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第三章 メリハリある教員給与の在り方

1.優秀な人材の確保

  •  教員の職務は、人間の心身の発達に関わっており、その活動は、子どもたちの人格形成に大きな影響を与えるものである。「教育は人なり」といわれるように、学校教育の成否は教員の資質能力に負うところが極めて大きく、全国的な義務教育水準の維持・向上のためには、教員に優秀な人材を確保することが必要不可欠である。
  •  我が国が高度経済成長を遂げる中、資質の優秀な人材が他の職種に流れ、教育界では必要な人材を確保しがたいという状況を背景に、昭和49年、教員給与を一般の公務員より優遇することを定める「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(以下「人材確保法」という。)が制定された。
  •  人材確保法は、各都道府県において、公立学校教員の給与を定める際に、一般公務員の給与を下回らないようにするための役割を果たしている。仮に人材確保法を廃止した場合には、厳しい財政状況の下、教員の給与水準が一般の公務員より低くなってしまうおそれがある。
  •  「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006(骨太の方針2006)」(平成18年7月7日閣議決定)に「2010年までに国際学力調査における世界トップレベルを目指す」とあるように、国際的な競争環境の中で教育の質の向上を目指すことが国家戦略として位置付けられていることに鑑みても、人材確保法の趣旨を踏まえて優秀な教員を確保していくことは極めて重要である。また、イギリスや韓国などの諸外国においては、教員に対して教育の質の向上の意欲を持たせるためには教員給与の増額が必要との問題認識の下、現在、給与改善に取り組んでいるところであり、人材確保法を廃止することは、こうした諸外国の政策に逆行することとなる。
  •  人材確保法の制定を受け、教員給与の改善が計画的に行われた結果、人材確保法制定以前と比べ、公立小・中学校の教員採用試験の競争倍率が上昇したことからも、人材確保法は優秀な人材の確保に大きな役割を果たしてきたといえる。近年、教員の大量退職時代を迎え、今後しばらくこの傾向が続くこととなるが、その場合、いかに優秀な人材を教員として確保していくかを国策として位置付けていくことが必要であり、そのためにも、人材確保法の意義はますます重要となる。
  •  次代を担う子どもたちの人間形成に関わる教員の職務の重要性に鑑み、安定的に教員に優秀な人材を確保していくためにも、教員給与の優遇措置を定めた人材確保法の精神は今後とも大切にすべきであり、人材確保法を堅持することが必要である。
  •  なお、骨太の方針2006において「人材確保法に基づく優遇措置を縮減する」こととされていることに基づき、教員給与月額が一般行政職給与月額を上回る部分(2.76パーセント)は縮減を図りつつ、教員に優秀な人材を確保するという人材確保法の精神を踏まえ、人材確保法における教員給与の優遇措置についてその基本を維持しながら、教員給与にメリハリを付ける所要の経費の確保について、今後、教員勤務実態調査の結果等も踏まえて、平成20年度予算において政府が真摯に対応することを要請する。
  •  また、教員に優秀な人材を確保するためには、給与以外の優遇措置をも図っていくことが重要である。このため、
    • 1 優れた教員を表彰し、それを処遇に反映させたり、教員の表彰を通じて社会全体に教員に対する信頼感と尊敬の念が醸成されるような環境を培うこと
    • 2 子どもへの教育にやりがいを見出す教員が多い実態を踏まえ、教員の事務作業の軽減を図ることなどにより、できるだけ子どもと向き合う時間が確保できるような環境整備を行うこと
    • 3 校内研修や任命権者等による体系的な研修と教員の主体性を重視した自己研修の双方の充実を図り、熱意ある教員が自らの専門知識や指導能力を高めていく機会を確保できるようにすること
    • 4 幅広い視野と高い専門知識を兼ね備えた教員を育成していくため、大学院修学休業制度を活用して、より多くの教員が大学院修学の機会を得られるようにすること
    などを通じて、教員の職を魅力あるものにしていくことが必要である。

2.教員の給料の見直し

  •  教員の給料は、各都道府県において、基本的に校長、教頭、教諭、助教諭等の職に応じて4級制の給料表が定められている。教員の大多数を占める教諭が一つの級でしか処遇されていないため、教頭や校長にならない限り、教員の給料は号俸の昇給による変化しかなく、メリハリの乏しい構造となっている。
  •  教員が適切に評価され、教員の士気が高まり、教育活動が活性化されていくためにも、それぞれの職務に応じてメリハリを付けた教員給与にしていくことが必要である。
  •  具体的には、前述したように、これまでの教諭の職務とは異なる、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)が新たな職として位置付けられ、配置される場合には、その職に見合った適切な処遇を図るため、都道府県において、必要に応じて、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)の職務に対応した新たな級を創設することが望ましい。また、副校長(仮称)についても、教頭との関係を整理した上で、職務に応じた処遇を行うことが望ましい。
  •  このため、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)を置く都道府県におけるこれらの職の配置に対応して、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)について、通常の教諭とは別に、義務教育費国庫負担金の算定根拠を定めることが必要である。また、副校長(仮称)についても、教頭との関係を整理した上で、必要に応じて、義務教育費国庫負担金の算定根拠を定めることが望ましい。

