○ 教職大学院においては、学部段階における教育実習をさらに充実・発展し、実践的な指導力の強化を図る観点から、10単位以上、「学校における実習」を含めることとし、教職としての一定の実務経験を有する学生については、入学前の教職経験を考慮し、10単位の範囲内で教職経験をもって当該実習とみなすことができるようにすることが適当である。
○ 学部段階における教育実習の内容は、ともすれば授業実習に偏りがちであり、この点について、平成9年の教育職員養成審議会第一次答申においても指摘している。
特に教職大学院における実習においては、附属学校や実習協力校等との連携を密にし、学校運営、学級経営、生徒指導、教育課程経営をはじめ学校の教育活動全体について総合的に体験し、考察する機会とする必要がある。
○ 学校段階における教育実習は、教員として最小限必要な資質能力を養成する課程の実習である一方、教職大学院における「学校における実習」は、単に学部段階における教育実習の延長ではなく、これを通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級経営等の課題や問題に関し自ら企画・立案した解決策を実験的に体験・経験することにより、自ら学校における課題に主体的に取り組むことのできる資質能力を培うものであることが必要である。
特に現職教員である学生については、実習は、自らの教育実践とは異なる実践を客観的に観察し、体験・参画することにより、自らの実践を相対化し、その上で教職大学院においてさらに伸ばすべき自らの資質能力の研究・育成を計画する機会となる。
担当教員(大学教員)の指導のもとで実習を行うことにより、学生は、理論と実践の融合の意味と意義を実感し、いわば理論知と実践知に変換する資質能力を獲得することが期待される。
○ 学部段階における教育実習は、未だ免許状を持たない学生の卒業前の実習であるのに対し、教職大学院における「学校における実習」は、教職経験の有無を問わず、免許状を有する者による実習であり、この点においても異なる。免許状を持った者が、教員の指導の下、一定期間計画的・継続的に学校教育活動に参画するものであり、当該学校における教育活動に寄与することも期待できる。特に、現職教員である学生の実習であれば、自己の資質能力を高めることにより学校教育を向上させることに熱意と意欲ある教員が当該実習校における教育に参画することにより、学校にとっても教育活動を支える一員として期待される。
教職大学院における「学校における実習」は、単に学部段階における教育実習の延長ではなく、その教育実習を通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、一定程度長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級経営等の課題や問題に関し自ら企画・立案した解決策を学校において実験的・実証的に体験・経験することにより、自ら学校における課題に主体的に取り組むことのできる資質能力を培うものである。つまり教職大学院における実習は、明確に高度に専門的な実務実習であることが必要である。
担当教員(大学教員)の指導のもとで実習を行うことにより、学生は、理論と実践の架橋・往還・融合の意味と意義を実感し、いわば理論知を実践知に変換する資質能力を獲得する。
特に現職教員学生については、実習は、自らの実践とは異なる教育実践を客観的に観察し、あるいは特定課題に関わる学校での実務を主体的に担うことなどを体験・参画することにより、自らの教育実践を相対化し、その上で教職大学院においてさらに伸ばすべき自らの資質能力の研究・育成を計画する機会となる。
なお、実習が学生の資質能力の向上に資するものになることは当然であるが、他方教職大学院における実習は、教職大学院と実習校との密接な連携のもと、学校現場における現状を前提として明確化されたテーマ・目的等に向けて計画され実施されるものであることから、その実施を通して、大学における教育・研究の展開にとっても意味のあるものになることが期待される。
教職大学院の実習の時期とタイプは、各大学のカリキュラムにおける位置づけ、地域的な条件、学生全体の構成上の特徴、学生個々の学習計画の特色等により様々なタイプが考えられる。
タイプ別に分類すると、以下のようになる。
実習校は多くの場合連携協力校となると考えられるが、実習を行う学生への指導体制、及び実習に関する教職大学院との連携体制など、十分な指導体制が取れる学校とすることが不可欠である。
このため、具体的にどの学校を実習校とするかについて、
などが考えられる。
特に、当該学校における実習が、学生の資質向上に資するものであることは当然として、それのみならず当該実習校の研修や研究開発にとっても有意なものとすることが望ましい。このため、例えば設置者の協力を得つつ、研究指定校やモデル校等に指定されている学校と組み合わせるなどの工夫も考えられる。
いずれの場合であっても、実習校の設定に当たっては、当該学生に対する指導体制の在り方とともに、当該実習校に対する影響及びその対応等の観点から、設置者である教育委員会等との密接な連携のもとに行うことが必要不可欠である。なお、その際、実習が当該実習校における研修や研究開発にとっても有意義なものとなる観点から、実習計画の立案に当たっては、学校における受け入れ体制とともに、当該校の教員との関係(積極的役割等)への視点も重要である。
教職大学院における教育は、学部段階において養成される教員としての基礎的・基本的な資質能力を基盤として、その上に、力量ある教員に必要な実践力・応用力を育成するものである。
このため、特に学部新卒学生の場合、教職大学院での実習は、初任者研修に相当し得る内容と質を有したものであるべきである。この際、例えば、現在教員養成系大学・学部等を中心に教員採用試験合格者を対象として実施されている「応用実践実習」(授業補助、休み時間や放課後の遊び相手、学級経営補助、教室内・廊下の掲示、採点補助、授業参観見学、学年・学級懇談会見学、給食指導補助、授業記録作成補助等)の内容も参考になる。
