむ態度を育成することが大切である。また、芸術文化のよさを味わったり、生活や社会に生かしたり豊かにしたりする態度や実践も重要である。特に、鑑賞は創造行為であり、自分なりの意味、新しい美、自分を発見するなどを大切にする必要がある。
  • 「豊かな人間性」や感性の育成については、例えば、算数・数学においてねばり強く考え抜くことによる達成感や自信が自尊感情をはぐくむ上で重要であるなど、各教科等を横断して、学校教育活動全体で自覚的に図っていくことが求められる。
     このことは、我が国の強みであるものづくりを支える緻密さへのこだわりや「もったいない」という考え方など日本人の伝統的な感性についても同様である。
知識・技能の定着
  • 人間や文化・芸術の美しさや尊さ、生命のかけがえのなさなどについては、単に事柄としての知識だけではなく、実体験を通して実感的な理解を持つ必要がある。
  • このため、例えば、乳幼児や人生の先輩たちと触れ合ったり、医師や看護師などから生命に関する話を聞く機会を持ったりすることが重要である。
  • 幼いころから国民が広く親しんでいる文章や詩歌を音読したり暗唱したり長い間親しまれてきたうたを歌ったり、自然や作品の形や色の美しさを感じたりするなどして実感を持って理解することが重要である。
ウ 健やかな体の育成
資質・能力の育成
  • 体育の分野においては、身に付けた身体能力や知識を基に、生涯にわたり運動やスポーツに親しむことができるようにすることが重要である。
  • 運動やスポーツに取り組もうとする意志などの態度、運動やスポーツにおける様々な動きや健康・安全に関すること、ルールや練習方法に関する工夫など、運動やスポーツに関する思考・判断を身に付けることが必要である。
  • 体を動かすことは、身体能力を身に付けるだけではなく、情緒面や知的な発達を促すことにも通じる重要なことである。
  • 保健の分野においては、健康や安全に関する情報を正しく判断し、知識を健康管理のための行動に結び付けるようにすることが重要である。
  • 健康の保持・増進や生活習慣に関する手立てを考え、状況に応じた対処方法や病気の予防手段を探し、医薬品等について知ろうとする心身の健康に関する関心・意欲・態度、環境悪化予防・改善活動に取り組もうとする環境と健康に関する関心・意欲・態度、危険予測・危険回避や自他の安全への配慮など安全に関する関心・意欲・態度を身に付けることが必要である。
  • このような教育を通して、生涯を通じて自らの健康を管理し改善していくこと、運動やスポーツに親しむこと、体力の向上に取り組むことなどが重要である。
知識・技能の定着
  • 体育の分野においては、基礎的な身体能力や知識を身に付け、生涯を通じて運動やスポーツに親しむことができるようにすることが重要である。
  • 例えば、瞬間的又は持続的に力を発揮したり、柔軟に体を動かしたり、巧みに体を動かしたりする身体能力、生涯にわたって運動やスポーツに親しむための基礎となる技能、運動やスポーツの意義や動き方・学び方などに関する知識、健康に生活するために必要な体力や安全に運動することに関する知識などを身に付けることが必要である。
  • 保健の分野においては、自他の命や健康を大切にし、生涯を通じてまた親として必要となる健康管理や安全に関する内容を理解することが重要である。
  • 例えば、身体機能や生活習慣、病気の発生要因と症状、喫煙・飲酒・薬物乱用の心身への影響等の心身の健康に関する知識・理解、環境や食品等の衛生的管理などの環境と健康に関する知識・理解、事件・事故等の発生要因や危険予測、避難方法や応急手当などの安全に関する知識・理解を身に付ける必要がある。
性教育
  • 学校における性教育については、子どもは社会的責任を十分には取れない存在であり、また、性感染症等を防ぐという観点から、子どもの性行為については適切でないという基本的スタンスに立ち、人間関係の理解やコミュニケーション能力を前提として、心身の機能の発達などの科学的知識、理性により行動を制御する力、自分や他者の尊重の心をはぐくむことなどが重要である。
  • 性教育は、体育・保健体育をはじめとする各教科等の指導の関連を図りながら学校教育活動全体を通じて取り組む必要がある。また、発達の段階を踏まえた指導内容の体系化を図ることが必要である。
  • また、教職員の共通理解を図るとともに、子どもの発達の段階を考慮すること、家庭・地域との連携を推進し保護者や地域の理解を得ること、集団指導の内容と個別指導の内容の区別を明確にすること等が重要である。
食育
  • 食育については、食事の重要性、喜びや楽しさ、心身の成長や健康の保持・増進の上で望ましい栄養や食事の摂り方を理解し自己管理していく能力、正しい知識・情報に基づいて食品の品質及び安全性等について自ら判断できる能力、食物を大事にし、食物の生産等にかかわる人々へ感謝する心、食生活のマナーや食事を通じた人間関係形成能力、各地域の産物、食文化や食にかかわる歴史等を理解し、尊重する心などを総合的にはぐくむという観点から、食に関する指導を行うことを「食育」としてとらえ、推進することが必要である。
  • さらに、学校での取組とともに、家庭、地域との連携を推進した取組を行うこと、給食の時間を食育の重要な機会の一つとして積極的に活用すること、関係する教科等における食に関する指導において、学校給食をより積極的に教材として活用すること、栄養教諭や学校栄養職員が関係する教科等における食に関する指導において積極的にかかわっていくことなどが重要である。

