方策
◎ コンテンツの作成・発信者と受信者が共により良い情報メディア環境づくりに貢献できる仕組みを整える
情報メディアにかかわる各種業界において,青少年の健全育成に寄与する観点から様々な取組が行われている。しかし,そうした取組が真に効果を発揮するためには,コンテンツの受信者である青少年やその保護者等の意見がその作成・発信者に確実に届けられ,双方のコミュニケーションが深まることが不可欠である。
このため,例えば放送番組については,放送への視聴者からの苦情・意見に対して,第三者の立場から迅速・的確に対応するための自主的に独立した機関として,BPO(放送倫理・番組向上機構)(注28)が設置されている。BPOには「放送と青少年に関する委員会」が設けられ,視聴者からの青少年に対する放送の在り方や放送番組への意見を基に,各事業者へ意見の伝達と審議を行い,各事業者の対応と審議結果等とを公表している。また,中学生モニター制度を設けたり中学生を対象としたフォーラムを実施するなど,青少年自身の意見を直接聴く取組も行い,これらの取組を通じて視聴者と事業者を結ぶ回路の役割を担い,青少年が視聴する番組の質の向上に努めている。
しかしながら,BPOの存在や意見受付制度等については,残念ながら青少年や保護者等をはじめとした視聴者に広く知られてはおらず,このため,十分に活用されているとはいえない現状にある。青少年の健全育成を目指した放送業界の自律的な取組が効果を発揮するためには,放送業界において,BPOの存在や意見受付制度等についてより一層広く国民に周知することが強く求められる。
また,放送以外の各業界においても,BPOのような第三者機関の設置等により,情報の作成・発信者側と受信者側が共により良いコンテンツづくりに貢献できる体制が整えられるべきである。
また,情報メディアにかかわる各種業界と青少年の健全育成のために活動している団体や関係者,自治体の青少年担当部局,教育委員会や警察等の行政機関等が相互に情報の共有と連携を深め,共通認識の下にそれぞれの立場を生かしてより良い情報メディア環境づくりに貢献できる体制を構築することが必要である。このため,これら関係者のネットワークを構築し,青少年の健全育成を妨げるおそれのあるコンテンツに係る規制の在り方やその運用改善方策を検討するとともに,コンテンツ作成・発信に係る共通ルールづくりや,作成・発信者側と受信者側が協同した啓発活動等を実施することが必要である。
◎ 携帯電話等の情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないよう青少年一人ひとりに届くメッセージを送る
インターネットや電子メール,携帯電話等の青少年への急速な普及により,青少年が大人の監督や保護を受けることなく,これら情報メディアを悪用した犯罪等の被害に遭う例が増えている。また,これらの情報メディアは個人との密着度が高いため,青少年がこれらを介したトラブルに巻き込まれても保護者や周囲の大人にその状況が見えにくく,周囲が青少年の状況に気付かずにいる間に,あるいは青少年が周囲に助けを求めることを躊躇(ちゅうちょ)している間に犯罪に巻き込まれてしまう例も少なくない。
これら情報メディア分野の技術進展は著しく,それに伴ってこれらを悪用した犯罪等の手口も多様化・高度化している。こうした犯罪等から青少年を守るためには,犯罪等の被害を防ぐために必要な最新の情報をすべての青少年に確実に届ける必要がある。
このため,これら情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないための対策や,情報メディアを安心して安全に利用するための留意点,トラブルに巻き込まれた場合の相談機関等に関する情報などを,例えば,すべての青少年にリーフレット等を配付するなど,青少年一人ひとりに確実に届く方法で提供するためのキャンペーン活動を,国や自治体,学校,情報メディア関係業界や地域社会等が一体となって早急に実施すべきである。
特に,携帯電話については,その利便性と危険性,及びこれらと青少年の携帯電話の所有と利用との関係について十分な議論や検討が行われない中で,これを利用した犯罪やトラブル,いじめが多発し問題となっている。家庭においては,保護者は子どもとの連絡のために電話機能に着目して携帯「電話」を子どもに買い与えているのに対し,与えられた青少年側はメール送受信やインターネット閲覧等の様々な機能を有した情報端末「ケータイ」ととらえている。この両者の認識に大きな差がある中で,保護者の予想を超えた携帯電話の利用を通じて青少年が犯罪やトラブルに巻き込まれるなどの問題が起きている。また,児童生徒が学校に携帯電話を持ち込むことの是非等について各学校がその対応に苦慮している。こうした状況を踏まえ,国レベルでは,例えば警察庁における検討や総務省による業界への要望が行われてきている。
携帯電話を利用した犯罪等から青少年を守るためには,携帯電話事業者においては,青少年との契約の際に,保護者の同意を得るとともに,その機能と想定される危険性及び危険回避に係る機能等について必ず情報提供することが必要である。この点に関して,携帯電話事業者3社が未成年者が契約申込みをする際に,親権者の意思確認を確実に行うとの方針を明確にしたことは評価できる。他方,特に,携帯電話のインターネット閲覧機能を通じた違法・有害情報への接触の防止については,青少年に有害な情報の排除に関して現時点で取りうる最善策がフィルタリング(注29)の利用であることにかんがみ,青少年との契約においてはフィルタリング機能装備を標準設定とし,保護者の申請を受けてその設定変更や解除を行う等のサービス提供を業界で統一して実施するといった実効性の高い対策を行うことが強く求められる。
また,学校においてはこれまでも情報教育の一環として情報モラル教育(注30)が行われているところである。今後は,児童生徒に対し,インターネットや携帯電話がもたらす危険を十分認識し,回避するための実践的な指導を一層充実させていくことが求められる。
携帯電話は本来学習活動に必要のないものであり,学校に持ち込む必要のないものである。しかし,禁止されていないことを理由に誰かが学校に持ち込むと,直ちに他の児童生徒がなし崩し的に持ち込むような状況も見られる。その一方,登下校時の安全確保や非常時の連絡手段確保のため,防犯ブザー機能や位置情報通知機能を搭載した携帯電話を子どもの通学時に持たせたいと要望する保護者もおり,児童生徒の安全確保の観点から携帯電話の持ち込みを認めている学校も見られる。このため,学校における携帯電話の取扱いについて混乱を招かないよう,保護者の理解と協力を得つつ学校のルールを策定することが求められる。
さらに,青少年を保護・監督すべき立場にある保護者や大人が,青少年を取り巻く情報メディアの現状について知るとともに,青少年を監督・保護する力量を培うための学習機会を設ける必要がある。現在,インターネットに関しては,関連事業者による「e-ネットキャラバン」事業が実施されており,保護者や教職員を対象としたインターネットを安心して安全に利用するための学習講座が実施されている。また,各自治体等においてもインターネットや携帯電話の安全な利用について学習講座や研修事業を実施する動きが広がりつつあり(事例21,22),様々な学習講座を実施する民間団体も増えてきている。こうした学習機会の提供がより一層進められるとともに,これらにより多くの保護者や大人たちが参加することが強く期待される。