現職教員学生の実習について留意すべきことは、それが単なる研修とは異なることである。現職教員学生にとっての実習は、指導教員のもとで、現職経験から得た特定の課題や問題意識について、基本科目(共通科目)やコース(分野)別選択科目等の履修内容のもと、またその内容との関連のもとに、解決策や実施計画を立てそれを実地に検証していくという性格を有する、計画された実習であることが強調されるものであることが必要である。(例えば、教科教育に関する内容であれば、得意分野としての当該教科の学習指導に関して、基本科目(共通科目)やコース(分野)別選択科目の履修を通じて検討した、児童生徒等の関心や学習の能力を飛躍的に高め得るように工夫・開発された教材・指導方法を、実地に試行するための実習とするなどの必要がある。)
その意味からも、例えば現職教員学生の場合、一定の教職経験を持ってこの実習の一定単位を取得したものとみなすことが可能であるが、教職大学院における実習は単なる研修とは異なることから、単に教職経験を持って安易に置き換えられるべきものではない。その単位認定に当たっては、現職経験を通じた修得内容と、教職大学院における実習プログラムの内容との関係性等を踏まえつつ判断する必要があるとともに、レポートを課すこと等により現職教員学生が自発的・積極的に自己の教職経験の内容について課題意識を持ち整理や組み替えを図るようにするなどの工夫が重要である。
実習の内容については、学生の履修課題、実習校の種類・規模・地域等の実態などにより様々であり、かつ、あらかじめ決定した個別のテーマ毎に実施するものでなく総合的・実践的なものであることが必要であるが、共通に扱われるべく考慮しておく必要のあるものは、以下のとおりである。
特に学部新卒学生については、学部段階において修得した教員としての基礎的・基本的な資質能力とともに、教職大学院において履修した理論・技術を、実務的な経験を通じて実践に融合する機会であることから、実習の計画においては、下記の各領域をある程度網羅することが望ましい。
(なお、実習により取り扱われる各領域における事項の例を別添として例示した。各教職大学院においては、これらの事項を参考に、学生の履修課題、実習校の種類・規模・地域等の実態などにより実習計画を策定することが期待される。)
実習は、学部新卒学生については、履修した理論・技術を実務的な経験を通じて実践に融合する機会であるとともに、現職教員学生についても、科目の履修を通じて修得された理論・知識と、これにより整理された視点等をもとに計画された課題解決方法・能力を実践の場で検証すること等が目的であることから、実習は「学校教育に関する実習」である必要がある。このため、実習の場は学校であることが基本である。
他方、近年の学校教育が社会に開かれ、関係機関など外部との関係の中で展開されることから考えれば、学校教育との関連性の中で関係機関等において実習を行うこともあり得よう。
なお、社会的視野を広げることを目的として教育以外の機関等における実習等も教員の資質向上の観点から有効である。具体的には、現在、社会体験研修として行われているような、社会福祉施設、社会教育施設、民間企業等における体験・実習などが考えられる。この場合、教職大学院における実習の目的に鑑みれば、当該内容については大学が独自に設定する実習科目として設定されることとなる。
本「実習のイメージ例」は、教職大学院における実習がどのようなものかについてのイメージを明確にするため、一定の設定の下に、実習の具体的内容や過程等の例をイメージとして示したものである。各大学においては、このイメージ例を参考にしつつ、実習内容、実施方法、計画等について検討することが期待される。
○ 実践研究課題の明確化
○ 実習学校訪問
○ 実践観察
○ 実践参加
○ 学校実習
○ 学校実習後の「サポートワークショップ」
この場合、例えば週の半ば(例えば火曜・水曜)に実習日を置いた場合、
などのサイクルが考えられる。
(なお、両ケースにおける年間スケジュールのイメージ(別添図)を参照。)
以下の各項目について、実習で修得すべきポイント(着眼点等)を事前に明確化する。
(※)実習のとらえ方と実習内容、実践研究の展開の留意点
実習のとらえ方に関し、「5.実習と研修・現職経験の関係」にあるように、実習内容は、一方で、主に学部新卒学生の場合初任者研修の内容を意識した内容など、実務への習熟を意識したものがある一方、特に現職教員学生の場合など、分野をある程度特化した課題解決型の実習としての性格を強く有するものがある。
前者の場合、上記「実践観察」「実践参加」や「学校実習」の内容は、特に学部新卒学生の場合学校教育全体に関するより包括的な内容が重視される。また記録作成やレポート作成等は、場合により実習それ自体として行われるなど、実習とより密接な関係の下に実施されることとなる。
他方、課題解決型実習としての性格をより強く持つ実習の場合、実習において実践・検証される課題は多くの場合「共通科目(基本科目)」部分や「コース(分野)別選択科目」部分における科目の履修において明確化され、この課題のもと実習は計画・実施されることとなる。実践記録をもとにした分析・実践研究やその発表・討議は、実習と併行あるいはその後に実施される「基本科目(共通科目)」部分や「コース(分野)別選択科目」部分における科目において展開され、またそれら科目の内容の多くを担うこととなるものと考えられる。
いずれの場合であっても、事前課題設定・計画-実習内容-実践記録をもとにした分析・実践研究は不可分のものであり、実習のとらえ方(実務習熟、課題研究・実践のいずれに重きを置くか)により、それらの位置付けが、「基本科目(共通科目)」部分科目、「コース(分野)別選択科目」部分科目、学校における実習との連続性・体系性の中で検討される必要がある。
(その他「2.基本的考え方・実習の設定に当たっての留意点」2、4、8、参照。)
(注)学校訪問、実践観察、実践参加は週5日実習で計算
初等中等教育局教職員課