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第3章 青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために−重視すべき視点と方策−

5.情報メディアの急速な普及に伴う課題へ大人の責任として対応しよう

視点
  • ○情報メディアを通じて社会のルールやマナー等を学び社会参画を図れるようにする
  • ○青少年への悪影響を予防する観点から情報メディア環境を見直す
方策
  • ◎青少年の健全育成に資するコンテンツづくりを促進する
  • ◎コンテンツの作成・発信者と受信者が共により良い情報メディア環境づくりに貢献できる仕組みを整える
  • ◎携帯電話等の情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないよう青少年一人ひとりに届くメッセージを送る

重視すべき視点

【情報メディアを通じて社会のルールやマナー等を学び社会参画を図れるようにする】

  •  書籍・雑誌や新聞,テレビやインターネットといった情報メディアは日常生活に浸透しており,これらは青少年が社会状況や社会のルールやマナー等を知るための貴重な情報源となっている。
     また,インターネットや電子メール,携帯電話等が大人だけでなく青少年にも急速に普及している中で,青少年がこれらを情報の入手手段としてだけでなく,情報の発信手段や創作・表現の場として,また新しいコミュニケーション手段として使いこなしていることは,情報化社会を生きる青少年が社会と意欲的にかかわり成長していくに当たって大変頼もしいことである。
  •  このような情報メディアの青少年への浸透状況にかんがみ,情報メディアの発信側にいる大人に対しては,青少年が社会のルールやマナー等を情報メディアを通じて学んだり,情報メディアの活用や報道活動等への参画により青少年が社会とかかわる体験や社会参画の機会を得たりすることができるよう支援すること等を通じて,青少年の健全育成に資する情報メディア環境の整備に向けて不断の努力が求められる。

【青少年への悪影響を予防する観点から情報メディア環境を見直す】

  •  一方で,青少年と情報メディアとのかかわりについては,特に近年,携帯電話の普及並びにそれに伴う違法・有害情報サイトを通じた犯罪等,情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれる青少年が増えている。また,情報メディアへの長時間接触と生活習慣の乱れとの関係が懸念されるとともに,テレビ番組や家庭用テレビゲームにおける暴力表現が青少年の暴力への志向性を高め暴力を肯定する行動様式に陥る可能性や,情報メディアを利用したバーチャルコミュニケーションの急速な普及が青少年の脳の発達に重大な影響を及ぼす危険性が指摘されるなど,青少年の自立への意欲や行動に対する悪影響が懸念されている。
     このため,青少年が情報メディアを活用するに当たっては,青少年の自立への意欲や行動への悪影響を防ぐ観点から,予防的な対応も含めて適時適切な教育的支援が必要である。
  •  その際,青少年自身の情報活用能力を育成することはもちろん必要である。しかし,情報メディア分野の技術開発の進展は著しく,これに伴う変化は大人でさえ予測が難しいことに加え,青少年は判断力等が発展途上であることから,情報メディアの影響に対して青少年自身に自力ですべて対処させることが適切とは言えない。
     このため,保護者や情報発信者,情報メディア事業者等も含めた大人が社会全体として,まず,情報メディアは次代の社会の担い手である青少年の育成に対して大きな影響力を持っているという認識に立つ必要がある。その上で,情報メディア環境が青少年の健全育成に資するよう,情報メディアの実態を検証し必要な改善や実効ある取組を講じることが必要である。
     また,特に携帯電話等の情報メディアを悪用した犯罪やトラブルから青少年を守り,これ以上の被害者を出さないためにも,青少年一人ひとりに直接届く形での啓発や情報提供を早急に行う必要がある。