2)国語力、理数教育、外国語教育の改善

  • 義務教育答申では、国語力はすべての教科の基本となるものであり、その充実を図ることが重要であること、科学技術の土台である理数教育の充実が必要であること、グローバル社会に対応し、小学校段階における英語教育を充実する必要があるなどの指摘をしている。
  • ここでは、今回の審議において具体的な手立てを講ずる必要があると考えられる、1.基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着、2.子どもたちに身に付けさせようとする思考力(感性)・表現力等の育成、3学習意欲の向上や学習の実生活への関連付け、といった課題を軸に各教科等ごとに議論を行い意見を整理している。
ア 国語力の育成
知識・技能の定着
  • 国語力の育成には発達の段階に応じた指導が求められる。例えば、幼児期や小学校低中学年期において身体的・情緒的な活動と関連しつつ獲得するという特質があるので、そうした特質にかなう指導が必要である。
  • 小学校段階においては、読むことの力について体験的に身に付けるために、音読や朗読・暗唱が指導上有効であると考えられる。子どもが古典や名作に触れ我が国の言語文化に親しむ機会とすることも重要である。
  • 国語に関する知識を実生活において活用するために必要な技能として、描写、要約、紹介、説明、記録、報告、対話、討論などの基礎的な言語活動を行う力を確実に身に付けさせる指導の充実が望まれる。
  • 漢字の読み書きなどの基礎的な事項についても、その活用を視野に入れながら、反復学習など丁寧な繰り返し指導を通じて定着を図るとともに辞書を日常的に活用する習慣を身に付けることが重要である。
  • 例えば、義務教育修了段階までに常用漢字の大体が読め、そのうち1,000字程度の漢字が書けることなど、具体的な指標を設定することも考えられる。
思考力・表現力等の育成
  • PISA調査の読解力において低下傾向が見られる。具体的には、文章や資料の解釈、熟考・評価や、論述形式の設問に課題がある。
  • 教育課程実施状況調査についても、全体として正答率は高くなっているが、国語の記述式については低下するなどの課題が見られる。より詳細に分析すると、比較的自由に自分の気持ちを表現する設問については正答率が上昇しているのに対して、文章を深く読んで分析的に理解してその上で記述するという設問では正答率が下がっている。
  • 学力に関する調査結果を受けて、平成17年12月には、文部科学省において、「読解力向上プログラム」が取りまとめられた。このプログラムでは、PISA型「読解力」を向上させるために、1.テキストを理解・評価しながら「読む力」を高める取組の充実、2.テキストに基づいて自分の考えを「書く力」を高める取組の充実、3.様々な文章や資料を読む機会や、自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実が求められている。
  • 子どもの社会的自立のために必要な力として、国語力について考えると、「読むこと」と関連付けた形で、「書くこと」を充実していく必要がある。このため、例えば、文章や資料を読んだ上で、A4・1枚(1,000字程度)で自分の考えをまとめて表現することができる力を身に付けさせることなどが重要である。
  • 国語科を中核としながら、国語科以外の教科等と連携して、すべての教育活動を通じて、読む力や書く力などを育成していくプロセスを明確にした指導が求められる。例えば、各専門分野での調査研究ができるよう、自分で課題を設定したり課題を追究したりできること、読んだり聞いたりしたことを評価したり応用したりできること、などが考えられる。
  • 都市化や核家族化、情報メディアの発達の中で、子どもが集中力を持って相手の話を聞く機会が乏しくなっていることから、特に小学校低学年において相手の気持ちを理解しながら「聞く力」を育てる指導や、それを生かした「話す力」を育てる指導が重要である。
  • 国語教育は、我が国の文学や言語文化を継承・発展させるという大きな使命がある。文学や言語文化に親しみ、創造したり演じたりするのに必要とされる、読書、鑑賞、詩歌や俳句なども含めた創作や書写などの言語活動ができることが重要である。
学習意欲・学習習慣
  • PISA調査によれば、趣味として読書をする子どもが諸外国に比べて少ないとの結果になっているところであるが、上記の力の基礎を育てるためには、幼少期からの読書習慣を確立し、様々な文章や資料を読む機会を充実することが求められる。そのため、朝の読書など読書活動の推進を図るとともに学校図書館の充実を図ることなどが必要である。
イ 理数教育の改善
知識・技能の定着
  • 算数・数学については、「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS調査)の中学校数学で前回よりも平均点が低く、教育課程実施状況調査の中学校数学で前々回の同一問題との比較で正答率が低い問題が多い。
  • 算数・数学における数や計算、図形などの基礎的・基本的な知識・技能は、国語力と同様、生活や学習の基盤となるものであることから、具体物を用いた実感的な理解、実生活への活用を考慮に入れつつ、反復学習など丁寧な繰り返し指導により確実に定着させることが必要である。
  • 図形についての直観的な理解については、適切な段階で適切な題材を取り上げる。また、実生活との結び付きが深い統計などについては、指導を充実する必要がある。
  • また、算数・数学においては、内容の理解をより深めるために、問題を解決した後、その過程を振り返ったり、問題を発展させたりすることが大切である。
  • 理科については、TIMSS調査の小学校理科において実体験が裏付けとなっている設問において正答率が低いものが見られる。
  • 我が国の子どもが、自然事象に接する機会が乏しくなっている状況を踏まえて、自然事象についての体験的な理解を重視する必要がある。例えば、幼稚園段階や小学校低学年においては、身近な動植物へのかかわりなどが重要である。
  • 小学校低学年の生活科は、体験的・実感的な理解を重視しており、子どもの自然現象への興味・関心を高めることにつながっているとの意見がある。今後は、中学年以降の理科の学習を視野に入れて、子どもが自然事象について、知的好奇心を高め科学的な認識の基礎を養うことができるよう必要な指導を充実することについて検討する必要がある。
