新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-(中間報告案要旨)

第1章 国際的に魅力ある大学院教育に向けて

第1節 基本的な考え方について

 今後の大学院は、1.大学院教育の実質化、2.国際的な通用性、信頼性の向上を通じ、世界規模での競争力の強化を図ることを重要な視点として、教育研究機能の強化を推進していくことが肝要である。
 具体的には、

  1. 各大学院の課程の目的を明確化した上で、これに沿って、学位授与へと導く体系的な教育プログラムを編成・実践し、そのプロセスの管理及び透明化を徹底する方向で、大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)を図る。その際、特に博士課程にあっては、高度な学術研究に豊富に接する中で魅力ある教育を実践し得るように教育機能の充実を図る。
  2. 大学院評価の確立、国際的な質保証活動への参加、世界的な教育研究拠点の形成支援等を通じ、質の高い大学院教育を提供し、国際的な通用性、信頼性の向上を図る。

第2節 基本的な考え方を支える諸条件について

1 大学院に求められる今日的な人材養成機能の発揮

 大学院は、法制上、研究者養成と高度専門職業人養成の2つの機能を中心にその役割を担っているが、今後の知識基盤社会において、大学院が担うべき人材養成機能を次の4つに整理し、人材養成機能ごとに必要とされる教育を実施することが必要である。

  1. 創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者等の養成
  2. 高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人の養成
  3. 確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成
  4. 知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成

2 時代の要請に応じた各課程の目的・役割の焦点化

 我が国の大学院は、一定の教育目標、修業年限及び教育の課程を有し、学生に対する体系的な教育を提供する場としての位置付けをもち、そのような教育の課程を修了した者に特定の学位を与えることを基本とする課程制大学院制度を採っている。国際的な通用性、信頼性のある大学院教育の展開を図っていくためには、この「学位を与える課程」ととらえる制度の考え方に沿って、次の各課程の目的に応じて、各分野の特性を踏まえた教育内容・方法の充実を図っていくことが重要である。
 その際、社会・経済・文化の発展や科学技術の進展等、時代の動向や要請に的確に応えるとともに、人文・社会科学、自然科学の各分野のバランスのとれた発展を目指すことが重要である。

【博士課程】
研究者として自立して研究活動を行うに足る、又は高度の専門性が求められる社会の多様な方面で活躍し得る高度の研究能力とその基礎となる豊かな学識を養う。
【修士課程】
幅広く深い学識の涵養を図り、研究能力又はこれに加えて高度の専門的な職業を担うための卓越した能力を培う。
【専門職学位課程】
幅広い分野の学士課程の修了者や社会人を対象として、特定の高度専門職業人の養成に特化して、国際的に通用する高度で専門的な知識・能力を涵養する。

3 課程制大学院の制度的定着の促進

(1)課程制大学院制度の趣旨に沿った博士の学位授与の確立

 課程制大学院制度の趣旨の徹底を図るとともに、博士の学位の質を確保しつつ、学生が標準修業年限内に学位を取得しやすくなるよう、円滑な学位授与を促進する。

【具体的取組】

  •  各大学院における円滑な学位授与を促進するための改善策等の実施(学位授与に関する教員の意識改革の促進、学生を学位授与へと導く教育のプロセスを明確化する仕組みの整備とそれを踏まえた適切な教育・研究指導の実践など)
  •  各大学院における学位の水準の確保等に関する取組の実施(学位論文等の積極的な公表、論文審査方法の改善など)
  •  国による各大学院の学位授与に関する取組の把握・公表の実施

 なお、現行のいわゆる「論文博士」については、企業、公的研究機関の研究所等での研究成果を基に博士の学位を取得したいと希望する者も未だ多いことなども踏まえつつ、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討し、それら学位の取得を希望する者が大学院における研究指導の機会が得られやすくなるような仕組みを検討していくことが適当である。

(2)大学院の人材養成目的に即した教育体制の整備

 大学院教育の組織的展開を強化していくためには、各大学院のそれぞれの人材養成上の目的・役割及びこれに基づいて学生に身に付けさせるべき能力等の教育目標を明確にし、これらに即した体系的なカリキュラムの提供、その責任ある実践のための人的・組織的体制、物的環境を整えることが重要である。
 このため、これらの取組状況と成果が各大学院において社会的に明示されるよう制度の整備を図るとともに国による支援を推進する必要がある。

【具体的取組】

  •  各大学院の人材養成に係る目的の明確化(大学院設置基準の改正)
  •  各大学院における教育の実質化の取組に対する国の重点的支援と情報提供の推進
  •  「助教」の新設に伴う大学院の教員組織体制の見直し
  •  博士課程、修士課程における研究指導教員の取扱いの明確化(大学院設置基準の改正)