方策

◎  青少年の健全育成に資するコンテンツづくりを促進する

 情報メディアは次代の社会の担い手である青少年の育成に対して大きな影響力を持っているが,その影響力が青少年の健全育成に資するためには,情報メディア業界をはじめとした大人側の対応や配慮が不可欠である。
 例えば情報メディアの発信するコンテンツ(注25)から正しい言葉遣い,社会のルールやマナー等を学んだり,あるいは情報メディアとかかわることを通じて社会参画を図ったりできるなど,青少年が情報メディアを通して健全に成長するためには,まず,各情報メディア業界・事業者による一層の実効性ある取組が求められる。その際には,1青少年に有害なコンテンツを排除するという観点,2青少年の健全育成に貢献するコンテンツを作成・提供するという観点,及び3情報メディアの活用やメディア事業への参画等を通じた社会参画の機会の提供という観点など,を踏まえる必要がある。
 各情報メディア業界においては,出版業界や放送業界をはじめとして,各業界団体が策定した倫理綱領等において健全な社会秩序や公衆道徳を尊重し,青少年の健全育成に貢献するよう配慮すること等を定め,各事業者においてこれにのっとったコンテンツ作成や販売・放送が行われている。
  1青少年に有害なコンテンツの排除に関しては,一部の出版物等については各都道府県が青少年保護育成条例(注26)等により「有害図書類」の指定を行い,その販売等の制限を行っているが,全体としては各業界における自主規制等の取組が中心となっている。映画や家庭用テレビゲームについては,業界団体が年齢別レイティング制度(注27)を設け,各ソフトについて対象年齢を明示するとともに,一定年齢以下の青少年には販売・視聴を行わせないなどの措置を取っている。また,雑誌や一部のコンピュータソフトについては,業界団体が審査を行い,一部のコンテンツについては18歳未満の青少年には販売しない措置を取っている。
 しかしながら,これらの選定・販売規制等を行っているコンテンツについても,選定基準が国民に公開されていなかったり,販売段階において規制が徹底されていなかったりするなど,その取組が十分に機能しているとは言えない状況にある。また,各業界団体が策定した倫理綱領等を実際に各事業者がどの程度遵守しているかについての情報も国民に十分には公開されておらず,国民がコンテンツの現状や各事業者の自主規制等の状況を知ることが難しい状況にある。
 特に,インターネット上のコンテンツについては,違法や公序良俗に反するという判断基準による有害コンテンツに関しては業界団体において一定の判別・排除方針が定められつつある。しかし,あるコンテンツが青少年に有害かどうかについては,判断基準の設定が困難であるとして特に判断基準が設けられておらず,事実上規制がないのと同様の状況である。
 青少年に有害なコンテンツの排除に係る各事業者の取組がより一層実効性を高めるためには,その取組状況を広く国民に公開し,国民の検証を受けるとともに,それを反映する必要がある。このため,各業界団体においては,倫理綱領等を策定するだけでなく,その遵守状況等について各事業者の実態を把握し,これを公表することが求められる。
 また,国民の検証に関しては,社団法人日本PTA全国協議会がテレビ番組について保護者の意識調査及びモニタリング調査を実施しており,子どもに「見せたい番組」「見せたくない番組」及び各番組の評価できる点及び評価できない点を公表し,その情報を事業者及び各番組提供スポンサー企業に提供するとともに,青少年健全育成の観点からの各番組の質的向上を強く求めている。これを先進事例として,各情報メディア上のコンテンツの質について民間団体等の第三者機関による評価が進められ,各事業者の有害コンテンツ排除を促進することが期待される。
  2青少年の健全育成に貢献するコンテンツの作成・提供に関して,放送番組については社団法人日本民間放送連盟が,青少年の知識や理解力を高め情操を豊かにする番組を「青少年に見てもらいたい番組」として各事業者が週3時間以上放送するという取組を進めている。
 このほか,各業界において各種顕彰事業等を実施するなどにより,各事業者における質の高いコンテンツづくりを促す取組が行われている。なお,文部科学省では,教育に利用される映画をはじめとした映像作品等について審査を行い,教育上価値が高く,学校教育又は社会教育に広く利用されることが適当と認められるものを選定して公表している。
 このように,各業界において青少年の健全育成に資するコンテンツづくりが進められているが,残念ながらこうした取組が青少年や保護者等に広く知られているとは言えない。今後は,青少年や保護者等が良質なコンテンツを活用できるよう,これらの取組が広く周知されるとともに,青少年の健全育成に資するより良質なコンテンツづくりが進められるよう,各業界の一層の取組が強く期待される。
  3情報メディアの活用や情報メディア事業への参画等を通じた社会参画の機会の提供に関しては,新聞業界は,NIE(教育に新聞を)という取組により,青少年の社会への関心を高め自ら学び考える力を育成するため,新聞記事を活用した学習を推進している。また,放送業界においては,社団法人日本民間放送連盟が青少年と放送事業者の共同による番組作成プロジェクトを実施し,番組作成を通じた社会参画の機会を提供している。さらに,インターネットやコンピュータソフトに関しては,青少年を対象とした各種の顕彰事業が実施されており,青少年に表現の場や進路選択の契機を提供したりしている。
 特にインターネットの普及により,情報メディアが青少年にとって身近な存在となっている現在,各事業者を中心として青少年の情報メディアの活用や情報メディア事業への参画を促す活動が推進され,これらを通じた青少年の社会参画が図られるよう期待される。