  • 国民の科学に対する関心が低いことを踏まえ、理科教育については生涯にわたって、科学に関心を持ち続けられるようにするという観点から、見直す必要があるのではないかとの意見があった。その際、物理・化学・生物・地学の基礎、とりわけ共通の基礎となる内容の設定を含め、引き続き検討する必要がある。
  • 理科に対する国民的な理解を高めるためには、子どもの知的好奇心を駆り立てる内容、実生活に密着した内容で組み立てることができないか、科学史上の著名な発見や原理などについて理解させることが必要ではないかと考えられる。
  • 理科の内容については、例えば、生命科学などの近年急速に進展した内容を考慮して教育内容を見直す必要があるのではないかとの意見があった。
  • 我が国は北から南まで様々な自然の特性があることから、理科において、地域の特色を生かした取組や生活と密着した取組を一層推進することが重要である。
  • 算数・数学や理科については、教育内容が積み上げ型になっているが、小・中・高等学校を通じての内容面・能力面での系統性を重視する必要がある。その際、学問的な系統性だけでなく、発達や学年の段階に応じた反復(スパイラル)の中で確実に定着させることができるよう教育内容の工夫を行うことが必要である。また、算数・数学と理科相互の内容的な関連性についても考慮する必要がある。
思考力・表現力等の育成
  • PISA調査の科学的活用能力、数学的活用能力は国際的に見て上位水準にあるが、数学的活用能力は低下傾向にある。数学、理科のいずれも、解釈を要する設問、自分の考えや根拠を明らかにして論述する設問に課題があるとされている。
  • 現行学習指導要領においても、算数・数学の学習で身に付けた知識・技能を活用することは目標として設定しているが、PISA調査の数学的活用能力の結果に見られるように、身に付けた知識や技能を実生活に活用する力は十分に育っているとはいえない。
  • 算数・数学においては、数量や図形についての豊かな感覚を育て、実感を伴った理解を深めたり、生活へ応用したりできるようにするのが大切である。
  • 算数・数学においては、作業的・体験的な活動を通じて、事象の中に潜む関係を探り規則性を見いだしたり、これを分かりやすく説明したり一般化したりするなどの算数的活動・数学的活動をより一層充実し、数学的な見方、考え方を育成する必要がある。
  • 理科においては、見通しや目的意識を持った観察、実験を通して探究的な活動を一層充実し、科学的な思考力を育成する必要があり、そのための条件整備が重要である。
  • 算数・数学においては、小数や分数の計算の意味、関数や確率について、理科においては、粒子やエネルギーなどの基本的な概念について、実生活と関連付けたり、体験したりして理解することが重要である。また、様々な数量的なデータを分類整理し比較したり、グラフ化したりすること、仮説を立てて実験し評価し改善することなど、実感を伴って理解し、論理的に思考し適切に表現する力を、国語力の育成とも関連させながら確実に育成することが重要である。
学習意欲・学習習慣
  • PISA調査では、数学で学ぶ内容に興味がある生徒が国際平均値より低く、TIMSS調査では、数学や理科の勉強を楽しいと思う生徒の割合が国際平均値より低かった。実生活と関連付けた指導の充実を図るなどして、算数・数学や理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会を持たせることが重要である。
  • 算数的活動、数学的活動の楽しさや数学的な見方や考え方のよさを具体的に示すことなどで、算数・数学を学習することの意義を子どもが実感できるようにすることが大切である。また、理科においては、自然に親しむための体験的な活動や観察、実験、ものづくりなどの活動の一層の充実を図り、子どもの興味・関心を高めることが必要である。
ウ 外国語教育の改善
知識の定着
  • 教育課程実施状況調査において、英語を理解するための基本的な語彙や構文などが一部定着していないとの結果が示されている。
  • 今後は、発信力が重視されるので、基本的な語、連語及び慣用表現の意味と使い方が分かることなどといった基礎的・基本的な知識を定着させることが必要である。
技能の定着
  • 教育課程実施状況調査では、全体として聞くことは良好である。一方、話すことについては、全体として抵抗感はなくなってきているが、英語が使えるというレベルでは必ずしも十分でないのではないか。
  • 簡単な表現を用いて外国語によるコミュニケーションを図れることなど、外国語の習得という観点から、基本的な英語の音声の特徴をとらえ、正しく聞き取り発音することができることなどの技能を確実に定着させる必要がある。
  • また、教育課程実施状況調査では、書くことが良好ではなく、特に内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分身に付いていない。このため、文字や符号を識別し、正しく読み、書くことができることを確実に定着させることはもとより、文レベルでなく文章レベルの訓練が必要ではないか。
理解力・表現力等の育成
  • 事実関係の伝達、物事についての判断、様々な意見等についてコミュニケーションを図れることが重要であり、コミュニケーションのツールとしての英語を使った発信力が重要である。
  • 例えば、1分間150語程度の速さの標準的な英語を聞き取ることができること、与えられたテーマについて1分間程度のスピーチができること、300語程度の英語を読んで概要をとらえることができること、与えられたテーマについて、短時間で5文程度のまとまりのある英文を書くことができることなど、具体的な到達水準を設定して、理解力・表現力等の育成を進めていくことが考えられるのではないか。
関心・意欲・態度等
  • 教育課程実施状況調査においては、英語が大切だ、普段の生活や社会に出て役立つと考えている生徒は、他の教科に比べて多いのに対して、授業がわからなくなる生徒の割合が他の教科より高い傾向にある。