3.教職調整額の見直し

  •  教員の時間外勤務が社会的な問題となる中、昭和46年5月に、教員の職務は自発性・創造性に期待する面が大きく、一般の公務員と同様な時間管理を行うことは必ずしも適当ではなく、とりわけ時間外勤務手当は教員になじまないとの考えの下、教員の職務と勤務態様の特殊性を踏まえ、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」が制定された。これによって、教員については、
    • 1 勤務時間の内外を包括的に評価して一律の教職調整額(給料月額の4パーセント)を支給すること
    • 2 時間外勤務手当を支給しないこと
    • 3 時間外勤務命令はいわゆる超勤4項目(a.生徒の実習、b.学校行事、c.職員会議、d.非常災害、児童生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合)に限定すること
    とされた。
  •  教員勤務実態調査暫定集計の結果によれば、昭和41年の勤務状況調査の結果と比べ、残業時間が増加している。また、同結果によれば、例えば、通常期の小中学校の教諭の1日あたりの平均残業時間が5時間以上の者がいる一方で、0分の者もいるなど、教員間の勤務時間の差が著しく大きくなってきている。
  •  さらに、文部科学省が平成18年に実施した教員意識調査の結果によれば、「仕事量が多すぎて、今のままでは長く続けられそうにない」との項目について、約36パーセントの教員が「あてはまる」又は「どちらかといえばあてはまる」と回答している一方で、約31パーセントの教員が「あてはまらない」又は「どちらかといえばあてはまらない」と回答しているなど、教員間の仕事量への負担感の差が開いている。
  •  このように、教職調整額の制度と実態との乖離が進んできていることから、教員に一律支給されている教職調整額の在り方について見直しを行う必要がある。
  •  教職員給与の在り方に関するワーキンググループにおいては、教員勤務実態調査暫定集計の結果も踏まえつつ、教員の時間外勤務の在り方とその評価について審議したところ、以下のような意見が出された。
    • 1 教員は自発性、創造性に基づく勤務が期待されていることから、一般の公務員と同様に時間外勤務手当を支給することはなじまないため、教員に対しては、引き続き、時間外勤務手当に代えて教職調整額のような形で支給することが適当ではないか。
    • 2 勤務の実態に応じて、相応の給与を支給するという観点から、例えば、休職中の者などについては、支給対象外とする若しくは支給率を減じることを検討してはどうか。
    • 3 それぞれの教員の職務と勤務態様を勘案して、客観的に職務負荷の少ないと評価される教員と多いと評価される教員とで支給率にメリハリを付けて支給することを検討してはどうか。
    • 4 これまで教職調整額は給料相当とされてきたために期末・勤勉手当や退職手当等に反映されていたが、時間外勤務手当の代替措置的な性格をも持つにもかかわらず、自動的に期末・勤勉手当や退職手当等に反映されることについては見直すことを検討してはどうか。
    • 5 教員勤務実態調査の結果を反映した支給率とすることを検討してはどうか。
  •  他方、時間外勤務の時間数に応じて評価できるように、一般の公務員と同様に、時間外勤務手当を支給することを検討してはどうかとの意見も出された。
  •  これらの意見を踏まえると、教員の時間外勤務の在り方とそれに対する評価については、教員勤務実態調査の最終報告の結果も見ながら、今後更に専門的・技術的な検討を行っていくことが必要である。今後の検討に際しては、教員の職務と勤務態様の特殊性も踏まえつつ、教育現場及び時間外勤務の実態に即した制度となるように留意することが重要である。