◎  コンテンツの作成・発信者と受信者が共により良い情報メディア環境づくりに貢献できる仕組みを整える

 情報メディアにかかわる各種業界において,青少年の健全育成に寄与する観点から様々な取組が行われている。しかし,そうした取組が真に効果を発揮するためには,コンテンツの受信者である青少年やその保護者等の意見がその作成・発信者に確実に届けられ,双方のコミュニケーションが深まることが不可欠である。
 このため,例えば放送番組については,放送への視聴者からの苦情・意見に対して,第三者の立場から迅速・的確に対応するための自主的に独立した機関として,BPO(放送倫理・番組向上機構)(注28)が設置されている。BPOには「放送と青少年に関する委員会」が設けられ,視聴者からの青少年に対する放送の在り方や放送番組への意見を基に,各事業者へ意見の伝達と審議を行い,各事業者の対応と審議結果等とを公表している。また,中学生モニター制度を設けたり中学生を対象としたフォーラムを実施するなど,青少年自身の意見を直接聴く取組も行い,これらの取組を通じて視聴者と事業者を結ぶ回路の役割を担い,青少年が視聴する番組の質の向上に努めている。
 しかしながら,BPOの存在や意見受付制度等については,残念ながら青少年や保護者等をはじめとした視聴者に広く知られてはおらず,このため,十分に活用されているとはいえない現状にある。青少年の健全育成を目指した放送業界の自律的な取組が効果を発揮するためには,放送業界において,BPOの存在や意見受付制度等についてより一層広く国民に周知することが強く求められる。
 また,放送以外の各業界においても,BPOのような第三者機関の設置等により,情報の作成・発信者側と受信者側が共により良いコンテンツづくりに貢献できる体制が整えられるべきである。
 また,情報メディアにかかわる各種業界と青少年の健全育成のために活動している団体や関係者,自治体の青少年担当部局,教育委員会や警察等の行政機関等が相互に情報の共有と連携を深め,共通認識の下にそれぞれの立場を生かしてより良い情報メディア環境づくりに貢献できる体制を構築することが必要である。このため,これら関係者のネットワークを構築し,青少年の健全育成を妨げるおそれのあるコンテンツに係る規制の在り方やその運用改善方策を検討するとともに,コンテンツ作成・発信に係る共通ルールづくりや,作成・発信者側と受信者側が協同した啓発活動等を実施することが必要である。

◎  携帯電話等の情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないよう青少年一人ひとりに届くメッセージを送る