  • 学ぶ意欲を高めるためには、例えば、自分の考え方や文化・生活を相手に伝える言葉としての英語との位置付けを明確にしてはどうか。また、ディベートなどで生徒の問題意識を掘り起こすことが、読んだり書いたりすることの意欲を引き出すことにつながったり、英語は手段だという体験になったりする。
  • 英語の学習に当たっては、世界や我が国の生活や文化についての理解、様々な言語や文化に対する関心、国際社会に生きる日本人としての自覚を養うことが重要である。
英語以外の外国語教育
  • 高等学校を中心に外国語教育の中で中国語など英語以外の外国語を開設している学校もある。国際社会に生きる日本人の育成のためには、アジア諸国等とのコミュニケーションを促すという観点から外国語教育の在り方を検討することも必要である。
小学校段階における英語教育の充実
  • 国際コミュニケーションの観点から、我が国においてもインターネットの普及などによって英語でコミュニケーションを図る機会は増えるなど英語の必要性はますます高まることが予想されるが、国民の英語運用能力は国際的に見て十分でなく、英語教育の充実が必要である。
  • 最近の子どもたちは、テレビを通じて外国人や異文化に対する抵抗は少ないように思える。映像を活用することにより楽しく学ばせることも考えられる。
  • 例えば英語を聞く力や話す力を高める上で、英語活動を通じて小学校段階の子どもの柔軟な適応力を生かすことが有効ではないか。特に、小学校段階では、聞く力を育てるということが重要ではないか。
  • 国語力や我が国の文化の育成という点に十分留意して検討する必要がある。英語を学ぶことで、異文化理解だけでなく、国語や我が国の文化についてもあわせて理解を深めることができるよう、検討する必要がある。
  • 現在、総合的な学習の時間などを活用した小学校段階の英語活動は約9割の学校で実施されており、例えば第6学年では年間約13単位時間(1単位時間は45分)程度の教育活動が行われているものの、必ずしも十分な成果が上がってないところも見られるのではないか。
  • 構造改革特別区域等において、教科として英語教育を実施している公立小学校も増えつつある。
  • 義務教育に関する意識調査等においても保護者や自治体関係者から充実を求める声が強い。国際的にも、EUにおけるフランスや、中国・韓国など近隣アジア諸国を含めて、国家戦略として、小学校段階における英語教育を実施する国が急速に増加している。
  • このような状況の中で、国としては、義務教育答申で既に提言しているとおり、小学校段階における英語教育を充実する必要がある。
  • このため、外国語専門部会においては、義務教育として教育の機会均等を確保するため、仮にすべての学校で共通に指導するとした場合の指導内容を明らかにするため必要な検討を進めている。これまでの審議状況は次のとおりである。
  • 検討に当たっては、小学校英語を実施するに当たって指摘されている課題、例えば、国語力の育成との関係、中学校・高等学校の英語教育との関係はどう整理するのか、条件整備の面での課題などを念頭において、検討を進めている。
  • これまでの審議では、小学校における英語に関する教育の内容として、
    1. 小学校段階では、音声やリズムを柔軟に受け止めるのに適していることなどから、音声を中心とした英語のコミュニケーション活動や、外国語指導助手(ALT)を中心とした外国人との交流を通してスキル面を中心に英語力の向上を図ることを重視する考え方(英語のスキルをより重視する考え方)
    2. 小学校段階では、言語や文化に対する関心や意欲を高めるのに適していることなどから、英語や国語を通じて言語や文化に対する理解を深めるとともに、ALTや留学生等の外国人との交流を通して、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、国際理解を深めることを重視する考え方(国際コミュニケーションをより重視する考え方)が示されている。
  • 1の考え方については、例えば、スキル面の高まりはある程度期待できるが、小学生にとっては実際にスキルを活用できる場面は限られていることから、多くの子どもにとって、中学校に入学するまで英語に関する興味・関心を持続することができにくいのではないかといった懸念がある。
  • 2の考え方については、中学校・高等学校における英語教育を視野に入れた英語教育の基盤となる力を養うことができること、グローバル化社会の中で求められる国際コミュニケーション能力の育成や学習意欲の継続、国語力との調和という点では優れているが、コミュニケーションを図ろうとする態度や国際理解は、客観的に測定したり検証したりすることが難しく、その成果が見えにくいという懸念がある。
  • 中学校・高等学校での英語教育を見通したとき、まずは、英語を学ぶための動機付けが重要であることから、2の考え方を基本とすることが考えられる。言語やコミュニケーションに対する理解を深めることは、国語力の育成にも資するのではないかとの意見も示されている。この場合においても、1の側面について、小学生の柔軟な適応力を生かして、聞く力を育てることなどは、教育内容として適当と考えられる。
  • この点については、今後更に検討することが必要であるが、この1と2の考え方のいずれを重視し、どのように組み合わせるかによって、具体的な教育目標や内容が設定されることとなる。
  • 一方、教材、指導者、ICTの利活用方策等の条件整備も重要な課題である。この点については、具体的な教育目標や内容、教育課程上の位置付け(教科とするか、総合的な学習の時間の一環とするかなど)、開始学年、実施時期等とも関連する事項である。
  • これまでのところ、外国語専門部会では、例えば、指導者については、当面は、現職教員に対する研修プログラムを開発・実施する必要があること、ALT、留学生、英語に堪能な地域の人材やICTなどをそれぞれの特性に応じて利活用することが効果的であることなどの意見があり、更に具体的に検討を進める必要がある。
  • これらの課題については、専門的・多角的な検討を要するため、外国語専門部会において、専門家や関係者の意見を聞きながら検討を行っている。外国語専門部会においては、国語力の育成等の課題にも十分配慮しつつ、小学校における英語教育を充実するための具体的な方策について、審議を進めている。外国語専門部会では、本年度中を目途にこの点に関する審議の状況を整理し、教育課程部会に報告することとしている。