4 知識基盤社会に相応しい大学院教育の規模の確保

 今後の大学院教育の量的規模の方向性については、社会人、留学生の入学者を含め、高度専門職業人養成に対する期待など進学需要の増加傾向に合わせ、全体として、着実な増加傾向になると予想される。この傾向は、今後の知識基盤社会の到来を展望すると、一般的には望ましいものと考えられる。

第2章 新時代の大学院教育の展開方策

1 大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)のための方策

(1)課程制大学院制度の趣旨に沿った教育の課程と研究指導の確立

 課程制大学院制度の趣旨の徹底を図るとともに、博士の学位の質を確保しつつ、学生が標準修業年限内に学位を取得しやすくなるよう、円滑な学位授与を促進する。

1 コースワークの充実・強化

 社会のニーズに対応した人材の養成を行うためには、学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修するコースワークを充実し、関連する分野の基礎的素養の涵養等を図っていくことが重要である。
 特に、博士課程は、5年間を通した体系的な教育の課程を編成し、コースワーク、論文作成指導、学位論文審査等の各段階が有機的なつながりをもって博士の学位授与へと導いていくといった教育のプロセス管理が重要となる。
 これと関連して、各大学院においては、その人材養成目的や特色に応じてアドミッション・ポリシーを明確にし、それを適切に反映した入学者の選考上の工夫を行うことが重要である。

【具体的取組】

  •  大学院の課程の単位の考え方の明確化(大学院設置基準の改正)
  •  修士課程及び博士課程(前期)の修了要件の見直し(大学院設置基準の改正)
  •  豊かな学識を養うための複合的な履修取組(メジャーマイナー、ジョイントディグリー)の導入
  •  博士課程の短期在学コースの創設検討
  •  国によるコースワーク充実のための情報提供等
2 教員の教育・研究指導能力の向上のための方策

 今後の大学院教育の組織的展開が有効に機能するよう、各大学院における課程の目的、教育内容・方法についての組織的な研究・研修(FD)の実施が必要である。また、大学院の課程の修了時における質の確保等を図る観点から、成績評価基準等の明示等について、大学院設置基準に規定を置くことが適当である。
 これらの取組に加え、各大学院は、教員の教育研究活動について評価を行うことによって、教育・研究指導能力の向上に資することが重要である。

【具体的取組】

  •  大学院の課程におけるFDの実施(大学院設置基準の改正)
  •  大学院の課程における成績評価基準の明示と厳格な成績評価の実施(大学院設置基準の改正)
  •  各大学院における教員の教育研究活動の評価の実施

(2)産業界、地域社会等多様な社会部門と連携した人材養成機能の強化

 従前より、産業界、地域社会等と大学は、人材養成、研究開発等において連携を図ってきたが、これを更に推進していくことが必要である。その際、産業界等においては、それぞれの業種などに応じて、自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに、各大学院においては、そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等を取り入れていくことを通じて、両者の協力関係をより一層推進し、産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが重要である。また、大学院の地域連携活動の一層の推進を図り、大学院が人材養成を含めた地域の発展のためにその役割を積極的に果たしていくことのできる環境の整備も重要である。

【具体的取組】

  •  大学院と産業界が目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有した産学協同教育プログラムの開発・実施
  •  単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施

 さらに、各大学院、企業等は、博士課程修了者等の多様なキャリアパスの開拓を図るための取組を実施することが求められる。国は、大学や企業等、双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ、産学官連携による人材養成の取組への支援や、社会ニーズを踏まえた魅力ある大学院教育に対する支援を行うことが必要である。

【具体的取組】

  •  各大学院による教育内容・方法の改善や教員の資質向上、学生のキャリアパス形成に関する指導、博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール
  •  企業等による大学院教育に対する自らのニーズの明確化、博士の学位の取得者等の実力を評価した人材の登用など、今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置の実施

(3)学修・研究環境の改善及び流動性の拡大

1 学生に対する修学上の支援及び流動性の拡大のための方策

 博士課程(後期)レベルにおける優れた人材の育成を行うため、博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援策の充実を図ることが重要である。

【具体的取組】

  •  特別研究員制度(フェローシップ)、及びTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)等としても活用できる競争的研究資金の拡充
  •  学生への経済的支援制度の審査等の早期化

 学生においても、高度な研究水準にある大学院等で、異なる研究経歴の教員から多様な視点に基づく教育・研究指導を受けたり、異なる学修歴を持つ学生の中で互いに切磋琢磨しながら自らの能力を磨いていく教育研究環境に豊富に接していくことが重要であり、学生の流動性を拡大していくことが必要である。

