ここからサイトの主なメニューです

第2章 青少年の意欲をめぐる現状と課題

1.青少年の意欲と行動の様相

【意欲に欠ける青少年の様相とその原因の分類】

  •  大人側から「意欲に欠ける」と見られる青少年についても,その具体的な様相は個々の青少年により様々である。
     ここで,青少年の意欲を取り巻く現状と課題を検討するため,「意欲」という心の有り様と「行動」という心の有り様を外面に表したものとの関係に着目して「意欲に欠ける」と見られる青少年の様相とその原因を理念的にとらえ,主な様相とその原因を以下の3分類7類型に整理した。
    • (1)基礎的な体力の低下や不足
      • ア. 基礎的な体力が十分に培われていないため,意欲を持てなかったり思考や行動に集中できなかったりして,持続力もない状態
    • (2)青少年の価値観等と社会的期待との相違
      • イ. 将来に向けて学習したり努力したりすることに希望や価値を見いだせないため,学習や努力に対する意欲を持てない状態
      • ウ. 意欲や行動が社会のルールやマナーを逸脱しているため,その意欲や行動が評価されない状態
      • エ. 意欲の対象が自己完結しているなど,他者とのかかわりや社会とのかかわりの中で達しようとする目標を持てないため,その意欲や行動が評価されない状態
    • (3)意欲を行動に移す段階でのつまずき
      • オ. 意欲を持っているが,行動することへの負担感が大きいなどの理由により,意欲を実現するための行動に移せず,行動する前にあきらめている状態
      • カ. 意欲を持っており行動しようとする,あるいは既に行動し始めているが,適切な手段・方法が分からずに迷っている状態
      • キ. 意欲を持っており既に行動したが,失敗したこと等による徒労感,絶望感から抜け出せず,改めて挑戦する意欲を持って行動できない状態

【状態の的確な把握と各状態に対応した手当て】

  •  意欲に欠けると見られる状態から意欲的な状態へと向かうためには,それぞれの状態に対応した手当てが必要である。そのためには,上記の理念的な分類も参考にしつつ,まず個々の青少年の心と行動の有り様が具体的にどうなっており,そのどこに困難を抱いているのかを的確に把握することが必要である。
     なお,青少年期にはだれしも,一時的に心と体のバランスを崩し意欲を失うことがあり,また,各発達段階により身体,心情及び知性の成長には特徴があるため,心と体のバランスは常に変化している。このため,青少年が意欲を持つか否かは固定的なものではなく,常に変化していくということに留意する必要がある。また,青少年がある時点において意欲に欠けると見られる状態であるからといってそれを固定的なものとみなし否定的にとらえるのではなく,意欲的な状態に向かう過程であると積極的にとらえ,それぞれの状態に応じて忍耐強く対応することが重要である。

【自己を客観視できる力の育成】

  •  しかし,意欲に欠けると見られる青少年がこれらの類型のうちいずれに該当するかについて,外見から判断することは簡単ではない。これは,意欲という心の有り様は外見に表れず,当該青少年自身にとっても,自己を客観的に見つめる過程を経なければ自分がどのような状態にあるのかを正確に認識できないからである。
     このため,各々の状態に合った適切な手当てがなされるためには,青少年自身が自己を客観的に見つめる力を培い,自己の抱えている課題を探し当てて適切な解決策を選択できるように支援することが大切である。

(1)  基礎的な体力の低下や不足

  •  大人であっても睡眠不足で朝食を抜いた日には,だるさを感じ仕事等に力が入らないものである。これは,生活習慣が乱れることによって体調に悪い影響を与え,結果として健康的に生活するために必要な基礎的な体力が一時的に低下し,日常活動へのエネルギーが十分に発揮できないからであると考えられている。
     また,極端な運動不足になると何事にも意欲がわかなかったり,物事を前向きにとらえることができなくなったりする。これは,基礎的な体力の著しい低下が情緒面へも影響するために,体を動かすことのみならず何かに取り組むこと自体に負担感を感じるからであると考えられている。
  •  青少年期は身体機能とともに情緒面や知的能力の発達も著しい時期で,これらが相互作用を起こしバランスを形成しながら発達していく。このため,この時期に体を動かすこともなく乱れた生活習慣の下で生活すると,運動能力の発達が十分に促されないばかりか,ア.で示したように日常生活において様々な物事から学ぶという行動に対する意欲を持てなくなり,物事に興味や関心を持つこと自体も避けてしまいかねない。
     物事に集中し継続して取り組むことは,基本的生活習慣を身に付け,基礎的な体力に裏打ちされてこそ初めて可能となる。

【正しい生活習慣,運動習慣の下での充足感のある生活】

  •  このように,運動能力の発達だけでなく心や知性の発達のためにも,行動の源である意欲の基盤をなすものとして,基礎的な体力を培うことが極めて重要である。そのためには,子どもが幼児期から規則正しい生活習慣を身に付け,体を動かす遊びやスポーツを生活に積極的に取り入れ体を十分に動かすよう,保護者をはじめとした周囲の大人が働き掛けることが必要である。
  •  そして,基礎的な体力が培われていないために意欲を発揮できない状況にある青少年に対しては,正しい生活習慣にのっとった生活を送らせ,雑事も含めた生活上の物事の一つひとつに丁寧に当たらせることが必要である。同時に,日常生活に体を動かす機会を積極的に取り入れさせることを通じて,生きている実感や日常生活における充足感を得られるように導くことも必要である。