3)総合的な学習の時間などの改善

 ここでは、総合的な学習の時間の改善、中学校における選択教科、部活動の扱いについて、議論を行い意見を整理している。

ア 総合的な学習の時間の改善
創設の趣旨及び現状
  • 総合的な学習の時間を創設した趣旨については、平成10年7月の教育課程審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について(答申)」において、「各学校が地域や学校の実態等に応じて創意工夫を生かして特色ある教育活動を展開できるような時間を確保すること」であり、また、「自ら学び自ら考える力などの[生きる力]は全人的な力であることを踏まえ、国際化や情報化をはじめ社会の変化に主体的に対応できる資質や能力を育成するために教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習をより円滑に実施するための時間を確保すること」であるとしている。
  • 総合的な学習の時間のねらいについては、同答申では、「各学校の創意工夫を生かした横断的・総合的な学習や児童生徒の興味・関心等に基づく学習などを通じて、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることである。」としている。また、「情報の集め方、調べ方、まとめ方、報告や発表・討論の仕方などの学び方やものの考え方を身に付けること、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育成すること、自己の生き方についての自覚を深めることも大きなねらいの一つ」としている。これらを通じて、「各教科等それぞれで身に付けられた知識や技能などが相互に関連付けられ、深められ児童生徒の中で総合的に働くようになる」ことを目指している。
  • 総合的な学習の時間については、義務教育答申では、「大きな成果を上げている学校がある一方、当初の趣旨・理念が必ずしも十分に達成されていない状況も見られる。また、「義務教育に関する意識調査」の結果によると、総合的な学習の時間については、全体として評価が高いが、小学校と中学校では教師、保護者、子どもの意識や評価に差があることが明らかになった。」と分析している。
  • その上で、「思考力、表現力、知的好奇心や自分で考える力などを育成する上で総合的な学習の時間の役割は今後とも重要であるが、同時に、授業時数や具体的な在り方については、各教科等との関係を明確化するなど改善を図ることが適当である。その際、全国的に一律に定めるのか、学校の裁量による弾力的な取扱いができるようにするのかなどを考慮する必要がある。」としている。
  • さらに、「学習が効果的に行われるよう、学校に対する支援策を充実することが必要である。さらに、総合的な学習の時間の充実のためには、学校外の人材の協力と地域との連携が重要である。」と指摘している。
  • 教育課程部会及び専門部会においては、例えば、「課題発見能力や課題解決能力など見えない学力をはぐくむためにも重要である」、「自分の生き方を見つめさせることが重要である」、「地域の特色に応じた課題に取り組むことにより、地域の潜在力が引き出されている」などの意見が数多く示され、総合的な学習の時間の必要性や重要性については、共通理解が得られている。
支援策等
  • 一方で、「義務教育に関する意識調査」の結果やスクールミーティングでの意見等を踏まえ、準備・計画の負担が重い、教科の時間とのバランスを考慮すべきとの意見が目立った。現状のままでは、そのねらいとするところを達成することが必ずしも容易でないことから、講ずるべき所要の手立てについて議論を行っている。
  • 専門部会においては、例えば、各学校における実態に差があるとの状況を改善するためには、子どもに身に付けさせたい具体的な力を明らかにするため、各学校における実践を踏まえつつ、総合的な学習の時間のねらいの明確化や学習活動等の示し方について検討する必要がある。
  • 総合的な学習の時間については、各学校において、例えば、