【具体的取組】

  •  大学院入学後の補完的な教育プログラムの提供

 さらに、社会人の大学院教育に対する期待に応えるため、そのニーズを的確に受容し、大学院教育へのアクセスの拡大を図っていくことが重要である。

【具体的取組】

  •  企業等におけるキャリアパス形成に応じた各大学院におけるリカレント教育の実施
  •  社会人の大学院への進学・再入学についての産業界等による支援
2 若手教員の教育研究環境の改善及び流動性拡大のための方策

 大学院の教育研究機能の活性化を図っていくためには、若手教員の研究環境の改善、とりわけ、博士課程学生からポスドク、「助教」等といった大学における教員・研究者としてのキャリアの各段階に応じた体系的な研究支援措置の推進を図っていく必要がある。

【具体的取組】

  •  若手教員のキャリアパスに応じた体系的な教育研究環境の整備

 大学院の教育研究能力を高めていくためには、多様な場での教育活動の実践経験や豊富な研究経歴を有する大学教員・研究者が相互に刺激しあい影響されるような教育研究環境を整えていくことが重要であり、教員・研究者の流動性を拡大していくことが必要である。このような人材の流動性拡大の検討に当たっては、産学官の広い枠組みの中で社会全体の流動性の拡大を推進していくことが必要である。

【具体的取組】

  •  各大学院による教員の流動性拡大に関する取組の実施
  •  各大学院における教員の流動性に関する取組を競争的研究資金の審査・評価へ反映
  •  企業等における研究者の流動性に関する取組の実施

2 国際的な通用性、信頼性の向上(大学院教育の質の確保)のための方策

(1)大学院評価の確立による質の確保

 事前評価(設置認可制度)と事後評価(認証評価制度など)の双方の適切な役割分担と協調の確保等を通じて、全体として大学の質を保証する大きな枠組みを確立していくことが重要である。とりわけ、事後評価については、大学関係者等の協力を得ながら社会に早期に定着させ、実効性ある評価へと発展・充実させていくことが急務となっている。
 今後、事後評価の制度については、

  1. 自己点検・評価
  2. 認証評価
  3. 評価団体の適正さを担保する仕組み

の3つの仕組みにより、大学院の特性に応じた適切な評価が多様な観点から行われる体制を整えていくことが必要である。
 さらに、将来的には、認証評価について、大学全体を組織体として評価する「機関別評価」に加え、大学院教育の専門性に沿った「専門分野別評価」を導入していくことが適当である。

【具体的取組】

  •  実効性ある大学院評価の展開に向けた関係機関の取組の推進
  •  大学院の専門分野別自己点検・評価の促進
  •  大学院教育の質に関する積極的かつ有用な情報の提供の促進

(2)国際社会における貢献と競争

1 大学院の教育研究を通じた国際貢献・協調

 我が国の大学院が教育研究を通じた国際貢献・交流を推進することは、教育研究水準の向上等を通じて、大学院の国際的な通用性、信頼性を確保し、世界規模での競争力の強化を促進する上で大きな意義があるものである。
 また、国境を越えて展開される教育の提供によるアクセスの拡大を推進するに当たっては、我が国の学位の国際通用性の確保に十分留意することが必要であるとともに、国際的な大学の質保証システムの構築が必要であり、それに向け、我が国は積極的に貢献すべきである。

【具体的取組】

  •  各大学院における国際化戦略支援
  •  国際的な大学の質保証に関する協議への参加・貢献
2 国際競争力のある卓越した教育研究拠点の形成支援

 今後更に国際競争力のある大学づくりを推進するため、創造性・柔軟性豊かな質の高い研究者の養成が期待される卓越した教育研究拠点に対する重点的支援を一層強力に展開することが重要である。
 このため、「21世紀COEプログラム」の実績を踏まえ、より充実・発展した形で拠点形成が推進するよう、今後の在り方を検討し、具体化していく必要がある。

第3章 大学院教育の改革を推進するための計画と社会的環境の醸成

1 大学院教育の改革に向けて早急に取り組むべき施策

 今後の大学院教育の改革の方向性、展開方策等について、国は、今後5年間程度の期間において早急に取り組むべき重点施策を明示し、体系的かつ集中的な施策展開を図っていくとともに、各大学はそれを踏まえつつ、大学院教育の充実を図っていくことが望まれる。

2 大学院教育の改革を推進するための社会的環境の醸成

 大学院教育を含めた高等教育に要する費用は、学生個人のほかに、産業界等を含む社会全体も負担すべきものであり、高等教育への公財政支出の拡充とともに民間企業や個人等からの資金の積極的導入に努めることが必要である。
 また、各機関に適切な支援がなされるよう、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせることにより、多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが必要である。
 さらに、自己資金調達と外部導入に係る環境醸成と条件整備が求められ、短期的な経済情勢や国の支援策のいかんによらず産業競争力を持続的に維持・強化していける産学官連携の体制の構築が求められる。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)