(2)  青少年の価値観等と社会的期待の相違

  •  意欲を持って具体的な行動に移ることは,必ず疲れや苦労,困難といった身体面,情緒面及び知性面にかかわる何らかの負担を伴うものである。この負担を受け止めて乗り越えようという意志や乗り越えられるという自信を持てないときには,意欲を行動に移すことを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。
  •  かつてのいわゆる「右肩上がり」の時代には,青少年は学校で勉強する理由を進学や就職に求め,そのために勉強するといった向上への志向を持つことが求められ,あるいはそうした志向を持つことに違和感を覚えない場合も多かった。しかし,経済や社会の変化が激しく未来が不確定な現代においては,青少年がこのような向上への志向を持ちにくく,常に「何のために学ぶのか」「学ぶことは自分の人生にどういう意味があるのか」という問いに直面し,イ.で示したように学ぶことや学ぶに当たっての困難を努力して乗り越えることに価値を見いだしづらい状況にあると言える。
     学校においては,児童生徒の興味関心を尊重し,児童生徒自身が主体的に参加し,協力して学習活動を行う参加型学習を進めること等により,児童生徒の学習への動機付けを高めようと努めているが,このような社会状況の中で,児童生徒が学習過程で困難に直面した場合に,学ぶことや努力することから逃避してしまうことも考えられる。

【納得のいく豊かな人生のための努力と向上心】

  •  このような状況の青少年に対しては,大人であっても日々迷いながら学び,努力して人生を切り拓(ひら)いているのだということや,自分にとって納得のいく豊かな人生を歩むため,だれもが困難に直面しながらも努力し,学習や経験によりこれを乗り越え,自分を高めているということに気付かせることが必要である。そのためには、身近な大人が,自らの経験や考えを青少年に話して聞かせたりするとともに,喜びや達成感,充実感や成長実感の得られる学習や経験を青少年にさせたりすることが大切である。

【実社会とのかかわりを通じた価値観や判断基準の体得】

  •  また,ウ.やエ.で示したように,社会のルールやマナーを逸脱している場合や青少年の意欲の対象が社会の期待と一致しない場合は,青少年本人は意欲的であるものの,社会からは「意欲的である」と評価されず,その行動も評価されなかったり認められなかったりすることとなる。
     このような場合には,青少年は意欲の対象や行動を否定されたと感じるだけでなく自分の存在自体が社会に受け入れられていないと感じ,社会に対して反発したり,社会とのかかわりを避けたりすることにつながりかねない。
  •  このような状況の青少年に対しては,例えば地域の大人や実社会とかかわる活動を通じて,社会のルールやマナーにのっとった行動とはどういったものであるのか,また,どのような対象への意欲が社会から期待されるのかについて,体得させること,つまり体験を通して理解し,それを自らのものとして定着させることが必要である。その際,家族や友達,地域の大人たち等とのコミュニケーション等を通じて,社会のルールやマナー,社会的期待を自らの価値観や判断基準へと定着させる営みを促すことが大切である。

(3)  意欲を行動に移す段階でのつまずき

  •  オ.からキ.で示したように,意欲を行動に移す段階で何らかのつまずきが生じている場合には,行動という外面に表出している部分から意欲という青少年の心の様子をうかがい知ることができないため,社会から「意欲的でない」とみなされてしまうことがある。また,目指す成果が得られるような行動を取れないため,喜びや達成感,充実感や成長実感が得られず,更なる意欲を持ちにくくなるとともに,行動の源としての意欲を持つこと自体や,意欲の対象を否定してしまうこともあり得る。

【目的達成に必要な手段・方法の体験を通じた学習】

  •  このような状況の青少年に対しては,体験を通じて手段・方法を具体的に学ばせることにより,目標を達成できるよう導くことが必要である。
  •  オ.で示したように行動への負担感が大きい場合は,そもそも行動した体験が少なく目標達成のための手段を余り持っていないことが予想される。このため,達成しやすく成功実感の得られやすい,比較的困難度の低い目標を設定し,その達成方策を具体的に教えながら達成させ,成功実感を得させた上でより困難度の高い目標を達成できるよう支援することが大切である。
  •  また,カ.で示したように適切な手段・方法が分からずに迷っている場合は,まず,青少年自身に能力があり,意欲の対象が社会のルールやマナーにのっとり,かつ社会に評価されるものであること,青少年が努力していること自体を社会が評価していることを,青少年自身に認識させることが必要である。その上で,適切な手段・方法を具体的に提示しながら達成に導くとともに,目標達成に必要な手段・方法を自分で選択できる,あるいは生み出せる力を育成することが大切である。
  •  キ.で示したように失敗してしまったことにより達成に向けての努力に徒労感を感じ,また新たな意欲を持って行動することに消極的・否定的になっている場合は,それまでに取った手段・方法のどこが適切でなかったのかを客観的に分析させる。このことを通じて,自己の能力や意欲を否定することなく,これまで取ってきた手段・方法の変更や新たな手段・方法の体得,そして更なる意欲への喚起に導いていくことが大切である。

【身近なモデルの存在】

  •  これらいずれの場合にも,例えば先輩の成功体験・失敗体験を聞くことや,同年代の仲間が取っている手段・方法を見ることを通じて,青少年が具体的な手段・方法を「教えられる」のではなく自ら「学ぶ」ことができるとともに,「自分にもできそうだ」という感覚や「自分だけではなく皆同じ状況なのだ」という感覚を持って物事に取り組めるようになることが期待できる。
     このように,モデルとなる先輩や仲間が身近に存在することが,青少年の行動の変容を促す意欲を高めると考えられる。このためには,青少年同士がお互いに協力し合って,切磋琢磨(せっさたくま)し,試行錯誤する中で一つの目標を目指す集団活動や,多様な年齢層の青少年が交流できる活動など,青少年が先輩や仲間を得て,彼らと日常的に接することができるような場や機会を提供することが必要である。
前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