    1. 国際理解、情報、環境、福祉・健康等の教科横断的な学習
    2. 子どもによる課題設定と調査研究、作品製作、学習成果の発表会等の学習
    3. 自然体験、職場体験、奉仕体験等の学習
    などが行われている。
  • 上記1については、国際理解、情報、環境、福祉・健康など特定の領域の教育について、関連する教科の内容との関係を整理する必要がある。
  • 上記2については、子どもの主体性をはぐくむ上で重要な学習であるが、中学校の選択教科の学習との重なりを指摘する意見があるので、両者の関係を整理し、検討することが必要である。
  • 上記3については、子どもの個性を伸ばし、主体性や自立性を高め、目標に挑戦する力を育てていく上で重要な役割を果たすものである。特に、学習面では、課題探究型の学習と結び付くことで、学習意欲の向上にも資するものと考えられる。
     その一方、特別活動との関係を整理することが必要である。
  • 総合的な学習の時間は、本来、学校の裁量を拡大するとのねらいがあるのであり、授業の準備を含めて現場での実践が容易ではないことは理解するが、徐々に定着しせっかく良い芽が育ち始めているということもあり、各学校や教員にもう一段の創意工夫を求めたいとの意見も強く示されている。
  • しかし、その場合であっても、優れた先進事例の情報提供やコーディネートの役割を果たす人材を育成・確保する、地域や教育委員会の支援システムを構築するなどの支援策を講じることが必要である。
  • 平成18年度政府予算案でも、学校におけるコーディネーターを育成するための研修会の開催経費その他が盛り込まれているが、国及び自治体のそれぞれの段階において、具体的な支援策を積極的に進めていく必要がある。
  • また、小学校・中学校・高等学校の連携を求める意見も多く指摘された。小学校においては、どちらかと言えば、体験的に理解することに中心が置かれ、中学校・高等学校と発達の段階が上がるに従って、主体性を重視することとなるが、地域によっては、同じ題材が繰り返されることがあることから、子どもたちの発達の段階を踏まえた連携の必要性について意見が出されている。
  • なお、子どもの主体性を重視するという観点から、総合的な学習の時間における学びの足跡を学習ファイルや作品、卒業論文として残していくことを心掛けなければならないといった意見もあった。
  • 総合的な学習の時間の授業時数については、教科等との関係の整理、具体的な支援策の動向等も踏まえつつ、総授業時数及び各教科等の授業時数について全体として見直す中で検討することが必要である。
イ 中学校における選択教科
  • 中学校における選択教科は、各学校の主体的な判断により生徒の特性等に基づく多様な学習活動を幅広く展開できる時間として、総合的な学習の時間と並んで、例えば第3学年においては105から165単位時間(週当りで3から4.7単位時間。1単位時間は50分)位置付けられている。
  • 選択教科については、創意工夫により生徒に対してその興味・関心、能力・適性等に即した多様な学習機会を提供している学校も見られるが、「義務教育に関する意識調査」においても、教員で選択教科などで学習内容の選択幅を広げることに賛成(「賛成」、「まあ賛成」の計)なのは24.3パーセントに過ぎないなど選択幅を広げることに消極的である。
  • 教育課程部会においては、限られた時間数の中で教育課程が複雑になるとそれぞれが薄くなってしまうので、必修教科を重視し、時間を掛けて徹底すべきなど、時間数の在り方を工夫すべきとの意見があった。他方で、選択教科の子どもの選択能力の育成という趣旨を踏まえる必要があるとの意見が出されている。
ウ 部活動の取扱い
  • 部活動は、主として放課後に、特に希望する生徒によって行われる活動であり、学校において計画する教育活動として位置付けられている。
  • 部活動については、部活動がこれまで中学校教育において果たしてきた意義や役割を踏まえ、部活動を学習指導要領に位置付ける方向で検討すべきとの意見が出されている。これについては、今後引き続き検討を行うこととしている。