4.諸手当等の見直し

  •  教員に特有の手当等の中には、能力や実績にかかわらず一律に支給される性格の手当等があり、その中には手当等の創設時からの状況の変化等により、その意義が薄れてきているものも見られる。他方、優れた教員を評価するという観点からすると、勤務成績や職務負担等に応じて支給される性格の手当の中には十分な支給額となっていないものが見られる。このため、教員給与にメリハリを付ける観点から、一律に支給される諸手当等のうち意義が薄れてきているものについては廃止・縮減の方向で、勤務成績や職務負担等に応じて支給される性格の手当のうち重要なものについては充実を図る方向で検討する必要がある。これを踏まえ、それぞれの諸手当等について、必要に応じて、義務教育費国庫負担金の算定根拠を見直すことが適当である。
  • 義務教育等教員特別手当
     メリハリを付けた諸手当の充実を図る観点から、人材確保法に基づく第二次給与改善に際して教員給与の優遇措置として導入され、小・中・高等学校等の教員に一律に支給されている義務教育等教員特別手当について廃止を含めて縮減を検討し、その財源をメリハリある給料や諸手当の充実のために活用することを検討する必要がある。
  • 特殊教育関係者に支給される給料の調整額
     平成19年度から、これまでの特殊教育が特別支援教育として整理され、LD・ADHD等の児童生徒への指導を含め、通常の学校においても、教員全体で特別支援教育を担うことが求められるようになった。このような状況の中、現在、特殊教育諸学校や小中学校の特殊学級の教員のみに措置されている給料の調整額について、他の教員との均衡上適切かどうか、その廃止を含めて検討する必要がある。
     また、給料の調整額は給料扱いとなるため、給料を算定の基礎とする手当等(期末・勤勉手当、退職手当等)に反映されており、退職の直前に特殊教育諸学校へ赴任した場合は退職手当が割増支給されるなど、不公平感が指摘されている。
  • 部活動指導業務に係る教員特殊業務手当(部活動手当)
     勤務実態調査暫定集計の結果に見られるように、部活動の顧問を担当する教員の勤務時間は担当しない教員に比べて多くなっており、部活動を通じた教育指導を行う教員を処遇するため、部活動手当(現在は週休日等に4時間以上部活動に従事した場合に支給)の充実を検討することが必要である。
  • 非常災害時等緊急業務、修学旅行等指導業務及び対外運動競技等引率指導業務に係る教員特殊業務手当
     非常災害時等緊急業務、修学旅行等指導業務及び対外運動競技等引率指導業務に係る教員特殊業務手当についても、それぞれの業務の特殊性や困難性が高まっていることを踏まえ、その充実を検討する必要がある。
  • 多学年学級担当手当
     近年、学級担任に求められる役割が複雑、困難化している中、複式学級を担当する教員の勤務内容が、他の学級を担当する教員の勤務内容と比較して特殊であるとはいえるかどうかを検討する必要がある。
  • 教育業務連絡指導手当(主任手当)
     学校の管理運営体制を見直し、校長、副校長(仮称)及び教頭を補佐する新たな職として主幹(仮称)を設置する場合、主幹(仮称)の処遇と主任手当の関係の整理等を検討する必要がある。
  • 管理職手当
     教育の質の向上には学校経営の関わりが大きく、今後、校長・副校長(仮称)・教頭には学校マネジメント能力が求められ、その職務と責任はますます大きくなってくるため、これを適正に評価するとともに、校長・副校長(仮称)・教頭に優秀な人材を確保するためにも管理職手当の充実を検討する必要がある。
  • へき地手当
     へき地教育に優秀な人材を確保するという法の趣旨は十分に踏まえつつも、道路や交通機関、情報通信網などの発展によりへき地を取り巻く環境は変化しており、これらの実態を踏まえ、へき地学校の級を算定する基準の見直しを検討する必要がある。また、へき地学校のある地域に居住せず、生活が便利な都市部に居住しながら自家用車で通勤している教職員に対し通勤手当とへき地手当が支給されていることについて、適正であるかどうかを検討する必要がある。

5.教員評価と処遇への反映

  •  教育の質の向上のためには、個々の教員の質の向上が不可欠であり、そのためには、学校内外の研修だけでなく、日常的に、教員が自らその教育活動を見直し、自発的に改善していくことができるよう、今後とも、各任命権者が進めている教員評価の取組を一層促進し、教員一人一人の能力や業績を適正に評価し、教員に意欲と自信を持たせ、育てていく必要がある。
     また、その評価結果を、任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映させるように促し、教員の指導力や勤務実績が処遇上も報われるようにしていくことが必要である。その場合においては、教員の評価は、民間企業で行われるような成果主義的な評価はなじみにくいという教員の職務の特殊性にも留意しつつ、客観性のある評価制度を検討していくことが重要である。
     さらに、学校現場においては、個々の教員だけでなくチームワークによって子どもたちへの教育を行っている意識が強いため、そのような学校現場の特殊性を考慮した評価の在り方について、今後、検討していくことが重要である。
  •  一方、大多数の教員が日々献身的に子どもたちへの教育活動に従事している反面、一部に指導力不足教員や不適格教員などが存在することも事実であり、そのような教員に対する国民の視線は、昨今ますます厳しいものとなっている。このため、各任命権者においては、指導力不足教員の人事管理システムが適切に機能するよう、指導力不足教員の認定基準を明らかにし、当該教員の日頃の勤務状況等の評価を行い、判定委員会の意見を聴きながら、指導力不足教員を認定するなど、その一層の適正な運用に努めることが必要である。このように、指導力不足教員の人事管理システムの厳格な運用を通じて、毅然とした対応をすることが、教員全体への信頼性を向上させるために必要である。
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