 インターネットや電子メール,携帯電話等の青少年への急速な普及により,青少年が大人の監督や保護を受けることなく,これら情報メディアを悪用した犯罪等の被害に遭う例が増えている。また,これらの情報メディアは個人との密着度が高いため,青少年がこれらを介したトラブルに巻き込まれても保護者や周囲の大人にその状況が見えにくく,周囲が青少年の状況に気付かずにいる間に,あるいは青少年が周囲に助けを求めることを躊躇(ちゅうちょ)している間に犯罪に巻き込まれてしまう例も少なくない。
 これら情報メディア分野の技術進展は著しく,それに伴ってこれらを悪用した犯罪等の手口も多様化・高度化している。こうした犯罪等から青少年を守るためには,犯罪等の被害を防ぐために必要な最新の情報をすべての青少年に確実に届ける必要がある。
 このため,これら情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないための対策や,情報メディアを安心して安全に利用するための留意点,トラブルに巻き込まれた場合の相談機関等に関する情報などを,例えば,すべての青少年にリーフレット等を配付するなど,青少年一人ひとりに確実に届く方法で提供するためのキャンペーン活動を,国や自治体,学校,情報メディア関係業界や地域社会等が一体となって早急に実施すべきである。
 特に,携帯電話については,その利便性と危険性,及びこれらと青少年の携帯電話の所有と利用との関係について十分な議論や検討が行われない中で,これを利用した犯罪やトラブル,いじめが多発し問題となっている。家庭においては,保護者は子どもとの連絡のために電話機能に着目して携帯「電話」を子どもに買い与えているのに対し,与えられた青少年側はメール送受信やインターネット閲覧等の様々な機能を有した情報端末「ケータイ」ととらえている。この両者の認識に大きな差がある中で,保護者の予想を超えた携帯電話の利用を通じて青少年が犯罪やトラブルに巻き込まれるなどの問題が起きている。また,児童生徒が学校に携帯電話を持ち込むことの是非等について各学校がその対応に苦慮している。こうした状況を踏まえ,国レベルでは,例えば警察庁における検討や総務省による業界への要望が行われてきている。
 携帯電話を利用した犯罪等から青少年を守るためには,携帯電話事業者においては,青少年との契約の際に,保護者の同意を得るとともに,その機能と想定される危険性及び危険回避に係る機能等について必ず情報提供することが必要である。この点に関して,携帯電話事業者3社が未成年者が契約申込みをする際に,親権者の意思確認を確実に行うとの方針を明確にしたことは評価できる。他方,特に,携帯電話のインターネット閲覧機能を通じた違法・有害情報への接触の防止については,青少年に有害な情報の排除に関して現時点で取りうる最善策がフィルタリング(注29)の利用であることにかんがみ,青少年との契約においてはフィルタリング機能装備を標準設定とし,保護者の申請を受けてその設定変更や解除を行う等のサービス提供を業界で統一して実施するといった実効性の高い対策を行うことが強く求められる。
 また,学校においてはこれまでも情報教育の一環として情報モラル教育(注30)が行われているところである。今後は,児童生徒に対し,インターネットや携帯電話がもたらす危険を十分認識し,回避するための実践的な指導を一層充実させていくことが求められる。
 携帯電話は本来学習活動に必要のないものであり,学校に持ち込む必要のないものである。しかし,禁止されていないことを理由に誰かが学校に持ち込むと,直ちに他の児童生徒がなし崩し的に持ち込むような状況も見られる。その一方,登下校時の安全確保や非常時の連絡手段確保のため,防犯ブザー機能や位置情報通知機能を搭載した携帯電話を子どもの通学時に持たせたいと要望する保護者もおり,児童生徒の安全確保の観点から携帯電話の持ち込みを認めている学校も見られる。このため,学校における携帯電話の取扱いについて混乱を招かないよう,保護者の理解と協力を得つつ学校のルールを策定することが求められる。
 さらに,青少年を保護・監督すべき立場にある保護者や大人が,青少年を取り巻く情報メディアの現状について知るとともに,青少年を監督・保護する力量を培うための学習機会を設ける必要がある。現在,インターネットに関しては,関連事業者による「e-ネットキャラバン」事業が実施されており,保護者や教職員を対象としたインターネットを安心して安全に利用するための学習講座が実施されている。また,各自治体等においてもインターネットや携帯電話の安全な利用について学習講座や研修事業を実施する動きが広がりつつあり(事例21,22),様々な学習講座を実施する民間団体も増えてきている。こうした学習機会の提供がより一層進められるとともに,これらにより多くの保護者や大人たちが参加することが強く期待される。

事例21:東京都における有害情報対策

 平成17年3月の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の一部改正に伴って,事業者や都民に対して趣旨等を説明・周知する方法などを検討するため,都が主導して携帯電話会社等関係業界やPTA等との会議を開催し,インターネット上の有害情報から子どもを守るためのキャンペーン活動やフィルタリングの普及促進を図りました。また,関係業界とテレビゲームに関する協議会を設置し,レイティング制度の改正と販売自主規制に関する取組の促進を図りました。

事例22:“ののいちっ子を育てる”町民会議(石川県野々市町)

 まちぐるみ運動の推進母体として“ののいちっ子を育てる”町民会議が昭和62年に設立され,時代や地域環境に対応した青少年の健全育成に向けた取組が行われてきました。この町民会議では平成12年度から情報メディアと青少年の非行の関連についての勉強会が重ねられ,その結果,携帯電話の問題については町ぐるみの運動が必要であるとされました。平成15年度から学校,PTA,地域の大人,行政が一体となって,「子どもたち(小・中学生)に携帯を持たさない」運動イコール「プロジェクトK」が始まりました。当初,小・中学生に携帯電話を持たせないことについて,保護者から安全面などの観点から異論が多かったものの,携帯電話の機能や利用の実態などについての保護者学習会等を通じた結果,携帯を持たさない運動への理解が広まり,取組は定着しています。

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