(2)教育課程の枠組みの改善

1.指導方法、授業時数の見直し等

  • ここでは、指導方法の改善と、授業時数の見直しについて議論を行い、意見を整理している。

ア 指導方法の改善

  • 「確かな学力」を育成するためには、従来の一斉指導の方法も重視することに加えて、子ども一人一人のよさや可能性を伸ばし、個性を生かす教育の一層の充実を図る観点から、習熟度別指導や少人数指導、発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的かつ適切に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれる。
  • 基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させるため、その基本的な意味を押さえた上で、反復学習などの丁寧な繰り返し指導、個に応じた指導としての補充的な学習を行うことが重要である。
  • また、知識・技能の活用力を定着させるためには、個に応じた指導としての発展的な学習、問題解決型の学習(ここでは、既得の知識・技能を活用することで所定の問題を解決する学習をいう)などを行うことが重要である。
  • さらに、個々の子どもの学習状況を十分に勘案しながら、課題探究型の学習(ここでは、調べ学習や実験・観察、調査研究などにより課題を発見したり、解決したりする学習のことをいう)などを行うことが重要である。
  • 落ち着いた気持ちで授業に臨むことなど、学習に対する基本的な姿勢を身に付けることも重要である。特に、小学校低学年の段階での習慣付けのための工夫が求められる。
  • 学習意欲や学習習慣を高めるため、家庭での学習課題(宿題や予習復習)を適切に課し、家庭と連携した学習習慣を確立することが必要である。
  • また、こうしたきめ細かな学習を支える仕組みとして、ICTなどの活用も十分考慮されなければならない。
  • 「確かな学力」を育成するためには、学習目標の設定、学習評価の在り方についても、家庭や社会との連携方策、学校外の活動の評価方法などを含めて、検討を深める必要がある。
イ 授業時数の見直し
  • 我が国の小学校・中学校等の授業日数は約200日間であり、諸外国と同様に、学校週5日制を実施していることから国際的な状況と同水準である。また、在校時間は、小学校4年と中学校2年との比較では国際的に遜色ないが、授業時数については、国際平均より短い状況にある。
  • 授業時数の在り方については、各教科等の教育内容について、子どもに求められる教育内容をどのように設定するかが、議論の前提となる。
  • 国語力や理数教育については、充実が必要であり、全体の見直しの中で、授業時数の在り方についても具体的に検討する必要がある。
  • 各教科等の授業時数の在り方については、専門部会の議論を踏まえつつ、教育課程部会において、各教科等を見渡した立場で総括的に審議を行うこととする。
  • また、授業時数の在り方については、その量的な側面だけでなく、各学校における教育活動の創意工夫により、効果的な学習指導ができるよう、その弾力的な運用等についても検討する必要がある。
  • 現在、各学校では、例えば、朝の10分間などを活用して、学習習慣の確立といった観点から、読書活動、音読、計算のドリル学習などが行われている。こうした標準授業時数の枠を超えた学習活動について、国の基準上の取扱いについて検討する必要があるとの意見が示されている。
  • 現在は標準として定められている授業時数の扱い、学年ごと教科ごとに示されている授業時数の示し方について、柔軟化することも検討する必要がある。この点については、後述する。
  • 総授業時数の在り方については、教育内容の見直し、各教科等の授業時数の在り方とあわせて、検討することとする。その際、特に、小学校低学年については、幼児教育における預かり保育等の実態を考慮して、在校時間や授業時数の在り方を検討することが必要であるとの指摘がある。
  • 授業時数の在り方については、子どもや学校の実態、社会の要請等を十分把握しつつ、専門的・実証的に検討を行う必要がある。

2.発達や学年の段階に応じた教育課程編成や指導の工夫

  • それぞれの学校段階の役割の基本については、先述の平成10年7月の教育課程審議会答申において次のように整理されている。
    • 幼稚園においては、幼児の欲求や自発性、好奇心などを重視した遊びや体験を通した総合的な指導を行うことを基本とし、人間形成の基礎となる豊かな心情や想像力、物事に自分からかかわろうとする意欲、健全な生活を営むための必要な態度の基礎を培い、小学校以降の生活や学習の基盤を養うことが求められていること。
    • 小学校においては、個人として、また国家・社会の一員として社会生活を営む上で必要とされる知識・技能・態度の基礎を身に付け、「豊かな人間性」を育成するとともに、自然や社会、人、文化など様々な対象とのかかわりを通じて自分のよさ・個性を発見する素地を養い、自立心を培うことが求められていること。
    • 中学校においては、義務教育の最終段階として、また、中等教育の前期として、個人として、また、国家・社会の一員として社会生活を営む上で必要とされる知識・技能・態度を確実に身に付け、「豊かな人間性」を育成するとともに、自分の個性の発見・伸長を図り、自立心を更に育成していくことが求められていること。
    • 高等学校においては、義務教育の基礎の上に立って、自らの在り方生き方を考えさせ、将来の進路を選択する能力や態度を育成するとともに、社会についての認識を深め、興味・関心等に応じ将来の学問や職業の専門分野の基礎・基本の学習によって、個性の一層の伸長と自立を図ることが求められていること。
  • このようなそれぞれの学校段階の役割の基本は変らないものと考えられるが、例えば、いわゆる小1プロブレムが指摘される中で、幼児教育と小学校教育の具体的な連携方策を教育課程上明確に示すべきとの意見が出されている。就学前の段階で子どもに育つことが期待される力は何か、また、それが十分でない場合には、小学校はどのように指導に当たるべきか、あるいは接続を円滑にするためにどのような指導をすべきか具体的に議論を進める必要がある。
  • また、小学校と中学校との接続については、例えば、不登校や暴力行為などの発生件数が小学校第6学年と比べ、中学校第1学年で飛躍的に増加するなどの問題がある。また、研究開発学校の調査によれば、小学校の中学年から高学年にかけて、子どもの自己理解や人間関係に関する考え方が大きく変化するとの結果も示されている。
  • 教育課程部会や教育課程企画特別部会では、子どもの発達や学年の段階については、個人差はあるものの、一般的に小学校の低学年までは主として具体的な活動を通して認識し、中学年から高学年にかけて徐々に物事を対象として抽象的に認識可能になるといった意見が多く出された。
  • このような観点からは、様々な事情や背景を抱えている子どもがおり、発達の段階の違いがあることも十分配慮した上で、個々の子どもの状況も踏まえながら、例えば、小学校低学年から中学年までは、体験的な理解や具体物を活用した思考や理解、反復学習などの繰り返し学習といった工夫による読み・書き・計算の能力の育成を重視し、中学年から高学年にかけて以降は、体験と理論の往復による概念や方法の獲得や討論・実験・観察による思考や理解を重視するという指導上の工夫が一層可能なように教育課程を編成する必要がある。
  • 教育方法の面において、小学校高学年における教科担任制について検討することが必要である。その際、中学校の教員が小学校で指導に当たることについても、小中連携の充実という観点から積極的に検討する必要がある。

