第2章 新時代の大学院教育の展開方策 1.大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)のための方策 (2)産業界、地域社会等多様な社会部門と連携した人材養成機能の強化

 従前より、産業界、地域社会等と大学は、人材養成、研究開発等において連携を図ってきたが、これを更に推進していくことが必要である。その際、産業界等においては、それぞれの業種などに応じて、自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに、各大学院においては、そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等を取り入れていくことを通じて、両者の協力関係をより一層推進し、産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが重要である。また、大学院の地域連携活動の一層の推進を図り、大学院が人材養成を含めた地域の発展のためにその役割を積極的に果たしていくことのできる環境の整備も重要である。

【具体的取組】

● 大学院と産業界が目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有した産学協同教育プログラムの開発・実施

● 単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施

 さらに、各大学院、企業等は、博士課程修了者等の多様なキャリアパスの開拓を図るための取組を実施することが求められる。国は、大学や企業等、双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ、産学官連携による人材養成の取組への支援や、社会ニーズを踏まえた魅力ある大学院教育に対する支援を行うことが必要である。

【具体的取組】

● 各大学院による教育内容・方法の改善や教員の資質向上、学生のキャリアパス形成に関する指導、博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール

● 企業等による大学院教育に対する自らのニーズの明確化、博士の学位の取得者等の実力を評価した人材の登用など、今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置の実施

○ 我が国経済の活力を維持し、持続的な発展を可能とするためには、産業技術力の強化を図り、国際的な競争優位性を持つ産業の育成が必要であるが、そのためには、産業界等社会のニーズを踏まえつつ、大学院において、創造性豊かな質の高い研究者等多様な人材を養成し、社会に有為な人材を輩出していく必要がある。
○ また、大学においては、それぞれの教育研究目的や特色に応じて、地域の発展の基盤となる優れた技術などを生み出すための学術研究を実施するとともに、社会人の再学習など生涯学習のニーズに応えていくことも重要である。
○ 近年、大学の地域連携活動が活発化しつつあるが、大学院の高度な専門的知識を持つ人材や高いレベルの教育研究能力を活用した施策や地域活動に対する支援を行うことにより、大学院が人材養成を含めた地域の発展のためにその役割を積極的に果たしていくことのできる環境を整備することが重要である。

<社会のニーズと大学院教育のマッチング>

○ 従前より、大学と産業界等は、インターンシップ、共同研究や人材交流などを通して、連携を図ってきた。しかしながら、博士課程修了者の資質について、産業界等からは「専門分野以外の幅広い知識や経験」、「独創的な発想力」など必ずしも期待通りではなく、産業界等社会のニーズと大学院教育に乖離があるとの指摘がある。
○ このような乖離の存在は、これまで産業界等は、採用する学生がどのような大学院教育を受けてきたかということより、採用後の社内教育を重視する「自前主義」を優先し、産業界等の大学院教育に対するニーズを大学側に具体的に示してこなかったことや、大学院の側においても、各専攻に置かれる課程がどのような人材養成を目的としているのか明確ではなく、かつ当該目的や教育内容・方法が社会のニーズを反映しているものかどうか十分に把握・検証してこなかったことにも起因しているものと考えられる。
○ このため、今後、産業界等においては、各種教育機関の役割分担などを踏まえつつ、それぞれの専攻分野や業種などに応じて、自らの大学院教育に対するニーズを明確かつ具体的に示すとともに、各大学院においては、そのようなニーズを的確に踏まえた教育内容・方法等の不断の改善を行っていくことを通じて、両者の協力関係をより一層推進し、産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチングを図っていくことが必要である。
○ また、今後の知識基盤社会において産業競争力を持続的に維持・強化していくためには、大学と企業等は、研究のみならず教育、すなわち人材養成の分野においても、短期的な経済情勢、国の支援策の如何等によらない、恒常的で持続可能な産学連携の体制の構築が求められる。
○ 具体的には、1.大学院と産業界が、目指すべき人材養成目標とそれに即して修得すべき専門的知識・能力の内容を共有して、産学協同で教育プログラムを開発・実施することや、2.単位認定を前提とした長期間の実践的なインターンシップの実施などが考えられる。
○ さらに、平成17年4月の「第3期科学技術基本計画の重要政策」(科学技術・学術審議会基本計画特別委員会中間とりまとめ)においては、基礎から応用までを見通した共同研究に取り組むような戦略的・組織的な産学官連携(協働研究型)の推進とともに、10年先をにらんだ先端的な融合領域において大学・公的研究機関・企業が協働で取り組む研究拠点形成の必要性が指摘されている。
○ その他、それぞれの専攻分野や業種などに応じて、大学院の側と産業界側の情報交換の機会を充実させることも極めて重要であり、職能団体や学協会等はこのような場の設定に主体的な役割を果たすことが期待される。
○ なお、税制面においては、平成17年度から、人材養成に積極的に取り組む企業について教育訓練費の一定割合を法人税額から控除する人材投資促進税制が創設されたことを踏まえ、産業界等は、このような制度の積極的な活用等により大学院教育に係る支援体制を充実することが期待される。

<大学院修了者のキャリアパスの多様化>

○ 高度な知識基盤社会を支える人材として、専門応用能力を有する博士、修士の学位の取得者が、今後、社会の多様な場で活躍することが重要である。特に、博士の学位の取得者について、産業界においては、研究開発をマネジメントできるリーダーとしての役割のみならず、産学官連携プロジェクトを構築するなど産学官連携を実践する鍵としての役割も期待されるが、例えば、米国と比べて民間企業への就職は少ないと考えられる。
○ また、知識基盤社会においては、最先端の学理の探求や基礎研究成果を創出し、新たな知識体系を創造・構築していく人材のみならず、社会のニーズや課題に対して、必要な知識を活用・統合しつつ、中長期的展望にたって新たな技術的価値や解決策を創出していくことができる人材の活躍が求められる。
○ これらを踏まえ、大学院教育の改革や人材養成面での大学と産業界等との連携を強化するとともに、学生はもとより、大学、産業界等の各主体が、博士課程修了者は大学の研究者になることが当然という意識を改める必要がある。
○ 博士課程修了者等の多様なキャリアパスの開拓を図るため、各大学院においては、幅広い知識・能力に裏打ちされた高度な専門性を培い、社会のニーズの変化に対応できる人材養成を行うよう、教育内容・方法の改善や教員の資質向上、インターンシップへの参加を含む学生のキャリアパス形成に関する指導、博士課程修了者の研究市場への積極的なアピール等に取り組むことが求められる。
○ 企業等においては、大学院教育に対する自らのニーズを明確に示すことや、博士の学位の取得者等について、年齢等にかかわらず、課題探求能力等の実力を適正に評価して人材の登用を行うなど、今後の知識基盤社会における国際的な競争に耐えられる職務体制・人材の配置などの知的経営に向けた構造的改革への努力が求められる。企業側のこのような意欲的な取組を評価し、顕彰することも有効であると考えられる。
○ また、大学と産業界との連携が深まるためには、研究者や高度な専門的知識を持つ者が多様に流動することが効果的であるが、それには、そのような流動が広く行われる社会的条件が形成されることが求められ、このような方向に向けて、大学と企業等との人材交流が推進されることも必要である。
○ 大学や企業等、双方におけるこれらの努力及び社会的評価を踏まえつつ、国は、産学官連携による人材養成の取組への支援や、社会ニーズを踏まえた魅力ある教育を行う大学院への支援を行うことが必要である。

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