3.学校週5日制の下での学習機会の拡充

学校週5日制の下での学校と家庭・地域の具体的連携策

  • 義務教育答申では、学校週5日制について、「学校、家庭、地域の三者が互いに連携し、適切に役割を分担し合うという基本的な考え方は今後も重要であり、それを基本にしつつ、地方や学校の創意工夫を生かすことについて、今後さらに検討する必要がある。その際、特に、学校、家庭、地域の協力・共同の取組をこれまで以上に強化するための方策、土曜日や長期休業日の有効な活用方策等を更に検討する必要がある。」としている。
  • 教育課程部会では、学校週5日制については、学校、家庭、地域の三者が互いに連携し、役割分担しながら社会全体で子どもを育てるという基本理念の下、社会全体の週休2日制の導入とともに、長い時間を掛けて段階的に導入された社会システムであることを前提として議論が行われた。
  • 家庭や地域の教育力の現状にかんがみ、隔週で土曜日を活用したり、高等学校は区別してはどうかとの意見もあったが、「学校週5日制のねらいとするところを大切にすべきである」、「地域や自治体の取組が実を結び始めている」などの意見が示され、学校週5日制は、国の仕組みとしてこれを維持すべきとの意見が大勢であった。
  • 本報告においてこれまで記してきたように、子どもたちに「確かな学力」を身に付けさせることは重要な課題である。このため、教育課程部会においては、教育内容の充実や授業時数の在り方の見直しについての具体的な検討を進めている。
  • しかしながら、同時に、こうした学力の問題の背景には、子どもたちの学習意欲の問題が指摘されている。また、高等学校や大学を卒業しても、学んだり働いたりする意欲を持てない若者が存在するという現実もある。
  • 「確かな学力」を育てるとともに、「豊かな心」や「健やかな体」をはぐくみ社会的自立を推進すること、個性を生かし主体的に目標に挑戦する力を育てることは、21世紀の国民を育てる教育の重要な使命であり、調和の取れた形でこれを実現しなければならない。
  • 学校週5日制の現状については、必ずしもこうしたねらいが達成されていないとの状況も見られるが、学校週5日制の下で、家庭や地域において、大人が子どもに正面からかかわる仕組みをどのように構築していくか、具体的に検討していくことが必要である。
  • 各地域においては、学校、家庭、地域の三者の連携・協力を進めることにより、体験的な学習や地域の人材の活用が様々な形で進められている。
  • 家庭や地域におけるこうした主体的な取組を全国的なものとして広げていくことが必要であり、その際、例えば、異年齢の子どもたちの交流、保護者(特に、父親)の参加、地域の大学との連携、実業団のスポーツ選手との交流などの重要性を指摘する意見が示されている。
  • こうした地域での活動を支援するため、土曜日に行われる子どもの自主的・自発的な学習活動(探究的な学習、体験活動など)については、そのうち、学校教育活動と同等の成果があると判断されるものについては、地域の主体的な取組(学校外の学習活動)であっても、学校の学習評価において、積極的に評価することも考えられる。
  • 学校週5日制の下での長期休業日の取扱いについては、「確かな学力」を定着させるための指導時間の確保という観点から、一部の地域において、夏休みなど長期休業期間を授業日に充てる取組が行われている。
  • こうした長期休業の活用を促進するため、例えば、サマースクールなどの形式で補充的な学習や発展的な学習などを選択的に行うことができるような柔軟な授業形態を導入することも考えられる。
  • 学校週5日制の下での土曜日や長期休業日については、家庭や地域社会との連携を促進する方向で、学校外の学習活動に対する評価の在り方を含め、活用方策を検討することが必要である。

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